「戦後」を代表する2人の歌手
さて、先日の書籍の紹介で、NHK朝の連続テレビ小説「ブギウギ」の放送に合わせてリリースされた、笠置シヅ子と服部良一の評伝を紹介しましたが、日本コロムビアより、「笠置シヅ子とブギウギの時代」と題された企画CDがリリースされました。今回はそのうち、7月にリリースされた2作についての紹介です。
Title:笠置シヅ子の世界~東京ブギウギ~
Musician:笠置シヅ子
まずは大本命。笠置シヅ子の代表曲を収録した「笠置シズ子の世界」。このタイトルの付け方も、いかにも「昭和」っぽくていい感じですが、おなじみの代表曲「東京ブギウギ」からスタートし、先日紹介した評伝本で大絶賛されていた「買い物ブギー」をはじめ、彼女の代表曲が網羅されたアルバムとなっています。
Disc1は、その「東京ブギウギ」「買い物ブギー」をはじめ、このブギウギのイメージにのっかかった「〇〇ブギウギ」なる曲が並んでいます。「大阪ブギウギ」「博多ブギウギ」にさらには「名古屋ブギウギ」も。このうち「北海ブギウギ」はいままでSP盤が見つからなかったものがこのたび発見され、初のCD化となったそうです。一方、Disc2は「ボン・ボレロ」「タンゴ物語」「コンガラガッタ・コンガ」「ジャンケン・マンボ」など、やはり海外のリズムを取り入れた楽曲が並んでいます。
昨日紹介した「昭和ブギウギ 笠置シヅ子と服部良一のリズム音曲」では、服部良一の音楽に対する考え方として、メロディーは「民族」に固有のものと考え、外来のリズムに日本固有の旋律を融合させたような曲を多く作ってきたそうです。確かに、笠置シヅ子の曲を聴く限りだと、そんな服部良一の音楽的な方向性がもっともよく表れているのではないでしょうか。リズムは洋風なのに、メロディーは良くも悪くも歌謡曲というのが笠置シヅ子の曲の大きな特徴に感じましたし、また、この流れは、ともすればその後の日本のヒット曲に引き継がれ、J-POPと言われる曲も、このようなリズムとメロディーのチグハグさが大きな特徴になっているように感じます。
正直、「東京ブギウギ」のヒットを受けて出てきたご当地ブギは、歌詞に出てくる名所を入れ替えれば、すぐに違う街の歌になりそうな、粗製乱造的なつくりなのは否めません。ただ、その点を差し引いても、陽気なリズムは、どこか戦後すぐ、暗い戦時中から一転し、世間が明るさに包まれたような時代の空気も感じられました。ある意味、「戦後」を強く感じさせてくれるオムニバス盤でした。
評価:★★★★
そして、もう1作が、笠置シヅ子のライバルとも言われた淡谷のり子のコンピレーションアルバムとなります。
Title:淡谷のり子の世界~別れのブルース~
Musician:淡谷のり子
私くらいの世代だと、淡谷のり子といえば、フジテレビ系のものまね番組や、バラエティー番組などに出ていた「おばあちゃん」というイメージ。ただ、戦前から戦後にかけて活躍し、「ブルースの女王」と呼ばれており、「ブギの女王」と呼ばれた笠置シヅ子のライバル的存在だったそうです。
ライバルという意味では、確かに淡谷のり子と笠置シヅ子は実に対照的なように感じます。笠置シヅ子がブギウギのリズムで明るい雰囲気を醸し出している一方、淡谷のり子は哀愁たっぷりの曲を聴かせる楽曲が並びます。リズムを前に出している笠置シヅ子に対して、淡谷のり子は歌を前に出しているという点でも対照的。ちょっと極端な言い方かもしれませんが「陽」の笠置シヅ子に対して「陰」の淡谷のり子という言い方も出来そうです。
ただもうひとつ対照的に感じたのは、笠置シヅ子がブギウギのリズムで洋風的な装いをみせつつも、メロディーラインは日本土着のものというスタイルだったのに対して、淡谷のり子は哀愁たっぷりのムード歌謡曲の装いをみせつつも、メロディーラインからはどこか都会的、洋風な洒落たものを感じました。特にDisc2では海外の曲のカバーを披露しているのですが、全体的にブルースというよりはシャンソンの影響を感じる、都会的なあか抜けた楽曲が魅力的。淡谷のり子は生前、演歌などを嫌っていたそうですが、確かに彼女の歌う曲は、ムーディーでありつつも演歌とは明らかに一線を画しているように感じます。
そして今聴いても抜群に歌が上手いのが大きな魅力。特にビブラートを利かせつつ、感情を込めたボーカルは、今聴いても時代を超えて胸をうつものがあります。彼女の曲からももちろん「昭和」や「戦前」の空気を感じるのですが、ただその歌声は、間違いなく時代を超えた魅力を感じさせてくれました。
もちろん、いままでも戦前戦後のヒット曲の復刻版を多く聴いてきていましたので、淡谷のり子の魅力は知っていましたが、このオムニバスではあらためて彼女の実力を強く感じることが出来ました。時代を超えてお勧めできるアルバムです。
評価:★★★★★
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