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2024年3月

2024年3月31日 (日)

バンドのさらなる成長を感じさせる1枚

Title:TANGK
Musician:IDLES

イギリスのポストパンクバンドIDLESの約2年3ヶ月ぶりのニューアルバム。前作「Crawl」はグラミー賞にノミネート。日本でも徐々に知名度が上がってくるなど、世界的な注目も高まってきています。本作は本国イギリスの公式チャートで2作ぶりの1位を獲得するなど、現在、最も勢いのあるロックバンドのひとつと言えるでしょう。

IDLESの魅力と言えば、まずはダイナミックなバンドサウンド。今回のアルバムでも「Gift Horse」「Jungle」など、分厚く力強いバンドサウンドが耳に押し寄せるような彼ららしい楽曲も目立ちます。先行シングルでもある「Dancer」でもLCDサウンドシステムのジェームス・マーフィーとナンシー・ワンが参加。かなり賑やかなボーカルラインが加わった勢いのある楽曲となっています。

一方、前々作「Ultra Mono」までは、楽曲の方向性については若干一本調子。勢いで最後まで押し切るようなアルバムになっていました。もちろん、その勢いだけで十分楽しめる傑作ではあったものの、前作「Crawer」では音楽的なバリエーションが一気に増え、グッと奥行きの増したアルバムに仕上がっていました。

そして今回のアルバム。前作にも増してバリエーションに富んだアルバムとなっており、バンドとしてのさらなる成長を感じさせる作品となっています。1曲目「IDEA 01」はピアノでフリーキーな曲風に、ハイトーン気味でメロウに聴かせるボーカルの曲からスタートし、正直、ちょっとビックリさせられます。「POP POP POP」もヘヴィーなサウンドが流れつつも、リズムは軽快でリズミカルなビートになっており、一風変わったIDLESを聴かせてくれますし、折り返し地点である「A Gospel」も、エレピとサイケなサウンドで荘厳に聴かせるような、ポストパンクというイメージからはちょっと離れるような曲調になっています。

後半も「Hall&Oates」などは、タイトルからはちょっとイメージし難い、ガレージ色の強い作風に。ラストを締めくくる「Monolith」もゆっくりとヘヴィーなギターが入りつつ、ゆっくりと静かに聴かせるナンバーに仕上がっています。最後はジャジーなサックスで締めくくり。いままでのIDLESとは一風異なった終わり方となっています。

いままでと比べると、一気に楽曲のバリエーションが増して、バンドとしての成長を感じさせるアルバム。それと同時に、いままでのIDLESらしい楽曲もきちんと多く収録されており、いままでのIDLESを期待するような層も十分満足させることが出来る、ある意味、理想的とも言える作品だったと思います。文句なしの傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

IDLES 過去の作品
Joy as an Act of Resistance
Ultra Mono
CRAWLER

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2024年3月30日 (土)

さらに自由になったソロ2枚目

Title:What Now
Musician:Brittany Howard

現在、活動休止中のロックバンド、Alabama Shakesのボーカリストとして高い評価を集めたBrittany Howardの2作目となるニューアルバム。2021年のグラミー賞では、ソロとしてベスト・ロック・ソング部門を受賞。ソロとしても着実にキャリアを伸ばしている彼女ですが、最新アルバムも前作に引き続きの傑作アルバムとなっていました。

前作「Jaime」ではキーボードに、かのロバート・クラスパーが参加。ロックバンドであるAlabama Shakesと比べると、若干ジャズ寄りのサウンドになっている点が大きな特徴でした。今回のアルバムでも、ドラムにはもともとジャズミュージシャン畑であるネイト・スミスを起用。数多くのミュージシャンのセッション・ミュージシャンとして名を高めている彼ですが、ジャズをベースに様々なジャンルのミュージシャンとコラボを行っています。

実際、今回のアルバムは前作のようなジャズ寄りというひとつの方向性を示すものではなく、ソウルやロックなど、比較的Alabama Shakesを含め、いままでの彼女の活動で顔を覗かしていたような音楽を詰め込んだようなアルバムに仕上がっています。例えば「Earth Sign」「To Be Still」のようなメロウなボーカルを聴かせるソウル風の楽曲もあったり、「Samson」のようにムーディーでジャジーな楽曲があったりします。さらにタイトルチューンとなっている「What Now」はバンドサウンドでファンキーに聴かせてくれるロックテイストの強いナンバーですし、「Power To Undo」も同じくファンキーなビートに彼女の力強いシャウトも印象的な、ロッキンなナンバーとなっています。

特に異色的とも言えるのが「Prove It To You」で、四つ打ちのビートで疾走感あるダンスチューンとなっており、アルバムの中でもひとつのインパクトとなっています。またラスト「Every Color In Blue」はフリーキーなサックスが流れるナンバーに。ダイナミックなサウンドでアルバムは締めくくられています。

前作であえてジャズ寄りにシフトした、という点はおそらくAlabama Shakesとしての活動と差別化するためだったと思われます。今回のアルバムに関しては、Alabama Shakesの活動休止が長くなってしまっている中、あえてAlabama Shakesとの差を意識しないで、なおかつ彼女の演りたい音楽を演りたいように演っていた、そんなアルバムにも感じました。

もちろん今回のアルバムでもBrittany Howardのボーカルは大きな魅力。前作と同じくパワフルなボーカルをこれでもかと聴かせる、というよりもやさしく包容力あるボーカルで歌い上げているという印象を受けるボーカルで、彼女の表現力がより魅力的に感じられる曲が並んでいました。

前作に引き続き、年間ベストクラスの傑作アルバムだったと思います。次はそろそろAlabama Shakesとしての活動を再開してほしい、とも感じてしまうのですが・・・。ただ、ソロ作はソロ作で魅力あふれる作品だと思います。彼女の魅力を存分に感じられる1枚でした。

評価:★★★★★

Brittany Howard 過去の作品
Jaime


ほかに聴いたアルバム

What Do We Do Now/J Mascis

Dinosaur Jr.のボーカリスト、J Mascisによるソロアルバム。楽曲はかなりシンプルかつストレートなオルタナ系ギターロック。分厚いバンドサウンドをバックに、ミディアムチューンでメランコリックな曲調の曲が多く、彼も既に58歳。すっかりベテランのシンガーなだけに、勢いよりも聴かせるタイプの曲が多いように感じる反面、ノイジーなギターロックは、オルタナ系の王道といった感じなれど、若々しさも感じさせます。目新しさはないのですが、安心して聴けるギターロックのアルバムです。

評価:★★★★

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2024年3月29日 (金)

日本の移民について考えさせられる1冊

今日は最近読んだ書籍の紹介です。

といっても、広い意味での音楽関係の書籍。韓国出身で現在は日本を拠点に活動しているラッパー、Moment Joonによる著書「日本移民日記」。もともとは韓国のソウル出身で、2010年に大阪大学に留学し、日本に移り住んだ彼。日本における「移民」という立場から、日本の病巣をえぐった2020年にリリースされたアルバム「Passport&Garcon」は当サイトでも紹介したのですが、聴いた時点で「年間1位の傑作」と称し、実際、2020年の私的年間ランキングで1位に選ぶ傑作でした。本作は、その彼が2020年11月から翌年にかけて岩波書店のWEB「たねをまく」に掲載されたエッセイを中心にまとめた1冊です。

「移民」として日本に在住する彼が、その立場の視点から日本での暮らしを描写した内容になっているのですが、彼の立ち位置というのがユニークで、韓国からの移民として話題になる、戦時中に日本に移民した在日韓国人でもなく、経済的な理由から日本に来たようなブラジル系の外国人でもなく、最近一部で話題となっている政治的理由での難民でもありません。ただ日本が好きで日本に移住してきた彼は、おそらく日本にいる外国人の中での割合としては実はかなりの比率を占めるのかもしれませんが、このように「移民」として自らの視点から語られるのは、逆に珍しいように思います。

そんな彼だけに、日常の中で感じられる外国出身であるからこそ感じられる違和感という視点が非常に興味深く感じられました。特に第1章で指摘される外国人をひとつの「キャラクター」として認識されるという指摘は非常に鋭く印象的。また、第2章で指摘されている日本語がうまいと「〇〇さんは心が日本人」と言われることがよくある、という指摘も印象に残ります。おそらく、言った本人としては決して差別をしようとして言ったのではないでしょう。ただ、いずれの事象も私たちが心の中で薄っすらと持っている、外国人を自分たちとは異質の存在として識別している感情の発現。言われた人たちがやはり嫌な思いをする時点で、言った本人に「悪意」がなかったとしてもやはり一種の「差別」的な言動である点は認識すべき話なのかもしれません。

音楽的なエッセイもあって、第5章、第6章では、HIP HOPにおいて、いわゆる「Nワード」(差別用語)がどのように使用されているのかを分析しています。本人の修士論文の触りを要約した内容だそうですが、特に日本においてこの差別用語がHIP HOPでどのように使用されているかの指摘が非常に興味深く感じます。日本のHIP HOPでは「Nワード」が「社会的文脈」ではなく「ヒップホップの文脈」でのみ行われている(要するに「差別」ということに対して意識的に取り組んでおらず、HIP HOP的に海外で「Nワード」を多様しているからスタイルだけ真似しているという指摘)は私も何となく日本のHIP HOPに対して感じていたことで、その点を実例を用いつつ、論理的に分析しており、読み応えのある内容となっていました。

全体的に非常に理論立った文章を書く方で、内容にも説得力を感じさせます。特にミュージシャンのこの手のエッセイは、良くも悪くも感情的な文体になることが多い中で、これだけ理論的な文章を書くミュージシャンは珍しいかも。エッセイという形態なだけに読みやすさを感じさせる一方で、しっかりとした主張も伝わってくる内容で、とても読み応えのある1冊。自分の中にある、外国人を「差別」する感情も含めて、いろいろと考えさせられるエッセイでした。

そんな彼が、ニューアルバムをリリースしましたので、今回は一緒に紹介したいと思います。

Title:Only Built 4 Human Links
Musician:Moment Joon&Fisong

Onlybuilt4humanlinks

同じく大阪で活躍するラッパーで、在日韓国人であるFisongとのコラボアルバム。Moment Joonが新たに立ち上げたレーベル「HOPE MACHINE FACTORY」からの第1弾リリースとなるそうです。前作「Passport&Garcon」リリース後、一度は引退宣言もしており、どうなるのか気にしていたのですが、レーベルを立ち上げて、こうやってMoment Joonとしてアルバムをリリースということは、今後もコンスタントに活動を続けていくのでしょうね。良かったです。

前作「Passport&Garcon」は、前述の通り、日本人が無意識に持つ差別的意識を描写したリリックが印象に残る作品で、どちらかというとリリック面で注目を集めることが多い作品でしたが、今回の作品については今時のビートを意欲的に取り込んだ作品に。同作の紹介には「ドリル、ネオブーンバップ、クランク、ローファイ・デトロイト」と書かれています。細分化している今のHIP HOPシーンのリズムについては正直、追い切れていないのですが、「Warawasenna/嘲」あたりはドリル、「Waru/悪」あたりはネオブーンバップといった感じでしょうか。ラッパー以上にHIP HOPミュージシャンとしてのMoment Joonの実力を感じさせます。

一方では前作で意欲的だったリリックについての主張は今回は控えめ。本作でも「Robbin'Time/懲」のような社会派なリリックもあったり、リリックでは日本語や英語だけではなく韓国語も取り入れているあたり、在日韓国人であるという(前述の書籍を読む限りだと、Moment Joonをそう称してよいのか悩むところですが)パーソナリティーを押し出した感はあるのですが、印象としては前作ほど強く残るものではありません。

結果として、良くも悪くも今時のHIP HOPといった感じの印象が残ります。HIP HOPミュージシャンとしてのMoment Joonの実力はわかるものの、良くありがちなHIP HOPのアルバムという感想にもなってしまいます。まあ、「Passport&Garcon」のようなアルバムを作り続けるのは難しいだけに、仕方ない部分もあるのでしょうが・・・。とはいえ、前作が10年に1枚クラスの傑作だっただけにちょっと残念にも感じます。とはいえ、意欲的に今風のリズムを取り込むあたり、彼のHIP HOPミュージシャンとしての実力も感じられた作品。これからの活躍にも期待です。

評価:★★★★

Moment Joon 過去の作品
Passport&Garcon
Passport&Garcon DX

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2024年3月28日 (木)

日韓のコラボが1位獲得

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週は日韓のコラボ作が1位獲得です。

今週1位を獲得したのはFANTASTICS from EXILE TRIBE × EPEX「Peppermint Yum」。LDH系のダンスグループFANTASTICSと韓国の男性アイドルグループEPEXのコラボアルバムとなります。CD販売数1位。オリコン週間アルバムランキングでは初動売上5万8千枚で2位初登場。FANTASTICSとしての前作「FANTASTIC ROCKET」の初動10万6千枚(2位)からは大きくダウンしています。

2位には女性声優アイドルグループ≠ME「Springtime In You」がランクイン。CD販売数2位。オリコンでは初動売上5万8千枚で2位初登場。前作のミニアルバム「超特急 ≠ME行き」の初動2万8千枚(1位)からアップしています。

3位初登場は日本の男性アイドルグループMAZZEL「Parade」。CD販売数3位、ダウンロード数1位。SKY-HIの設立した事務所BMSG所属のBE:FIRSTに続くアイドルグループとなります。オリコンでは初動売上3万枚で3位初登場。本作がアルバムではデビュー作となります。

続いて4位以下の初登場盤です。4位にはGirls2「We are Girls2-Ⅱ-」がランクイン。テレビ東京系ドラマガールズ×戦士シリーズの出演者から構成されるアイドルグループの2枚目となるフルアルバム。CD販売数4位。オリコンでは初動売上1万9千枚で5位初登場。直近のEP盤「アクセラレイト」の初動2万3千枚(4位)からダウン。オリジナルフルアルバムとしては前作の「We are Girls2」の初動1万5千枚(6位)からはアップしています。

5位には女性コーラスグループLittle Glee Monster「UNLOCK!」がランクイン。CD販売数5位、ダウンロード数6位。オリコンでは初動売上1万9千枚で4位初登場。直近のEP盤「Fanfare」の初動1万2千枚(6位)からはアップ。直近のオリジナルフルアルバム「Journey」の初動1万8千枚(2位)から若干のアップとなっています。

6位初登場はコブクロ「ALL SEASONS BEST」。2023年に配信リリースされたコンピレーションアルバム「Seasons Selection」の4作をまとめたベストアルバム。CD販売数6位、ダウンロード数11位。オリコンでは初動売上1万5千枚で7位初登場。直近のオリジナルアルバム「Star Made」の初動3万1千枚(2位)からダウン。ベスト盤としての前作「ALL TIME BEST 1998-2018」の16万1千枚(1位)からダウンしています。

7位には女性アイドルグループExWHYZ「Dress to Kill」がランクイン。CD販売数7位。リミックス音源やカバー曲に新曲も加えたような企画盤で「バラエティアルバム」と自称しているようです。オリコンでは初動売上1万5千枚で8位初登場。直近のEP盤「HOW HIGH?」の初動1万1千枚(8位)からアップしています。

9位には大滝詠一「EACH TIME」が初登場。CD販売数8位。1984年にリリースされた、大滝詠一名義では生前最後のオリジナルアルバムとなった作品で、このたび40th Anniversary Editionがリリース。見事ベスト10入りを果たしています。オリコンでは初動売上1万1千枚で9位初登場。直近作は「大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK」で同作の初動6千枚(10位)からアップしています。

最後10位には大泉洋「YO OIZUMI ALL TIME BEST」がランクイン。CD販売数10位、ダウンロード数4位。俳優、タレントとして高い人気を誇る彼。一方、歌手としても何曲かCDをリリースしており、昨年も紅白に出場して話題となりましたが、そんな彼が過去に発表した曲をまとめたベスト盤となります。オリコンでは初動売上1万6千枚で6位にランクイン。これで今年も2年連続紅白出演となるか?

ちなみに先週までロングヒットを続けていたSEVENTEEN「SEVENTEENTH HEAVEN」は今週12位にダウン。またTREASURE「Reboot」もベスト20圏外にダウンしています。

今週のHot Albumsは以上。ランキング評はまた来週の水曜日に!

