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2024年4月22日 (月)

はじめての浪曲

Title:ギター古事談
Musician:景友

今回紹介するのは、ちょっと異色的な1枚です。ジャンルはなんと浪曲。天中軒景友という名前で浪曲師として活躍する彼のアルバム。ただ、浪曲でありながら、今風のギターサウンドを取り入れた作風を持ち味としており、本作もプロデューサーはあの久保田麻琴。ミュージックマガジン誌に取り上げられていたこともあり興味を抱き、今回、はじめて「浪曲」というジャンルに挑戦してみました。

ただ、とはいえ浪曲についてはどんなジャンルのか全く知らない状況。まず「浪曲」って何だろう?ということを知るためにも、戦前から戦後にかけて、圧倒的な人気を誇った浪曲師、二代目広沢虎造のアルバム「決定盤<浪曲>広沢虎造集」を聴いてみました。

「浪曲」というと、イメージとしては演歌の元となった、これでもかというほどこぶしを利かせたうねるような節回しの歌、というものでした。ただ、今回はじめて知ったのですが、浪曲って、メインとなるのは物語の「語り」なんですね。で、その「語り」の間に主人公の心象風景を綴った「歌」を聴かせるというスタイル。もともと浪曲は、落語、講談と並び、日本三大話芸と言われているそうで、あくまでも「語り」の部分がメイン。あのうねりを利かせた曲が延々と続くのは辛いなぁ、と思っていたのですが、そういう意味では思ったよりも楽しめました。

ただ一方で、じゃあ今後も積極的に浪曲を聴きたくなったか、と言われると答えは「否」。なぜかというと、浪曲で(少なくとも広沢虎造が活躍していた時代)語られる物語は義理人情に「男とはこうあるべき」「女とはこうあるべき」という建て前の世界観。正直、アラフィフに近くなった私くらいの世代でもかなり聴いていて「時代遅れ」に感じてしまう世界観。積極的に楽しむには厳しい感じは否めません。浪曲が、完全に時代遅れとなってしまい、今、ほとんど聴かれなくなった理由もわかるように思います。

そういう前提で今回、この景友のアルバムを聴いてみたのですが、確かに、この浪曲の世界観はかなり今の時代にアップデートされていました。

本作は2作からなっており、1作目は「人斬り以蔵」で2作目が「舶来巾着切」。「人斬り以蔵」は、その異名で知られた、幕末時代に活躍した土佐藩士、岡田以蔵について、後の時代に勝海舟が昔を振り返って語る形で物語は進行していきます。日本を変えようとして数多くの志士が立ち上がる中、思想性がなく、ただ人を斬ること自体を自己実現の手段としてしまった岡田以蔵の生涯を描いた哀しい物語。ここらへんの岡田以蔵の描き方は、「竜馬が行く」などの歴史小説、ドラマとも共通している部分なのですが、焦点があてられているのは時代にほんろうされてしまう男の物語で、今の時代でも通用するテーマ性となっています。

「舶来巾着切」は、明治初期の頃を舞台に、外国人の巾着切=スリをテーマとした物語で、こちらも異国の地でスリとして生きざるを得なかった男の哀しみを描いた作品。こちらも今の時代でも受け入れられるテーマを持った作品となっています。そういう意味で、今の時代、さすがの浪曲師も、今の時代の価値観にしっかりとアップデートした作品を演じ続けているということなのでしょう。

また、景友に関して面白いのは、その浪曲の「曲」の部分も今の時代にアップデートしているという点で、三味線の音色は入れつつも、アコースティックギターで、ともすればロックやフォーク寄りの楽曲が入ってきたり、さらには「舶来巾着切」では、なんとフラメンコのギターすら登場します。こぶしをこれでもかと聴かせる従来の浪曲のスタイルはほとんどなく、この音楽性なら、今の時代にもすんなり受け入れられる内容になっていると思います。

そういう意味では、広沢虎造の浪曲に関しては正直、他の作品を聴いてみたいとは思わなかったのですが、景友に関しては、他の作品も聴いてみたいし、機会があれば一度、ライブにも行ってみたい、と思うほど楽しめる作品になっていました。時代にアップデートした内容とはいえ、もっと若い世代、20代30代に遡及する内容か、と言えば微妙な部分はありますし、そういう意味では40代だからこそ楽しめた内容と言えるのかもしれませんが、それでも物語を含めて、とても楽しめた1枚となっていました。これで浪曲の魅力をちょっとは感じられたかもしれません。

「浪曲」というジャンルよりも、「語り芸」に興味がある方は、チェックしてほしい1枚かも。特に、日本の昔ながらも大衆芸能に興味がある方ならば、「浪曲」というジャンルの入口としては申し分ないアルバムだと思います。予想以上に楽しめた、今後も景友の作品を聴いてみたいな、と強く思えば傑作でした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Coral/辛島美登里

途中、ベスト盤やカバーアルバムのリリースはあったものの、オリジナルアルバムとしては実に10年ぶりとなる、デビュー35周年の記念アルバムとなった本作。1曲目「Favorite Phrase」は、なんと槇原敬之が作詞作曲が加わり、彼自身コーラスでも参加している楽曲。ただ、彼女のボーカルによって完全に辛島美登里らしいナンバーになっているのがユニーク。さらには、永井真理子に提供した「Keep On "Keeoping On"」を永井真理子とのデゥオで披露。永井真理子は「シロツメクサ」でも参加しており、全体的には懐かしさあふれるアラフィフ世代感涙モノの内容になっています。もっとも、楽曲的にはいつもの辛島先生らしいメロディアスで爽やかで、ちょっとメランコリックな楽曲が並ぶ感じ。デビューから35年たっても、前作から10年の月日を経ても、いい意味で変わらぬ辛島先生らしさを感じられるアルバムでした。

評価:★★★★

辛島美登里 過去の作品
オールタイムベスト
辛島美登里 パーフェクトベスト
colorful
Cashmere
カーネーション

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