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2024年4月 9日 (火)

女王、降臨 再び

Title:ユーミン乾杯!!~松任谷由実50周年記念コラボベストアルバム〜
Musician:松任谷由実

2022年にデビュー50周年を迎え、ベストアルバム「ユーミン万歳!」をリリースした松任谷由実。そのデビュー50周年企画のラストを飾るのが本作。今回はコラボベストと題したアルバムなのですが、過去のコラボ曲を収録・・・という形ではなく、彼女の代表曲を様々なミュージシャンがリアレンジしてコラボするという企画盤。ユーミン自らミュージシャンの選定や企画、選曲にも関わったそうで、今回、10組のミュージシャンとのコラボが実現しています。

そんな中でも大きな話題となったのは、桑田佳祐とのコラボ「Kissin’ Christmas (クリスマスだからじゃない) 2023」。もともとは桑田佳祐&His Friends名義の「Kissin’ Christmas (クリスマスだからじゃない) 」というタイトルで1986年、87年に放送された日テレ系音楽番組「Merry X'mas Show」のテーマ曲として使用されたものの、長らく音源はリリースされず、2012年に桑田佳祐のベストアルバム「I LOVE YOU -now & forever-」に収録されて話題となりました。

今回、その曲をあらためて松任谷由実とのデゥオという形で収録。途中、お互いの代表曲をそれぞれがカバーするという遊びの要素も入るような、ユニークで楽しいカバーに仕上がっています。また、松任谷由実、小田和正、財津和夫名義で1985年にリリースされ、こちらも長いことCD化されてこなかった「今だから」もCD初収録。こちらも大きな話題となっています。

そんな話題性も強いコラボアルバム。岡村靖幸らしいファンキーに仕上げた「影になって」や、PerfumeっぽいエレクトロアレンジのYOASOBIとのコラボ「中央フリーウェイ」、この手のコラボでは常連のRHYMESTERとのコラボ「SATURDAY NIGHT ZOMBIES」、パーカッションやホーンでエキゾチックなバンドサウンドに仕上げたSuchmosのYONCEとのコラボ「真珠のピアス」、原曲の持つ妖艶さをさらに強調したくるりとのコラボ「輪舞曲」、彼女たちらしいロックンロール風のアレンジに仕上げたGLIM SPANKY「真夏の夜の夢」など、ユーミンの曲を様々なスタイルでカバーしたバラエティーに富んだ構成がとてもユニークに感じます。

ただし、ここにユーミンが現れると風景が一変します。もう、どう考えてもユーミンの曲にしか聴こえない。それまで耳に惹かれていたコラボ相手の独特の個性は完全にぶっ飛んで、ユーミンの声しか耳に入ってきません。コラボ相手のミュージシャンたちは完全に「前座」扱い。バンドならばバックバンド扱いですし、ボーカルは完全にバックコーラス。もう圧倒的に松任谷由実の姿しか、そこには入ってきません。

特にすごかったのが乃木坂46と小室哲哉とのコラボによる「守ってあげたい」で、乃木坂46は終始、バックコーラスの「その他大勢」扱い。あれだけ個性の塊である小室哲哉ですら、彼らしいアレンジは控えめで、完全に松任谷由実の曲、としか感じられません。特に乃木坂に対してはボーカリストとしての格の違いを見せつけている、としか思えません。

もちろん、「Kissin' Christmas」に関しては完全に桑田佳祐と対等のコラボとなっていますし、「今だから」もさすがに他のユーミンだけの曲にはなかっていないのですが、本当の意味でコラボ曲と言えるのはこの2曲だけなのでは?あえて言えば、GLIM SPANKYの松尾レミのボーカルは、ユーミンにいい勝負を挑めるだけの個性はありましたし、YONCEやくるり、岡村靖幸のカバーも、それなりにユーミンの曲の中で個性を出したアレンジにはなっていましたが、女王の前でいい勝負が出来た、程度となっており、結果としては完全にユーミンカラーに染め上げられてしまっています。

そう考えるとコラボとしての意義については若干疑問にすら感じてしまいます。もともとユーミン自体、非常にあくの強いボーカリストであり、どんな曲でも彼女が登場すれば完全にユーミン色に染まってしまう訳で、そんな中、コラボ相手に遠慮なく、ボーカルを前に押し出したような楽曲構成については、もうちょっと考えてほしかったな、とは思うのですが。ただ、自己顕示欲の強いミュージシャンたちの中でも、特に自己顕示欲の強い松任谷由実だからこそ、こういうスタイルでのコラボになってしまった、そんな感じがしました。

様々なミュージシャンたちの演奏の中で、まさに松任谷由実が降臨し、他のミュージシャンたちは、ただただ彼女を崇めたてるしかなかった・・・そんな風景が思い浮かぶようなアルバム。逆に言えば、ユーミンのファンにとってみれば、原曲のイメージも崩れず、楽しめるアルバムにはなっていたと思いますし、変なアレンジや試みがない点、いい意味でも安心して聴けるアルバムにはなっていたかと思います。いろいろな意味で松任谷由実らしいアルバムでした。

評価:★★★★

松任谷由実 過去の作品
そしてもう一度夢見るだろう
Road Show
日本の恋と、ユーミンと。
POP CLASSICO
宇宙図書館
ユーミンからの、恋のうた。
深海の街
ユーミン万歳! ~松任谷由実50周年記念ベストアルバム~


ほかに聴いたアルバム

世紀のうた・心のうた -服部良一トリビュート-

戦前から戦後にかけて活躍し、数多くのヒット曲を世に送り出した作曲家、服部良一。今年はNHK朝の連続テレビ小説で、彼が作曲を手掛けて、数多くのヒット曲を歌った笠置シヅ子をモデルとしたドラマが放送されて話題になりました。おそらく、それに連動した企画なのでしょうが、服部良一のトリビュートアルバムがリリース。真心ブラザーズ、曽我部恵一、スチャダラパー、小西康陽など豪華なミュージシャンたちが名前を連ねています。

カバーは基本的に原曲に充実ながらも、それぞれの個性もしっかりと出ている点がユニーク。真心ブラザーズがカバーした「ヘイヘイブギー」はYO-KINGのボーカルもマッチさせた軽快なブギに仕上げていますし、「おしゃれ娘」をサンプリングしたスチャダラパーの「おしゃれミドル」も彼ららしい、ユーモラスで軽快な楽曲に。後半は、石丸幹二、望海風斗、井上芳雄といったミュージカル経験者の歌手がカバーしていますが、こちらも実力者らしい伸びやかで力強い歌をしっかりと聴かせてくれています。実力者がしっかりと集ったカバーアルバムに仕上がっていました。

評価:★★★★★

再生-Saisei-/DJ KRUSH

約4年2ヶ月ぶりとなるDJ KRUSHのニューアルバム。アルバム全体、不穏な空気の流れる作風が印象的。サウンド的には「奇迷-Kimei-」のように、比較的、今風のビートを奏でるような曲もあるものの、全体的には最新鋭のHIP HOPのビートといった感じではありません。ただ、非常にエッジを効かせたタイトなサウンドは非常にカッコ良いものがあり、アルバム全体を流れる空気感も統一されており、耳を惹きつけるものがあります。ビートメイカーとしての実力を感じさせてくれる作品でした。

評価:★★★★★

DJ KRUSH 過去の作品
Butterfly Effect

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