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2024年3月22日 (金)

現代の視点からレジェンドを描く

本日は、最近鑑賞した、音楽関係の映画の感想です。

ロックンロールの創始者のひとりと言われ、数多くのロックミュージシャンたちに影響を与えたレジェンド、リトル・リチャードの伝記的映画「リトル・リチャード:アイ・アム・エヴリシング」です。

偉大なるロックンローラー、リトル・リチャードの生涯を、リアルタイムの映像や関係者のインタビューを中心に構成されたドキュメンタリー。まあ、この手の音楽ドキュメンタリーは良くありがちなのですが、リトル・リチャード自体、比較的長生きだったのと、彼が元気だったうちに、ロックンロールの創始者として評価を受けていたということもあって、生前の映像が比較的多く残っており、またテレビのトーク番組なので、彼自身について語った映像も残っているため、この手のドキュメンタリーでたまにある「インタビューされる人のバストアップ映像のみ淡々と流れる」ということにはならず、それこそ最初期の「よくこんな映像が残っていたな!」という貴重な映像と共に、リトル・リチャードの生涯を、映像を楽しみながら見ることが出来る映画となっていました。特に初期のロックンロールの映像は、今見ても迫力満点。非常にカッコいい演奏となっており、ロック好きなら間違いなく惹きつけられる映像の連続となっています。

また、インタビューされる人選もさすが超著名人揃い。ミック・ジャガーやキース・リチャード、ポール・マッカートニーなど、超大物がリトル・リチャードから自らが受けた音楽的な影響について語っています。その点においても非常に豪華なゲスト勢が彼について語るのを見るだけでも、リトル・リチャードがいかに偉大なミュージシャンだったのか、ということを実感させられます。

さて今回の映画、リトル・リチャードの生涯を追ったドキュメンタリーだったのですが、そこには現代的な観点からの2つのキーワードに沿った構成がされていました。それが「文化の盗用」と「LGBTQ」。この2つのキーワードに沿って、彼の生涯が描かれていました。

一つ目は「文化の盗用」。これはある特定の地域の文化を、他の地域の文化圏の人たちが流用する行為であり、昨今、よく非難を集めるケースが目立っています。ただ個人的には、文化というのは様々な地域固有のものが混じりあい、あらたな文化が生まれてくるものであるため、他の地域の文化を流用したといっても、即「文化の盗用」という非難のされ方をする点については疑問を持っています。

ただ一方、ここで語られたのは、リトル・リチャードがロックンロールの創始者でありながらも、黒人であるためその恩恵を(特に初期においては)ほとんど受けることがなく、彼が生み出したロックンロールというスタイルもすぐに白人ミュージシャンにパクられて、さらに彼の作った作品についても著作権に基づく報酬が正統に彼に支払われていなかったという事実が語られ、そのため、彼が一時期、非常に貧しい思いをしていた事実が語られています。確かにこういう歴史を踏まえると、現在、特にアメリカにおいて「文化の盗用」という点が問題になっていることもよくわかります。ただし、むしろ文化を流用すること自体が問題というよりも、「文化の盗用」は、流用した結果、流用元が正統に評価されない、経済的なメリットが流用元に流れ込まない、という構造こそが問題のように感じました。

さらにこの映画で最も重要かつリトル・リチャードの生涯においても大きな影響を与えたのは「LGBTQ」というキーワードでしょう。有名な話ですが、彼は自らがゲイであることを公言していました。彼が生きていた当時は、今よりも激しく同性愛者は差別を受けていました。そのため、彼自身も父親から認められなかったり、彼自身もゲイでありつつも、一時期は女性と結婚していた時期もあったり、さらには一時期は宗教の道へ進み、「キリストに帰依したことによって、同性愛が『治った』」という発言すらしていました。(この明らかな事実誤認の発言には、LGBTQの活動家も「困った」という発言をしていました)

実際、彼自身もこのパーソナリティーが影響してか、キリスト教的には忌避されるようなロックンロールミュージシャンでありつつも、いきなりロックンロールを捨ててゴスペルを歌いだしたり、さらに再びロックンロールに戻ったかと思えば、再び宗教に深く帰依するようになったり、とかなり自らの感情が揺れ動くような活動ぶりを見せています。彼ほどのロックンロールのレジェンドが、いや、ロックンロールのレジェンドだったからこそ、複雑な心の動きがあったのでしょう。ここ最近、特にSNS近辺では人々を単純に白か黒か、右か左か、反対か賛成か、分けるような風潮が少なくありませんし、過去の発言を引っ張り出して執拗に攻撃することも少なくありませんが、彼の生涯を見ると、人の心というのは、そんなに単純ではない、ということをあらためて感じさせます。

映画全体としては、ラストはリトル・リチャードがロックンロールの創始者として、様々な絶賛を集めて高い評価を受ける、というある意味、ハッピーエンド的な構成となっています。そういう意味では終わった後は、比較的、後味のよい映画となっていました。ロックンロールが好きなら、間違いなくチェックしておきたい映画と言えるでしょう。リトル・リチャードの偉大さをあらためて実感すると共に、彼が受けてきた苦労についても、あらためて強く印象に残る映画となっていました。

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