オリジナルメンバーでのレコーディング風景を捉えた映画
映画「くるりのえいが」を見てきました。
タイトルそのままなのですが、文字通り、ロックバンドくるりのドキュメンタリー映画。ただし、バンド「くるり」の軌跡を追ったドキュメンタリーではなく、先日リリースされたニューアルバム「感覚は道標」のレコーディングに密着したドキュメンタリーとなっています。この新作「感覚は道標」は、くるりのオリジナルメンバー、森信行が参加したことでも大きな話題となったアルバム。このドキュメンタリーでは、そんなオリジナルくるりのメンバー3人の友情を描いたドキュメンタリーにもなっていました。
個人的にくるりというとデビュー作「さよならストレンジャー」以来のファンであるだけに、オリジナルくるりの3人が並んでいる姿を見るだけで胸が熱くなってきます。実は、この映画を見る時点では、オリジナルアルバム「感覚は道標」をまだ聴いていなかっただけに、アルバム音源に対しても、白紙の気持ちでこの映画にのぞむことが出来ました。
今回の映画は、あくまでも新作「感覚は道標」の制作過程を追ったドキュメンタリーとなっていました。全編は伊豆でのスタジオでの制作風景。その後、今年3月に京都のライブハウス「拾得」で行われたライブの模様が収録され、そのライブから「尼崎の魚」、新曲の「California coconuts」、そして「東京」の3曲の演奏が映画には収録されていました。後半は、京都市内や伊豆のスタジオで行われたレコーディングの模様が収録され、特にアルバム収録曲「In Your Life」が完成するまでの過程を追った構成となっています。
この映画の大きな特徴としては、この手のドキュメンタリー映画にナレーションがつくのが一般的なのですが、この映画にはそんなナレーションは一切ありませんでした。そのため、基本的には映画全体として淡々とレコーディングの模様を追った構成となっており、そういう意味では、映画的な部分はちょっと薄く、よくCDに付随するDVDに収録されているようなレコーディングドキュメンタリーに近い内容になっていました。その点、「映画的」なものを求めるとすると、ちょっと物足りなさも感じてしまうかもしれません。
ただ、とはいってもやはり、オリジナルメンバー3人でのレコーディングの模様を追ったドキュメンタリー映像は貴重。くるりの音楽がどのように出来てくるのかが、そのまま収録された内容は見ごたえはありますし、またオフショット映像などでのオリジナルくるりの3人の関係性を垣間見れる映像もまた、貴重なショットと言えると思います。
途中、くるりの昔のMVも挿入され、昔のオリジナルくるりの3人との比較もまた興味深い構成に。というか、あらためて見ると、やはり20代のメンバーは若いなぁ・・・というか、私自身もくるりの3人と同じ年なので、あの頃はあれだけ自分も若かったんだよなぁ・・・と、リアルタイムでくるりを追っていた身からすると、非常に感慨深く見てしまいました。
くるりの楽曲の完成の過程を興味深く見つつ、かつ、オリジナルくるりの3人が一緒に活動しているだけに胸が熱くなりながら見ていたのですが、ただ、最後に収録されているメンバー3人の、特に森信行のインタビューを聴いて、やはりもうくるりはあくまでも岸田、佐藤2人のバンドなんだな、ということを感じてしまいました。おそらく、インタビューの内容から考えると、森信行本人がそのことを一番強く感じているようですし、今回のレコーディングではメンバー3人が、ある意味、デビュー当初に戻った感覚でレコーディングを行っていたのですが、それと同時に、もう本当の意味でのデビュー当初には戻れないんだ、ということを実感してしまう内容にもなっていたように感じました。
ある意味、卒業後、20年以上経ってから、学生時代の仲間たちと久しぶりに集まった飲み会、そんなイメージでしょうか。その場では、まるで学生時代に戻ったかのような錯覚を覚えます。しかし、それと同時に、かなり変わってしまった自分たちは、もう本当の意味では昔には戻れない・・・そんな寂しさもどこか感じてしまう。最初は3人が一緒に楽曲を作っている姿に、素直に懐かしさを感じつつも、最後まで映画を見て、そんな感情が残ってしまいました。
おそらく、森信行を含めてのレコーディングはこれ1枚で、再び2人のくるりに戻るのでしょう。もう昔には戻れないという寂しさを感じさせつつも、ただきっと、また何年か後に、この3人でのプレイがくるりの歩みに必要となる時期がやってくるのではないか、映画を見ていてそうも感じました。また、そんな機会を期待しつつ、オリジナルくるり3人での貴重な風景が楽しめる、そんな映画。どちらかというと初心者にくるりを紹介する、というよりもファンズムービー的な要素が強いのですが、ファンであるのならば、というよりも、デビュー当初、くるりを聴いていた方ならば、是非チェックしてほしい、そんな映画でした。
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