現在進行形としてジャズを取り上げる入門書
今日は、最近読んだ音楽関連の書籍の感想です。
今回読んだのは、一般的に知識ゼロの人が最初のとっかかりとして読むようなジャズの入門書。音楽評論家でジャズ喫茶「いーぐる」の店主である後藤雅洋氏監修の「ゼロから分かる!知れば知るほど、面白い ジャズ入門」です。
この手の初心者向け「ジャズ入門」はいろいろと出版されています。どうもジャズというと、同じポップスでもロックやらHIP HOPやらとは異なり取っつきにくいという印象があり、入門書的な本はよく出ていますが、そのうちの1冊といった感じでしょうか。ジャズに対して知識ゼロの人でも取っつきやすいように、ジャズとは何かという点からスタートし、ジャズの歴史、ジャズのスタイルの紹介、さらにはジャズのレジェンドの紹介に、ジャズのスタンダードナンバーと続いていきます。ここらへん、基本的な「入門書」といった感じの構成となっています。
入門書としてちょっとユニークなのが、最初に「ジャズの世界を感じよう」として、ジャズが取り上げられている映画やマンガ、本が紹介されている点でしょうか。ある意味、ともすれば取っつきにくいという印象のあるジャズという世界の入り口として、なじみやすそうな映画やマンガ、本をジャズの入り口として紹介しているのは面白い試みのように感じます。映画では、以前ヒットした「スウィングガールズ」が取り上げられていたり、マンガでは、以前、映画を当サイトでも紹介した「BLUE GIANT」も紹介されています。
個人的には、ジャズについてはジャズ・ジャイアントと呼ばれるミュージシャンのアルバムについては一通り聴いていますし、決して「初心者」ではないのですが、今回あらためて本書を読むと、あらためてジャズの世界を詳しく知ることが出来る1冊にもなっています。ただ、その上で本書の特徴であり、かつ個人的にあらためて同書を読んでみようと思ったきっかけとなったのが、1章をつかって「21世紀のジャズとジャズマン10」として、現在進行形のジャズの世界を紹介している点でした。
ジャズの入門書というと、どうしてもハード・バップやモード・ジャズあたりでおしまい。マイルスやコルトレーン、せいぜいチック・コリアあたりまで、というのがほとんど。ここ最近、注目のジャズプレイヤーが続々と登場している状況にも関わらず、この手の入門書では取り上げられることはほとんどありません(入門書という性質上、評価が固まった「レジェンド」しか取り上げようがない部分はあるのですが・・・)。ただ本書では、カマシ・ワシントンやロバート・グラスパーといった、今、大きな注目を集めているジャズミュージシャンたちもしっかりとフォロー。私も、「現代の」ジャズシーンについて興味があったので同書を読んでみましたし、特に今の世代にとっては、むしろこの現代のジャズミュージシャンの方が、取っつきやすい部分も大きいのではないでしょうか。
ただ一方、マイナス点としては、ジャズの音楽的な構造の説明があまり詳しくなされていなかった点。ジャズのテーマやアドリブについての説明があまり詳しくなく、ジャズを聴きはじめようとする初心者にとっては、ジャズの楽曲の「お約束」的な部分がちょっとわかりにくなったような感じがします。名曲を1、2曲取り上げて、スタンダードなジャズの「聴く」ポイントを詳しく説明してもよかったような気もします。
もうひとつ、マイナス点として大きく気にかかった点は、ジャズ評論家にありがちな「ジャズ至上主義的なスノッブ臭」を感じてしまった点でした。ジャズを「最強音楽」と言ってしまっている点、まあ、ジャズをアピールするための誇張表現としてわからなくはないのですが、ただ『「プログレッシヴ・ロックがジャズ的要素を取り入れてロックの表現力を広げた」という人はあまりいないと思うんですよ。ロックはロックのまま。でもジャズがプログレ要素を取り入れると「ジャズの表現力」は確実に広がる』(p16)という言い草はさすがにいただけません。ロックが60年代に様々なジャンルを取り入れて、一気にその世界を広げたのは、ポピュラーミュージック史では常識中の常識。いかにもジャズをロックの上と見る、ジャズ評論家にありがちなスノッブ的な腐臭を強く感じる部分が随所にみられて、かなり気になりました。ロックリスナーにアピールすべき「入門書」として、この手の表現には気を付けるべきだと思うんですけどね。ジャズというジャンルは、ロックに比べて人気面で劣り、クラシックに比べて芸術面で劣るため、一種のコンプレックスからジャズ評論家はスノッブ的な方向に行きがち。後藤雅洋氏は、他の著書も読んだことがあり、比較的、この手のスノッブ臭は薄いタイプと思っていたのですが、非常に残念です。
そんな点、気になる部分はあったのですが、入門書としてはよくまとまっている1冊だと思います。特に昔のジャズのみ目を向けるのではなく、ちゃんと現在進行形の音楽としてジャズを取り扱っている点はおもしろかったですし、現在のジャズミュージシャンについては、あらためてチェックしてみたくなりました。また、最終章ではジャズ喫茶やライブハウスについても紹介されており、機会があればジャズ喫茶とか足を運んでみたいかも・・・。前述の通り、ジャズを他のジャンルより上と見ている、醜いスノッブ臭が気にかかる部分はあったのですが、それを差し引いても、ジャズに興味がある方は最初の1冊としてチェックしてみてもよい本だと思いました。
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