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2023年12月18日 (月)

あえてCDで出す

Title:BEST of the Tank-top
Musician:ヤバイTシャツ屋さん

ロックバンド、ヤバイTシャツ屋さんが、結成10周年を記念してリリースした初となるベストアルバム。彼らの代表曲19曲に、このベスト盤リリースに合わせて作られた、そのものズバリ「BEST」、さらには未発表曲や別バージョンの曲などが収録されたボーナストラックがついて、全27曲入りというフルボリュームでのアルバムとなっています。

ヤバTの印象としては、私のような、そろそろアラフィフに手が届くような世代からすると、「感覚が非常に若いバンドだな」という印象を受けています。コミカルな歌詞が大きな特徴なのですが、そのノリが非常に軽い。代表曲である「ハッピーウェディング前ソング」「ノリで入籍してみたらええやん」という、ある種の「キラーフレーズ」をはじめ、とにかく明るくインパクトあるサビをつくって、それについて歌っただけの「鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック」、無線LANの便利さについて歌っただけの「無線LANばり便利」、肩幅と「肩 have a」の語感を合わせただけの「肩 have a good day」など、歌詞の意味よりも、その場の楽しさを追及したような楽曲が並んでいます。

ある意味、徹底的に「深い意味の歌詞」や「熱いラブソング」を排除する「軽いノリ」には、ちょっと偏見が入るのかもしれませんが、おじさん世代から見ると、いかにも「若い世代」と感じてしまいます。もっともメンバー、既にアラサーで、決して非常に若いバンド、という訳ではないのですが・・・。ただ一方で、ある種の「雑音」的な部分を徹底的に排除して、楽曲自体の楽しさや曲を聴くことの気持ちよさを追及する姿勢には、一周回って彼らなりのこだわりを感じさせますし、ちょっとふざけたような企画やらパフォーマンスやらを含めて、彼らなりのある種の「信念」も感じられます。

いかにもな「若いバンド」なスタンスを感じさせる一方で、逆に、自分たちと同じような感覚を覚えたのが、今回、あえてベストアルバムを出した彼らのスタンス。そのスタンスが、そのまま新曲「BEST」で歌われているのですが、サブスク全盛期で、プレイリストでも事足りるのに(事務所も乗り気じゃないのに)あえて「形に残す」ためにベストアルバムをリリースする、という彼らのスタンスがそのまま語られています。ここらへんは、CDというフィジカルアイテムを聴き続けてきた、私くらいの世代に非常によくわかる感覚。なんだかんだいっても30歳前後のメンバーも、CDというアイテムになじみのある最後の世代なのでしょう。ここらへんは逆に「若いバンド」らしからぬこだわりに、おじさんとしてはうれしくもなってきます。

ハードコアやパンク、ギターロックに、曲によってはスカやらソウルやらも取り入れている、難しいこと抜きにとにかくリスナーを楽しませよう、それ以上に自分たちも楽しもうというスタイルのポップな楽曲もとにかく楽しく、80分近いフルボリュームのアルバムながらも、一気に楽しめる作品でした。今どきの若者、といっても、そろそろ「若い」世代ではなくなってきている彼ら。このベスト盤がそんな彼らにとってのひとつの区切りになりそう。これからの彼らの活躍にも注目したい、そう感じさせるベストアルバムでした。

評価:★★★★★

ヤバイTシャツ屋さん 過去の作品
We love Tank-top
Galaxy of the Tank-top
Tank-top Festival in JAPAN
You need the Tank-top
Tank-top Flower for Friends


ほかに聴いたアルバム

The Goldmine/GLIM SPANKY

前作から約1年3ヶ月ぶりとなるGLIM SPANKYのニューアルバム。前作「Into The Time Hole」ではルーツロックやブルースロックの強い影響を受けつつ、一方、歌謡曲的な雰囲気を感じさせるメランコリックな要素も大きな特徴でしたが、今回のアルバムに関しては、いわばこの方向をさらに推し進めたもの。特に、この「歌謡曲的な哀愁メロ」という方向については、薄めることなく逆に推し進めた結果、ルーツロックやブルースロックとの見事融合を果たし、GLIM SPANKY独自のサウンドを形成しています。個人的には、これが彼女たちのひとつの到達点とすら感じられた、そんなアルバムでした。

評価:★★★★★

GLIM SPANKY 過去の作品
ワイルド・サイドを行け
Next One
I STAND ALONE
BIZARRE CARNIVAL
LOOKING FOR THE MAGIC
Walking On Fire
Into The Time Hole

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