戦前戦後のヒット曲
10月から、笠置シヅ子をモデルとしたのNHK朝の連続テレビ小説「ブギウギ」の放送が予定されています。それをきっかけに日本コロムビアで「笠置シヅ子とブギウギの時代」と題された企画CDがリリースされたのですが、そのうち、笠置シヅ子と淡谷のり子のアルバムに関しては以前紹介しました。今回はそれに続く形で8月にリリースされた2枚のアルバム、笠置シヅ子と同様に戦前戦後に一世を風靡した女性歌手、渡辺はま子と、笠置シヅ子の「東京ブギウギ」や淡谷のり子の「別れのブルース」などを作曲し、戦前戦後を代表する作曲家、服部良一の曲を集めたオムニバスアルバムです。
Title:渡辺はま子の世界~蘇州夜曲~
Mucisian:渡辺はま子
今でも多くの歌手がカバーしている「蘇州夜曲」を1940年にヒットさせたほか、戦前戦後に数多くの曲をヒットさせ一世を風靡した女性歌手、渡辺はま子。戦後も活躍し、紅白歌合戦には第1回から第9回まで連続出場。特に第1回の紅白歌合戦の紅組のトリをつとめるなど、その名を歴史に刻んでいます。
アルバムではその「蘇州夜曲」に続いて「シナの夜」「広東ブルース」と中国をイメージしたような曲が並びます。中国を侵略していた戦前の日本にとって、今以上にエキゾチックさを感じさせる遠くて近い土地だったのでしょうか。特にDisc1に収録されている曲に関しては、そんなエキゾチックなイメージを強く感じさせる曲が並びます。
ただ、ある意味時流に乗っているイメージも強く、「愛国の花」「軍国銀座娘」のような戦前歌謡、あるいはいわば軍国歌謡と言うべき楽曲も多く、また楽曲としてもエキゾチックな楽曲からスタートしつつ、アルバムを聴き進めると急激にムード歌謡曲、演歌的な作品になっていく点も特徴的。洋楽からの影響も強く感じる笠置シヅ子や淡谷のり子の作品とは対照的にも感じられましたし、ある意味、自らのスタイルを時流にのせていくような笠置シヅ子や淡谷のり子のスタイルとは異なり、どちらかというと、時流にそってスタイルも変えていくように感じます。その結果として軍国歌謡も少なからず披露していたのでしょう。
個人的には笠置シヅ子や淡谷のり子と比べると、今となってはより時代を感じさせてしまう部分が大きいのかな、とも思います。ただ、これはこれで戦前戦後の日本歌謡界の歩みを知ることが出来るオムニバスアルバムでした。
評価:★★★★
Title:服部良一の世界~青い山脈~
このオムニバスのサブタイトルも「青い山脈」ですし、笠置シヅ子の「東京ブギウギ」などのヒットもありますし、服部良一と言うと戦後歌謡界を代表する作曲家というイメージがありますが、戦前から数多くのヒットを飛ばしていた人気作曲家でした。このオムニバスがユニークなのは、1枚目の冒頭に「青い山脈」を持っていきつつも、その後のDisc1は基本的に戦前の彼の代表曲が、Disc2には戦後の代表曲が収録されている構成となっています。
ただ、服部良一について戦後の活躍が目立つのは、やはり楽曲が全体的に洋楽の影響が強く、洒脱な雰囲気の曲が多いのが、「アメリカの文化が入ってきて、一気にあか抜けた」という戦後の勝手なイメージとマッチする部分が大きいのでしょう。実際、以前、当サイトでも紹介した「昭和ブギウギ 笠置シヅ子と服部良一のリズム音曲」でもサウンドやリズムは洋風、メロディーは和風という点が服部良一の特徴として描かれていました。
実際、服部良一の楽曲にはベタな演歌もある一方、ジャズやスウィングを取り入れた曲が目立ちますし、「バラのルムバ」「香港チャチャチャ」ではラテンのリズムを取り入れているほか、「東京べべ」という曲に至っては、サウンドは和製ブルースではなく、本場アメリカのブルースの要素すら感じさせる曲になっています。
ところが興味深いことに今回、Disc1に戦前の曲、Disc2に戦後の曲が並んでいるのですが、同じ作曲家の作品なのである意味当たり前と言えるのかもしれませんが、そこに作風の断絶はありません。戦前の曲にも淡谷のり子の「おしゃれ娘」や笠置シヅ子の「ラッパと娘」のような、ジャズやスウィングの要素の強い曲が並んでおり、決して洋風の作品が戦後に突然現れたわけではないことを物語っています。前述の「昭和ブギウギ 笠置シヅ子と服部良一のリズム音曲」の著者、輪島裕介は、同書での目的として「一九四五年の敗戦を決定的な文化的断絶とする歴史観への挑戦」をあげていましたが、奇しくもこのオムニバスアルバムは、戦前戦後に文化的にも連続性があったことを如実に物語る内容になっていました。
そういう意味でも戦前戦後の服部良一の代表曲が並んだ本作は、その戦前戦後の文化的連続性を感じされる非常に興味深い内容になっていたと思います。戦前戦後のヒット曲を知るには最適なオムニバスアルバム。これを機に、服部良一の世界に触れるにはピッタリの作品でした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
RESPECT ALL/AI
ちょうど1年半ぶりとなるAIのニューアルバム。全体的に彼女らしい力強いソウルチューンが特徴的。子供との関係を歌った「指を握る小さな手」など印象的だが、全体的に歌詞は前向きな応援歌的なものが多い印象を受けます。その点については好きな人は好きかもしれないのですが、若干、鼻白む印象も受けてしまう点も・・・。まあ、もともとこのタイプの曲は多かったので、その点も含めてAIらしいアルバムと言えるのかもしれないのですが。
評価:★★★★
AI 過去の作品
DON'T STOP A.I.
VIVA A.I.
BEST A.I.
The Last A.I.
INDEPENDENT
MORIAGARO
THE BEST
THE FEAT.BEST
和と洋
感謝!!!!! Thank you for 20 years NEW&BEST
IT'S ALL ME - Vol.1
IT'S ALL ME - Vol.2
DREAM
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2023年」カテゴリの記事
- 徐々に全貌があきらかに・・・(2023.12.29)
- AIを使った挑戦的な作品も(2023.12.23)
- SHISHAMOの魅力がより鮮明に(2023.12.19)
- あえてCDで出す(2023.12.18)
- 6年半のシングルが収録!(2023.12.16)
コメント