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2023年11月 6日 (月)

バラエティー富んだサウンドに遊び心も感じられる歌詞が魅力

Title:Almost there
Musician:GRAPEVINE

約2年4か月ぶりとなるGRAPEVINEのニューアルバム。デビューから既に25年以上を経過したベテランバンドの彼ら。基本的にロックを主軸としながらもR&Bやソウルミュージックの要素を強く取り込んだ音楽性でグルーヴィーに聴かせるサウンドが大きな魅力のバンドで、デビュー当初からその方向性に大きな違いはないものの、アルバム毎に微妙にその方向性を変化させることによって、常に現役感あふれる作品を作り続けてきました。

デビュー以来、コンスタントにアルバムをリリースしてきているものの、毎作安定感ある傑作をリリースし続けているのも大きな特徴。そんな中でも前作「新しい果実」はバラエティー富んだ作風が魅力的な傑作アルバムに仕上がっていました。今回の作品で言えば、比較的、ロック色の強いアルバムだったように感じます。そしてその一方、前作同様、バラエティー富んだ音楽性も大きな特徴となっていました。

今回のアルバムにしても、ヘヴィーな「Ub(You bet on it)」からスタートし、リズムマシーンを取り入れた「雀の子」、爽快路線の「それは永遠」、軽快でポップなギターロックチューン「Ready to get started?」、さらには80年代を彷彿とさせるムーディーなダンスチューン「実はもう熟れ」へと続いていきます。

後半は正統派とも言えるオルタナ系ギターロックチューン「Goodbye,Annie」や、ノイジーなギターサウンドを前面に押し出した「Ophelia」などギターロック系の楽曲が並んでおり、アルバム全体としてロックな作風という印象を受ける大きな要因となっています。ただ最後はムーディーでメロウな、タイトルそのまま「SEX」という曲で締めくくり。バラエティー富んだこのアルバムらしい締めくくりとなっています。

加えて今回のアルバムでユニークだったのは歌詞。毎回、深読みの出来る文学性の高い歌詞の世界もGRAPEVINEの大きな魅力なのですが、今回のアルバムに関しては比較的わかりやすい歌詞が多かったような印象を受けます。1曲目「Ub(You bet on it)」では

「新しい果実には当然
熟す時が訪れる」
(「Ub(You bet on it)」より 作詞 田中和将)

と、前作のタイトルからの続きをイメージするようなフレーズが登場。「雀の子」ではコテコテな大阪弁を取り入れた歌詞がユニーク。競馬ですったおっちゃんの描写も悲哀たっぷりでユーモラスかつ独特な作風になっていました。また「Ready to get started?」はうってかわって比較的ストレートな前向きの歌詞が特徴的ですし、さらに遊び心があるのが「実はもう熟れ」で、こちら中森明菜の「ミ・アモーレ」をモチーフにした曲(タイトルも、読みは「みはもううれ」ですね)。内容も熟年期の夫婦を情熱的な「ミ・アモーレ」の歌詞のパロディー的に描いており、こちらも非常にユニークな歌詞となっています。

後半の「アマテラス」と「Goodbye,Annie」は社会派な歌詞が特徴的。どちらも今の日本を皮肉的な視点でとらえた歌詞になっており、若干、賛否両論が起こりそうな部分はありつつもユーモラスさも感じされる歌詞は耳を惹きます。ラストのストレートなタイトル「SEX」では、タイトル通りの愛の歌が歌われる中、最近話題の性の多様性を示すキーワードである"LGBTQQIAAPPO2S"というワードも登場。意図的に愛の多様性を歌っているのではないものの、広く愛について歌い上げている点も彼ららしさを感じさせます。

そんな感じで、遊び心のある歌詞も含めて非常に印象的でバラエティーに富んだ今回のアルバム。正直、出来という点では前作の方がよかったかな、とは思うのですが、今回のアルバムも、いつもクオリティーの高い作品を作り続ける彼ららしい傑作アルバムに仕上がっていました。さすがの一言といった感じの安定のアルバム。歌詞にサウンドに、その実力を魅了された1枚でした。

評価:★★★★★

GRAPEVINE 過去の作品
TWANGS
MALPASO(長田進withGRAPEVINE)
真昼のストレンジランド
MISOGI EP
Best of GRAPEVINE
愚かな者の語ること
Burning Tree
BABEL,BABEL
ROADSIDE PROPHET
ALL THE LIGHT
新しい果実


ほかに聴いたアルバム

HIgh Tide/Radio Caroline

元GYOGUN REND'SのPATCHが、元ミッシェル・ガン・エレファントのウエノコウジ、元THE NEATBEASTの楠部真也と組んだガレージロックバンド。2009年に活動を休止させたものの、2014年に活動再開。ただし、その後はアルバムのリリースはなかったのですが、このほど結成20周年を記念し、過去のコンピレーションアルバムへの参加曲やスタジオライブ音源、さらには新曲1曲を加えたレア音源集をリリースしました。

基本的にはシンプルなガレージロックや、曲によってはパンクロック寄りの曲がメイン。ある意味、かなり懐かしさを覚えるような曲もあり、目新しさはないものの、王道ともいえるガレージロックやパンクロックが心地よいアルバムに仕上がっています。これで本格的に活動再開するのでしょうか。次は久々のオリジナルアルバムに期待したいところです。

評価:★★★★★

Radio Caroline 過去の作品
DEATH or GLORY
Portrait~THE BEST OF Radio Caroline~

ひかり/川本真琴

約4年ぶり、川本真琴単独名義では5枚目となるニューアルバム。本作ではドイツのオルタナ系ブラスバンド、ホッホツァイツカペレと、テニスコーツの植野隆司が全面的に参加したアルバムに。そのため、全面的にホーンセッションが導入され、そこにストリングスも加わり、全体的に分厚く、そして暖かみを感じるサウンドが特徴。そんなサウンドを背景とした、ゆっくりと聴かせる川本真琴のメロやボーカルもピッタリとマッチしています。率直なところ、メロディーラインとしてのインパクトはさほど強くなく、ここ最近のアルバムと同様、あえてフックの効いたフレーズを避けようとしている印象すら受けてしまうのですが、しっかりと歌を聴かせようとする彼女の意思と、そして暖かさの感じられるアルバムに仕上がっていました。

評価:★★★★

川本真琴 過去の作品
音楽の世界へようこそ(川本真琴feat.TIGAR FAKE FUR)
The Complete Single Collection 1996~2001
願いがかわるまでに
川本真琴withゴロニャンず(川本真琴withゴロニャンず)
ふとしたことです
新しい友達

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