アラビア系とエレクトロの融合
Title:ASAP inşallah
Musician:Ya Tosiba
今回もまた、各種メディアの2023年の年間ベストアルバムを後追いで聴いた1枚。今回はMusic Magazine誌の「ロック(ヨーロッパ他)」部門で1位を獲得したアルバムです。ノルウェー育ちでアゼルバイジャンにルーツを持つヴォーカリストのZuzu Zakariaと、フィンランドの電子音楽家でプロデューサーのTatu Metsätähtiによるユニットで、2010年にフィンランドで結成されたユニット。これが2枚目のアルバムとなるようです。
全体的にアラビア系の音楽からの影響を強く感じさせる歌に、強いエレクトロビートが載るスタイルが非常に独特といった印象を受けます。まず1曲目「Pul」は非常にトライバルで荒々しさを感じるエレクトロビートからスタート。ただ歌は軽快でポップで、ある種のキュートな内容に仕上がっています。ただ、そこから「Yarə Məni」「Xudayar Təsnifi」と、こぶしを利かせた歌でエキゾチックに聴かせる、アラビア系の影響を感じさせる曲が続きます。さらに「Mənəm」は妖艶なサウンドもいかにもアラビア的な楽曲に。エキゾチックさあふれる歌やサウンドも大きな魅力となっています。
一方で「İn Muğam」ではスペーシーなエレクトロサウンドが流れていたり、「Bu Pişik」はヘヴィーなエレクトロビートのトラックにラップが重なる、HIP HOP的な曲になったりと、要所要所にエレクトロサウンドが楽曲への大きなインパクトとなっています。ラスト前の「Qoy」もいかにもアラビアンな妖艶なこぶしを利かせたウィスパー気味のボーカルを聴かせつつ、ヘヴィーなエレクトロビートが特徴的。ラストを締めくくる「Gelu」もドリーミーに味付けされたサウンドは、サイケ的な要素も感じられ、Yo Toshibaの独自性の大きな要素となっていました。
ボーカリストのZuzu Zakariaは、前述の通り、アゼルバイジャンにルーツを持つボーカリストだとか。アゼルバイジャンというと、あまりアラビア系というイメージはないのですが、調べてみるとイラクに隣接しており、民族的にはトルコと結びつきが強いのだとか。国教もイスラム教であり、アラビア系との結びつきが強い地域ということがわかりました。Ya Tosibaの音楽は、そんなZuzuのルーツに起因しているのでしょう。
ただ、とはいってもアルバム全体を流れる強いエレクロビートはトライバルやアラビア系的な要素も強いものの、全体としては西洋のエレクトロやテクノからの影響も強く感じられ、そういう意味でアラビア系音楽になじみのないリスナー層でも聴きやすいリズムを奏でているように感じました。ワールドミュージックの範疇に入りそうなサウンドを奏でつつも、同時に私たちになじみのあるロック、ポップスの音も奏でている、そんなユニークなアルバムでした。
そんな訳で、広いリスナー層にもおすすめできそうなアルバム。また、エキゾチックさあふれる、こぶし利いたメロディーラインは、意外に日本人の耳にはなじみやすいかもしれません。Zuzuのボーカルもキュートで耳を惹かれますし、年間1位も納得のアルバム。おすすめです。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
VIDA/Omara Portuondo
かの「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」にも参加した、キューバのレジェンド的歌姫の最新作・・・なのですが、彼女、なんと御年93歳!!それで新作を出してしまうそのバイタリティーにも驚かされますが、さらに驚かされるのは、この年齢にも関わらず、ボーカルにそんな年齢のことを一切感じさせないこと。ムーディーで感情たっぷりに聴かせるボーカルは色気すら感じられ、年齢を隠して聴けば、30代や40代あたりでも通用しそうなくらい。ちなみに本作はミュージックマガジン誌「ラテン」部門で1位を獲得した作品で、私もそのため後追いで聴いてみたのですが、1位も納得の傑作でした。
評価:★★★★★
BelaguⅡ/Dayang Nurfaizah
こちらも年間ベストアルバムを後追いで聴いた1枚。こちらもMusic Magazine誌ワールドミュージック部門で第7位にランクインしていたアルバム。マレーシアで大人気のR&Bシンガーが、ブダベスト・スコアリング交響楽団と組んでリリースしたアルバム。オーケストラアレンジのメロウなサウンドに、エキゾチックで伸びやかなボーカルが重なります。日本のムード歌謡曲にも通じそうなあか抜けた感のあるポップス。すんなり私たちの耳にもなじみそうな作品です。
評価:★★★★
| 固定リンク
「アルバムレビュー(洋楽)2024年」カテゴリの記事
- シューゲイザーシーンを網羅(2024.09.09)
コメント