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2024年3月27日 (水)

圧倒的な強さで1位獲得

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週もまた、Creepy Nutsが圧倒的な強さを見せての1位獲得となりました。

Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」が今週も1位を獲得。ダウンロード数は3位にダウンしたものの、ストリーミング数、YouTube再生回数及びカラオケ歌唱回数1位の3冠を達成。圧倒的な強さを見せつけての9週連続の1位獲得となっています。これで10週連続のベスト10ヒットとなりました。

2位は旧ジャニーズ系所属の男性アイドルグループTravis Japanの配信限定シングル「T.G.I.Friday Night」が獲得。ダウンロード数1位で、その他はチャート圏外となっていますが、総合順位では2位にランクインしています。

3位には韓国の男性アイドルグループZEROBASEONE「ゆらゆら-運命の花-」がランクイン。CD販売数1位を獲得しましたが、他が圏外で総合順位はこの位置に。本作が日本デビュー作で、初のシングルとなります。オリコン週間シングルランキングでは初動売上30万2千枚を売り上げ、1位を獲得しています。

続いて4位以下ですが、今週の初登場は上記2曲のみ。その代わり、返り咲き曲も。それがAdo「唱」で、先週の14位から10位にランクアップ。3週ぶりにベスト10返り咲きを果たしています。ただし、ストリーミング数8位は先週から変わらず。ダウンロード数も19位から20位にダウン。ここ2週、なぜかチャート圏外だったYouTube再生回数が7位に再度ランクインしている点が返り咲きの大きな要素の模様。これでベスト10ヒットは通算27週となりました。

一方ロングヒット曲ですが、まずCreepy Nutsと2強状態だったtuki.「晩餐歌」は今週3位から6位に再びダウン。とはいえ、ストリーミング数3位、YouTube再生回数2位は先週から変わらず。まだまだ強さも感じさせます。これで17週連続のベスト10ヒットとなっています。

YOASOBI「アイドル」は6位から7位にダウン。ストリーミング数は4位から5位にダウン。ただし、YouTube再生回数は6位から5位に若干のアップとなっています。これで50週連続のベスト10ヒットとなっています。

ロングヒット曲はもう1曲。Mrs.GREEN APPLE「ケセラセラ」は先週から変わらず9位をキープ。これで通算24週目のベスト10ヒットとなりました。ただし、先週6位にランクアップしたストリーミング数は7位に再びダウンしています。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums!

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2024年3月26日 (火)

あえてブラジル音楽から距離を置いた2作

今回紹介するのは、ブラジルのリオデジャネイロ出身ながら、現在はロサンゼルスを中心に活動をしているギタリスト、Fabiano do Nascimento。ブラジル出身の彼ながら、ブラジル音楽の枠組みに捕らわれない幅広い音楽性で注目を集めるミュージシャンだとか。その彼が、昨年から今年にかけて2枚のアルバムをリリースしています。

Title:The Room
Musician:Fabiano do Nascimento&Sam Gendel

まずこちらは、Fabiano do Nascimentoと、サックス奏者でプロデューサーとしても有名なSam Gendelのコラボによる新作。ってか、またSam Gendelかよ!当サイトでも何度か取り上げていますが、気が付くとニューアルバムをリリースしており、そのワーカホリックぶりが目立ちます。調べると、2023年はソロ名義のオリジナルを2作、2022年はソロ名義のオリジナル3作+コラボ1作、2021年はオリジナル2作+コラボ4作・・・。3月時点ではまだリリースしているのがこのコラボ1作のみのようですが、今年は何枚のアルバムをリリースするのでしょうか・・・。

ただ、作品としては非常にシンプル。使われているのはFabiano do Nascimentoの奏でるギターと、Sam Gendelの奏でる楽器のみ。このSam Gendelの奏でる楽器は、パッと聴いた感じ、フルートに聴こえるのですが、ソプラノサックスらしいです。そういわれると、フルートよりも木管楽器独特の暖かみを感じられるように思います。

アルバムは最初から最後まで徹底してこの2つの楽器でシンプルな音色を奏でている点がおもしろいところ。ただ、哀愁感たっぷりのメロディーラインは非常に胸をうたれ、インパクトがあります。まず印象的なのは「Astral Flowers」。最初のアコギのアルペジオも印象的ですが、サックスの音色には郷愁感あふれて思わず聴き入ってしまいます。

そして中盤の「Txera」も印象的。前半のサックスのメロディーとリズムは、どこか日本の民謡を彷彿とさせますし、その後あらわれるメロディーラインも、どこか懐かしさと暖かみが感じられます。日本人にとって非常に琴線に触れるような楽曲となっています。

シンプルだからこそ、その音色とメロディーラインに聴き入ってしまう傑作。Fabiano do Nascimentoのギターの音色も素晴らしかったですし、あれだけハードワーカーにも関わらず、このクオリティーを維持し続けるSam Gendelにも驚かされます・・・。郷愁感あるギターの音色は、どこかブラジル音楽からの影響を感じさせつつ、単純なブラジル音楽とも異なる点が魅力的な作品でした。

評価:★★★★★

Title:Mundo Solo
Musician:Fabiano do Nascimento

で、こちらはFabiano do Nascimentoのソロ名義での作品。で、こちら非常にユニークなのはソロといいつつ、ギターのソロインストではなく、コラボ作の「The Room」よりもずっと音数が多い点。1曲目「Abertura」ではギターのみではなくストリングスの音色が入っていますし、続く「Curumim 2」ではいきなりエレクトロのナンバーとなっています。

なんでも、基本的に一部、ゲスト奏者が参加しつつ、全ての楽器を自らの手で奏でる作品となっているそうで、あえて様々な楽器が入っているのが特徴的。「Agua de Estellas」ではマラカス的な音が入っていて、ちょっとトライバルな雰囲気が入っていたり、「Bari」ではドリーミーなギターやシンセの音色でスペーシーな雰囲気に仕上げていたりとユニーク。全体的にギターの音色にエレクトロサウンドを組み入れてドリーミーにまとめあげる楽曲が多く、メランコリックなギターの音色は上記「The Room」と共通項はあるものの、サウンドの面では、かなり異なる構成のアルバムになっています。

おそらくレコード会社からの宣伝文句だと思うのですが、このアルバムの紹介文として「国家主義的な傾向を拒否しすることで特定の音楽言語に偏ることを避け、自身の音楽的ルーツのすべてを表現するというエルメート・パスコアルが提唱する"ユニバーサル・ミュージック"のコンセプトを継承しつつ、ありとあらゆる楽器をマスターすることによって真の自由を獲得している」と書かれた紹介サイトが多く見受けられます。確かに「The Room」以上にブラジル音楽の影響は薄く、また、いい意味で様々なジャンルの影響が垣間見れるサウンドとなっています。ここらへんは、あえてルーツレスにすることで、特定の国の音楽に偏向することを避けているということなのでしょう。彼しか奏でられない独特の音色が楽しめるアルバムになっていたと思います。

「The Room」もそうですが、リオデジャネイロ出身であり、ブラジル音楽の影響を感じさせつつも、あえてブラジルから距離を置いたような音楽性が特徴的でもあり、かつ魅力的でもありました。ルーツレスな彼の音楽なだけに、様々なルーツを持つ人たちが楽しめそうな、そんなアルバムだったと思います。どちらも傑作です。

評価:★★★★★

Sam Gendel 過去の作品
Satin Doll
AE-30
Superstore
blueblueblue
AUDIOBOOK


ほかに聴いたアルバム

PHASOR/Helado Negro

アメリカ・フロリダ出身のシンガーソングライター、Helado Negroのニューアルバム。メロウなソウルベースのポップミュージックで、美メロとも言える聴かせる歌が魅力的。その一方、ソウルをベースにボッサやフレンチ、ロックやエレクトロ、サイケやフリーキーな要素まで加味したバラエティー富んだ自由な音楽性が大きな魅力。ただ、雑多な音楽性を持ちながらも、フォーキーさも感じさせる暖かい歌が軸となっているため、アルバムには不思議と統一感も覚えます。癖は感じつつも非常に魅力的なポップソングでした。

評価:★★★★★

Helado Negro 過去の作品
This Is How You Smile

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2024年3月25日 (月)

バラエティー富んだサウンドを聴かせるWarp初のHIP HOPミュージシャン

Title:Quaranta
Musician:Danny Brown

昨年リリースしたJPEGMAFIAとのコラボ作「SCARING THE HOES」も高い評価を得た、アメリカはデトロイト出身のラッパー、Danny Brown。その話題となったコラボ作からわずか8ヶ月のインターバルで、今度はDanny Brown単独名義でのアルバムをリリースしてきました。コラボ作「SCARING THE HOES」も傑作アルバムでしたが、今回のアルバムも、そのコラボ作に勝るとも劣らない傑作アルバムに仕上がっていました。

全体的に重低音を効かせるようなトラックに、メランコリックなフロウがのっかかるようなスタイル。メランコリックさを感じるサウンドは、ムーディーでもあり、どこかくすんだ感じが、大人な雰囲気を醸し出しています。なにげに彼自身、既に42歳というキャリアのあるラッパーで、それゆえに大人な落ち着きのある雰囲気が楽曲にも反映されているのでしょうか。そのスタイル自体、非常に聴きやすい印象を受けるのですが、それに加えて様々なサウンドを用いて、バリエーションあるサウンドを聴かせてくれる点が特徴的でもありました。

特に前半に関しては、哀愁感たっぷりのトラックを前面に押し出したタイトルチューン「Quaranta」からスタートし、ダイナミックなギターリフが展開されるロッキンな「Tantor」、重低音のビートを押し出した「Ain't My Concern」、ハイトーンのラップがどこかコミカルな「Dark Sword Angel」と、特にアルバム前半にはバリエーションの富んだ曲が並びます。

後半は、MVが先行公開された「Jenn's Teriffic Vacation」からスタート。メランコリックなトラックに、ハイトーン気味のラップがどこかコミカルなのですが、故郷にあらたに立ち並ぶコーヒーショップや、家賃の高騰などの富裕化、それに伴う格差に苦言を呈しているリリックも印象的。なんとなく今の日本でも起きつつある社会問題には、日本人にとっても共感を呼びそう。

その後の後半に関しては、メランコリックなトラックでゆっくり聴かせる楽曲が続きます。全体的に統一感のある構成となっており、バリエーションのあった前半とはちょっと異なる雰囲気の展開に。この展開については、レコードのA面B面を意識した構成になっているそうで、2部構成のような展開にもユニークさを感じます。

ちなみにDanny Brown、エレクトロミュージシャンのレーベルとして有名なWarpレコード初のHIP HOPミュージシャンだそうで、ただ、バラエティーのある自由度の高いトラックは、ある意味、Warpレコードの他のミュージシャンとも共通する要素も感じられます。また、そのためもあってか、HIP HOPというジャンルに限らず、広いリスナー層が楽しめそうな作品にもなっていたようにも感じます。サウンドに垣間見れる幅広い音楽性も魅力的な1枚でした。

評価:★★★★★

Danny Brown 過去の作品
SCARING THE HOES(JPEGMAFIA&Danny Brown)


ほかに聴いたアルバム

Natural Magick/Kula Shaker

90年代ブリットポップの代表的なロックバンド、クーラ・シェイカー。当初はわずか4年で解散してしまったのですが、2004年の再結成後は、休止期間もありつつバンド活動は続け、本作は約2年ぶりのアルバムに。さらに2022年にはオリジナルメンバーで再結成後は不参加だったオルガンのジェイ・ダーリントンがバンドに復帰し、本作はオリジナルの体制では実に約25年ぶりとなるアルバムとなっています。

それだけに、基本的にはクーラ・シェイカーらしいアルバムといったイメージ。軽快なギターロックを主軸としつつ、エキゾチックな要素も感じさせる音楽性が大きな魅力。ジャケットからして、彼らの音楽の影響としてよく語られるインドをモチーフとしたものとなっています。インド音楽的な要素はあくまでも隠し味のスパイス的な感じに留まっているのですが、どこかエキゾチックでサイケな雰囲気の楽曲はいかにもクーラ・シェイカーならでは。前作同様、目新しさは薄いのですが、良い意味で安心して楽しめるアルバムに仕上がっていました。

評価:★★★★★

Kula Shaker 過去の作品
Revenge of the king
STRANGE FOLK
Pilgrim's Progress
K2.0
1st Congregational Church Of Eternal Love And Free Hugs

Coming Home/Usher

実に約8年ぶりとなるUsherのニューアルバム。今となっては逆に珍しいとすら感じる「正統派」なR&Bシンガー。ただ、約8年のインターバルがありつつもビルボードチャートでしっかり2位に入ってくるあたり、その高い人気ぶりを感じますし、なんだかんだいっても、こういうR&Bの曲が好きなのね、と思ってしまいます。「Good Good」のように今風のサウンドメイキングを感じさせる部分もあるのですが、基本的にはしっかりとメロウな歌を聴かせる、90年代から2000年代初頭あたりのR&Bをそのまま継承しているような感じで、良くも悪くもUsherらしい感じ。個人的には「A-Town Girl」でBilly Joelの「Uptown Girl」をサンプリングしている点はうれしく感じました。いい意味で安心して聴けるアルバムです。

評価:★★★★★

Usher 過去の作品
HERE I STAND
RAYMOND V RAYMOND

Looking 4 Myself
HARDⅡLOVE

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2024年3月24日 (日)

「すこし・ふしぎ」な世界

Title:Contact
Musician:角銅真実

シンガーソングライターやパーカッショニストとして活躍。ceroや原田知世のライブサポートとしても活躍し、徐々に注目を集めている角銅真実。前作「oar」もかなり評価が高く、注目を集めたのですが、前作から約4年。ちょっと久々となるニューアルバムをリリース。こちらも前作と勝るとも劣らない傑作アルバムに仕上がっていました。

前作「oar」で、まずは大きな魅力だったのが角銅真実の声でした。清涼感あるウィスパー気味のボーカルが大きな魅力である彼女。前作は、その彼女の声に焦点を絞ったシンプルなサウンドメイキングが大きな特徴でした。今回の作品においても、もちろん彼女のこのボーカルが大きな魅力であることには変わりありません。「Carta de Obon」ではアコースティックなサウンドをバックに、ちょっとウィスパー気味のボーカルで清涼感あるボーカルを魅力的に聴かせる楽曲に仕上げてきています。

ただ、そんな中、今回のアルバムはむしろサウンドの面に焦点を絞ったような作品に仕上げています。特に今回のアルバムテーマとして「聴こえたものを聴こえたまま」だったそうで、録音の場で聴こえた様々な音をそのまま捉えたような作風に仕上がっていました。ジャケット写真も、水の中に彼女が顔を突っ込んだようなデザインとなっていますが、1曲目の冒頭「i o e o」はいきなり彼女が水の中に顔を突っ込んだ音をそのまま録音したような音からスタート。さらに「枕の中」では、まずでフィールドレコーディングのように、虫の声が聞こえる中、アコギと彼女のボーカルでしんみりと聴かせるような作品。「落花生の枕」でも同様に、鳥の鳴き声の中、彼女の静かな微笑みと、そしてチェロやアコギの音色をそのまま捉えたような作品に仕上がっています。

そしてこのアルバムのコンセプトが「すこし・ふしぎ」だそうで、こちら、かの藤子・F・不二雄先生が自分の作品について掲げたコンセプト。F先生は自分の作品について、本格的なSF作品ではなく「すこし(S)・ふしぎ(F)」と表現しています。彼女もそんなF先生のスタンスに共感を覚え、今回のアルバムコンセプトを「すこし・ふしぎ」として設定したそうです。

確かに今回のアルバム、ちょっとファンタジックで、ちょっと「ふしぎ」な雰囲気の作風になっている点も大きな特徴でした。例えば1曲目「i o e o」もアコギやチェロ、フルートなどの音色の中、ファンタジックな雰囲気の作風に。続く「蛸の女」も民謡風の曲調で静かに聴かせる彼女のボーカルのバックには、ベースやホーン、アコギなど様々な音が鳴っており、ちょっと不思議な雰囲気に。全体的にシンプルなアコースティックのサウンドを聴かせるのが特徴的だったのですが、「聴こえたものを聴こえたまま」がテーマだった作品なだけに、様々な音が取り入れられており、幻想的で、ちょっと不思議な雰囲気の作風になっていたのが今回の大きな特徴となっていました。

そんな中でもアルバムのひとつの核になっていたのが中盤の「長崎ぶらぶら節」。彼女の出身地、長崎の民謡を歌った作品なのですが、彼女のボーカルにもエフェクトがかけられて、こちらも不思議な雰囲気に。最初は静かにスタートするのですが、途中からストリングスやピアノ、バンドサウンドが登場し、徐々に賑やかに。さらに後半ではラテンのリズムまで登場してきており、まさにすこし・ふしぎのコンセプトにピッタリな展開を聴かせてくれました。

ただ、様々な音を取り入れたアルバムでありながらも、基本的にはアコースティックベースのシンプルな音の作りが特徴的な故に、J-POPにありがちな「様々な音を入れて音が過剰になってしまった」という感じは全くありません。むしろ、あるがままを録音したにも関わらず、必要最低限の音のみで構成されたように感じる作風に。そのため、いろいろな音が鳴っているのに、不必要な音が一切ないという、これまたある意味「すこし・ふしぎ」なアルバムに仕上がっていました。

