彼女が本当に演りたかった1枚
Title:wood mood
Musician:藤原さくら
シンガーソングライターの約11カ月ぶりとなるニューアルバム。Amazonなどのレビューを見ると、いままでの作品からかなり変わった作品ということで、賛否両論なアルバムになっているようです。
ただ、これは以前の彼女のCD評でも書いたのですが、彼女ほど、売り出す時のイメージと、本人が実際に演りたい音楽性の差が大きいミュージシャンも昨今では珍しいように感じます。彼女はフジテレビ系の月9ドラマのヒロイン役でブレイク。かつ、同ドラマへの提供曲「Soup」が大ヒットを記録しています。ただ、その後リリースされてアルバムを聴いて驚きました。彼女の音楽性は、ドラマ主題歌でいきなりブレイクするようなJ-POPの王道系ではなく、むしろJ-POPの王道に反するような、洋楽志向の強いオーガニックな作風がメインだったからです。
今回のアルバムではジャズドラマーの石若駿がトータルプロデュースを担当。さらに演奏に参加したのはジャズミュージシャンという、ジャズ志向の強いアルバムに仕上がっています。実際、ジャジーな曲はアルバムの中に目立ち、例えば「巡」はジャジーなサウンドをベースにファンタジックな作風の曲になっていますし、これに続く「Close your eyes」も同じくジャジーでムーディーに聴かせる作品に。「daybreak」も同様、ジャジーなサウンドでしんみり聴かせるナンバーとなっています。
ただ、アルバム全体としてはジャジーな作風よりも、アコースティックベースのオーガニックな作風の曲が目立ちます。イントロに続く、事実上、1曲目の曲となる「my dear boy」も静かなピアノを中心としたバンドサウンドに、しんみり暖かく聴かせるオーガニックテイストの作品。前半のジャジーな曲の並びに続いてあらわれる「sunshine」も、アコースティックギターで聴かせるフォーキーなナンバー。「星屑のひかり」も、ピアノでしんみり聴かせつつ、鳥の声も収録されており、星空の下で聴いているかのように感じられる暖かくオーガニックな作風が特徴的。全体的にはアコースティックなサウンドをベースに、彼女の暖かい歌声でしんみりと聴かせるオーガニックテイストの強い作品の並ぶアルバムとなっています。
このオーガニック志向に関しては、正直、いままでの彼女の楽曲でも色濃く見られた方向性であり、いままでの彼女の楽曲のベクトルと大きな違いはありません。あえて言えば、今回のアルバムがいままでと異なるのは、アコースティックベースでも爽快で明るい系統の曲がほとんどない、という点。ラスト前の「i Wish I Knew How It Would Feel to Be Free」ではようやく比較的軽快なポップになっているものの、この曲も基本的には、まずは歌声を聴かせるタイプの曲調。そういう意味では、爽やかなポップソングを彼女に求めている方にとっては物足りなさを感じ、結果、賛否のわかれる結果になったのかもしれません。
ただ、全体的にはポップソングとして非常によく出来たアルバムであることは間違いないと思います。オーガニックなサウンドで抑え気味のメロディーラインとはいえ、しっかり印象に残るポップス。ほどよく音数を絞って、楽曲にグルーヴ感を与えているサウンド。彼女のちょっと渋みも感じられる暖かい歌声。日本の女性シンガーソングライターとして、どれも指折りのクオリティーなのは間違いないでしょう。
藤原さくらの実力をしっかりと感じさせてくれる傑作アルバム。本作から、発売先を自主レーベルに移してのリリースということで、本当に演りたいことを演った1枚と言えるのかもしれません。それだけこれからも彼女の本領が発揮されたアルバムリリースが続きそう。楽しみです。
評価:★★★★★
藤原さくら 過去の作品
PLAY
green
red
SUPERMARKET
AIRPORT
ほかに聴いたアルバム
BAD HOP(THE FINAL Edition)/BAD HOP
今年、東京ドームでのワンマンライブを最後に解散したHIP HOPグループBAD HOP。本作はもともと2月に8曲入りのアルバムとしてリリースしたものが、その後、メンバーソロ曲を収録した「BHG Edition」、フューチャリング曲を収録した「Deluxe Edition」を経て、それらの曲をすべて収録し、さらに追加曲も収録した、この「THE FINAL Edition」へと進化。最終的には全33曲入りという膨大なアルバムに成長しました。
まあ、こういうリリーススタイル、基本的に配信で聴くからこそ成り立つ訳で、とはいえ最初のバージョンから25曲も増えるというのは驚き。それだけやはり最後に発表しておきたい曲があった、ということでしょうか。ただ、アルバム全体としては最初の8曲入りの時と印象としては大きく変わらず。最後を迎えるにあたっての決意を感じさせる曲もチラホラ。かなりボリューミーな内容だけども最後までちゃんと一気に聴けるインパクトのある曲もそろっています。これで最後というのは残念ですが、まさにやり切った感のあるアルバムでした。
評価:★★★★★
BAD HOP 過去の作品
BAD HOP 1DAY
Mobb Life
BAD HOP HOUSE
BAD HOP ALLDAY vol.2
BAD HOP WORLD
BAD HOP HOUSE 2
BAD HOP
Recent Report I/後藤正文
ご存じアジカンのボーカリスト。いままで愛称のGotch名義では何枚かアルバムをリリースしてきたものの、本名、後藤正文名義では初となるソロアルバム。全編アンビエントのインストアルバムで、アジカンともGotch名義のアルバムとも、かなり雰囲気の異なったアルバムとなっています。ある意味、挑戦的・実験的とも言える作品なのですが、おそらく聴き始めてすぐ気が付くのですが、わかりやすくストレートに坂本龍一の影響を受けています。そうするとやはり、どうしても「勝負あった」となるのは間違いなくて・・・。なんとなく、彼自身、坂本龍一のようなポジションにあこがれたんだろうなぁ、というのは手に取るようにわかる作品。ここに来てアンビエントに挑戦する心意気は買いたいのですが。
評価:★★★
Gotch/後藤正文 過去の作品
Lives By The Sea
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2024年」カテゴリの記事
- 「アニソン」の歴史も感じる、充実の12枚組ボックスセット(2024.12.29)
- 沖縄独自の結婚式文化を楽しめるコンピレーション(2024.12.28)
- 「ライブアルバム」というよりは・・・(2024.12.23)
- ロック志向、ルーツ志向の強い35年目のアルバム(2024.12.20)
- オリジナルとは全く異なる魅力を感じる傑作(2024.12.17)
コメント