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2023年10月24日 (火)

君島大空らしさがより明確に

Title:no public sounds
Musician:君島大空

現在、最も注目を集める男性シンガーソングライターの一人、君島大空。今年1月にアルバム「映帶する煙」をリリースしましたが、前作から約8か月、早くもニューアルバムがリリースされました。前作「映帶する煙」は、今年上半期の私的ベストアルバムで4位に選ぶほどの傑作アルバムに仕上がっていましたが、今回のアルバムは前作に勝るとも劣らない傑作に仕上がっており、脂ののった彼の仕事の充実ぶりをうかがわせる結果となっていました。

彼は過去のEP盤によって、アコースティックなサウンドを取り入れたり、アバンギャルドなサウンドを取り入れたり、様々な顔を見せてきました。前作に関しては、そんな多様な音楽性を幅広く取り入れた集大成的なアルバムに仕上がっていました。それに対して今回は、ファンタジックでアバンギャルドな側面によりスポットがあてられた作風のように感じました。ただ、そのような作品の中でも、ダイナミックさと繊細さ、アバンギャルドとポップスを両立させた、君島大空にしか出来ないようなサウンドの世界を作り上げた、そんなアルバムに仕上がっていました。

例えばアルバムの冒頭を飾る「札」は、最初いきなりダイナミックでヘヴィーなギターリフが印象的なロックなイントロからスタートしますが、歌がスタートすると一転、ファルセットボーカルを聴かせるポップなメロを聴かせてくれます。続く「c r a z y」もまさにダイナミックさと繊細さを同居させたような楽曲。ダイナミックなバンドサウンドを聴かせつつ、途中ではバンドサウンドが後ろにさがり、繊細な歌声を聴かせてくれる楽曲に仕上がっています。

ファンタジックなエレクトロサウンドでポップに聴かせるのが、記号も使ったタイトルが独特な「˖嵐₊˚ˑ༄」。4つ打ちのリズミカルなダンスチューンはポップな印象を受けつつ、時折見せるサイケなサウンドはアバンギャルドな側面も同居させています。「映画」もサイケ気味のダイナミックなサウンドを聴かせつつ、切なさを感じさせる歌にポピュラリティーを同時に感じさせる独特の世界観を作り上げています。

ファンタジックなサウンドという点では「賛歌」も印象的。ファンタジックでアバンギャルドさを感じさせるサウンドを聴かせつつ、切ないメロや歌詞が印象に残る、こちらもアバンギャルドとポップスを同居させたサウンドに。ラストを締めくくる「沈む体は空へ溢れて」もヘヴィーでダイナミックなサウンドを聴かせつつ、メランコリックに聴かせる歌との対比もユニークな作品となっています。

一方では今回のアルバムでも「– – nps – –」のようにアコギで聴かせるフォーキーな作品も収録されており、フォーキーな彼の側面もしっかりと感じさせるアルバムとなっていました。

様々な作風を取り入れて自由さを感じさせた前作に比べて、今回のアルバムはより君島大空らしさを目指した、そんなアルバムのように感じます。前作が彼のその段階での集大成といった感じでしたが、本作は、そこからさらに彼らしさに注力し、新たな一歩を目指すアルバム、そう感じさせる作品でした。前作に引き続き、今年を代表する傑作の1枚であることは間違いないでしょう。彼の活躍からはますます目が離せなさそうです。

評価:★★★★★

君島大空 過去の作品
縫層
袖の汀
映帶する煙


ほかに聴いたアルバム

SCARECROWS/The Ravens

不倫騒動で悪い意味で話題となってしまったDragon Ashの降谷建志の別プロジェクト、The Ravensの2枚目となるアルバム。「コロナで動きが制限された人々をカカシ(Scarecrows)に例え、そのカカシに絡み付くがんじ絡めのツタをThe Ravens(ワタリガラス)が啄み、呪縛から解放するというコンセプト」だそうですが、kjにとって呪縛は奥さんだったのか?という皮肉も言いたくなってしまいますが、楽曲的にはピアノにバンドサウンドを絡ませつつ、これでもかといったほど哀愁感あふれるメロディーを聴かせる楽曲。メロの良さはさすがではあるものの、ちょっと一本調子な感は否めない感じも。ある意味、哀愁メロと分厚いサウンドというのはベタではあるものの、聴いていて素直に心地よさはあるのですが。

評価:★★★★

The Ravens 過去の作品
ANTHEMICS

PLAYDEAD/SiM

レゲエの要素を取り入れた独特のハードコアサウンドを聴かせてくれるSiMのオリジナルアルバムとしては約3年3ヶ月ぶりのアルバム。アルバム紹介に「今年海外マネージメント・エージェント・レーベルとの契約を発表」とだけ書いてあり、詳細が一切書いていなかったのですが、今年3月に海外マネージメントとしてShelter Music Groupと、海外エージェンシーとしてUnited Talent Agencyとの契約を発表しています。ちなみにアメリカではタレントの仕事の獲得やスケジュール管理はマネージメント会社が行う一方、仕事を獲得するのはエージェンシーが行うようで、それぞれ別の会社と契約しているのはそういう事情によるもののようです。どうも本格的に海外進出を目指しているようで、その第1弾となるアルバムだそうです。

ヘヴィーなサウンドに、時折、レゲエ的なリズムが入る部分が個性的なSiMのサウンドがさく裂している今回のアルバム。ある意味、良くも悪くもSiMらしいアルバムに仕上がっている反面、それだけちょっと意外性みたいなものは薄く、またメロディーラインのインパクトもちょっと弱かったかな、という印象を受けました。海外への紹介的な意味合いから、あえてSiMらしいサウンドで構成し、またJ-POP的なベタなインパクトも避けたということなのでしょうか。カッコいいアルバムではあるものの、前々作、前作に比べると、ちょっと物足りなさを感じてしまったアルバムでした。

評価:★★★★

SiM 過去の作品
PANDORA
i AGAINST i
THE BEAUTiFUL PEOPLE
THANK GOD, THERE ARE HUNDREDS OF WAYS TO KiLL ENEMiES
BEWARE

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