前作も傑作でしたが、今回も間違いなく年間ベストクラスの傑作に仕上がっていたと思います。ボーカリストとしての彼女の魅力を強く感じた前作に続き、今回ではさらに彼女の音楽性の幅広さ、その実力を強く感じるアルバムになっています。是非、彼女の「すこし・ふしぎ」な世界を体験してほしい、そんな作品でした。

評価:★★★★★

角銅真実 過去の作品
oar


ほかに聴いたアルバム

dip/夜の本気ダンス

結成15周年を迎えた夜の本気ダンスが、その記念すべき年にリリースした約4年半ぶりのニューアルバム。全編的に軽快でリズミカルなギターロックチューンが並びます。特に特筆したいのが1曲目の「ピラミッドダンス」で、かのケンモチヒデフミとのコラボ。楽曲的には完全に歌詞の世界を含め、水曜日のカンパネラです。勢いのある軽快なギターロックが並んでおり、聴いていて非常に心地よく楽しめるのですが、手放しに絶賛するには曲のバリエーションといいインパクトといい、ちょっと物足りなさが残ってしまう部分も。傑作一歩手前の、非常に惜しい感じが否めないのですが・・・。「ピラミッドダンス」ほどのインパクトある曲がもう1曲あれば、とも思ってしまうのですが。

評価:★★★★

夜の本気ダンス 過去の作品
DANCEABLE
INTELLIGENCE
Fetish
PHYSICAL

Flying To The Top/AK-69&¥ellow Bucks

Flying_to_the_top

ラッパーのAK-69と¥ellow Bucksがタッグを組んでリリースしたEP。あえてバラエティーあるHIP HOPに挑戦したそうで、リリックとしては方向性の異なる楽曲が並ぶのですが、良くも悪くも、いかにもラッパー的な価値観、世界観的なリリックですし、トラックにしても似たようなメランコリックでダークなトラックが多いので、さほどバラエティー富んだ・・・という印象は受けません。ただ、逆にそれはそれで統一性はあり、ファンにとってはいい意味で受け入れられやすい形なのかもしれませんが。

評価:★★★★

AK-69 過去の作品
THE CARTEL FROM STREETS
THE RED MAGIC
The Independent King
Road to The Independent King
THE THRONE
DAWN
無双Collaborations -The undefeated-
THE ANTHEM
ハレルヤ-The Final Season-
LIVE:live
The Race

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2024年3月23日 (土)

ラストを迎えることの誇り

Title:BAD HOP
Musician:BAD HOP

Badhoplast

おそらく、2024年の音楽関連の最大のニュースのひとつがBAD HOPの東京ドームでの解散ライブでしょう。川崎市を拠点とするラップクルー、BAD HOP。2010年代後半から徐々に話題を集めだし、人気を確保してきました。その彼らが、結成10周年を迎える2024年に解散を発表。そのこと自体も大きなニュースですが、さらに大きな話題となったのが、解散ライブを東京ドームで実施するというニュース。人気のグループとはいえ、まさかの東京ドームワンマンという驚きを持って迎え入れられました。

個人的にもライブに興味があり、時間が合えば行ってみたいな、とは思っていたのですが、正直、おそらく売り切れることはないだろう、と高をくくっていました。ところが、チケットは見事ソールドアウト。当日、東京ドームは5万人という大入りという状況だったそうで、率直なところ、彼らを見くびっていた・・・と言わざる得ません。

その人気ぶりに驚くのは、BAD HOPというグループが、かつての常識から考えると一般的に決して「売れ線」と言われるグループではなかったからです。もともと出自からして、川崎市の池上という、本人たち曰く「日本で一番空気の悪い場所」からスタートしたグループ。アンダーグラウンドであることを前に押し出しており、ある意味、本場アメリカのHIP HOPのストリート感を漂わせるリリックは、評価は高かったものの、決して一般受けするものではありません。トラックにしても、流行のトリップを全面的に取り入れたものではあるものの、その「流行」はあくまでも本国アメリカでの話で、日本において、HIP HOPリスナーの間ならともかく、一般のリスナー層に広く聴かれているか、と言われると、決してそうではありません。

それにも関わらず、ラストライブというイベント性があるとはいえ、東京ドーム5万人をソールドアウトさせる人気のほどには驚かされると同時に、HIP HOPというジャンルのすそ野が、もうそれだけ広がっているんだな、ということを実感させられ、また同時に認識を改めさせられました。既にヒットチャートではHIP HOPというジャンルが席巻しているのですが、BAD HOPのようなアンダーグランド性の強いグループがここまで受け入れられていているという事実を、東京ドームライブのソールドアウトによって、非常に具体的に可視化されたように感じます。

さて、本作は、そんな彼らのラストアルバムとなる作品。8曲入り30分弱のミニアルバム的な構成となります(ただ、その後、メンバーのソロ作やフューチャリング曲を追加した拡張版がリリースされていますが)。楽曲的にはラストに東京ドームへのライブへ望む彼らの決意をストレートに綴ったリリックが目立ちます。1曲目からしていきなり「TOKYO DOME CYPHER」。リリックは、彼らのいままでの歩みから東京ドームでライブを行うことの誇りが綴られています。「Fianl Round」もタイトル通り、ラストライブにのぞむ決意を綴った作品。同じく「Last Party Never End」も友人や彼女とのデートを想定したリリックになっているものの、おそらく、ラストライブに足を運んだファン全員を相手として想定しているようなリリックがユニーク。ラストの後の決意も感じられるリリックになっています。

そしてラストを飾るのが「Champion Road」。ピアノを入れてメランコリックで、そしてダイナミックなサウンドで、彼らの強い誇りと、そしてこれからを感じさせるリリックで、まさにラストにふさわしい作品となっています。

楽曲的には正直言って目新しさは感じません。メランコリックなサウンドにトラップのリズムを加えたスタイルは、良くも悪くもいつものBAD HOPといった感じ。やはりラストだからこそ、あえていつも通りのBAD HOPしていたのかもしれません。また、あえて言えば、いままでに比べて、よりマイクリレーが前面に押し出されてたように感じるのも、やはりBAD HOPとしてのラストを意識したものでしょうか。そういう意味で、純粋に、音楽的に考えると決してBAD HOPとしての最高傑作、といった感じではありません。ただ、最後を迎えるにあたって、間違いなく欠かすことができない1枚だったのかな、という印象を受ける作品でした。

これでBAD HOPとしての活動は終わり、というのは残念ですが、それと同時にこのアルバムを聴くと、やはりもうBAD HOPとしてはやり切ったのだろうな、という印象も受けるアルバムでした。それと同時に、彼らのようなアンダーグラウンド色の強いグループが、東京ドームを埋められたという事実を提示したことも、非常に大きな彼らの意義だったように感じます。これからはメンバーがソロで活動を続けるのでしょうが、その動向も見逃せません。メンバー全員のこれからの活躍も楽しみです。

評価:★★★★★

BAD HOP 過去の作品
BAD HOP 1DAY
Mobb Life
BAD HOP HOUSE
BAD HOP ALLDAY vol.2
BAD HOP WORLD
BAD HOP HOUSE 2


ほかに聴いたアルバム

50th Anniversary Special A Tribute of Hayashi Tetsuji-Saudade-

作曲家林哲司のデビュー50周年を記念してリリースされたトリビュートアルバム。トリビュートと言っても、本人が自分の持ち歌を新録で収録している曲もあり、冒頭の中森明菜の「北ウイング-CLASSIC-」にいきなり持っていかれます。全体的には哀愁たっぷりのシティポップが並んでおり、原曲準拠なカバーを基本的には落ち着いたボーカルのカバーに仕上がっています。以前聴いた林哲司の5枚組の作品集では、シティポップという枠組みで考えると、ちょっと期待はずれな内容だったのですが、こちらはそんな中でも特にヒット曲を凝縮しているだけに、すべて魅力的なシティポップの作品が収録されており、ともすれば前述の作品集よりも、より林哲司という作曲家の魅力に触れられるアルバムだったかもしれません。

評価:★★★★★

ケツノポリス13/ケツメイシ

タイトル通り13枚目になるケツメイシのニューアルバム。HIP HOPからエレクトロのダンスチューン、メロディアスなポップから聴かせるバラードなどなど、バラエティー富んだ作風が特徴的。歌詞もコミカルなナンバーから正統派のラブソング、J-POPらしい前向き応援歌まで多彩。商店街へのエールやアントニオ猪木ネタの曲、おじさんの悲哀を歌った曲やら農家を取り上げた曲まで非常にユニークな歌詞はケツメイシらしい感じ。基本的には身の回りの出来事を歌詞にしたコミカルな曲調は、もうケツメイシのお家芸といった感じか。ある意味、大いなるマンネリ気味ではあるのですが、安心して聴けるアルバムにはなっていました。

評価:★★★★

ケツメイシ 過去の作品
ケツノポリス5
ケツノポリス6
ケツノポリス7
ケツの嵐~春BEST~
ケツの嵐~夏BEST~
ケツの嵐~秋BEST~
ケツの嵐~冬BEST~

KETSUNOPOLIS 8
KETSUNOPOLIS 9
KTMusic(KTMusic)
KETSUNOPOLIS 10
ケツノポリス11
ケツノパラダイス
ケツノポリス12

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2024年3月22日 (金)

現代の視点からレジェンドを描く

本日は、最近鑑賞した、音楽関係の映画の感想です。

ロックンロールの創始者のひとりと言われ、数多くのロックミュージシャンたちに影響を与えたレジェンド、リトル・リチャードの伝記的映画「リトル・リチャード:アイ・アム・エヴリシング」です。

偉大なるロックンローラー、リトル・リチャードの生涯を、リアルタイムの映像や関係者のインタビューを中心に構成されたドキュメンタリー。まあ、この手の音楽ドキュメンタリーは良くありがちなのですが、リトル・リチャード自体、比較的長生きだったのと、彼が元気だったうちに、ロックンロールの創始者として評価を受けていたということもあって、生前の映像が比較的多く残っており、またテレビのトーク番組なので、彼自身について語った映像も残っているため、この手のドキュメンタリーでたまにある「インタビューされる人のバストアップ映像のみ淡々と流れる」ということにはならず、それこそ最初期の「よくこんな映像が残っていたな!」という貴重な映像と共に、リトル・リチャードの生涯を、映像を楽しみながら見ることが出来る映画となっていました。特に初期のロックンロールの映像は、今見ても迫力満点。非常にカッコいい演奏となっており、ロック好きなら間違いなく惹きつけられる映像の連続となっています。

また、インタビューされる人選もさすが超著名人揃い。ミック・ジャガーやキース・リチャード、ポール・マッカートニーなど、超大物がリトル・リチャードから自らが受けた音楽的な影響について語っています。その点においても非常に豪華なゲスト勢が彼について語るのを見るだけでも、リトル・リチャードがいかに偉大なミュージシャンだったのか、ということを実感させられます。

さて今回の映画、リトル・リチャードの生涯を追ったドキュメンタリーだったのですが、そこには現代的な観点からの2つのキーワードに沿った構成がされていました。それが「文化の盗用」と「LGBTQ」。この2つのキーワードに沿って、彼の生涯が描かれていました。

一つ目は「文化の盗用」。これはある特定の地域の文化を、他の地域の文化圏の人たちが流用する行為であり、昨今、よく非難を集めるケースが目立っています。ただ個人的には、文化というのは様々な地域固有のものが混じりあい、あらたな文化が生まれてくるものであるため、他の地域の文化を流用したといっても、即「文化の盗用」という非難のされ方をする点については疑問を持っています。

ただ一方、ここで語られたのは、リトル・リチャードがロックンロールの創始者でありながらも、黒人であるためその恩恵を(特に初期においては)ほとんど受けることがなく、彼が生み出したロックンロールというスタイルもすぐに白人ミュージシャンにパクられて、さらに彼の作った作品についても著作権に基づく報酬が正統に彼に支払われていなかったという事実が語られ、そのため、彼が一時期、非常に貧しい思いをしていた事実が語られています。確かにこういう歴史を踏まえると、現在、特にアメリカにおいて「文化の盗用」という点が問題になっていることもよくわかります。ただし、むしろ文化を流用すること自体が問題というよりも、「文化の盗用」は、流用した結果、流用元が正統に評価されない、経済的なメリットが流用元に流れ込まない、という構造こそが問題のように感じました。

さらにこの映画で最も重要かつリトル・リチャードの生涯においても大きな影響を与えたのは「LGBTQ」というキーワードでしょう。有名な話ですが、彼は自らがゲイであることを公言していました。彼が生きていた当時は、今よりも激しく同性愛者は差別を受けていました。そのため、彼自身も父親から認められなかったり、彼自身もゲイでありつつも、一時期は女性と結婚していた時期もあったり、さらには一時期は宗教の道へ進み、「キリストに帰依したことによって、同性愛が『治った』」という発言すらしていました。(この明らかな事実誤認の発言には、LGBTQの活動家も「困った」という発言をしていました)

実際、彼自身もこのパーソナリティーが影響してか、キリスト教的には忌避されるようなロックンロールミュージシャンでありつつも、いきなりロックンロールを捨ててゴスペルを歌いだしたり、さらに再びロックンロールに戻ったかと思えば、再び宗教に深く帰依するようになったり、とかなり自らの感情が揺れ動くような活動ぶりを見せています。彼ほどのロックンロールのレジェンドが、いや、ロックンロールのレジェンドだったからこそ、複雑な心の動きがあったのでしょう。ここ最近、特にSNS近辺では人々を単純に白か黒か、右か左か、反対か賛成か、分けるような風潮が少なくありませんし、過去の発言を引っ張り出して執拗に攻撃することも少なくありませんが、彼の生涯を見ると、人の心というのは、そんなに単純ではない、ということをあらためて感じさせます。

映画全体としては、ラストはリトル・リチャードがロックンロールの創始者として、様々な絶賛を集めて高い評価を受ける、というある意味、ハッピーエンド的な構成となっています。そういう意味では終わった後は、比較的、後味のよい映画となっていました。ロックンロールが好きなら、間違いなくチェックしておきたい映画と言えるでしょう。リトル・リチャードの偉大さをあらためて実感すると共に、彼が受けてきた苦労についても、あらためて強く印象に残る映画となっていました。

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2024年3月21日 (木)

日本の男性アイドルグループが1位2位

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

最近は韓国のアイドルグループが目立っていましたが、今週は男性アイドルグループが1位2位を獲得しています。

まず1位はWEST.「AWARD」が獲得。もともとジャニーズWESTと名乗っていた男性アイドルグループのベストアルバム。ジャニーズの名前を外して「WEST.」名義になってから初のアルバムとなります。CD販売数1位。オリコン週間アルバムランキングでも初動売上23万4千枚で1位初登場。直近のオリジナルアルバム「POWER」の初動24万9千枚(1位)からダウンしています。

2位にはスターダストプロモーション所属の男性アイドルグループ原因は自分にある。のミニアルバム「仮定法のあなたへ」がランクイン。CD販売数2位。オリコンでは初動売上5万2千枚で3位初登場。前作「無限の終わり」の初動9千枚(7位)からアップしています。

そしてそんなアイドル勢に混じって3位に食い込んできたのがSEKAI NO OWARI「Nautilus」。CD販売数3位、ダウンロード数1位。約2年半ぶりとなるニューアルバムで大ヒットを記録した「Habit」も収録されています。オリコンでは初動売上5万3千枚で2位初登場。前作「scent of memory」の初動4万6千枚(3位)よりアップ。「Habit」ヒットの効果も大きいのでしょうか。

続いて4位以下の初登場盤です。まず5位にTAEYONG「TAP」がランクインです。CD販売数5位。韓国の男性アイドルグループNCTのメンバーによるソロ2作目のミニアルバム。オリコンでは輸入盤リリースの販売日の都合で、今週、ランクインから3週目にして1万枚を売り上げて8位にランクイン。前作「SHALALA」もリリース日の都合でランクイン2週目にして1万枚を売り上げて10位にランクインしていますので、ほぼ販売枚数としては横バイという結果になっています。

6位初登場はLIP×LIP「生まれてきたことに感謝しなさい!」。クリエイターチーム「HoneyWorks」がプロデュースする2人組男性バーチャルアイドルユニット。CD販売数6位、ダウンロード数34位。オリコンでは初動売上1万枚で7位初登場。前作「どっちのkissか、選べよ」の初動1万8千枚(2位)からダウン。

7位には天音かなた「UNKNOWN DIVA」がランクイン。バーチャルYouTuerの女性アイドル。CD販売数7位、ダウンロード数4位。オリコンでは初動売上1万1千枚で6位初登場。本作がアルバムではデビュー作となります。

