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2024年1月 3日 (水)

ロックンロールの女王

Title:Queen Of Rock'n'Roll
Musician:Tina Turner

音楽ファンにとっては、言うまでもない話かもしれませんが、今年は多くのミュージシャンの訃報が飛び込んできた1年でした。もっとも、「今年が特別」というよりは、ポピュラーミュージック全盛期のミュージシャンが単に寿命を迎えだしたのと、一方、ポップスミュージシャンの活動寿命が延び、60才や70才を過ぎても当然のように現役で活動を続けた結果、現役で活動を続けているミュージシャンの訃報が相次いだから、という理由に過ぎないとは言う点は、以前も当サイトで書いたかと思います。ただ、今年そんな鬼籍に入ったミュージシャンの一人が彼女、ティナ・ターナーでした。享年83。年齢から考えると、大往生ではないものの、寿命を全うした、といった感じでしょうか。そして本作は、そんな彼女の業績を追ったベストアルバム。1975年から2020年に発表された彼女のシングルが年代順に収録。彼女の業績を歴史に沿った形で追える、そんなベスト盤となっています。

アルバムタイトルは「Queen Of Rock'n'Roll」。「ロックンロールの女王」と呼ばれた彼女の、まさにそのままなタイトルとなっています。アルバム冒頭も、レッドツェッペリンのカバー「Whole Lotta Love」からスタート。まさにロックにふさわしい出だしとなっていますし、その後も「ロックンロールの女王」という呼び名がピッタリのロックチューンが多く収録されています。しかし、このベストアルバムを通じて感じるのは、それ以上に、時代に応じえ様々なジャンルの音楽を取り入れ変化していった偉大なミュージシャンの姿でした。

特に60年代から70年代序盤の曲に関しては、前述の「Whole Lotta Love」もそうなのですが、彼女の立ち位置はロックというよりも、むしろソウルミュージシャンという立場から、ロックというジャンルを取り入れているというスタイルの曲が目立ちます。一番印象的なのは、ビートルズの「Help」のカバー。彼女のソウルフルなボーカルによって、原曲のイメージはガラッとチェンジし、力強いソウルバラードに生まれ変わっています。

一方、80年代以降のナンバーについては、一気にロック色が強くなり、なおかつ、いかにも80年代的な曲が目立ちます。典型的なのが「We Don't Need Another Hero(Thunderdome)」で、いかにも80年代的なナンバー。スケール感あるサウンドとメランコリックなメロが懐かしさを彷彿とさせる曲となっており、「あの時代」を思い起こさせる曲となっています。

ただ、80年代以降、ロックに急速にシフトし、「ロックンロールの女王」と呼ばれるような中でも、ソウルミュージシャンとしてそのボーカルの圧倒的な力量を感じさせる曲も少なくありません。特に印象的だったのはDisc2に収録されている「A Change Is Gonna Come」のライブ音源。パワフルに歌い上げるそのボーカルは実にソウルフルで、ボーカリストとしての力量を感じさせる音源となっています。

その後も80年代後半の曲はロックのテイストが強く感じさせる中、「Nutbush City Limits」のような四つ打ちのリズムを取り入れたダンスチューンがあったり、軽快で疾走感ある「Disco Inferno」のような明るくメロディアスな曲があったり、全体的にかなり自由度の高い、クロスオーバー的な活躍が目立ちます。作風も時代に応じて微妙に変えており、80年代の全盛期にはよりポップな作風が目立ちますし、90年代以降の作品に関しては、「In Your Wildest Dreams」のような、ムーディーな大人の雰囲気を感じさせる曲が目立つような印象を受けました。

そのパワフルなボーカルを生かしながら、時代に応じて変化していく自由度の高い活動が彼女の大きな魅力に感じました。そんな彼女の活動を時代に応じて追える、最適なベストアルバムと言えるでしょう。もっとも、「彼女の全貌がわかる」と言うためには、その前の、アイク&ティナ・ターナー時代の活動も欠かせないので、そういう意味で物足りなさも否めないのですが・・・。

また、このアルバム、強烈な違和感のある面もあり、それがラストに収録された「Something Beautiful」。1996年にリリースされた「Something Beautiful Remains」のリメイクなのですが、おそらく日本人にとっては、冒頭、いきなりお題目が流れてくるのでかなり違和感があると思います。彼女、かの創価学会の熱心な信者だったというのは有名な話で、このお題目もその流れなのでしょうが・・・ただ、あまりにも癖の強さが出てしまっているこの「お題目」には、ちょっと仰天してしまいます。欧米人にとっては「何かエキゾチックなサウンド」程度の認識なのかもしれませんが。

そんな点を差し引いても、非常に魅力的なベストアルバム。ティナ・ターナーの魅力をあらためて感じさせてくれるベスト盤でした。

評価:★★★★★

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