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2023年10月15日 (日)

プレイヤーの表現力が光る新プロジェクト

Title:Sonicwonderland
Musician:上原ひろみ Hiromi's Sonicwonderland

アルバム毎に様々なミュージシャンとコラボを組んでアグレッシブな活動を続けているジャズピアニスト、上原ひろみ。今回は、新たにHiromi's Sonicwonderlandと名付けたプロジェクトをスタート。ベースには新進気鋭のジャズベーシストとして注目を集めているアドリアン・フェロー、ドラムには、ラリー・カールトンのツアードラマーとしても活躍しているジーン・コイ、そしてトランペットにキューバを代表する作曲家、チコ・オファーリルの孫、アダム・オファリルを迎えての豪華メンバーによるカルテットとなりました。

毎回、様々なミュージシャンとコラボを組んで挑戦的な試みを行っている彼女。今回のアルバムについては、「彼女としては」という鍵カッコはつきますが、比較的、王道のモダンジャズ路線の楽曲が並ぶアルバムになっていたように思います。1曲目の「Wanted」はメランコリックさを感じるトランペットの響きは印象的ながらも、シンプルなジャズ。「Polaris」は郷愁感たっぷりのトランペットとピアノで静かに聴かせるムード感あふれるナンバーに。「Utopia」もメンバーがそれぞれの音で会話しているかのようなメランコリックなサウンドが印象的なジャズナンバーに。正直なところ目新しさのようなものは少ないながらも、一方では表現力あふれるフレーズを要所要所に組み込み、シンプルがゆえにプレイヤーの実力がダイレクトに伝わるようなアルバムに仕上がっていたように感じました。

特にユニークなのが「Up」で、どこかで聴いたことあるような・・・と思ったら、こちら、映画「BLUE GIANT」の曲をブラッシュアップさせて完成させた曲だそうで、映画で聴いたことあるフレーズが登場してきます。こちらも勢いあるピアノの音色が上原ひろみらしい楽曲なのですが、9分近くに及ぶ長尺の楽曲に聴かせるメンバーの表現力あるプレイが印象的。彼女の刺激的なフレーズを奏でるピアノソロにも惹き込まれます。

また、そんなアルバムの中にもユニークな作風の曲が織り込まれており、アルバムにインパクトを加えています。タイトルナンバー的な「Sonicwonderland」ではユーモラスなエレピの音が入り、疾走感あふれる楽曲に。ファンクネスを感じるリズムもあわせて、ロッキンな要素を感じさせる楽曲になっています。また「Go Go」でもシンセの音を取り入れてスペーシーな雰囲気も。こちらも独特なタイム感のある上原ひろみのピアノソロが印象的な作品になっています。

その後もシンガーソングライターのオリー・ロックバーガーを迎えた「Reminiscene」では、彼のだみ声のボーカルが加わった郷愁感あふれる歌モノのポップチューンに仕上げていますし、最後を締めくくる「Bonus stage」では、いままでの雰囲気とは打って変わって、ニューオリンズ風の軽快でコミカルな、楽しいサウンドを聴かせてくれる楽曲に。タイトル通り、Sonicwonderlandにとってのボーナスステージ的な作品に仕上がっています。

ある意味、王道的な路線にまとめたからこそ、プレイヤーとしての実力がより表に出てきた作品のようにも感じたアルバム。さすが上原ひろみ・・・また、そう感じさせる作品をリリースしてきました。今回のアルバムもまた、文句なしの傑作です。

評価:★★★★★

上原ひろみ 過去の作品
BEYOUND THE STANDARD(HIROMI'S SONICBLOOM)
Duet(Chick&Hiromi)
VOICE(上原ひろみ featuring Anthony Jackson and Simon Phillips)
MOVE(上原ひろみ featuring Anthony Jackson and Simon Phillips)
Get Together~LIVE IN TOKYO~(矢野顕子×上原ひろみ)
ALIVE(上原ひろみ THE TRIO PROJECT)
SPARK (上原ひろみ THE TRIO PROJECT)
ライヴ・イン・モントリオール(上原ひろみ×エドマール・カスタネーダ)
ラーメンな女たち(矢野顕子×上原ひろみ)
Spectrum
Silver Lining Suite(上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット)
BLUE GIANT(オリジナル・サウンドトラック)


ほかに聴いたアルバム

暑さのせいEP/大滝詠一

Atsusanosei

逝去後の方がリリースペースがあがっている感じのする大滝詠一の新作は9曲入りのEP盤。タイトル曲「暑さのせい」を含む、夏にまつわる貴重な音源を収録した作品。ただ、1分に満たないジングルや、デモ音源的な作品も収録されており、全体的にはファンズアイテム的な感じも強い作品に。サブスクでは問題なく聴けるものの、CD版は8cmの短冊型という、今となっては懐かしい形式でのリリースとなっている点も話題に。その点も含めて、基本的にはファンズアイテムといった感じでしょうか。

評価:★★★★

大滝詠一 過去の作品
EACH TIME 30th Anniversary Edition
Best Always
NIAGARA MOON -40th Anniversary Edition-
DEBUT AGAIN
NIAGARA CONCERT '83
Happy Ending
A LONG VACATION 40th Anniversary Edition
大瀧詠一 乗合馬車 (Omnibus) 50th Anniversary Edition
大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK/NIAGARA ONDO BOOK

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