そしてこのようなアイドル系の中で健闘したのが9位初登場AJICO「ラヴの元型」。UAと元BLANKEY JET CITYの浅井健一を中心に結成した4人組ロックバンド。2000年に活動を開始し、その時はわずか1年で活動が終了。しかし2021年にまさかの活動再開。2021年にEP「接続」をリリースしましたが、さらに約2年10か月ぶりに2枚目のEPである本作をリリース。見事ベスト10入りしてくるあたり、根強い人気を感じます。というよりも、UAもベンジーも、それぞれの作品はベスト10に入ってこなくなっているのに、AJICOだとこれだけヒットを飛ばすというのが驚き。もっとメンバーそれぞれの活動にも注目すればよいのに・・・。オリコンでも初動売上4千枚で10位初登場。前作「接続」(10位)から初動売上は横バイとなっています。

さらにベスト10返り咲き組ではLDH系の男性グループBALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBE「Back&Forth」が先週のランク圏外から10位にランクアップし、3週ぶりのベスト10返り咲き。CD販売数が9位にランクインしているのですが、いきなりの返り咲きの理由はいまひとつ不明でした・・・。

ロングヒット盤としては、先週1位を獲得した韓国の男性アイドルグループSEVENTEEN「SEVENTEENTH HEAVEN」が今週も4位にランクイン。これで通算10週目のベスト10ヒットとなりました。また同じく、韓国の男性アイドルグループTREASURE「Reboot」も先週の7位からワンランクダウンの8位にランクイン。これで通算17週目のベスト10ヒットとなっています。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2024年3月20日 (水)

Creepy Nutsが圧倒的な強さで1位獲得

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週はCreepy Nutsが圧倒的な強さを見せて1位獲得です。

Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」が今週も1位を獲得。これで8週連続の1位となったのですが、ストリーミング数が8週連続で1位を獲得したほか、ダウンロード数も4週ぶりに1位返り咲き。さらにYouTube再生回数も34位から1位、カラオケ歌唱回数も2位から1位にアップし、4部門で1位獲得。2位以下から独走態勢に入っています。これで9週連続のベスト10ヒット。

2位はAKB48「カラコンウインク」がランクイン。CD販売数1位、ダウンロード数87位。オリコン週間シングルランキングでは初動売上32万枚で1位初登場。前作「アイドルなんかじゃなかったら」の初動36万8千枚(1位)からダウン。

3位にはtuki.「晩餐歌」が先週の4位からアップ。3週ぶりのベスト3返り咲き。ストリーミング数3位、カラオケ歌唱回数3位は先週から変わらず。ただ5週連続1位をキープしていたYouTube再生回数はCreepy Nutsに1位を獲得されたため2位にダウン。ダウンロード数も20位から23位にダウンしています。これで16週連続のベスト10ヒットとなりました。

続いて4位以下の初登場曲ですが、まず8位に藤井風「満ちてゆく」がランクイン。映画「四月になれば彼女は」主題歌。ダウンロード数3位、ストリーミング数20位、ラジオオンエア数12位、YouTube再生回数7位。まだストリーミング数の順位が低いのですが、今後、認知度があがればアップしていくのでしょうか。ピアノ主体で優しく聴かせるバラードナンバーとなっています。

さらに今週は返り咲き曲も。まず9位にMrs.GREEN APPLE「ケセラセラ」が先週の11位からランクアップし、3週ぶりのベスト10返り咲き。これで通算23週目のベスト10ヒットを記録しています。特に今週、3週連続で7位だったストリーミング数が6位にアップしています。

さらにヨルシカ「晴る」が先週の12位から10位にアップ。今年の1月17日付チャートから9週ぶりのベスト10返り咲きとなりました。日テレ系アニメ「葬送のフリーレン」オープニングテーマの同曲は、当初、ダウンロード数で2位を獲得し、8位にランクインしたものの、その後、ダウン。ただ一方、ストリーミング数が徐々にランクアップ。今週、ストリーミング数が10位とベスト10入りし、同時に総合順位もランクアップしています。今後のストリーミング数の動向次第ではロングヒットに結びつきそうです。

一方、ロングヒット曲ではYOASOBI「アイドル」が8位から6位にアップ。ただしストリーミング数4位は先週から変わらず。YouTube再生回数は5位から6位にダウン。これで49週連続のベスト10ヒットとなっています。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums!

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2024年3月19日 (火)

高橋幸宏の偉大さを感じるベストアルバム

Title:THE BEST OF YUKIHIRO TAKAHASHI [EMI YEARS 1988-2013]
Musician:高橋幸宏

昨年1月、70歳でこの世を去ったミュージシャン、高橋幸宏。以前から、体調が悪い状況であることは知られていたものの、突然の訃報には多くの音楽ファンがショックを受けました。2023年は3月には坂本龍一も逝去し、わずか3ヶ月で、YMOのメンバーが2人も鬼籍に入るというショッキングな事態となってしまいました。

本作はそんな中リリースされた、高橋幸宏のベストアルバム。1988年から2013年にかけて所属したEMI時代の作品からセレクトしたベストアルバムで、選曲は鈴木慶一。さらに、砂原良徳がリマスターを施すという、単なる既存曲を寄せ集めただけのアルバムではない、なかなか豪華な仕様のベストアルバムとなっています。もちろん、収録されているのは高橋幸宏のソロとしての作品のみですが、彼がどのようなミュージシャンだったのか、あらためて概観できるベストアルバムになっています。

さて今回のベスト盤を聴いて、まずは、高橋幸宏というミュージシャンはとても優しいメロディーを書くミュージシャンということを再認識しました。例えば「しあわせになろうよ」などは、非常に暖かく、ちょっと切なさも感じられるメロディーが印象的。「GOOD DAYS,BAD DAYS」も、胸がキュンとなるような切ないメロと歌詞が強く印象に残りますし、「ちょっとツラインダ」もアコギで聴かせるフォーキーでメランコリックなメロディーラインが胸に響きます。

正直、彼の書くメロディーラインは決して派手ではありません。わかりやすいサビがある訳でもありません。ただ、聴き終わった後、しっかり心に残るメロディーラインを書いてきています。それは本当の意味でメロディーメイカーとしての才能がある、ということなのでしょう。また、大きなポイントなのが、彼のメロディーは聴けばすぐに「高橋幸宏の曲だ」とわかるような個性があります。この点も彼の大きな魅力であり、かつメロディーメイカーとしての実力を持っている証のように感じました。

またサウンド的にもバラエティーに富んでおり、彼が様々な音楽に挑戦していたことがわかります。ちょっと大滝詠一っぽさを感じるシティポップの「青空」、ジャズやボッサの要素を感じる「海辺の荘」、打ち込みでリズミカルな「風につづく道」、レゲエ風の「星屑の町」など、幅広いジャンルへのあくなき挑戦心を強く感じます。

本作でちょっと残念だったのは1988年から2013年までの作品からのベストアルバムということで、それ以前の作品に関しては収録されていない点。例えば1978年のデビューアルバム「サラヴァ!」は彼の代表作の1枚と言ってもいいのですが、このアルバムからの曲は当然収録されていません。次は、オールタイムベスト、さらにはYMOをはじめとする彼が関わったバンドの中から、彼が作曲を手掛けた曲まで収録したようなベストアルバムをリリースしてほしいなぁ。権利関係でいろいろと難しいかもしれませんが・・・。

高橋幸宏というミュージシャンの偉大なる才能を感じることが出来たベストアルバム。まだ70歳という若さでこの世を去ってしまったのは、本当に残念すぎるということを思いました。改めて、彼のご冥福をお祈り申し上げます。

評価:★★★★★

高橋幸宏 過去の作品
Page by Page
GOLDEN☆BEST
LIFE ANEW
Saravah Saravah!
GRAN ESPOIR
IT'S GONNA WORK OUT 〜LIVE 82-84〜


ほかに聴いたアルバム

moonriders アンコールLIVEマニア・マニエラ+青空百景/ムーンライダーズ

2022年12月25日に恵比寿The Garden Hallで行われた、ムーンライダーズの1982年のアルバム「青空百景」と、同年にリリースされた「MANIA MANIERA」の再現ライブの模様を収録したライブアルバム。両方のアルバムはいずれもオリジナルを聴いたことないのですが、様々なタイプのサウンドを組み込んだ実験性も感じられる作風で、それでいてどこかシニカルでありつつ同時にコミカルさも感じられる作風が魅力的。以前聴いた「FUN HOUSE year」のボックス版でも感じた、80年代90年代あたりのムーンライダーズらしさを感じさせるライブ盤でした。

評価:★★★★★

ムーンライダーズ 過去の作品
Ciao!
moonriders Final Banquet 2016 ~最後の饗宴~
It's the moooonriders
Happenings Nine Months Time Ago in June 2022
moonriders「FUN HOUSE years」BOX

Timeless/MUCC

2022年5月4日に結成25周年を迎えたMUCC。この記念イヤーの最後を締めくくるのがこのオリジナルアルバム。前半に関してはかなりカッコいい。ロックバンドとしてのMUCCの側面を全面的に押し出した構成になっており、ヘヴィーでダイナミックなサウンドが耳を惹きます。一方、後半に関しては、かなり哀愁感漂うメロディーラインを前面に押し出したような曲がメイン。ともすれば「ムード歌謡曲」の範疇に入りそうな曲もありました。ここらへんのバランスがMUCCの特徴でファンにとっては魅力なのかもしれませんが、ムード歌謡曲風の曲に関しては、ちょっとベタすぎる感もあっていまひとつ。前半はカッコよかっただけにちょっと残念な感はあるのですが。

評価:★★★★

MUCC 過去の作品
志恩
球体
カルマ
シャングリラ
THE END OF THE WORLD
T.R.E.N.D.Y.-Paradise from 1997-
脈拍
BEST OF MUCC II
カップリング・ベストII

壊れたピアノとリビングデッド

新世界
新世界 別巻

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2024年3月18日 (月)

実に11年以上ぶりの新作

Title:らんど
Musician:ZAZEN BOYS

なんと、実に約11年4ヶ月ぶりとなるZAZEN BOYSのアルバムがついにリリースされました。この11年以上にも及ぶ日々、ご存じの通り、決してZAZEN BOYSの活動が止まっていた訳ではありません。NUMBER GIRLの再結成により、向井秀徳がナンバガの活動を積極的に行っていた時期もあるのですが、その間も積極的にライブ活動を続け、無料配信という形で2枚のライブアルバムもリリースしています。それだけに今回のオリジナルアルバムは、まさしく待ちに待った1枚と言えるでしょう。

前作「すとーりーず」は、まさに音が流れだすと、その音の前で思わず正座して聴き入ってしまうような、そんな緊迫感のあるアルバムになっていました。今回のアルバムに関しても、まさに前作同様、非常に緊迫感のあるアルバムに仕上がっています。そぎ落とされ、とことんエッジの効いたバンドサウンド、選び抜かれた言葉、そして向井秀徳のボーカル。とことんこだわって完成された楽曲が並ぶ作品となっています。

力強くファンキーなサウンドに、向井秀徳の独特のラップが重なる「DANBIRA」「バラクーダ」、疾走感のあるギターサウンドと郷愁感あふれる歌詞は、むしろNUMBER GIRLからの逆輸入かも?とすら感じられる「チャイコフスキーでよろしく」、荒涼感ある歌詞の描写が印象的な「公園には誰もいない」、かなりエグイ歌詞もインパクトのある「永遠少女」、向井秀徳らしい都市を描く郷愁感あふれる独特の視点が印象的な「YAKIIMO」、ダイナミックなハードロック風のタイトルチューン「乱土」、そして同じくヘヴィーなバンドサウンドの「胸焼けうどんの作り方」と、どの曲もZAZEN BOYSにしか作りえないような、独特な楽曲が並びます。

ただ、そんなすさまじい楽曲が並ぶ反面、なぜZAZEN BOYSが、前作から本作まで11年以上に及ぶ年月が必要だったのか、というのもわかるような気がしました。簡単に言ってしまえば、前作「すとーりーず」までで、既にZAZEN BOYSがひとつの完成形を迎えたから、ではないでしょうか。実際、今回のアルバムに収録されている曲、確かに前述の通り、緊迫感あふれるすさまじい曲が並ぶ一方、ZAZEN BOYSとして目新しいか、と問われるとそうではなく、以前までのアルバムの曲の延長線上の曲が並んでいます。

そんな中、なぜニューアルバムのリリースに至ったのか、というと、やはりメンバーチェンジが大きかったのではないでしょうか。前作「すとーりーず」リリース後、2017年にベースの吉田一郎が脱退。そして翌年、新ベーシストとしてMIYAが参加しています。MIYAが参加してから既に6年近い日々が経過していますが、やはりベーシストが変わり、ZAZEN BOYSの音に変化が生じたからこそ、新たなアルバムを収録しなければ、そういう心境に至ったのではないでしょうか。

実際、ベーシストがMIYAに変わったことにより、前作以上にベースの音がよりファンキーに、エッジの効いたものになったように感じます。このベースのサウンドにより、ZAZEN BOYSの音が新たにリニューアルされた、今回のアルバムの最大の特徴はその点だったように感じます。

これからは、いままでのZAZEN BOYSの楽曲を、ライブを通じてより強固にしていく活動が続くのでしょう。ひょっとしたら、もうZAZEN BOYSとしての新作のリリースはないのかもしれません・・・。ただ、それでも仕方ないかもしれない、とすら感じられるほど、研ぎ澄まされた傑作の並ぶアルバムに仕上がっていたと思います。この楽曲がライブを経て、どのように変化していくのか聴いてみたい!そうとも感じられる作品でした。

評価:★★★★★

ZAZEN BOYS 過去の作品
ZAZEN BOYS IV
すとーりーず
Live At 大牟田ふじ
Live At Okinawa 2022


ほかに聴いたアルバム

Empire/yonige

Empire_yonige

女性2人組ギターロックバンド、yonigeの約3年8ヶ月ぶりとなるフルアルバム。基本的にシンプルなオルタナ系ギターロックバンドというイメージで、特に本作でも前半の疾走感あるギターロック路線は個人的にも好みであり魅力的なのですが、ミディアムテンポのナンバーになると、メロディーラインのインパクトの弱さが気になってしまいます。いいバンドだとは思うのですが、オルタナ系ギターロックバンドとして「女の子のバンド」以外に、いまひとつ彼女たちだけが持つような個性が薄いのが辛いところ。デビューフルアルバム「girls like girls」でいきなりブレイクしたものの、その後、伸び悩んでいるのはそこらへんが要因のような感じが。

評価:★★★★

yonige 過去の作品
gilrs like girls
HOUSE
健全な社会
三千世界

ぼちぼちベテラン/打首獄門同好会

「そろそろ中堅」というタイトルのアルバムリリースから5年。結成20年を迎え、まさにアルバムタイトル通り、ぼちぼちベテランの域に達してきた打首獄門同好会。楽曲的には、いつも通り、ユニークな視点で日常を切り取ったシンプルな歌詞を、ラウドロックの曲調に乗せるスタイルなのですが、バンドをやってても女の子にもてる訳ではないということを切実に訴える「少年よ、君に伝えたい事がある」や、漫画や小説、ドラマのお約束を綴った「死亡フラグを立てないで」など、ユニークな曲が並びます。ネタ的にもサウンド的にも「大いなるマンネリ」なのですが、ただネタとしては個人的にいままで聴いたアルバムでは一番壺にはまったかも。

評価:★★★★

打首獄門同好会 過去の作品
そろそろ中堅
獄至十五
2020

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2024年3月17日 (日)

往年を彷彿させる陽気なパンクアルバム

Title:SAVIORS
Musician:GREEN DAY

約4年ぶりとなるGREEN DAYのニューアルバム。今回のアルバムの大きな特徴が、プロデューサーのロブ・カヴァロと再びタッグを組んだ作品であるということ。GREEN DAYの名前を世に知らしめた1994年の「DOOKIE」と、ロック史に残る名盤としてその名も高い「American Idiot」のプロデューサーとしてその名前を知られる彼。バンドとタッグを組むのは2012年にリリースされた「¡Uno!」「¡Dos!」「¡Tré!」の3部作以来、久々のタッグとなります。

そんな彼らのニューアルバムは端的に言ってしまうと、これぞGREEN DAY!!とうれしくなってしまうアルバムという点でした。前作「Father of All Motherfuckers」があまりGREEN DAYらしくない楽曲の多い作品となっていましたので、その反動とも言えるかもしれません。1曲目「The American Dream Is Killing Me」も軽快でポップなパンクチューンで、いきなりGREEN DAYの王道を行くようなナンバーからスタート。続く「Look Ma,No Brains!」も同じく、疾走感あってパンキッシュな楽曲。「Bobby Sox」はミディアムチューンなのですが、力強いバンドサウンドとポップなメロも、これまたGREEN DAYらしいナンバーとなっています。

その後も「Coma City」「Strange Days Are Here to Stay」などの疾走感あるパンキッシュなナンバーが目立ちます。ここらへんのパンキッシュな楽曲に関しては、むしろここ最近のGREEN DAYというよりも、「DOOKIE」あたりの最初期のGREEN DAYの作風を彷彿とさせるほど。サウンドも、ともすればビリーのボーカルも、ともすれば若々しさすら感じられ、90年代のGREEN DAYに戻ったかのような錯覚すら陥らせます。

そのほかも「Dilemma」のような、ヘヴィーなギターサウンドを聴かせつつ、メロは至ってポップな作品を聴かせてくれたり、まさにタイトルそのもの、オールドスタイルなガレージパンクに仕上げた「Living in the '20s」のような曲があったり、全体的に陽気なロックンロールナンバーを聴かせてくれるような作品になっています。一方では「Father to a Son」のようなストリングスを取り入れて分厚いサウンドを優雅に聴かせるミディアムチューンもあったりして、しっかりとベテランバンドとしての音楽的な幅を感じさせる部分も垣間見れます。

また、1曲目「The American Dream Is Killing Me」などタイトルそのままですが、アメリカの現状を皮肉ったような社会派な曲もチラホラ見受けられるもも、「Amecian Idiot」以降のGREEN DAYの路線もしっかりと引き継がれているように感じます。

往年のGREEN DAYらしさを引き継ぎつつ、一方ではしっかりと「今」のGREEN DAYらしさを感じさせる作品。ただ、90年代を彷彿とさせるパンキッシュな楽曲は、間違いなくGREEN DAYが好きなら壺に入りそうなナンバーですし、その他も、歌詞の内容はともかく、サウンド的には基本的には陽気なロックンロールナンバーに仕上げているあたり、GREEN DAYの魅力がしっかりと伝わってくるアルバムに仕上がっていました。申し分ない傑作アルバム。とてもワクワクした彼ららしい素敵なロックンロールアルバムでした。

評価:★★★★★

GREEN DAY 過去の作品
STOP DROP AND FALL!!!(FOXBORO HOTTUBS)
21st Century Breakdown
AWESOME AS F**K(邦題:最強ライヴ!)
UNO!
DOS!

