オリジナルくるりが再結成
Title:感覚は道標
Musician:くるり
くるりのニューアルバムについて、くるりのファン、特に昔からのオールドファンにとっては、まずはこのジャケット写真からして胸熱になるのではないでしょうか。くるりの現メンバー、岸田繁と佐藤征史の2人の間にいるのは、オリジナルメンバーである森信行。デビュー当初のドラマーであったものの、2002年7月にアルバム「THE WORLD IS MINE」を最後に脱退。今でこそ、くるりはメンバーの脱退・加入を繰り返していますが、当時は大村達身の加入はあったものの、メンバー脱退は初。それもオリジナルドラマーの脱退ということもあって、森信行脱退はショッキングなニュースでした。
それから約20年超。もともと大学時代の友人同士ということで脱退後も交流があったことはファンには周知の事実。2010年にはくるり・ザ・セッションと題して、森信行を加えてのライブパフォーマンスも行われています。ただ、やはりオリジナルメンバーが揃い、アルバムが制作されているというのは、非常に大きなニュースであり、昔からのファンにとっては胸が熱くなるような出来事なのは間違いありません。今回のアルバム、原点回帰ということもあるのでしょうが、くるりの、特に岸田繁の「モード」として、デビュー当初のように、3人のバンド形態で楽曲を作り上げるという形を取りたかったのだとか。以前ここでも紹介した映画「くるりのえいが」では、そんな3人でのレコーディングの模様も取り上げられています。
実際、今回のアルバムは、楽曲が精緻に組み上げられていったオリジナルアルバムとしての前作「天才の愛」とはある意味対極にあるとも言えるアルバムで、バンドのセッションの形で作られたような作品の並んでいます。映画でも本作に収録されている「In Your Life(Izu Mix)」の制作の過程が収録されていますが、例えば1曲目「happy turn」もいきなり岸田繁のくしゃみから入るなど、ラフな雰囲気を作り出しつつ、バンドサウンドを主軸としたブルースロックな曲を聴かせてくれていますし、先行の配信シングルとなった「California coconuts」も爽やかなくるりらしいポップなメロが流れているものの、基本的にはバンドサウンドを中心に据えたような作品になっています。
またもっともセッション的なのが中盤の「LV69」で、メタ視線のアイロニックな歌詞もユニークなナンバー。どこか自由さを感じさせるロックなサウンドは、気の置けない仲間たちとのセッションだからこそ生まれたように感じる曲になっています。また最後を締めくくる「aleha」も波の音が録音されたフォーキーな雰囲気のナンバー。本当の波の音なのかどうかは不明ですが・・・ただ、映画で取り上げられていた伊豆の録音の中での情景を思い起こされるような楽曲で締めくくられています。
バリエーションとしてはハードロック風の「世界はこのまま変わらない」やラテンなリズムを入れた哀愁たっぷりの「お化けのピーナッツ」のような曲もあったりするのですが、全体的にはバンドのセッションから誕生したようなロックチューンがメインということもあって、くるりのアルバムとしては比較的、統一感のある内容になっています。また、メロディーラインについても岸田繁のセンスが光る曲も多いものの、インパクトのある派手な曲というのは基本的にはありません。そういう意味でも、いかにもバンドのセッションの中で生み出されたアルバムという印象を強く受ける作品になっていました。
ただ一方、原点回帰とも異なる点もまた興味深いところ。佐久間正英をプロデューサーに迎えて、「整理された」デビューアルバム「さよならストレンジャー」とも、逆に若いバンドゆえの荒々しさを感じさせる2枚目の「図鑑」とも全くことなるアルバムとなっています。くるりの2人のメンバーはもちろん、森信行も、くるり脱退後もドラムプレイヤーとして成長を続け、3人ともミュージシャンとしても人間的にも、ひとまわりもふたまわりも大きくなった今だからこそ出来た「大人な」アルバムとも言えるかもしれません。オリジナルくるりの3人によるアルバムでしたが、原点回帰とも全く異なる、今のくるりにしか出来ないアルバムという点も大きな特徴であり大きな魅力に感じました。
