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2023年12月24日 (日)

マッドチェスタームーブメントの楽曲を網羅的に収録

Title:come together adventures on the indie dancefloor 1989-1992

1980年代後半から1990年代にかけて、イギリスはマンチェスターを中心に行ったムーブメント、マッドチェスター。マンチェスター・サウンドという名前でも知られているのですが、Wikipediaによると「ダンサブルなビートとドラッグ文化を反映したサイケデリックなサウンドが特徴とされるロックのスタイルを指す」と定義付けされています。ストーン・ローゼズやシャーラタンズ、ハッピー・マンデーズが代表的なミュージシャンとされるのですが、私自身、これらのミュージシャンについてリアルタイムに聴いていた世代ではありません。ただ、これらのミュージシャンがoasisをはじめとして90年代後半のブリットポップに大きな影響を与え、その流れから、このムーブメントについては知っていました。今回紹介するのは、そのマッドチェスターのミュージシャンたちの曲を集めたコンピレーションアルバム。前述のミュージシャンをはじめ、インスパイラル・カーペッツ、808 State、James、Spaceman3、さらにはPrimal Screamなど、マッドチェスターの代表的なミュージシャンたちの曲がズラリと並ぶ、全4枚組の、ボリューム感あるもののかなり充実したコンピレーションアルバムとなっています。

個人的には、マッドチェスターについては、自分の好きなoasisのルーツではあるものの、ストーン・ローゼズの1stや、primal screamの「Screamadelica」は聴いていたのですが、そんなに幅広く聴いていたことはありませんでした。それで今回はじめて、マッドチェスターの楽曲をまとめて聴いてみたですが、個人的に思いっきり好み!完全に壺にはまりました。

まずアルバムは、マッドチェスターを代表するHappy Mondaysの「W.F.X.」からスタート。ギターサウンドにパーカッションを入れたグルーヴィーなリズムが心地よいのですが、よれよれのボーカルもいかにもといった感じ。このどこか酩酊感あるサウンドが、ドラッグ文化を反映しているといったところなのでしょう。808 Stateの「Pacific State」も、スペーシーな四つ打ちテクノが心地よいリズミカルなチューン。The Farmの「Stepping Stone」もぶっといグルーヴィーでファンキーなサウンドが身体に心地よく響きます。

Disc2はおなじみThe Stone Rosesの「Fools Gold」からスタート。こちらもグルーヴィーなサウンドとイアン・ブラウンのなよなよなボーカルが魅力的。そういえば、昔、フジロックでイアン・ブラウンを見たことがあって、その時はあまりに下手なボーカルに「どこがいいんだろ?」と思ったんですが、今聴くと、このヘタウマなボーカルがサウンドに酩酊感を加えて、非常にマッチしているんですね。今さらながらその魅力に気が付きました。

Disc3ではThe Shamen「Pro>Gen」のような、4つ打ちテクノにラップが載るスタイルの曲も。ちなみにDisc4に収録されているRuthless Rap Assassinsの「And It Wasn't A Dream」みたいなHIP HOPチューンもあり、この時代の初期のHIP HOPを取り入れていたこともわかります。様々なジャンルを取り込んでいたという意味では、Disc4の冒頭を飾るThe Soup Dragonsの「I'm Free」も印象的。レゲエのリズムを取り入れて祝祭色が豊かなナンバーながらも、マッドチェスターらしいグルーヴ感も同時に感じさせる楽曲となっています。

あと余談ながら、Disc1収録のParis Angels「All On You」やDisc4のMC Tunes Versus 808 State「Tunes Splits The Atom」などは、初期電気グルーヴっぽい感じのサウンドになっており、いまさらながら電気グルーヴのマッドチェスターからの影響の強さを感じました。以前、YouTubeで、電気グルーヴのルーツを語る「Roots of 電気グルーヴ」という番組があったのですが、その時、彼らのルーツの1つとして語られていたPop Will Eat ItselfもDisc4に「X,Y and Zee」が収録されています。

そんな訳で、ギターサウンドを主体としつつ、ファンクやソウル、HIP HOPやテクノ、レゲエまで取込み、酩酊感あるグルーヴィーなサウンドに仕立て上げているマンチェスター・サウンド。ある意味、自由度も高いサウンドなのですが、その魅力は何か、と考えた時、誤解を恐れずに言えば、ニセモノであるということが、マンチェスター・サウンドの大きな魅力だったのではないか、ということを感じました。

彼らは様々なサウンドを取り入れていますが、ファンクにしろHIP HOPにしろテクノにしろ、イギリスが「本場」ではありません。なおかつ、本格的にそのジャンルに取り組むというよりも、自分たちのサウンドに、そのエッセンスを取り入れた、という点を強く感じます。

ただ、一方で、あくまでもサウンドの心地よさを追及したグルーヴ感が実に魅力的。前述のWikiの説明では「アーティストと観衆の上下関係や垣根を取り払うことを目指した」と書かれているのですが、音楽性のこだわりは2の次。いかに観衆に心地よく響くか、心地よく踊ってもらえるかを目指した結果として、様々なジャンルのサウンドの「いいとこ取り」なのでしょう。結果として、この「こだわりのなさ」が、ある種のマンチェスター・サウンドの大きな魅力につながっていたようにも感じました。「本場」であれば、このような「いいとこ取り」はある種のこだわりは、コミュニティーからの反発もあってなかなか出来ないでしょう。マンチェスターの地が「本場」ではなく、取り入れたサウンドも「ニセモノ」であることが逆にこだわりなく、観衆の心地よさだけ追及するサウンドを生み出すことが出来た、そんな印象を受けました。

かなりボリューミーなコンピレーションアルバムだったのですが、個人的に壺をつきまくった作品の連続で、最後まで一気に楽しむことが出来たアルバム。途中、耳が一切離せないような内容になっていました。実に魅力的なオムニバスアルバム。リアルタイムにマンチェサウンドを楽しんでいた層はもちろん、oasisやblurが好きだった私の同世代、さらにはもっと若いロックファンまで、おすすめのコンピレーションです。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Random Access Memories (Drumless Edition)/Daft Punk

2013年にリリースし、各所で高い評価を受けた、Daft Punkのラストアルバム「Random Access Memories」。先日、同作の10周年記念盤がリリースされましたが、こちらは異色作。本作からドラムパートを抜いたドラムレスバージョンだそうです。正直、いままであまり行われなかった試みのような感じがするのですが・・・。原曲に比べると、やはりリズムパートを抜いただけに、メロディーラインがより際立った感じのあるアレンジに仕上がっています。ただ一方ではリズムパートを抜いたところで全体としての印象はあまり大きく変わらなかったかも、という感じも。興味深い試みですが、どちらかというとファンズアイテム的な1枚かもしれません。

評価:★★★★

DAFT PUNK 過去の作品
TRON:Legacy
RANDOM ACCESS MEMORIES
Random Access Memories (10th Anniversary Edition)

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