TRE!
爆発ライブ~渋谷編
DEMOLICIOUS
Revolution Radio
Greatest Hits:God's Favorite Band
Father of All Motherfuckers
BBC SESSIONS


ほかに聴いたアルバム

keep it goin xav/xaviersobased

Xaviersobased-keep-it-goin-xav

まだ日本ではほとんど知名度はないようですが・・・現在、若干20歳の、ニューヨーク出身のラッパーによる作品。メロウさを感じさせるエレクトロ主体のトラックにメランコリックなフロウが印象的。エレクトロサウンドは、それなりに音を詰め込みつつも、必要最低限の音を使っているからでしょうか、どこかシンプルさも感じさせます。ラップにもメロディアスさを感じさせ、全体的にはどこかドリーミーな印象も。心地よく聴くことが出来るHIP HOPの良作でした。

評価:★★★★★

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2024年3月16日 (土)

トム・ヨークが今、演りたい音楽

Title:Wall Of Eyes
Musician:The Smile

ご存じ、2020年に立ち上げたRADIOHEADのトム・ヨークによる新バンド、The Smile。トム・ヨークと、同じくRADIOHEADのギタリスト、ジョニー・グリーンウッド、そしてSons of Kemetというバンドのドラマーであるトム・スキナーを加えたの3人組。2022年にデビューアルバム「A Light for Attraction Attention」をリリースしていますが、そこからわずか2年。早くもニューアルバムをリリースしてきました。

アルバムは静かなアコースティックギターの音色からスタート。1曲目のタイトルチューン「Wall Of Eyes」はRADIOHEADらしい、というよりもトム・ヨークらしいといってよいメランコリックなメロディーに、後半に展開するにつれ、ストリングスや様々な音が加わり、ドリーミーな雰囲気になるナンバー。RADIOHEAD的に言えば「OKコンピューター」前夜といったイメージでしょうか。続く「Teleharmonic」は、エレクトロなアレンジの中、トム・ヨークの切ない歌が繰り広げられる楽曲で、こちらは「OKコンピューター」と「KID A」の間といった感じでしょうか。さらに「Road The Room」は同じくメランコリックな歌を聴かせつつ、ダイナミックなバンドサウンドも展開されるナンバーで、こちらも「OKコンピューター」期のRADIOHEADを彷彿とさせます。

中盤で印象的なのは「Friend Of A Freind」で、序盤はピアノのみ、中盤からストリングスも入りつつ、ともすればビートルズを彷彿とさせるようなシンプルでポップなメロが印象的。ただ後半では分厚いストリングスからサイケな様相へ展開していくドリーミーな雰囲気が大きな魅力であり、かつThe Smileらしいといった感じでしょう。さらに「Bending Hectic」も伸びやかなトム・ヨークの曲はどこかAOR的。ただ、後半、いきなりメタリックでサイケなバンドサウンドが加わります。前半の優雅な雰囲気が、後半、一気に崩れ去る構図が非常にユニーク。ここらへんもThe Smileらしい、というかトム・ヨークらしさを感じます。

ただ、こうやってアルバムを聴き進めていた感じるのですが、前作も実にRADIOHEADらしいアルバムと感じた作品でしたが、今回の作品はもっと言えば、RADIOHEADとして「OKコンピューター」の次にリリースされてもよかったかもしれないアルバム、と感じました。メランコリックなメロディーライン、ストリングスやピアノで美しく彩りながらも、バンドサウンドも加わりサイケに構成されるサウンド、さらにその中に垣間見れるエレクトロサウンドの要素。「OKコンピューター」の次はご存じの通り、エレクトロニカの要素を大々的に取り入れた結果、賛否両論を巻き起こしたアルバム「KID A」がリリースされたのですが、「OKコンピューター」の路線をそのまま突き進んだ場合に、今回のようなアルバムがリリースされたのではないのか、本作を聴いていてそう感じました。

確かに、そういう観点から今回のアルバムは目新しさという側面は薄いように感じます。ただ、トム・ヨークはRADIOHEADとして、いつもシーンの最先端を行くような目新しさを求められていました。そんな中、やはりRADIOHEAD的に言ってしまうと後戻りに感じてしまうものの、トム・ヨークが演りたかった音楽を、この新バンドThe Smileで演っているのではないでしょうか。実際、RADIOHEADのアルバムは2016年からリリースされておらず、その間にThe Smileのアルバムが2枚もリリースされていることを考えると、彼の興味はあきらかにThe Smileに移っているように感じます。

そういう意味では、まだこれからもしばらくはThe Smileとしての活動が続くのかもしれませんし、ひょっとしてトム・ヨークの興味が全く新しい音楽に移れば、再びRADIOHEADとしての活動が再開されるのかもしれません。ただ、トム・ヨークの音楽という意味ではThe SmileでもRADIOHEADとしてでも、ひょっとしてそう大差はないのかもしれません。そういう意味では、The Smileの、というよりもトム・ヨークの今後は、まだまだやはり要注目だな、ということを感じるアルバムでした。

評価:★★★★★

The Smile 過去の作品
A Light For Attraction Attention

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2024年3月15日 (金)

貴重な音源がてんこもり!

Title:PLYING FOR THE MAN AT THE DOOR-FIELD RECORDING FROM THE COLLECTION OF MACK McCORMICK 1958-1971

ここ最近、一時期に比べてブルースの驚くような再発音楽のリリースが減っているそうです。ここ何年も貴重な音源が様々な形でリリースされ、結果、優れた音源が概ね出尽くした、という側面があるのでしょう。そんな中で、昨年、大きな話題となった数少ないブルースの貴重な音源リリースが本作。2015年に85歳でその生涯を終えた、著名なブルース研究家であり、リサーチャーであるマック・マコーミック。彼が生前収集した590リールにも及ぶ音源やその他、貴重な資料の数々が彼の死後、娘のスザンナ・ニックスによってアメリカのスミソニアン博物館に寄贈されたそうですが、その貴重な音源の一部が5枚組のCD/LPとしてリリース。大きな話題を呼びました。

全3枚組66曲に及ぶこの作品には、30人以上のミュージシャンが登場。そのほとんどが本作が初公開という非常に貴重な内容となっています。そのような中でも特に耳に残るのが、ご存じLightnin'Hopkinsの演奏でしょう。本作では9曲が収録されていますが、かなり肩の力が抜けた自然体の演奏を聴かせてくれており、その歌声はもちろん、ゆったりとした雰囲気ながらも力強いアコギのサウンドの演奏が耳を惹きます。本作のスタートは、彼の代表曲でもある「Mojo Hand」からスタートするのですが、非常にリアルな感触のある録音となっており、まずは耳を惹かれます。

全体的に録音は荒々しい感じの録音状態なのが印象的。決して優れた録音状態という訳ではないのですが(ただ、ノイズが強くて聴きとりにくいような音源はないのですが)、逆にこの荒々しい録音状態ゆえに、ミュージシャンのいるその場の空気感をそのまま録音しているようにも感じます。また、ライブ音源をそのまま収録しているため、曲紹介や簡単なMCも収録されており、それもまた、その場所の空気感をそのまま収録しているような感覚に陥らせます。ある意味、聴いていてスピーカーのすぐ向こう側でミュージシャンが居て、演奏しているような、そんな雰囲気を感じさせる、そんな音源が並んでいます。

また、このアルバムでユニークなのは、正統派のギターやピアノをつかったブルースだけではなく、ブルースを起因とした様々なタイプの音源も収録されている点でいた。例えばJoe Pattersonの「Quills」は一生懸命ふいているオカリナの演奏と、その間の短い歌のみという異色的な曲。さらに続くLightnin'Hopkinsの「Ma Pa Cut the Cake」はなんとギターはほとんど登場せずに、タップダンス(?)の音と、その間に彼の語りが収録されているという曲(?)に。同じく彼の「Mr.Charlie」は、ギターをバックに、語りと観客の笑い声が収録されており、いわばギター漫談のような感じなのでしょうか?またMurl"Doc"Websterの「Medicine Show Pitch」はハイテンポの語りで、まるでラップの走りのよう。貴重なブルース音源以上に、当時の貴重な黒人社会での音楽に関するエンタテイメントの状況が垣間見れる音源も、今となっては非常に貴重のように感じます。

もちろん、そのほか収録されているブルースの音源についても力強いギターやピアノのパフォーマンス、そして魅力的な歌を聴かせてくれる音源は数多く。驚くほど充実した音源が収録されている3枚組のアルバム。かなり素晴らしいブルースの再発版となっていました。もうネタ切れかと思いつつ、まだまだこんな音源が世に出てくるあたり、まだまだ貴重な音源が世界には眠っているような予感も。また、マック・マコーミックが収録した音源についても、これはまだまだ一部ということなので、続編にも期待できそう。ブルースファン必聴の作品です。

評価:★★★★★

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2024年3月14日 (木)

返り咲き作が1位

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週1位は返り咲きのアルバムが獲得しています。

今週1位を獲得したのは韓国の男性アイドルグループSEVENTEEN「SEVENTEENTH HEAVEN」が獲得。先週の96位からランクアップし、4週ぶりの1位返り咲き。通算9週目のベスト10ヒット。CD販売数で1位にランクインし、ベスト10返り咲きを果たしています。オリコン週間アルバムランキングでも今週4万枚を売り上げて、1位を獲得しています。返り咲きの理由はいまひとつ不明なのですが、3月9日にオンラインイベントが開催されており、その時、本作を購入する必要があるのですが、その商品発送が「3月中に順次」とアナウンスされていますので、その発送分が今週、まとめて加味されたのでしょうか?

2位はGENIC「N G」が初登場。CD販売数2位、ダウンロード数14位。avex所属の男女混成ダンスグループということですので、AAAの後釜のグループといった感じでしょうか。オリコンでは初動売上3万枚で2位初登場。前作「Ever Yours」の初動5千枚(17位)から大幅アップ。

3位には三代目J Soul Brothersのメンバー、岩田剛典のソロアルバム「ARTLESS」がランクイン。CD販売数3位、ダウンロード数1位。オリコンでは初動売上1万8千枚で3位初登場。前作「The Chocolate Box」の初動3万7千枚(2位)からはダウンしています。

続いて4位以下の初登場盤です。まず4位には流星隊「あんさんぶるスターズ!!アルバムシリーズ 『TRIP』」がランクイン。男性アイドル育成ゲーム「あんさんぶるスターズ!!」のキャラクターソングCD。オリコンでは初動売上1万1千枚で4位初登場。同シリーズの前作Trickstar名義による「あんさんぶるスターズ!!アルバムシリーズ 『TRIP』」の初動1万3千枚(8位)からは若干のダウンとなっています。

5位には韓国の男性アイドルグループNCTのメンバーTENによるソロアルバム「TEN」がランクイン。CD販売数5位。本作がデビュー作となるミニアルバムとなります。オリコンでは初動売上7千枚で6位初登場。

6位初登場はJudas Priest「Invincible Shield」がランクイン。CD販売数7位、ダウンロード数5位。イングランド出身のヘヴィーメタルバンド。オリコンでは初動売上7千枚で7位初登場。前作「Firepower」の初動8千枚(9位)より若干のダウンとなっています。

8位にはLeo/need「Leo/need SEKAI ALBUM vol.2」がランクイン。CD販売数11位、ダウンロード数2位。スマートフォン向けリズムゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」に登場するアイドルグループによるアルバム。オリコンでは初動売上4千枚で9位初登場。前作「Leo/need SEKAI ALBUM vol.1」の初動売上9千枚(5位)からダウン。同シリーズの前作Vivid BAD SQUAD「Vivid BAD SQUAD SEKAI ALBUM vol.2」の初動8千枚(9位)からもダウンしています。

初登場最後は10位に「『ウマ娘 プリティーダービー』WINNING LIVE 16」がランクイン。人気ゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」で使用された曲を集めたサントラ盤。オリコンでは初動売上4千枚で10位初登場。同シリーズの前作「『ウマ娘 プリティーダービー』WINNING LIVE 15」(14位)から横バイ。

今週の初登場盤は以上。一方、ロングヒット盤としては、韓国のアイドルグループTREASURE「Reboot」が先週の1位からランクダウンしたものの7位にランクイン。通算16週目のベスト10ヒットとなっています。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2024年3月13日 (水)

新曲が多めのチャート

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週は比較的、新曲の多いチャートとなっています。

まず1位はCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」が今週もキープ。これで7週連続の1位獲得となりました。ストリーミング数も7週連続の1位。ダウンロード数も先週の2位から変わらず。さらにカラオケ歌唱回数が3位から2位にアップしています。これでベスト10ヒットは8週連続に。ベスト3ヒットも7週連続獲得となっています。

2位はNumber_i「GOAT」が先週の32位からランクアップし、7週ぶりのベスト10返り咲き。元King&Princeのメンバー3人によって結成された、現在は滝沢秀明の事務所、TOBE所属の男性アイドルグループ。1月に配信オンリーでリリースされていましたが、このたびTOBE ONLINE STORE限定でCDリリース。CD販売数で1位を獲得。それにつれて、ダウンロード数も8位から1位、ラジオオンエア数も59位から1位にアップし、総合順位も2位にランクインしています。ちなみにTOBE ONLINE STOREはオリコンの集計対象外のようで、オリコンチャートでは圏外となっています。

そして3位には、こちらは元ジャニーズ系。Sexy Zone「puzzle」が初登場でランクイン。CD販売数2位、ラジオオンエア数20位、YouTube再生回数83位。フジテレビ系ドラマ「リビングの松永さん」主題歌。オリコン週間シングルランキングでは初動売上27万7千枚で1位初登場。前作「人生遊戯」の19万7千枚(1位)からアップしています。

続いて4位以下の初登場曲ですが、さらに6位には女性声優アイドルグループ=LOVE「呪って呪って」がランクイン。CD販売数3位、その他はランク圏外となっています。オリコンでは初動売上17万9千枚で2位初登場。前作「ラストノートしか知らない」の初動20万6千枚(1位)からダウンしています。

新曲はさらにもう1曲。7位にスターダストプロモーション所属の男性アイドルグループSUPER★DRAGON「New Rise」がランクイン。こちらもCD販売数で4位にランクインしていますが、その他はランク圏外。オリコンでは初動売上6万2千枚で3位初登場。前作「SWEET DEVIL」の初動7万4千枚(5位)からダウンしています。

一方、ロングヒット曲ですが、まずtuki.「晩餐歌」。今週も新曲に阻まれてベスト3返り咲きはなりませんでしたが、5位から4位にアップ。これでベスト10ヒットは15週連続となりました。ただし、YouTube再生回数は5週連続の1位を獲得したものの、6週連続2位だったストリーミング数は3位にダウン。カラオケ歌唱回数も「Bling-Bang-Bang-Born」と入れ替わり、2位から3位にダウンとなっています。

さらにYOASOBI「アイドル」は7位から8位にダウン。ただし、ストリーミング数4位、YouTube再生回数5位は先週から変わらず。これで48週連続のベスト10ヒットとなりました。一方、Ado「唱」は今週、ついに14位にダウン。ベスト10ヒットは26週連続でストップとなりました。ただ、ストリーミング数は先週と変わらず5位をキープしているため、まだ返り咲きの可能性もありそうです。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums!

