ロックンロールへの愛情が伝わる
今回は最近読んだ音楽関連の書籍の感想です。
昨年1月、74歳でこの世を去った鮎川誠。ロックバンド、サンハウスやシーナ&ロケッツでの活躍で知られる彼が2006年に書いた著書「60sロック自伝」。昨年4月に復刊され話題になった同書を読んでみました。
鮎川誠の著書というと、ほかに1冊所有しています。かなり前に買った本になるのですが、著書というよりも彼が監修した「200CDロックンロール」という学研から出版された本。ロックンロールのCD200枚が紹介された、どちらかというと音楽の入門書的な1冊となるのですが、彼が監修しただけあって、取り上げられているCDもロックのみならずブルースやロカビリー、オールディーズなども取り上げられており、また鮎川誠自身がかなりの数、CD評を書いているのですが、彼の話し言葉をそのまま文章にした独特の内容。それもなにより紹介したCDに対する愛情あふれる文章が印象的でした。
今回紹介する「60s ロック自伝」も、その「200CDロックンロール」をそのまま引き継いだような文体が非常に印象的な1冊となっていました。まず本作、「自伝」と書かれていますが、鮎川誠の生い立ちを追った文字通りの「自伝」ではなく「60sロック自伝」と書かれているように、彼が60年代に出会い、彼の人生を決定づけた音楽との出会いについて綴り、かつ、そこで出会ったミュージシャンたちの魅力を余すところなく語った、そんな「60年代ロック入門」としての自伝となっています。
それなので、同書のほとんどの部分を占めているのが、60年代のミュージシャンたちの紹介。彼の人生に大きな影響を与えたビートルズ、ローリンス・ストーンズ、さらにはボブ・ディランに1章ずつ割いているほか、60年代に活躍したロックミュージシャンや、さらに彼に影響を与えたブルースやR&B、ロカビリーやさらに日本の歌謡曲のミュージシャンにまで数多くのミュージシャンたちを紹介。彼の話し言葉そのままを文章にした、彼らしいフランクリーな文体が大きな特徴、かつ魅力です。
何よりも貴重と言えるのが60年代にリアルタイムにロックンロールを経験した人物による音楽評という点が非常に大きいと言えるでしょう。ある意味、その時代をリアルタイムに体験した人だからこそ語れる、その時代の空気感やミュージシャンたちの印象がある意味、忖度抜きに語られています。もちろんリアルタイムだからこそ、逆に変な偏見がある部分もあるのかもしれませんが、ただ、その時代を生きた人にしか語れないような貴重な証言とも言える1冊ともなっています。
また、ミュージシャンらしい、音楽的な観点から語られている部分が多いのも魅力的。どうしても音楽評論家の書く、この手の「ロックの歴史」だと、音楽的な観点が後手になってしまうケースが少なくありませんが、そこはさすがはミュージシャン。音楽的にどのような点が素晴らしいのか、独特なのか、という点もしっかりと言及されており、そういう点でも非常に勉強となりました。
ロックンロールが好きなら間違いなくお勧めしたい1冊。ロックンロールの素晴らしさ、魅力が鮎川誠の「語り」を通じて、強く伝わってくる著書となっています。最後には鮎川誠が選んだシングル、アルバムのベスト100も載っていますので、これをディスクガイドにして、いろいろとチェックしてみたいです。非常に魅力的な著書でした。
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