あえてブラジル音楽から距離を置いた2作
今回紹介するのは、ブラジルのリオデジャネイロ出身ながら、現在はロサンゼルスを中心に活動をしているギタリスト、Fabiano do Nascimento。ブラジル出身の彼ながら、ブラジル音楽の枠組みに捕らわれない幅広い音楽性で注目を集めるミュージシャンだとか。その彼が、昨年から今年にかけて2枚のアルバムをリリースしています。
Title:The Room
Musician:Fabiano do Nascimento&Sam Gendel
まずこちらは、Fabiano do Nascimentoと、サックス奏者でプロデューサーとしても有名なSam Gendelのコラボによる新作。ってか、またSam Gendelかよ!当サイトでも何度か取り上げていますが、気が付くとニューアルバムをリリースしており、そのワーカホリックぶりが目立ちます。調べると、2023年はソロ名義のオリジナルを2作、2022年はソロ名義のオリジナル3作+コラボ1作、2021年はオリジナル2作+コラボ4作・・・。3月時点ではまだリリースしているのがこのコラボ1作のみのようですが、今年は何枚のアルバムをリリースするのでしょうか・・・。
ただ、作品としては非常にシンプル。使われているのはFabiano do Nascimentoの奏でるギターと、Sam Gendelの奏でる楽器のみ。このSam Gendelの奏でる楽器は、パッと聴いた感じ、フルートに聴こえるのですが、ソプラノサックスらしいです。そういわれると、フルートよりも木管楽器独特の暖かみを感じられるように思います。
アルバムは最初から最後まで徹底してこの2つの楽器でシンプルな音色を奏でている点がおもしろいところ。ただ、哀愁感たっぷりのメロディーラインは非常に胸をうたれ、インパクトがあります。まず印象的なのは「Astral Flowers」。最初のアコギのアルペジオも印象的ですが、サックスの音色には郷愁感あふれて思わず聴き入ってしまいます。
そして中盤の「Txera」も印象的。前半のサックスのメロディーとリズムは、どこか日本の民謡を彷彿とさせますし、その後あらわれるメロディーラインも、どこか懐かしさと暖かみが感じられます。日本人にとって非常に琴線に触れるような楽曲となっています。
シンプルだからこそ、その音色とメロディーラインに聴き入ってしまう傑作。Fabiano do Nascimentoのギターの音色も素晴らしかったですし、あれだけハードワーカーにも関わらず、このクオリティーを維持し続けるSam Gendelにも驚かされます・・・。郷愁感あるギターの音色は、どこかブラジル音楽からの影響を感じさせつつ、単純なブラジル音楽とも異なる点が魅力的な作品でした。
評価:★★★★★
Title:Mundo Solo
Musician:Fabiano do Nascimento
で、こちらはFabiano do Nascimentoのソロ名義での作品。で、こちら非常にユニークなのはソロといいつつ、ギターのソロインストではなく、コラボ作の「The Room」よりもずっと音数が多い点。1曲目「Abertura」ではギターのみではなくストリングスの音色が入っていますし、続く「Curumim 2」ではいきなりエレクトロのナンバーとなっています。
なんでも、基本的に一部、ゲスト奏者が参加しつつ、全ての楽器を自らの手で奏でる作品となっているそうで、あえて様々な楽器が入っているのが特徴的。「Agua de Estellas」ではマラカス的な音が入っていて、ちょっとトライバルな雰囲気が入っていたり、「Bari」ではドリーミーなギターやシンセの音色でスペーシーな雰囲気に仕上げていたりとユニーク。全体的にギターの音色にエレクトロサウンドを組み入れてドリーミーにまとめあげる楽曲が多く、メランコリックなギターの音色は上記「The Room」と共通項はあるものの、サウンドの面では、かなり異なる構成のアルバムになっています。
おそらくレコード会社からの宣伝文句だと思うのですが、このアルバムの紹介文として「国家主義的な傾向を拒否しすることで特定の音楽言語に偏ることを避け、自身の音楽的ルーツのすべてを表現するというエルメート・パスコアルが提唱する"ユニバーサル・ミュージック"のコンセプトを継承しつつ、ありとあらゆる楽器をマスターすることによって真の自由を獲得している」と書かれた紹介サイトが多く見受けられます。確かに「The Room」以上にブラジル音楽の影響は薄く、また、いい意味で様々なジャンルの影響が垣間見れるサウンドとなっています。ここらへんは、あえてルーツレスにすることで、特定の国の音楽に偏向することを避けているということなのでしょう。彼しか奏でられない独特の音色が楽しめるアルバムになっていたと思います。
「The Room」もそうですが、リオデジャネイロ出身であり、ブラジル音楽の影響を感じさせつつも、あえてブラジルから距離を置いたような音楽性が特徴的でもあり、かつ魅力的でもありました。ルーツレスな彼の音楽なだけに、様々なルーツを持つ人たちが楽しめそうな、そんなアルバムだったと思います。どちらも傑作です。
評価:★★★★★
Sam Gendel 過去の作品
Satin Doll
AE-30
Superstore
blueblueblue
AUDIOBOOK
ほかに聴いたアルバム
PHASOR/Helado Negro
アメリカ・フロリダ出身のシンガーソングライター、Helado Negroのニューアルバム。メロウなソウルベースのポップミュージックで、美メロとも言える聴かせる歌が魅力的。その一方、ソウルをベースにボッサやフレンチ、ロックやエレクトロ、サイケやフリーキーな要素まで加味したバラエティー富んだ自由な音楽性が大きな魅力。ただ、雑多な音楽性を持ちながらも、フォーキーさも感じさせる暖かい歌が軸となっているため、アルバムには不思議と統一感も覚えます。癖は感じつつも非常に魅力的なポップソングでした。
評価:★★★★★
Helado Negro 過去の作品
This Is How You Smile
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