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2024年3月12日 (火)

40周年で次の一歩へ

Title:Carousel Circle
Musician:カーネーション

2023年に、カーネーションとして活動をはじめてから40周年を迎えた彼らが、節目の年にリリースした彼ら。本作は、そんなベテランバンドとして確固たる地位を築いている彼らの約2年ぶりとなるニューアルバムとなります。アルバムタイトルの2つの単語の頭文字がいずれも「C」となっていて、バンド名、カーネーションの「C」と合わせているのは狙ったのでしょうか?

カーネーションの楽曲というと、クオリティーが高く、卒のない、大人のロックという印象を受けつつ、力強いバンドサウンドにはベテランらしからぬ勢いと、なによりも現役感を覚えるのが特徴的。そんな中に多彩な音楽性を加えているのも彼らの実力を感じさせる大きな要素。今回のアルバムに関しても、そんなカーネーションとしての特徴をしっかりと兼ね備えたアルバムに仕上がっています。

ただ、そんな中でも今回のアルバムは、特に力強いバンドサウンドを前に押し出した「ロック」な側面を強く感じました。そもそもアルバム自体、静かなピアノの音からスタートするものの、すぐにギター、そして力強いドラムの音が入ってきて、ロックなアルバムとしての幕開けを感じさせるスタートとなっています。

続くアルバムタイトル曲的な「カルーセル」も爽やかなピアノの音のバックで鳴り響く力強いドラムのリズムが印象的。「愛の地図」もメロディアスでポップなメロのバックではバンドサウンドが鳴り響くギターロックのナンバーに。さらに後半、「ダイアローグ」では非常にヘヴィーでダイナミックな、グランジっぽいナンバーに仕上がっています。

ただ一方ではもちろんバラエティー富んだ作風もアルバムの中には垣間見れます。特に終盤、「Sha La La」ではワウワウギターを入れてソウルなナンバーに仕上がっていますし、ラストの「Sunlight」も、ピアノやストリングスで優雅に聴かせつつ、後半はサイケに仕上がるというユニークなナンバー。さらに今回、特徴的な試みが「深ミドリ」で、本作はバンド史上初となる、ベースの大田譲によるナンバー。シタールを入れたエキゾチックな雰囲気漂う楽曲に。大田自身がボーカルを取り、どこかぎこちなさも感じるのですが、本作に幅を持たせる大きな要素となっています。

そんなロックなカーネーションをベースとしつつ、彼ららしさを感じる楽曲なのですが、ちょっと印象的だったのが、前述のアルバムタイトル的とも書いた「カルーセル」の冒頭。

「どこかで筆を置くべきか
それとも終わらぬ絵と向きあうのか」
「交わることのない線の上で
手がかりを探すことはもうやめよう」
(「カルーセル」より 作詞 直枝政広)

いかにもバンド40周年を迎え、今後のバンド活動について考えを巡らせている彼の姿を感じることが出来ます。そんな中で、次へ進もうとするのは、カーネーションなりの決意といった感じでしょうか。

ロックバンドとしての彼らに現役感を覚えつつ、次の一歩の決意も感じされる今回のアルバム。相変わらずクオリティーの高いアルバムで、いい意味で安心して楽しめる傑作アルバムでした。まだまだ彼らのカルーセルは周り続けそうです。

評価:★★★★★

カーネーション 過去の作品
Velvet Velvet
UTOPIA
SWEET ROMANCE
Multimodal Sentiment
Suburban Baroque
The Very Best of CARNATION "LONG TIME TRAVELLER"
Turntable Overture


ほかに聴いたアルバム

東大900番講堂講義 ep/小沢健二

Todai_ozaken

昨年9月に、彼の母校、東京大学で特別講義を行ったオザケン。このEP盤は、その日に発表された新曲「Noize」と、2022年のツアー「So kakkoii 宇宙 Shows」で披露された「アルペジオ (きっと魔法のトンネルの先)」「いちょう並木のセレナーデ」のメドレーを収録したライブ音源である「River Suite 川の組曲」の2曲が収録されたもの。「Noize」はGEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーがボーカルを担当し、いきなりオザケンではないボーカルが流れてきてリスナーを驚かせますが、楽曲自体はオザケンらしい明るくメロディアスなポップチューン。「River Suite 川の組曲」も含めて、非常に爽やかで明るい雰囲気のあふれるEP盤になっていました。

評価:★★★★

小沢健二 過去の作品
我ら、時
So Kakkoii 宇宙
犬は吠えるがキャラバンは進む

ROUNDABOUT/キタニタツヤ

本作にも収録されている「青のすみか」がアニメ「呪術廻戦 懐玉・玉折」のオープニングテーマに起用されて大ヒットを記録したシンガーソングライター、キタニタツヤによる5枚目のオリジナルアルバム。メランコリックな曲調をベースとしたメロディーラインが特徴的。時折、ジャジーな要素も加わりムーディーな雰囲気を醸し出しているのが魅力的な一方、メランコリック一本調子なのは、ちょっと単調に感じる部分も。

評価:★★★★

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2024年3月11日 (月)

メロウなR&Bポップがラテンと融合

Title:Orquídeas
Musician:Kali Uchis

本作が4作目となるコロンビア出身、アメリカ・ヴァージニア州育ちの女性シンガーソングライターによる新作。前作「Red Moon in Venus」が評判を呼び、ビルボードチャートでも最高位4位と初の大ヒットを記録。一躍ブレイクとなりました。続く本作も大きな評判を呼び、ビルボードチャートでは前作を上回る最高位2位を記録。2作連続のヒットで、その地位を確かなものとしています。

私が彼女の作品を聴くのは、前作「Red Moon In Venus」に続いて2作目。前作もそうだったのですが、まず彼女の大きな魅力は清涼感あふれるハイトーンボイスをメロウに聴かせるその作風でしょう。特にドリーミーなサウンドとピッタリとマッチ。本作でも、冒頭「¿Cómo Así?」もハイトーンボイスでドリーミーに聴かせるパートからいきなりスタートし、その魅力を前面に押し出したスタートとなっています。

その後も「Pensamientos Intrusivos」もファルセットボイスが幻想的で非常に魅力的。「Tu Corazón Es Mío...」もそのハイトーンボイスでメランコリックに、感情たっぷりに聴かせてくれます。この幻想的なサウンドに彼女の美しいボーカルが載るスタイルが非常に魅力的。その夢のような歌声にしばし聴き入ってしまいます。

ただ、そんな中でも今回のアルバムの特に大きな特徴だったのが、彼女の出自を反映させたラテンの要素を多く入れた点でしょう。先行シングルとなっている「Igual que un Ángel」ではメキシコの人気シンガーPeso Plumaが参加。「Te Mata」はラテン風のメロディーで哀愁たっぷりに聴かせるバラードナンバーとなっていますし、「Muñekita」でもリズミカルなレゲエのリズムを取り入れたラップチューンに。同郷のコロンビアのシンガー、Karol Gが参加した「No Hay Ley Parte 2」はリズミカルでメランコリックなレゲトンに仕上げています。

実際、その影響はセールスにもあらわれているようで、前述の「Igual que un Ángel」はメキシコをはじめ、中南米の各国でヒットを記録。またこのアルバム自体も、ビルボードのトップ・ラテン・アルバムで1位を獲得するなど、しっかりラテンのリスナー層にアピールに成功。その結果を残しています。

ただだからといって、それ以外のリスナー層を置いてきぼり、といった感じではありません。むしろ彼女のボーカルといいポップなメロディーラインといい、R&Bやソウルの影響を取り込んでポップにまとめ上げた作風は、いい意味でポップのスタンダードの真ん中を行くような作風。この万人向けとも言える爽快なポップチューンとラテンなサウンド、リズムの融合が非常に絶妙にマッチしており、その点が本作の最大の魅力と言えるかもしれません。

まだまだこれから注目を集める予感のする彼女。日本での知名度はまだまだですが、さらなる大きなヒットも期待できるかも。ラテンの哀愁感あるメロは何気に日本人の琴線に触れそうなタイプのメロディーですし、間違いなく要注目の作品です。

評価:★★★★★

Kali Uchis 過去の作品
Red Moon In Venus

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2024年3月10日 (日)

これは問題作では・・・?

Title:OVERTURE
Musician:MAMALAID RAG

2000年代前半に「現代のはっぴいえんど」的な呼び名で一躍注目を集めたソフトロックバンド、MAMALAID RAG。一時期はメンバーが脱退し、活動休止、さらにはボーカル田中拡邦のソロプロジェクトとして活動を進めていましたが、結成20周年を機に、オリジナルメンバーの江口直樹と山田潤一郎が復帰。さらに結成20周年記念盤として、オリジナルアルバムとしては約6年ぶりとなるニューアルバムをリリースされました。

さて、MAMALAID RAGについては、以前からアルバムを何回か紹介してきました。以前から大滝詠一やキリンジからの影響が顕著に感じられる部分があり、MAMALAID RAG独自の個性の薄さは気になりつつも、爽やかなソフトロック路線で繰り出されるグッドメロディーには非常に惹かれるものがありました。

ただ、今回のアルバムに関して、1曲目「Summer Days」でいきなり飛び込んできたのは、「え?大江千里??」という印象。雰囲気も完全に80年代の大江千里らしい感じですし、はっきり言えばサビの部分は「YOU」にそっくり・・・。気になりつつも、これ1曲だけだったら、80年代のEPIC風に寄せてきたアルバムということで、むしろ個人的にはほほえましさすら感じてしまうのですが・・・。

7曲目「Balloon」は完全に渡辺美里の「跳べ模型ヒコーキ」。「跳べ模型ヒコーキ」をそのまま歌えてしまうくらいフレーズになっており、歌詞も微妙に似ています。9曲目の「I Miss You」も同じく渡辺美里の「きみに会えて」にソックリ。さすがにちょっとこれは・・・と思っていると、一番ひどかったのがラストの「きみがきみでよかった」で、完全に渡辺美里の「すき」と一致しています。メロディーラインもさることながら、アレンジも寄せていて、イントロのドラムのフィルインも一致していますし、

個人的に楽曲のパクリについては、必要以上に目くじらを立てるつもりはないのですが、さすがに同じアルバムに、同じ80年代EPIC界隈でこれだけ似ている曲が並んでいるというのは、さすがに怒られるレベルだと思います。ちょっとこれは・・・・・・。

このパクリという事例を除けば、アルバム全体としてはむしろ悪くないと思います。全体的に80年代のEPIC界隈に寄せたようなポップチューンが並んでおり、個人的にもむしろ好きなタイプの方向性になっていましたし、爽やかなソフトロック路線はMAMALAID RAGらしさも感じられました。ただ、これだけ似たような曲の事例が続くと、上の曲以外に関しても自分が知らないだけで、大江千里のなんかの曲のパクリではないか、と疑ってしまいます・・・。

幸か不幸か、あまりヒットしていないだけにこの件についての指摘は、Xで1件、ポストが見つかった程度でほとんどされていないようです。ことさら取り上げて騒ぎ立てるつもりは毛頭ないのですが、こういう話はこれが最後にしてほしいのですが・・・。

評価:★★

MAMALAID RAG 過去の作品
the essential MAMALAID RAG
SPRING MIST

LIVING
Day And Night Blues
So Nice
The Best of MAMALAID RAG 2009~2018 Vol.1

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2024年3月 9日 (土)

ビリーのライブの魅力を実感

Title:Live Through The Years -Japan Edition-(邦題 ビリー・ザ・ベスト:ライヴ!)
Musician:Billy Joel

1月に待望の来日公演が実施され、久々の来日に多いに盛り上がったBilly Joel。残念ながら東京ドームのみのライブで、日程の都合も合わず、来日公演に足を運ぶことは出来ませんでした。さて、そんな中紹介する本作は、来日と彼の出世作であるアルバム「Piano Man」のリリース50周年を記念したライブベストアルバム。もともと配信限定でのリリースだった「Live Through The Years」をベースに再構成した日本独自企画のアルバムだそうで、彼の過去の代表的なライブパフォーマンスが収録されているアルバムとなっています。

ビリー・ジョエルと言えば、いわゆるポップフィールドのミュージシャン。それだけにライブ盤といっても通常のベストアルバムとアレンジ等に大きな変化はなく、ロックのミュージシャンと比べて、ライブであることの特殊性は薄い・・・そういう印象も受けます。確かにアレンジとしてはライブといっても通常のアレンジと大きな差はなく、そういう意味ではベスト盤と同じような感覚で聴けるアルバムではありました。

ただ一方、本作ではライブの雰囲気がかなりダイレクトに伝わってくる作品になっています。例えばDisc1に収録されている「Pressure」は、会場での観客の歓声がすごいことになっており、それに応じたようにビリーのステージもさらに力強いものになっています。またラストを飾る「Piano Man」も同様。大歓声の中でのパフォーマンスとなっており、観客の大合唱も収録。ライブ会場の盛り上がりがそのまま伝わるようなパフォーマンスになっています。ビリーのライブならではの雰囲気、ライブ自体の楽しさが伝わってくる、そんなアルバムになっていました。また、楽曲によってはMCもそのまま収録されている曲もあり、ライブの雰囲気を伝える大きな要素となっていました。

ライブパフォーマンスは、ほぼ録音順に収録。冒頭を飾る「Captain Jack」はコロンビア・レコードとの契約のきっかけとなったフィラデルフィアのWMMR FMでの1972年のパフォーマンスの模様ということで、若々しさと、どこかぎこちなさを感じさせるパフォーマンスが今となっては逆に新鮮。Disc1収録の「Just The Way You Are」は、彼が人気絶頂だった時期の、ニューヨークのナッソー・スタジアムでの凱旋ライブだそうで、彼の歌声にもどこか強い自信が感じられます。

その後も1987年のモスクワでのライブや2008年のニューヨーク、シェイスタジアムでのパフォーマンスなど、過去にライブアルバムとしてリリースされている代表的なライブ音源からも収録。最新は2008年12月のオーストラリアのシドニー・スーパードームでのパフォーマンスのようですが、この時期の彼のパフォーマンスには、初々しさを感じる70年代のパフォーマンスとは異なり、一種の貫禄を感じさせるパフォーマンスとなっており、初期の作品との聴き比べも楽しいところです。

過去のライブアルバムに収録されているパフォーマンスもあれば、本作が本邦もしくは世界初収録のライブ音源もあるのですが、どれも魅力あふれるパフォーマンスであり、ビリーのライブの魅力を存分に感じることの出来るライブアルバムになっていました。本当に、先日の東京ドームライブ、行きたかったな、とあらためて残念に感じてしまった作品。また、是非とも日本に来てください!次回こそ・・・。

評価:★★★★★

BILLY JOEL 過去の作品
LIVE AT SHEA STADIUM
She's Always a Woman to Me:Lovesongs
A Matter of Trust: The Bridge to Russia
Live Through the Years
JAPANSESE SINGLES COLLECTION-GREATEST HITS-
Live At Yankee Stadium


ほかに聴いたアルバム

Live In London/Christone "Kingfish" Ingram

直近のオリジナルアルバム「662」がグラミー賞を受賞し、現在、最も注目を集めるブルースミュージシャン、Christone "Kingfish" Ingramのライブアルバム。昨年6月6日に、ロンドンのクラブ、ザ・ガレージでのライブの模様を収録した1枚。かなり力強いギターのサウンドを聴かせてくれるライブパフォーマンスで、まさにジャケット写真の通り(?)の迫力満点のパフォーマンスを聴かせてくれています。ブルージーなギターながらも、全体的にはロックテイストが強い印象。新世代のブルースミュージシャンとして、今後、さらなる注目を集めていくのでしょうか?

