ミュージシャンの個性と楽曲の魅力をしっかりと感じさせるカバー
Title:みんなのさだ
さだまさしのデビュー50周年を記念してリリースされたトリビュートアルバム。数多くのミュージシャンたちがさだまさしの楽曲をカバーしたアルバムなのですが、これが予想していたよりも素晴らしいアルバムに仕上がっていました。
個々のカバーがなかなかの絶品。槇原敬之の「案山子」も、暖かい彼のボーカルが曲とマッチし、マッキーのボーカリストとしての魅力を感じさせる楽曲となっていますし、上白石萌音の「秋桜」も清涼感あるボーカルで楽曲の主人公とちょうど年代も類似しているためか、歌詞の世界がより耳に入ってきます。三浦大知の「風に立つライオン」も、彼のボーカリストとしての実力を存分に感じられる感情たっぷりのカバーで、ボーカリストという側面だけならば、おそらくさだまさしを上回っているかも。高橋優の「精霊流し」も、彼の歌い方がさだまさしと似ているような感があり、原曲の雰囲気そのままなカバーがとてもよい感じ。wacciの「関白宣言」は、若手ミュージシャンによるカバーなだけに、どう仕上がるのかと思っていたのですが、原曲の持つコミカルな感じを上手くすくいあげている名カバーに仕上がっています。
そんな中で異色作とも言えるのがMOROHAの「新約『償い』」で、さだまさしの名曲「償い」からインスパイアされたMOROHAのオリジナル作。ただ、原曲の「償い」が、「交通事故で人を死なせてしまった主人公が、被害者の遺族に償いを続ける」というストーリーなのに対して、「新約」の方は「新型コロナをうつしてしまっい祖父を死なせてしまった主人公が、コロナ感染のきっかけとなった音楽活動を辞めようとするが、祖父の遺言からそれを乗り越えて音楽活動を続けようとする姿」を描いています。新型コロナをうつしてしまうというのは不可抗力な部分があり、多かれ少なかれ過失の要因が強い交通事故とは違いますし、「新約」については「償い」も行っていません。正直、MOROHAの新曲としてはいい曲だとは思うのですが、さだまさしのカバーに並べるとなると、かなり違和感があるのは否めませんでした。
そんな異色なカバーもありつつ、全体的にはカバーしたミュージシャンたちの個性や魅力を反映させつつ、同時にさだまさしの魅力もしっかりと伝わるカバーに仕上がっていたと思います。思うに、さだまさしというミュージシャン、ボーカリストとしては清涼感あるボーカルであくの強いボーカルといった印象は受けません。一方で、メロディーや、特に歌詞の世界に関しては彼の個性が強く反映された、彼にしか書けない作品をつくってきています。そのため、楽曲からボーカルの部分を入れ替えたとしても、さだまさしの魅力はそのまま楽曲に残りますし、逆に楽曲自体の個性が強いだけに、ミュージシャンが自らの個性を楽曲にぶつけても、決して楽曲自体の持つ魅力が損なうことはないのでしょう。そのため、これだけ魅力的なカバーアルバムが生まれてきたのだと思います。
また個人的には、むしろ以前聴いたさだまさしのベストアルバム以上に、さだまさしの魅力を感じることが出来ました。こう書くと、カバー曲が原曲を超えたのか、と誤解されそうですが、そうではなく、以前聴いたさだまさしのベストアルバムは3枚組のフルボリューム。魅力的な曲が多かった反面、3枚組というボリュームになってしまうと、説教臭かったり、若干、歌詞に団塊の世代的な価値観が混じっていたりと、マイナスポイントも気になってしまいました。ただ今回のカバーアルバムは、その中でも選りすぐりの14曲を収録。このくらいのボリュームならば、さだまさしのマイナス点が気にならず、魅力だけを存分に味わうことが出来る構成にもなっていたと思います。
そういう意味ではさだまさしの入門盤としてもむしろ最適なアルバムかもしれません。カバーしているミュージシャンは若手・・・・・・と言えないベテランも少なくないのですが、少なくともさだまさしのファン層よりはかなり下の世代をターゲットとしているミュージシャンなだけに、これをさだまさしの入り口として、という意味では最適でしょうし、そういう意味でも優れた企画だったと思います。個人的には、このアルバムを聴いて、あ、自分、意外とさだまさしの曲、好きだ、と感じたアルバムにもなっていました。カバーを通じてさだまさしの魅力を感じられた作品でした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
WINTER SONGS FOR YOU!/カジヒデキ
カジヒデキのウィンターソングやクリスマスソングを集めた配信限定のコンピレーションアルバム。カジヒデキらしい軽快で暖かく、ちょっと切なさも感じさせるポップソングが並んでいます。どこを切り取ってもいかにもカジヒデキという曲の連続で、それはウィンターソングだろうがクリスマスソングだろうが変わりません。この点、大いなるマンネリといえばマンネリですが、カジヒデキの楽曲の強度の強さもあらためて感じたアルバムでした。
評価:★★★★
カジヒデキ 過去の作品
LOLIPOP
STRAWBERRIES AND CREAM
TEENS FILM(カジヒデキとリディムサウンター)
BLUE HEART
Sweet Swedish Winter
The Blue Boy
秋のオリーブ
GOTH ROMANCE
THE PERFECT E.P.
音楽/SUPER BEAVER
前作「東京」からちょうど2年ぶりとなるSUPER BEAVERのフルアルバム。ヘヴィーなロック路線で行くのか、ポップ路線で行くのか、いまひとつ立ち位置が中途半端な印象を受け、前作「東京」はその中でポップ寄りの路線を感じましたが、今回のアルバムは再び正統派のギターロックといった感じで、ややヘヴィー寄りにシフトした印象でしょうか。疾走感あってほどよくヘヴィーなバンドサウンドは、確かに良くも悪くも売れ線といった印象もあるのですが。ただラストの「小さな革命」の「当事者であれ」という繰り返されるフレーズはかなり共感を覚え、強く印象に残りました。
評価:★★★★
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