世界とリンクした少年少女の物語
Title:8
Musician:ROTH BART BARON
毎年のようにアルバムをリリースし、精力的な活動が目立つ三船雅也のソロプロジェクト、ROTH BART BARONの8枚目となるニューアルバム。前作から1年弱。タイトル通り、8枚目のオリジナルアルバムとなるのですが、これで実に6年連続でのアルバムリリースとなり、その精力的な活動ぶりがうかがえます。
ソロプロジェクトということもあって、基本的に宅録的に、エレクトロサウンドやホーンセッション、ピアノやアコギなども取り入れた多彩なサウンドに、三船雅也のファルセット気味なハイトーンボイスでドリーミーに聴かせるというスタイルは前作から変わりありません。一方、タイアップ曲が多かった前作に比べると今回はタイアップ曲はありません。初回盤にはCDにBlu-rayもついていた前作と比べると、本作はLPと配信のみでのリリース。明らかに「売り」に来ていた前作と比べると、「内向き」な作品となっています。
ただし、楽曲的には前作に比べて明らかに内向き・・・という印象は受けません。ホーンセッションも入って明るさと爽やかさを感じる「Kid and Lost」、ファルセットボーカルでメランコリックに聴かせる「Exist Song」、エレクトロサウンドでドリーミーに聴かせる「Closer」、アコースティックギターで幻想的な「Krumme Lanke」などバラエティー富んだ楽曲が展開されます。
インパクトという面でも「BLOW」は軽快なギターサウンドに、ちょっとメランコリック気味が切なさを醸し出しているメロにはインパクトがありますし、パーカッションのリズムが軽快な「MOON JUMPER」はライブでも盛り上がりそう。「売り方」は前作に比べると内向きな感は否めませんが、確かにポピュラリティーという面で前作に軍配はあがるものの、楽曲自体は「内向き」という印象は受けませんでした。
また今回のアルバムは「世界との接続を再開した2023年に描かれる10編の『ジュブナイル物語』を描き出すこと」というテーマ性があり、コンセプチャルな内容ともなっています。ただ今回、コロナ禍が終わり「世界との接続を再開した」という内容であるため、全体的には未来への明るさを感じさせます。
「何度でもあたらしい扉を開けてみせましょう」と歌う「Kid and Lost」や「次の冒険へ出かけよう/誰も見たことのない景色」と歌う「Boy」など、まさに世界と接続されてどんどん希望のある外へ飛び出していく少年少女たちの物語が描かれています。そんな歌詞の世界観にピッタリとリンクするのが祝祭色も強い音楽性。もともと祝祭色の強い音楽性がROTH BART BARONの特徴でしたが、歌詞のコンセプトが前向きだからこそ、その特徴がより強調されているようなアルバムに仕上がっていました。
今回のアルバムも申し分ない年間ベストクラスの傑作アルバム。これだけハイペースでリリースを続けながら、クオリティーが全く落ちていないのは驚くべき限り。それだけ今、三船雅也が脂にのりまくっている状況ということなのでしょうね。この傾向はまだまだ続くのでしょうか。これからの活躍もとても楽しみです。
評価:★★★★★
ROTH BART BARON 過去の作品
無限のHAKU
HOWL
ほかに聴いたアルバム
THE BOOK 3/YOASOBI
おそらく今、日本で最も人気のあるミュージシャン、といえるYOASOBIの4枚目となるミニアルバム。2023年を代表するヒット曲となった「アイドル」や現在もヒット中の「勇者」を含む、基本的に前作「THE BOOK 2」以降のリリースした配信シングルをまとめて収録しただけの作品になっています。ある意味、シングルをまとめただけ、というあたりも、もう最近のミュージシャンにとってアルバムの意味がなくなってきているという訳なのでしょうか。
インパクトあるメロディーラインはさすがといった感じ。単純なラブソングに留まらない歌詞の傾向もいかにも今どきなのでしょうか。ただ、全体として音があまり整理されておらず、音をつめこんでまとまって聴こえるようなルーツレスなサウンドは、良くも悪くもJ-POPらしい感じ。シティーポップやら、時としてトラップ的なサウンドを入れてくるような、良くも悪くも節操のなさもJ-POPらしさも感じます。いろんな意味で「今どきの売れ線」といったイメージを受けるアルバムでした。
評価:★★★★
YOASOBI 過去の作品
THE BOOK
E-SIDE
THE BOOK 2
E-SIDE 2
OLD ROOKIE EP.1/田我流
田我流の新作は、11月11日に行われた日比谷野音ワンマンのタイトルを冠したEP盤。活動25周年の節目としてリリースされた作品で、「自己のルーツへの回帰、自分の頭の中にある新しい音楽に向きあう」をテーマに制作されたとなっており、トランぺッターの黒田卓也とのコラボなどもあり、新しいサウンドへの挑戦も感じさせます。ただ、社会派的なリリックもあったものの、いままでの彼の作品に感じられた強いメッセージ性は少々後退してしまったかも。その点はちょっと物足りなさも感じました。
評価:★★★★
田我流 過去の作品
B級映画のように2
Ride On Time
More Wave(田我流&KM)
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