評価:★★★★

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2024年3月 8日 (金)

ちょうど1年マイナス1日ぶりのリリース

Title:印象万象有象無象
Musician:パスピエ

前作からちょうど1年ぶりにリリースされたパスピエのニューアルバム。ここ4作、ぴったり1年マイナス1日のインターバルでリリースするというユニークな形態を続けており、2020年12月9日にリリースされた「synonym」からスタートし、2021年12月8日にリリースされた「ニュイ」、2022年12月7日には「ukabubaku」がリリースされ、そして本作のリリース日は2023年12月6日。狙ったリリースパターンとはいえ、ちょうど1年マイナス1日のインターバルで4作リリースし続ける、その創作意欲は買うことが出来るかと思います。これがいつまで続くのでしょうか・・・。

ただ、そのリリースパターンを維持するためか、それともこれがパスピエなのか、良くも悪くも似たようなタイプの曲が続いています。今回のアルバムも、彼女たちらしいバラエティーを加えた軽快なエレクトロポップという方向性は同じ。良い意味で言えば、非常に安心して聴けるパスピエらしいポップチューンが並びます。悪く言えば、意外性がない、といった感じなのですが。

ジャジーなアレンジにホーンセッションも加わってアバンギャルドな雰囲気のある「化石のうた」からスタートし、スペーシーなエレクトロサウンドでメランコリックなメロとダンサナブルなリズムが特徴的な「SAYONARA HEAVEN」、エキゾチックな雰囲気の「ならすならせば」と続いていきます。

その後も、哀愁メロを加えて歌謡曲テイストの強い「上海と宇宙」、バンドサウンドを加えてダイナミックなサウンドが特徴的な「cube」、四つ打ちのエレクトロビートのテクノ色の強い「選択詩」と続いていきます。そして、アルバムの中でひとつの核となっているのがインパクトのあるダンスチューン「バジリコ」でしょうか。先行シングルでもあった本作はディスコテイストのリズムに、バンドサウンドを加えた力強いビートが特徴的。アルバムの中でもインパクトの強い楽曲となっています。

そんなエレクトロサウンドを中心に、バラエティーのあるポップチューンを聴かせてくれるのはいつもと同様。ただ、あくまでもポップなメロを主軸としているため、いい意味での万人受けといった要素を感じさせます。逆に、前作でも書いたのですが、もうちょっとぶっとんで欲しいと感じてしまう点、パスピエが大ブレイクできない大きな要因なのかもしれませんが。

今回のアルバムに関しては、あえていえばジャジーな要素も感じる曲が多かったようにも思います。1曲目の「化石のうた」や「上海と宇宙」、そしてラストを飾るのは賑やかなポップチューン「GOKKO」ですが、エレクトロピアノにちょっとジャジーな要素を感じさせます。今回のアルバムの、ちょっとした隠し味のように機能していたように感じました。

今回もパスピエらしさを感じさせる1枚。いい意味で安心して聴けた一方、やはりもうひとつ殻をぶち破ってほしい部分も感じます。また、次は12月5日に新作が聴けるのでしょうか。この1年マイナス1日のリリースパターンを続けるのは、ある意味、すごいとは思うのですが。

評価:★★★★

パスピエ 過去の作品
ONOMIMONO
演出家出演
幕の内ISM
娑婆ラバ
&DNA
OTONARIさん
ネオンと虎
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ニュイ
ukabubaku


ほかに聴いたアルバム

ザ・クロマニヨンズ ツアー MOUNTAIN BANANA 2023/ザ・クロマニヨンズ

タイトル通り、「ザ・クロマニヨンズ ツアー MOUNTAIN BANANA 2023」からのライブ音源を収録したライブアルバム。終始、軽快なロックンロールナンバーが並ぶご機嫌なライブアルバム。正直、楽曲としては大いなるマンネリに近いのですが、純度の高いロックンロールチューンは、聴いていて素直に楽しくなってきます。彼らのライブも一度行きたいのですが・・・。

評価:★★★★★

ザ・クロマニヨンズ 過去の作品
CAVE PARTY
ファイヤーエイジ
MONDO ROCCIA
Oi! Um bobo
ACE ROCKER
YETI vs CROMAGNON
ザ・クロマニヨンズ ツアー2013 イエティ対クロマニヨン
13 PEBBLES~Single Collection~
20 FLAKES~Coupling Collection~
GUMBO INFERNO
JUNGLE9
BIMBOROLL
ラッキー&ヘブン
レインボーサンダー
PUNCH
ザ・クロマニヨンズ ツアー PUNCH 2019-2020
MUD SHAKES
SIX KICKS ROCK&ROLL
MOUNTAIN BANANA

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2024年3月 7日 (木)

新譜ラッシュだがアイドル系が席巻・・・

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週はベスト10のうち7枚が新譜という新譜ラッシュとなりましたが、アイドル系ばかりが上位に並ぶチャートとなっています・・・。

まず1位ですが、先週と同じく、韓国の男性アイドルグループTREASUREが獲得。ただし、今週は先週の1位を獲得した「REBOOT-JP SPECIAL SELECTION-」ではなく、元となる「Reboot」が先週の3位からアップし、昨年の8月9日付チャート以来、2週目の1位獲得となりました。CD販売数1位。また、これで通算7週目のベスト3ヒット&通算15週目のベスト10ヒットとなっています。ちなみに「REBOOT-JP SPECIAL SELECTION-」は2ランクダウンながらも3位とベスト3をキープ。今週もベスト3にTREASUREのアルバムが2枚並ぶ結果となっています。

2位は初登場。LDH系の男性ダンスグループLIL LEAGUE from EXILE TRIBE「TRICKSTER」がランクイン。CD販売数2位、ダウンロード数36位。本作がデビューアルバムとなります。オリコン週間アルバムランキングでは初動売上3万4千枚で同作が1位を獲得しています。

続いて4位以下の初登場盤です。まず4位には女性アイドルグループ、私立恵比寿中学「indogo hour」が初登場。CD販売数4位、ダウンロード数18位。彼女たち8枚目のオリジナルアルバム。オリコンでは初動売上2万2千枚で3位初登場。直近作はベストアルバムの「中吉」で、同作の初動1万1千枚(7位)よりアップ。オリジナルアルバムとしての前作「私立恵比寿中学」の初動1万3千枚(4位)からもアップしています。

5位6位は女性VTuberグループ「ホロライブ」と、動画投稿サイトを中心に人気を博しているクリエイターグループHoneyWorksのコラボhololive×HoneyWorksのアルバムがランクイン。5位にはオリジナル作を収録した「ほろはにヶ丘高校 -Originals-」、6位にはカバー作を収録した「ほろはにヶ丘高校 -Covers-」がそれぞれランクインしています。「Originals」がCD販売数6位、ダウンロード数2位、「Covers」はCD販売数7位、ダウンロード数3位。オリコンでは2作をあわせた「Complete Edition」が初動9千枚で8位、「Originals」が初動3千枚で13位、「Covers」が初動2千枚で19位にそれぞれランクイン。ちなみにHoneyWorksとしての前作「ねぇ、好きって痛いよ。~告白実行委員会キャラクターソング集~」の初動1万2千枚(5位)でしたので、「Complete Edition」と「Originals」を単純合算した数値と比較して、ほぼ横バイといった感じでしょうか。

7位には女性アイドルグループBiS「NEVER MiND」がランクイン。CD販売数5位。オリジナルフルアルバムとしては約3年ぶりのアルバム。オリコンでは初動売上1万1千枚で6位初登場。直近作は「BiS DiVE into ROCKS」で同作の初動4千枚(14位)からアップ。オリジナルアルバムとしての前作「LOOKiE」の初動8千枚(6位)からもアップしています。

8位初登場は女性アイドルグループLUCKY2「ずっとずっとずっと」。CD販売数8位。EP盤扱いですが、同曲を含む新曲3曲+その3曲のインスト版という、事実上のシングルです。オリコンでは初動売上9千枚で7位初登場。前作「夢空に羽」の初動6千枚(8位)よりアップしています。

最後9位には「にじさんじ」所属のバーチャルVTuber、ジョー・カー「カーニバル・イヴ」がランクイン。CD販売数9位、ダウンロード数17位。オリコンでは初動売上6千枚で10位にランクインしています。

今週のHot100は以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2024年3月 6日 (水)

ロングヒットに挟まれて新曲がランクイン

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

最近、その強さが目立っていたCreepy Nutsとtuki.に挟まれるように、新曲がランクインしています。

まずはCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」が今週も1位を獲得。これで1位は6週連続。ストリーミング数も6週連続の1位。ただ、ダウンロード数は1位から2位にダウン。一方、カラオケ歌唱回数が7位から3位とアップしています。一方、先週18位にランクインしてきたYouTube再生回数が再びランク圏外にダウン。この動向がいまひとつ謎なのですが・・・。

一方、tuki.「晩餐歌」は3位から5位にダウン。ベスト3ヒットは6週連続でストップとなりました。ただし、ストリーミング数は6週連続の2位、YouTube再生回数は4週連続の1位、カラオケ歌唱回数も3週連続の2位をキープ。ダウンロード数は9位から11位にダウンしてしまいましたが、まだまだ強さを感じさせる結果なだけに、来週以降はベスト3に返り咲きそう。これでベスト10ヒットは14週連続となりました。

この2強の間に今週割り込んできたのがアイドル系の新曲3曲。まず秋元康系SKE48「愛のホログラム」が2位初登場。CD販売数1位、ラジオオンエア数4位。オリコン週間シングルランキングでは初動売上27万1千枚で1位初登場。前作「好きになっちゃった」の初動31万3千枚(1位)からダウン。

3位は韓国の男性アイドルグループNCTの別働ユニットNCT WISH「WISH」。CD販売数3位、ラジオオンエア数1位、YouTube再生回数68位。オリコンでは初動売上5万3千枚で3位初登場。NCT WISHとしてはCDシングルは同作が初となります。

そして4位も韓国の男性アイドルグループATEEZ「NOT OKAY」。CD販売数2位、ダウンロード数48位。オリコンでは初動売上21万6千枚で2位初登場。前作「Limitless」の初動7万2千枚(2位)からアップ。

今週、初登場はあと1曲。9位にVaundy「タイムパラドックス」がランクイン。CD販売数13位、ダウンロード数13位、ストリーミング数11位、ラジオオンエア数3位、YouTube再生回数23位。映画「ドラえもん のび太の地球交響楽」主題歌。「怪獣の花唄」があれだけ大ヒットを記録しているVaundyですが、その割にこちらの動きはちょっと鈍い感じも。オリコンでは初動売上5千枚で13位初登場。ちなみにCDシングルはこれが初となります。ちなみに、その「怪獣の花唄」は今週14位にダウン。ベスト10ヒットは通算57週で再びストップとなっています。

続いてロングヒット曲ですが、YOASOBI「アイドル」Ado「唱」は、今週、それぞれ7位、8位にランクダウン。「アイドル」はストリーミング数が3位から4位、YouTube再生回数も4位から5位にダウン。「唱」はストリーミング数は5位で変わらないものの、3週連続2位をキープしてきたYouTube再生回数が4位にダウン。これで「アイドル」は47週、「唱」は26週連続のベスト10ヒットとなっていますが、徐々にダウン傾向となってきています。

なおロングヒット曲ではMrs.GREEN APPLE「ケセラセラ」が今週11位にダウン。ベスト10ヒットは通算21週でストップとなりました。

今週のHot 100は以上。明日はHot Albums!

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2024年3月 5日 (火)

ブルースデゥオだがメロは歌謡曲的

Title:THE BEST OF T字路s
Musician:T字路s

ブルースデゥオのT字路sの初となるベストアルバム。ファンによる人気投票の結果と、メンバーの選曲によって選ばれた全18曲が収録されており、さらにこのうち7曲については、新たにレコーディングされて収録されており、熱心なファンにとってもうれしい1枚となっています。

T字路sで何よりも特徴的だと思うのは、伊東妙子のボーカル。かなり癖のあるだみ声を、これでもかというほど力強く張り上げるボーカルは、一度聴いたら忘れられないインパクトがあります。ブルースデゥオながらも、どちらかというと「ソウルフル」と称されそうなボーカルスタイル。日本では、クリアな声でハイトーンボイスを生かした女性ボーカリストが賞賛される中で、彼女のようなだみ声で、低音を生かした女性ボーカルというスタイルというのは珍しいのではないでしょうか。それだけに、彼女のボーカルが楽曲の中でかなりのインパクトを生んでいます。

ただ、これだけボーカリストが強いインパクトを持っているからこそ、メロディーラインがそのボーカルに比べて薄く感じてしまう・・・というのが、いままでのT字路sのオリジナル楽曲を聴いていての感想だったりします。実際、このベストアルバムでも過去に彼女たちが挑戦したカバーアルバムが収録されているのですが、ベスト盤を聴き終わった後に印象に残ってしまうのが、むしろそのカバーで、RCサクセションの「スローバラード」はまさに絶品。哀愁たっぷりの歌詞やメロディーラインが、伊東妙子のボーカルによって、より強調されています。さらに印象的だったのが「襟裳岬」。こちらも伊東妙子のパワフルなボーカルが楽曲とピッタリとマッチしている名カバーに仕上がっています。

ただし、今回のベストアルバムに収録されている曲も、さすが人気曲を中心に収録している「ベスト」アルバムなだけにオリジナル曲に関しても聴きごたえある曲が並んでいます。人気投票で1位となった「泪橋」も力強く歌い上げるナンバーで、伊東妙子のボーカルがこれでもかというほど発揮された楽曲になっていますし、人気投票の3位「夜明けの唄」も哀愁感たっぷりの泣きメロが聴かせる楽曲になっています。

ただ、あらためて聴くと、T字路sの曲は、ソウルやブルースというよりも、特にメロディーラインについては、非常に歌謡曲的な印象を受けます。哀愁感たっぷりのメロディーラインは、日本人の琴線にピッタリと寄り添うよう。こぶしを利かせた伊東妙子のボーカルにもピッタリとマッチしています。一方、サウンドやリズムに関しては、ソウルやブルースの要素が強く、そのため聴いた感じではバタ臭さを感じさせる点も大きな特徴でしょう。邦楽なメロディーラインと歌詞に、洋楽なサウンドやリズムという両者の融合が、T字路sの大きな魅力であるとも感じました。

ボーカルには大きな癖があるものの、聴きはじめると知らず知らずにその独特なだみ声に魅了されそう。日本人の琴線に触れるメロディーも大きな魅力ですし、もっと注目されてよいミュージシャンだと思うんですけどね。T字路sの入門的に最適なベスト盤。興味ある方は是非。

評価:★★★★★

T字路s 過去の作品
PIT VIPER BLUES
BRAND NEW CARAVAN
COVER JUNGLE 1
COVER JUNGLE 2


ほかに聴いたアルバム

SINGLE CONNECTION&AGR-Metal&Acoustic-/THE ALFEE

2013年から2021年にリリースされたシングルを収録したTHE ALFEEのベストアルバム。Disc2には過去作のセルフカバー「AGR(Alfee Get Requests)-Metal&Acoustic-」も同時に収録されています。実はTHE ALFEEのアルバムを紹介するのはこれがはじめて。シングル集ということで聴いてみたのですが・・・率直に言って、予想以上につまらなかった・・・。というか、これでもかというほど平凡な前向き応援歌の羅列で、楽曲も悪い意味でいかにもTHE ALFEEといった陳腐なメロ。いや、こんなにつまらなかったっけ・・・とDisc2を聴くと、全然そんな印象はなく、いい意味で彼らの趣味であるメタルとフォークと歌謡曲がそのまま混ざらないでポップにまとまっている楽曲を聴かせてくれています。悪い意味で大ベテランとして最近のシングルは完全に失速しちゃっているんですね・・・。ちょっと残念に感じたシングル集でした。

評価:★★★

KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2023 “PINEAPPLE EXPRESS” ~明日大好きなロックンロールバンドがこの街にやってくるんだ~/斉藤和義

恒例の斉藤和義ライブアルバム。昨年リリースしたアルバム「PINEAPPLE」を引き下げたライブツアーのうち、7月22日に川口総合文化センターリリアで行われた模様を収録したアルバム。アルバム「PINEAPPLE」からの曲を中心に、バンドサウンドで時には軽快に、時には力強く聴かせてくれるライブが魅力的。全体的にはメランコリックなメロディーラインを力強いバンドサウンドをバックに聴かせるような曲が多かった印象が。

評価:★★★★

斉藤和義 過去の作品
I (LOVE) ME
歌うたい15 SINGLES BEST 1993~2007
Collection "B" 1993~2007
月が昇れば
斉藤“弾き語り”和義 ライブツアー2009≫2010 十二月 in 大阪城ホール ~月が昇れば 弾き語る~
ARE YOU READY?
45 STONES
ONE NIGHT ACOUSTIC RECORDING SESSION at NHK CR-509 Studio
斉藤
和義

Kazuyoshi Saito 20th Anniversary Live 1993-2013 “20<21" ~これからもヨロチクビ~ at 神戸ワールド記念ホール2013.8.25
KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2014"RUMBLE HORSES"Live at ZEPP TOKYO 2014.12.12
風の果てまで
KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016“風の果てまで” Live at 日本武道館 2016.5.22
斉藤和義 弾き語りツアー2017 雨に歌えば Live at 中野サンプラザ 2017.06.21
Toys Blood Music
歌うたい25 SINGLES BEST 2008~2017
Kazuyoshi Saito LIVE TOUR 2018 Toys Blood Music Live at 山梨コラニー文化ホール2018.06.02
KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26 〜これからもヨロチクビーチク〜 Live at 日本武道館 2018.09.07
小さな夜~映画「アイネクライネナハトムジーク」オリジナルサウンドトラック~
弾き語りツアー2019 "Time in the Garage" Live at 中野サンプラザ 2019.06.13
202020
55 STONES
KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2020 "202020" 幻のセットリストで2日間開催!~万事休すも起死回生~ Live at 中野サンプラザホール 2021.4.28
KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2021 “202020 & 55 STONES” Live at 東京国際フォーラム 2021.10.31
PINEAPPLE
ROCK’N ROLL Recording Session at Victor Studio 301
斉藤和義 弾き語りツアー「十二月~2022」Live at 日本武道館 2022.12.21

