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2023年10月27日 (金)

ハードコアやパンクに乗せて、よりメッセージが明確に

Title:INSAINT
Musician:春ねむり

Insaint_harunemuri

今、徐々に話題となっている女性シンガーソングライター、春ねむり。直近のオリジナルアルバム「春火燎原」は日本以上に海外で大きな注目を集め、最近は徐々に日本でもその名前を聞く機会が増えてきました。本作は、彼女が一気に注目を集めるきっかけとなった前作のフルアルバムから約1年5カ月ぶりにリリースされた全6曲入りのEP盤となります。

もともと彼女は、ジャンル的にはラップ、ポエトリーリーディングに属するミュージシャンとされていました。実際、前作では「キュートな感じのアイドルテイストもある女性ボーカルが、ラップあるいはポエトリーリーディング的に歌うスタイル」という記載をしています。それに対して今回のアルバムで大きく取り入れているのはパンクロックやハードコア。そのため、前作に比べると、その印象はかなり異なるのではないでしょうか。

実際、1曲目「ディストラクション・シスターズ」は全編、ノイジーなギターサウンドをバックに疾走感もって歌い上げるパンクロック風な楽曲。「わたしは拒絶する」もギターノイズが埋もれる中、彼女がその主張をゆっくりと歌い上げるハードコア風のナンバー。タイトルも印象的な「生存は抵抗」もサビではデス声でタイトルのスローガンをシャウトするハードコアの楽曲。「サンクチュアリを飛び出して」もアップテンポなパンクチューン。「インフェルノ」もポエトリーリーディング的な歌になっているものの、ノイジーなギターサウンドが全面的に展開されていますし、ラストの「No Pain,No Gain is Shit」もハイテンポなバンドサウンドにシャウト気味のボーカルが重なるハードコアのナンバーに。全編、ヘヴィーなバンドサウンドが重なるロックなアルバムに仕上がっています。

ただし、彼女は前作でもギターロックナンバーやハードコアの作風を取り入れているため、パンクやハードコアを大きく取り入れた今回のアルバムでも、彼女に対するイメージは大きく異なるものではありません。また加えて、やはり彼女の大きな特徴はその歌詞の世界。前作と同様、現実社会でのギャップに悩むような人たちに対してのエールとも感じられる歌詞が大きな魅力となっています。実際、彼女はこのアルバムに対するコメントとして「システムや『普通』の枠から取りこぼされ、自分がおかしいのではないかと自分を疑い続け苦しみながら今を生きる全ての人のため」と語っており、そのメッセージ性の強さも感じる作品となっています。

楽曲タイトルそのままが大きな主張となっている「生存は抵抗」なども、まさにそんなメッセージ性を強く感じますし、最後の「No Pain,No Gain is Shit」は、「No Pain,No Gainなんてクソだ!」という主張が歌詞の中で繰り返されています。この「No Pain,No Gain」はまさに現在の、「自己責任」論を唱えがちな特に「新自由主義」的な論者が好みそうな表現。それに対してアンチを叫ぶ本作は、春ねむりの明確なメッセージを感じさせます。

また、この彼女の強いメッセージには、ハードコアやパンクロックのような強いサウンドがマッチされているように感じます。そういう意味でも春ねむりのメッセージがかなり強く前に押し出されたEP盤になったように感じます。6曲入りという内容ながらも春ねむりの主張と魅力を存分に感じられた作品でした。

評価:★★★★★

春ねむり 過去の作品
春火燎原

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