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2024年3月23日 (土)

ラストを迎えることの誇り

Title:BAD HOP
Musician:BAD HOP

Badhoplast

おそらく、2024年の音楽関連の最大のニュースのひとつがBAD HOPの東京ドームでの解散ライブでしょう。川崎市を拠点とするラップクルー、BAD HOP。2010年代後半から徐々に話題を集めだし、人気を確保してきました。その彼らが、結成10周年を迎える2024年に解散を発表。そのこと自体も大きなニュースですが、さらに大きな話題となったのが、解散ライブを東京ドームで実施するというニュース。人気のグループとはいえ、まさかの東京ドームワンマンという驚きを持って迎え入れられました。

個人的にもライブに興味があり、時間が合えば行ってみたいな、とは思っていたのですが、正直、おそらく売り切れることはないだろう、と高をくくっていました。ところが、チケットは見事ソールドアウト。当日、東京ドームは5万人という大入りという状況だったそうで、率直なところ、彼らを見くびっていた・・・と言わざる得ません。

その人気ぶりに驚くのは、BAD HOPというグループが、かつての常識から考えると一般的に決して「売れ線」と言われるグループではなかったからです。もともと出自からして、川崎市の池上という、本人たち曰く「日本で一番空気の悪い場所」からスタートしたグループ。アンダーグラウンドであることを前に押し出しており、ある意味、本場アメリカのHIP HOPのストリート感を漂わせるリリックは、評価は高かったものの、決して一般受けするものではありません。トラックにしても、流行のトリップを全面的に取り入れたものではあるものの、その「流行」はあくまでも本国アメリカでの話で、日本において、HIP HOPリスナーの間ならともかく、一般のリスナー層に広く聴かれているか、と言われると、決してそうではありません。

それにも関わらず、ラストライブというイベント性があるとはいえ、東京ドーム5万人をソールドアウトさせる人気のほどには驚かされると同時に、HIP HOPというジャンルのすそ野が、もうそれだけ広がっているんだな、ということを実感させられ、また同時に認識を改めさせられました。既にヒットチャートではHIP HOPというジャンルが席巻しているのですが、BAD HOPのようなアンダーグランド性の強いグループがここまで受け入れられていているという事実を、東京ドームライブのソールドアウトによって、非常に具体的に可視化されたように感じます。

さて、本作は、そんな彼らのラストアルバムとなる作品。8曲入り30分弱のミニアルバム的な構成となります(ただ、その後、メンバーのソロ作やフューチャリング曲を追加した拡張版がリリースされていますが)。楽曲的にはラストに東京ドームへのライブへ望む彼らの決意をストレートに綴ったリリックが目立ちます。1曲目からしていきなり「TOKYO DOME CYPHER」。リリックは、彼らのいままでの歩みから東京ドームでライブを行うことの誇りが綴られています。「Fianl Round」もタイトル通り、ラストライブにのぞむ決意を綴った作品。同じく「Last Party Never End」も友人や彼女とのデートを想定したリリックになっているものの、おそらく、ラストライブに足を運んだファン全員を相手として想定しているようなリリックがユニーク。ラストの後の決意も感じられるリリックになっています。

そしてラストを飾るのが「Champion Road」。ピアノを入れてメランコリックで、そしてダイナミックなサウンドで、彼らの強い誇りと、そしてこれからを感じさせるリリックで、まさにラストにふさわしい作品となっています。

楽曲的には正直言って目新しさは感じません。メランコリックなサウンドにトラップのリズムを加えたスタイルは、良くも悪くもいつものBAD HOPといった感じ。やはりラストだからこそ、あえていつも通りのBAD HOPしていたのかもしれません。また、あえて言えば、いままでに比べて、よりマイクリレーが前面に押し出されてたように感じるのも、やはりBAD HOPとしてのラストを意識したものでしょうか。そういう意味で、純粋に、音楽的に考えると決してBAD HOPとしての最高傑作、といった感じではありません。ただ、最後を迎えるにあたって、間違いなく欠かすことができない1枚だったのかな、という印象を受ける作品でした。

これでBAD HOPとしての活動は終わり、というのは残念ですが、それと同時にこのアルバムを聴くと、やはりもうBAD HOPとしてはやり切ったのだろうな、という印象も受けるアルバムでした。それと同時に、彼らのようなアンダーグラウンド色の強いグループが、東京ドームを埋められたという事実を提示したことも、非常に大きな彼らの意義だったように感じます。これからはメンバーがソロで活動を続けるのでしょうが、その動向も見逃せません。メンバー全員のこれからの活躍も楽しみです。

評価:★★★★★

BAD HOP 過去の作品
BAD HOP 1DAY
Mobb Life
BAD HOP HOUSE
BAD HOP ALLDAY vol.2
BAD HOP WORLD
BAD HOP HOUSE 2


ほかに聴いたアルバム

50th Anniversary Special A Tribute of Hayashi Tetsuji-Saudade-

作曲家林哲司のデビュー50周年を記念してリリースされたトリビュートアルバム。トリビュートと言っても、本人が自分の持ち歌を新録で収録している曲もあり、冒頭の中森明菜の「北ウイング-CLASSIC-」にいきなり持っていかれます。全体的には哀愁たっぷりのシティポップが並んでおり、原曲準拠なカバーを基本的には落ち着いたボーカルのカバーに仕上がっています。以前聴いた林哲司の5枚組の作品集では、シティポップという枠組みで考えると、ちょっと期待はずれな内容だったのですが、こちらはそんな中でも特にヒット曲を凝縮しているだけに、すべて魅力的なシティポップの作品が収録されており、ともすれば前述の作品集よりも、より林哲司という作曲家の魅力に触れられるアルバムだったかもしれません。

評価:★★★★★

ケツノポリス13/ケツメイシ

タイトル通り13枚目になるケツメイシのニューアルバム。HIP HOPからエレクトロのダンスチューン、メロディアスなポップから聴かせるバラードなどなど、バラエティー富んだ作風が特徴的。歌詞もコミカルなナンバーから正統派のラブソング、J-POPらしい前向き応援歌まで多彩。商店街へのエールやアントニオ猪木ネタの曲、おじさんの悲哀を歌った曲やら農家を取り上げた曲まで非常にユニークな歌詞はケツメイシらしい感じ。基本的には身の回りの出来事を歌詞にしたコミカルな曲調は、もうケツメイシのお家芸といった感じか。ある意味、大いなるマンネリ気味ではあるのですが、安心して聴けるアルバムにはなっていました。

評価:★★★★

ケツメイシ 過去の作品
ケツノポリス5
ケツノポリス6
ケツノポリス7
ケツの嵐~春BEST~
ケツの嵐~夏BEST~
ケツの嵐~秋BEST~
ケツの嵐~冬BEST~

KETSUNOPOLIS 8
KETSUNOPOLIS 9
KTMusic(KTMusic)
KETSUNOPOLIS 10
ケツノポリス11
ケツノパラダイス
ケツノポリス12

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