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2024年3月 4日 (月)

オリビアを聴きながら

Title:Greatest Hits<Japan Deluxe Edition>
Musician:Olivia Newton-John

2022年に長い闘病生活の末、この世を去ったオーストラリアのシンガー、オリビア・ニュートン=ジョン。日本でも「その風の誘惑」や「フィジカル」などがヒットを記録。高い人気を博していましたが、晩年は癌で闘病生活をおくっていたようで、残念ながら帰らぬ人となってしまいました。「そよ風の誘惑」のような、清涼感ある声を聴かせてくれるかわいらしいシンガーというイメージがあったので、訃報にはちょっとビックリしたのですが、ただ享年73で、確かに大往生といった感じではないものの、一方で早世という歳ではなく、意外とそれなりに年齢は行っていたのか・・・と逆に驚きもしました。

本作は、そんな彼女の過去の代表曲を網羅したベストアルバム。もともと1977年にリリースされた「Greatest Hits Vol.1」と、82年にリリースされた「Greatest Hits Vol.2」を日本独自企画としてまとめて再リリースしたもの。当時、各国でボーナストラックとして追加収録された曲も今回まとめて収録されたそうです。もちろん彼女の活動は82年以降も続いているのですが、これ以降は83年の「運命のいたずら」を最後にビルボードのベスト10ヒットとは縁がなくなってしまっているため、結果としてほぼオールタイムベストとして聴くことの出来るベストアルバムとなっています。

彼女の楽曲は、特にDisc1の「Greatest Hits Vol.1」に収録されている曲は、カントリーの影響をストレートに受けた清涼感あふれるポップスの連続。透き通った歌声に、これでもかというほど淀みのないようなポップチューンの連続で、聴いていて心があらわれてくるよう(笑)。これほど毒気のないポップソングは、今となっては逆に珍しいように感じます。古き良き、という言い方が妥当かどうかはかなり微妙なのですが、そんな表現がピッタリ来るようなポップチューンの連続。特に大ヒットしてスタンダードナンバーとした定着している「Have You Never Been Mellow(邦題 そよ風の誘惑)は透き通った歌声と切ないメロディーラインに、やはり強いインパクトを感じます。

ただ、ユニークなのが、カントリー基調のポップスだった「Greatest Hits Vol.1」と、たった5年しか経ていない「Greatest Hits Vol.2」に大きな変化があること。Disc2の冒頭を飾る「Heart Attack」も、打ち込みのサウンドはいかにも80年代的ですし、シャウト気味のボーカルにはロックの影響も感じます。日本でも大ヒットを記録し、こちらもスタンダードナンバーと言える「Physical」もディスコ調の曲調が80年代的。当時流行していたエアロビクスをモチーフとしたミュージックビデオは、保守派からの反感を買い、一部では放送禁止になったらしいというエピソードは、ある意味、非常に保守的なDisc1のころの作品から隔世の感があります。80年代になってヒットシーンがガラリと変わる中、彼女も大きくそのスタイルを変え、そして、これらの曲のヒットにより、しっかりとアップデートすることが出来た、ということなのでしょう。

時代に応じたオリビアの変化を感じることが出来るこのベストアルバム。ただ、その清涼感ある歌声とインパクトあるポップなメロディーラインという点は時代を通じて変化はありませんでしたし、優れた歌だったからこそ、40年以上を経た今の耳でも、十分すぎるほど楽しむことが出来る名曲の連続でした。ポップス好きなら間違いなく楽しめるアルバム。彼女の代表曲が網羅されているため、お勧めの1枚です。あらためて彼女が素晴らしい歌手だったんだな、ということを感じられる作品。あらためて彼女のご冥福をお祈りしたいと思います。

評価:★★★★★

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2024年3月 3日 (日)

まさに「究極」

Title:50 ans de concerts(邦題 究極のベスト・ライヴ)
Musician:Malavoi

今回紹介するのは、カリブ海に浮かぶフランスの海外県、マルチニークで結成されたバンド、マラヴォワのベストライブアルバムです。ある程度、ワールドミュージックに興味があるのならば、おそらくその名前は聞いたことあるのではないでしょうか。1972年に結成された彼らは、なんと結成50周年を迎えたそうで、それを記念してリリースされたのがこのライブベストアルバム。1987年にリリースされたライブアルバム「Malavoi au Zénith」、1992年リリースの「Matebis Live」、さらに2011年にリリースされた「Malavoi Symphonique」から厳選されて楽曲を収録したアルバムになっているそうです。

マラヴォワの音楽の特徴は、彼らの出身地であるフランス領アンティル諸島の音楽に、カリブやブラジルの音楽、さらにはジャズの要素が加わった独特の音楽性だそうです。彼らのいる地域は、ちょうどアメリカからもブラジルからも影響を受けやすい地域であり、かつフランス領ということで本国からの影響も受ける、非常に多様な音楽性の影響を受けやすい地域ということでしょうか。それが、独特のマラヴォワの音楽を生み出しているようです。

このライブベストでも、冒頭を飾る「Jou ouve」はメランコリックなブラジル音楽や、ジャズの影響を感じさせますし、続く「La Filo」は哀愁感たっぷりのラテン音楽が特徴的。さらに「Amelia」は軽快なラテンのリズムが楽しい楽曲で会場を盛り上げています。

この哀愁感たっぷりのメロディーラインを聴かせつつも、バンドサウンドやピアノ、パーカッションで軽快に聴かせるサウンドが楽しく、このにぎやかで祝祭感もあるライブの雰囲気がこちらに伝わってくるのがこのライブベストの大きな特徴であり、魅力でしょう。「Amelia」もそうですし、「Apartheid」も軽快でアップテンポなピアノやホーンセッションが楽しいのですが、グルーヴィーなリズムを刻むベースラインも耳に残ります。なによりも、明るく歌い上げるメロディアスな歌も魅力的。聴いていてワクワクするような楽曲に仕上がっています。「Case a Lucie」もメロウなストリングスとピアノが特徴的なブラジル音楽とラテンとフレンチを融合させたような曲なのですが、明るいポップなメロで、会場の観客が一緒に歌っています。確かに聴いていて、こちらまで明るくなるようなポップになっているのは間違いないでしょう。

一方、哀愁たっぷりの歌も大きな魅力で、例えば「Caresse mwen」も、ムード歌謡曲にも通じそうなムーディーな歌を哀愁たっぷりに歌い上げています。この曲のイントロがスタートした段階で観客から歓声があがるので、こちらやはり人気曲なのでしょうか。ボッサ風の「Nou pa moun」もまた、アコギとパーカッションをバックに歌う歌が印象的。こちらは感情を押し出すというよりも、比較的淡々と歌っている感じなのですが、それがまた味があって耳に残ります。

マラヴォワのライブの魅力も強く感じますし、またベスト盤的に彼らの楽曲自体の魅力にも触れられるアルバム。「究極のライブ・ベスト」という邦題は、ちょっとそのまんまなのですが、「究極」と名乗るだけあって、確かに彼らの魅力を存分に押し出した作品になっていたと思います。マラヴォワの名前を知っている方はもちろん、彼を知らなくてもワールドミュージックに興味がある方、ラテンやブラジル音楽に興味がある方にもおすすめしたいライブアルバムです。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

i/o/Peter Gabriel

純然たるオリジナルアルバムとしては実に約21年ぶりの新作となるピーター・ガブリエルのニューアルバム。2023年1月から、毎月、満月の日に新曲をリリースしてきましたが、本作ではそのようにして発表された12曲を収録。ミックス違いで「Bright-Side」「Dark-Side」と名付けて、2枚組で収録されています。いずれもバンドサウンドにストリングスを取り入れたスケール感もあるアレンジで、メランコリックな美しいメロディーラインを聴かせてくれる楽曲。タイトル通り、「Bright-Side」はより爽やかに、「Dark-Side」はタイトル通りよりダークなアレンジになっているのですが、ただ両者、劇的に大きな違いはなく、聴いた感じとしては楽曲の印象として差異はさほど大きくありません。ただ、ここらへんの聴き比べは楽しいかも。

評価:★★★★

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2024年3月 2日 (土)

シュールなMVも大きな話題に

Title:HAPPY
Musician:group_inou

Happy_groupinou

2003年に結成。フジロックやRISING SUNなどのロックフェスにも参加し、注目を集めるものの、2016年をもって活動を休止したエレクトロユニット、group_inou。昨年11月に、事前告知一切なく、突如新曲「HAPPENING」が配信リリースされ大きな話題となりました。そして今年の正月、ミニアルバム「HAPPY」がリリース。その後のアナウンスはまだないものの、完全復活を果たして話題となっています。

ただ、(若干「なぜか」なのですが)2016年の活動休止まで、group_inouというミュージシャンは認識はしていたのですが、聴いたことはありませんでした。そもそもgroup_inouを聴いたきっかけが、AC部のつくるシュールなMVが話題となっていた影響。今回の「HAPPENING」も、特にネット上では、AC部のつくるシュールなMVが話題となった大きな要因だったりします。

このユニークなMVが入口になったとはいえ、楽曲の面でも魅力的だったのがアルバムを聴き始めた要因だった訳で、非常に耳なじみのよいポップなエレクトロチューンがgroup_inouの大きな魅力。シュールな歌詞も非常に独特で、かつ大きなインパクト。そのシュールな歌詞もAC部のつくる世界観に非常にマッチしているからこそ、MVも大きな話題になったのでしょう。

このエレクトロなサウンドとシュールな歌詞の世界というと、どうしても電気グルーヴを彷彿とさせられます。実際、方向性としては似たような部分もあり、ファン層もかぶっている部分も大きいかもしれません。ただ楽曲的には電気グルーヴのサウンドがテクノ、さらには80年代のマンチェサウンドの影響を大きく受けているのに対して、group_inouは2000年代以降のエレクトロの影響が顕著。歌詞にしても、電気グルーヴは80年代90年代的な不条理ギャグの要素が強いのに関して、group_inouはもっと醒めたシュールさを感じさせます。またgropu_inouはメンバーにラッパーがおり、基本的にはラップパートのついたポップス寄りの楽曲も特徴的。エレクトロのサウンドとシュールな歌詞の組み合わせというパーツは似ている両者ですが、生み出されるサウンドには違いを感じられます。

今回リリースされた6曲入りのミニアルバムは、いわば活動を再開した彼らのご挨拶的な作品と言えるのではないでしょうか。スペーシーなエレクトロサウンドが楽しい「ON」からスタートし、エレクトロサウンドもメロディアスなポップチューン「HAPPY」、軽快でリズミカルなエレクトロがインパクト十分な先行シングル「HAPPENING」は、「暴れん坊のコギャル猫」というシュールはフレーズも耳に残ります。

後半はミディアムチューンでスペーシーなエレクトロポップ「SKETCH」「FANTASY」と続き、最後を締めくくるものスペーシーなミディアムチューン「MESSAGE」で締めくくり。リズミカルでアップテンポな前半と、ミディアムチューンで、メロウさも感じさせる聴かせる後半という、6曲入りという短さの中に、group_inouの楽曲のバリエーションを感じさせる構成となっていました。

全体的にポップで、いい意味での聴きやすさのあるエレクトロなだけに、幅広いリスナー層にお勧めできそうなアルバム。以前の活動の時期には大ブレイクとまではいかなかったのですが、ネットを中心にMVも話題になっているだけに、活動再開後はひょっとしたら大ブレイクとなるかも。これからの活躍に期待しましょう。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

COVER曲集♪ともしび♪/KODAMA AND THE DUB STATION BAND

元ミュート・ビートのこだま和文率いるKODAMA AND THE DUB STATION BANDの最新作は、カバーアルバム。「花はどこへ行った」「You've Got A Friend」「Africa」といった、比較的カバーの定番曲をダビーに、哀愁たっぷりにカバーしています。そんな中で異色なのが「ゲゲゲの鬼太郎~DUB~」で、タイトル通り、有名なアニメの主題歌。こちらもダブアレンジで哀愁たっぷりに聴かせてくれるのですが、これが意外とアルバムの中にはまっています。聴きなじみある曲が多いので、広い層が楽しめそうなカバーアルバムでした。

評価:★★★★★

All Time Best Album/飯島真理

デビュー40周年を記念してリリースされた、シンガーソングライター飯島真理のオールタイムベストアルバム。アニメ「超時空要塞マクロス」のリン・ミンメイ役で最初に注目され、元祖アイドル声優と呼ばれることもあるとか。ただ、声優としての活動は同作のみのようですが・・・。実際、デビュー当初の作品についてはかなりアイドル色も強くなっているのですが、そんなアイドル色もすぐに抜け、その後は徐々にAORのシンガーとしての脱皮を感じられます。いい意味で徐々に大人のシンガーになっていく成長ぶりがこのアルバムでも感じられました。「マクロス」のリン・ミンメイ役は彼女にとっても重要なキャリアだったのでしょうが、それだけで語られるにはちょっともったいない印象も受けました。

評価:★★★★

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2024年3月 1日 (金)

よりMJ Lendermanのコアな部分がわかるライブ盤

Title:And The Wind(Live and Loose!)
Musician:MJ Lenderman

Mjlenderman_live

アメリカのインディーロックバンドWednesdayのギタリストであり、自らもシンガーソングライターとしてソロ作をリリースしているMJ Lenderman。個人的には、今、このWednesday界隈は個人的にはもっとも注目しているミュージシャンのうちの一組で、Wednesdayの最新アルバム「Rat Saw God」は先日紹介したばかりですが、2023年の私的年間ベストアルバムの1位に選びましたし、MJ Lendermanの現時点での最新ソロ作「Boat Songs」も2022年の私的年間ベストアルバムで3位に選ぶなど、個人的にかなりはまっているミュージシャンだったりします。

今回紹介するアルバムは、そんなMJ Lendermanのソロ・ライブアルバム。2023年の夏に行われた、シカゴのリンカーン・ホールとロサンゼルスのロッジ・ルームでのライヴの模様が収録されたアルバムとなっています。ただ、ライブアルバムといっても、特にMCが入っている訳でもなく、また、観客席の盛り上がりが雰囲気として収録している訳ではなく、淡々としたMJ Lendermanのライブの模様がそのまま収録されているアルバム。ある意味、ベスト盤的なアルバムとしても楽しめる作品と言えるかもしれません。

その上で、今回のライブアルバム、以前聴いたソロアルバム「Boat Songs」からMJ Lendermanの音楽的なイメージがちょっと変わりました。「Boat Songs」はホワイトノイズがアルバム全体を覆う、いわばシューゲイザー系からの影響がかなり顕著なアルバムとなっていました。一方、このアルバムに関しては1曲目「Hangover Game」など、ノイジーなギターがまずは前面に出てきています。ただ、同じオルタナ系ロックといっても、例えばマイブラやRideのようなシューゲイザーからの流れというよりは、ソニックユースあたりのインディーロックからの流れを強く感じます。

さらにもっと言えば顕著だったのが、カントリーやフォークといったジャンルからの影響。特にカントリーからの影響はWednesdayの楽曲自体の大きな特徴と言えるのですが、このライブアルバムでは、そのようなジャンルからの影響が特に強く感じ、いわゆるいかにもアメリカンロック的な様相の楽曲が目立ちます。「You Have Bought Yourself A Boat」なども、インディーロック的なバンドサウンドを聴かせつつも、郷愁感のあるギターはいかにもカントリー風。「TLC Cagematch」もしんみりと聴かせるフォーキーな作風ですし、「Dan Marino」「Under Control」も同じく郷愁感漂うカントリーロック風の楽曲を聴かせてくれています。

さらには「SUV」ではヘヴィーなサウンドにシャウト気味のボーカルといった、ガレージロックな作品に仕上げていたり、「You Are Every Girl To Me」ではもっとポップでメロディアスな曲調のオルタナ系のナンバーがあったりと、「Boat Songs」よりもさらに幅広い、ある意味、ロックのルーツ的な部分に忠実な作風を楽しむことが出来ました。

シューゲイザー好きからすると、正直、「Boat Songs」の方が好みのタイプではあるものの、このライブアルバムではよりMJ Lendermanの幅広い音楽性と、彼のコアな部分をより知ることが出来たと思います。ロック好きなら幅広くお勧めしたいアルバムです。

評価:★★★★★

MJ Lenderman 過去の作品
Boat Songs

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