映画の時も感じたのですが、おそらく、くるりの、特に岸田繁の「モード」がこういうアルバムを作りたいモードであり、それが故のオリジナルくるり再結成なのでしょうから、次のアルバムは再び2人でのくるりに戻っていくのでしょう(これで大村達身が加わり4人組となったりしたらおもしろいのですが(笑))。ただ、森信行脱退後、20年以上を経た今、こういうアルバムが作られるのは大きいと思いますし、また、くるりとしても、あらためてバンドとしての原点の3人組に戻ったからこそ、新たな一歩を踏み出せるのでしょう。おそらく、次からはまた、くるりの2人と森信行は再び別の道を歩みだすのでしょうが、またおそらく何年か後には、再び3人でアルバムを作りそうな気がします。くるりとしての原点を確かめるかのように・・・。
評価:★★★★★
くるり 過去の作品
Philharmonic or die
魂のゆくえ
僕の住んでいた街
言葉にならない、笑顔を見せてくれよ
ベスト オブ くるり TOWER OF MUSIC LOVER 2
奇跡 オリジナルサウンドトラック
坩堝の電圧
くるりの一回転
THE PIER
くるりとチオビタ
琥珀色の街、上海蟹の朝
くるりの20回転
ソングライン
thaw
天才の愛
愛の太陽 EP
ほかに聴いたアルバム
脳内魔法/安藤裕子
デビュー20周年になる今年、新レーベル「AND DO RECORD」を発足。本作は、その第1弾アルバムとなります。レーベル発足直後に配信シングルとしてリリースされ、本作にも収録された「さくらんぼみたいな恋をしたい」はかの大塚愛の「さくらんぼ」のオマージュだそうで、MVには大塚愛本人も出演。同時期にデビューした2人は盟友とも言える間柄だそうで、楽曲の方向性やファン層も異なる2人なのでちょっと意外。ただ、以前リリースされた「頂き物」では、大塚愛が作曲として参加していて、ちょっと意外に感じたことを覚えています。
新レーベル設立によるアルバムということもあってか、アルバム全体としては趣味性の強い内容。全体的にどこかふわふわとしたドリーミーな雰囲気が特徴的で、そんな中にノイジーなギターサウンドが組み込まれていたり、エレクトロサウンドを入れていたり、アコースティックなサウンドで構成されていたり、曲によっては沖縄民謡的な雰囲気やラテンも取り入れていたりと、かなり自由度も高い内容。またそれを彼女のハイトーンなボーカルでまとめあげています。正直、インパクトあるポップチューンもないですし、地味な印象も強いのですが、聴けば聴くほど、徐々に味が出てくるようなアルバム。最初は取っつきにくさを感じるのですが、安藤裕子の魅力のしっかりと詰まったアルバムに仕上がっていました。
評価:★★★★★
安藤裕子 過去の作品
クロニクル
THE BEST '03~'09
JAPANESE POP
大人のまじめなカバーシリーズ
勘違い
グッド・バイ
Acoustic Tempo Magic
あなたが寝てる間に
頂き物
ITALAN
Barometz
Kong Tong Recordings
unpeople/蓮沼執太
多彩な活動を続ける蓮沼執太の新作は、エレクトロサウンドのインストアルバム。かなり実験的な作品で、ギターを取り入れたり、フュージョン風に仕上げたり、ピアノの音色を入れて清涼感を持たせたり、様々な実験を行っている印象を受けるアルバムになっています。ただ、「純粋に自分のための音楽」と自ら語るように、ポップス的な要素は薄く、そういう意味ではちょっと聴きにくいアルバムだったような印象も。どちらかというとファン向けといった感のあるアルバムでした。
評価:★★★★
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