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2024年5月17日 (金)

ブラジルの音楽シーンの奥深さを知る

今回は最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

「ブラジリアン・ミュージック200」。タイトル通り、ブラジルの楽曲を200曲紹介し、ブラジリアン・ミュージックの世界を紹介している1冊。著者の中原仁はJ-WAVEの人気番組「サウダージ!サウダージ」を永年手掛け、ブラジル音楽と文化を精力的に発信していることでも知られる音楽プロデューサー。山下洋輔やスカパラのブラジル公演制作にも従事したそうです。

ブラジルを代表する楽曲200曲を集めている、その情報量にまずは圧倒。1899年のブラジルのポピュラーソング第1号と言われる「オ・アブリ・アラス」という曲からスタートし、時代別に羅列。そのどの曲もオリジナル曲にカバー曲の音源まで紹介。ラストは2008年の「アイ・シ・エウ・チ・ペゴ」まで、100年以上の期間にわたる楽曲を紹介しています。

そのどの曲に関しても、概ね400文字程度の比較的短い紹介文が付されています。ここでも様々な曲にまつわるエピソードや関連するような情報を紹介。また、その曲紹介の合間にはコラムとして、200曲におさまりきらないその他の楽曲なども紹介。1曲あたりの情報量は比較的短めながらも、全体をまとめると、その情報の多さに、著者のブラジル音楽に対する深い造詣を感じます。

また、本書の大きな特徴として、同書で紹介している200曲のプレイリストがApple MusicとSpotifyで紹介されていること。基本的には、同書についてくるQRコードを読み取る必要があるようで、通常の検索では出てこないようです。このプレイリストで本書に紹介されている名曲たちを楽しみながら、この本を読み進めることが出来る構成となっています。

そしてこの200曲をプレイリストで聴きながら感じるのは、一言でブラジリアン・ミュージックと言っても、その音楽性の広さと奥深さを感じます。一般的にブラジル音楽というとサンバやボサ・ノヴァといったジャンルが思い起されると思います。本書でももちろん、数多くのサンバやボサ・ノヴァの名曲たちが紹介されています。ただ、本書の大きな特徴なのは、ここで紹介されているのはいわゆる「ブラジル音楽」ではなく「ブラジルの音楽」。要するに、サンバやボサ・ノヴァ以外の音楽もしっかりとフォローされています。

楽曲によっては、アフリカ音楽の影響を受けているようなトライバルな曲があったり、ロックやサイケ、時代によってはフォークソングもあれば、もちろんラップもあったり。さらにジルベルト・ジルの「Palco」という楽曲は、完全にビートルズのサージェントペッパーの影響を強く受けていますし、さらに「ホーザ・ヂ・ヒロシマ(広島のバラ)」といった、原爆をテーマとした反戦歌のような、日本人にとってはチェックしておきたい曲などもあっちります。個人的にはいろいろと聴く中で、ブラジル音楽のレジェンドで、私でもその名を知っているジルベルト・ジルの楽曲は、ブラジル音楽のみならず、ロックやソウルなど様々な音楽性を取り入れた独自の作風がとてもユニーク。非常に惹かれるものがありました。

そのように、特にプレイリストを聴きながら楽しむと、ブラジルの音楽の奥深い世界を楽しめる1冊。一言でブラジルの音楽といっても、多種多様な音楽性に強く惹かれる内容となっていました。

ただ、その上であえて言わせてもらうと・・・一方で本書、正直なところブラジル音楽の初心者に対しては、少々厳しい部分も感じました。

正直、本書の中では数多くの固有名詞が登場します。ただし、その固有名詞に対しての注釈等が本書にはありません。最後に曲名や人物名の索引が登場しますが、固有名詞がほとんど詳しい説明もなくいきなり登場するような箇所も多々ありますし、そもそも聴きなれない固有名詞が続くような文章も多く、読んでいてかなり辛い部分も。ある程度、ブラジルの音楽シーンについて知っていることを前提とするような書き方も目立ち、初心者に対してはかなり厳しい内容になっていたと思います。

実際、私自身もブラジル音楽に関しては完全な初心者。プレイリストを聴きながら読み進めたため、それなりに楽しめたのですが、もしプレイリストがなかったら、読んでいてかなり辛かっただろうなぁ、ということを感じてしまいます。この本でブラジルの音楽シーンについて体系的に知れたか、と言われるとかなり微妙なところ。著者の意図として、やはり最低限のブラジルの音楽シーンについての知識がある人をターゲットとしているのでしょうか。もし、初心者をターゲットとしているのならば、正直、紹介する曲を100くらいに絞った上で、もっと体系的に理解できるように丁寧な説明が必要だったように思うのですが。

そういう意味で、ブラジルの音楽シーンを体系的に知ろう、とするのであれば、最初の1冊としてはあまりお勧めは出来ません。ただ、プレイリストを聴きながら、ただブラジルの音楽をたくさん聴きたい、という方にとっては、非常によく出来た1冊だったと思います。また、他の書籍でブラジルの音楽について最低限の知識を仕入れた後の1冊としても最適だったかも。それはともかく、圧倒的な情報量で、ブラジルの音楽シーンの奥深さを知れた1冊でした。

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