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2024年2月13日 (火)

アラビア音楽の入門的にも

Title:Jarak Qaribak
Musician:Dudu Tassa&Jonny Greenwood

イスラエルで高い人気を誇るシンガーソングライター、Dudu Tassaが、RADIOHEADやThe SmileのギタリストとしておなじみのJonny Greenwoodと組んで話題となった1枚。今回も、2023年にリリースされたアルバムの中でベストアルバムとして評価された曲を後追いで聴いた作品で、本作はMusic Magazine誌ワールドミュージック部門で第6位にランクインした作品となります。

今回のアルバムタイトル「Jarak Qaribak」という意味は「あなたの隣人はあなたの友人」という意味だそうで、また、今回、曲毎に様々なミュージシャンとコラボしているのですが、こちらも多国籍な人材を集めている点が特徴的。1曲目「Djit Nishrab」に参加しているAhmed Domaはエジプト、「Taq-ou-dub」に参加しているNour Freteikhはパレスチナ、「Leylet Hub」に参加しているMohssine Salaheddineはモロッコ、「Ahibak」に参加しているSafae Essafiはドバイ、「Ya Mughir al-Ghazala」のKarrar Alsaadiはイラクと、まさに中東の様々なミュージシャンが参加したアルバムとなっています。

このアルバムタイトルといい、国境を超えて様々なミュージシャンたちが集まった企画といい、どうしても考えてしまうのは現在、中東で起こっているイスラエルとイスラム原理主義組織、ハマスとの武力紛争の件。この状況で考えると、今回の企画はどうしてもこのような中東情勢に対するメッセージを想像してしまうのですが、今回のアルバムに関しては、そういった政治的な意図はないとか。ただ、政治的な意図はなくても、やはり中東地域の平和の願いを込められているようには感じてしまいます。

楽曲の方は、典型的なアラビア音楽といった印象。基本的にはシンセサイザーの音色を使っているのですが、妖艶さを感じるアラブのサウンドとメランコリックなこぶしを利かせた歌が印象的。ただ、そんな中でも参加したミュージシャンに寄っている部分があるのでしょうか、様々な音楽性も垣間見れます。例えばモロッコのミュージシャンMohssine Salaheddineの「Leylet Hub」は、より勇壮さを感じられるボーカルが印象的ですし、「Ya Mughir al-Ghazala」はよりエキゾチックさが際立つサウンドが特徴的です。

RADIOHEADのJonny Greenwoodのアルバムということで、普段、アラブ系の音楽になじみのないリスナーが多くこのアルバムにも耳を通していると思うのですが、そんな方々への入り口的な音楽としては最適なアルバムといった感じ・・・といっても私自身、そうたくさんアラブ系の音楽を聴いているわけではないのですが・・・。ちなみに曲の最初に曲名と参加しているミュージシャンのアナウンスがあり、この点も広いリスナー層を意識しているのでしょうか。

ただこのアルバムがユニークなのは、やはりJonnyがギターで参加しているからか、微妙に西洋のロック的な雰囲気がスパイスのように配置されている点でしょう。ロック、ではありませんが「Ashufak Shay」はクラシカルなピアノの音色からスタートしますし、「Ya 'Anid Ya Yaba」のエレクトロビートとギターの組み合わせも西洋的。ほかにもところどころで聴かせてくれるJonnyのギターの音色は、ロック的ながらも、アルバムの中でちょうどよいスパイスとして個性を与える役割をしているように感じました。

そんな訳で、いい意味でアラブ音楽の入門的にも聴きやすいアルバムになった本作。Jonny Greenwoodの名前に気になったロックファンにもおすすめできるアルバムだと思います。エキゾチックで妖艶なアラビア音楽の魅力を楽しめる、そんな作品でした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Mutations/Faizal Mostrixx

こちらも上記と同じく、Music Magazine誌年間ベスト「ワールドミュージック」部門で第4位にランクインしたアルバム。東アフリカのウガンダで人気を博するエレクトロミュージシャンの新作。トライバルなエレクトロビートがかなり独特。東アフリカの音楽をふんだんに取り込みつつ、リズミカルなエレクトロビートを交えて構成されたサウンドはかなりユニークで耳を惹きます。かなり作りこまれたサウンドは、直感的なリズムにゆだねるだけではなく、かなりクレバーなものも感じ、じっくりと聴きたくなるような魅力も。高評価も納得の傑作でした。

評価:★★★★★

The Omnichord Real Book/Meshell Ndegeocello

こちらも同じくMusic Magazines誌年間ベストより、こちらは「ジャズ」部門で1位を獲得したアルバム。90年代初頭から活動を続け、グラミー賞に10回もノミネート経験もある、アメリカのベテランシンガーソングライターの新作。「ジャズ」にカテゴライズしつつも、エレクトロやファンク、R&Bなど多岐なジャンルからの影響を受け、アコギ1本での歌モノから、メランコリックな作品、ファンキーでグルーヴィーなナンバーにダイナミックなロック風の曲など、バリエーション豊富な作品が特徴的。正直、あまり「ジャズ」っぽさは感じず、むしろネオソウル的な様相も感じられる作品になっていました。

評価:★★★★★

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