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2023年9月19日 (火)

「謎」のシンガーの人柄も垣間見れる貴重なライブ音源

Title:FM東京パイオニア・サウンドアプローチ実況録音盤
Musician:森田童子

1970年代後半から80年代前半にかけて活動したシンガーソングライター、森田童子。ただ、彼女の奏でるフォークソングは、彼女がデビューした段階では既に下火になっており、彼女自身、メディアにもほとんど登場しないばかりか、本名非公開で、実生活も謎につつまれており、一部でカルト的な人気を獲得するにとどまりました。一方で彼女の楽曲「ぼくたちの失敗」がテレビドラマ「高校教師」の主題歌に起用され、大ヒットを記録。それまで知る人ぞ知る的存在だった森田童子の名前を、一躍有名にしました。おそらくアラフォー世代以上にとっては、そのヒットによって彼女の名前は強く印象に残っていることでしょう。

その「ぼくたちの失敗」の大ヒットから早くも30年という月日が経過しました(!)。その間も森田童子自体は表に出てくることは全くなく、ただ一度、2003年にリリースされたベストアルバムに過去作のリメイクが新規録音として収録されたことがあったそうです。その後2018年に、66歳という、まだ早い年齢での逝去というニュースが飛び込み、音楽ファンにショックが走りました。

本作は、1978年に、FM東京、現在のTOKYO FMの人気番組「パイオニア・サウンドアプローチ」にゲストで登場し、ライブを披露した時の貴重なライブ音源。このたび、初のCD化となっています。冒頭の番組司会者のMCも収録されているほか、なにより貴重なのは、森田童子本人のMCもそのまま収録されている点でしょう。ほとんどメディアに登場することもなく、公表されている写真も、カーリーヘアにサングラスという、素顔がほとんど不明な彼女なだけに、「素」の部分を垣間見ることが出来るMCを、まずは興味深く聴くことが出来ました。

そんなMCは、声こそ歌声と同様のハイトーンでか細い声なのですが、思ったよりもしっかりとトークしていて、「明るい」とまでは感じなかったのですが、思ったよりは「社交的」な部分も感じました。森田童子の一人の人間的な部分も感じられる貴重な音源だったように思います。

一方、肝心の曲の方ですが、まず録音状況は決して悪くはないものの、FMでの録音ということを考えると、決して良くはない、といった音源となっています。ライブを楽しむには許容範囲内だとは思うのですが。そして楽曲の方は、デビュー作である「さよならぼくのともだち」を含む全7曲。「ぼくたちの失敗」は残念ながら収録されていません。基本的にアコースティックギターで切なく聴かせるフォーキーな作風は7曲とも共通。派手さはないのですが、メロディーラインはしっかりとフックもあって、「ぼくたちの失敗」のヒットにつながるようなポピュラリティーも感じられます。そして何よりも歌詞のインパクトが大きく、どこか郷愁感を覚えさせつつ、喪失感を覚えるような歌詞が特徴的。率直に言うと、かなり暗い歌詞なのですが、そういう歌詞が彼女がリアルタイムで活動していた70年代後半から80年代には受け入れられなかった一方、バブル経済がはじけて不景気となり、社会全体がなんとなく喪失感を覚えていたような(とはいえ今と違ってまだまだ社会全体に「余裕」があった)1996年という時代には受け入れられたのでしょうか。

そんな訳で、非常に貴重な音源でもありますし、またいろいろな意味で森田童子というミュージシャンについて知ることの出来るアルバムだったと思います。リアルタイムで森田童子を知っていた人、1996年の「ぼくたちの失敗」で彼女を知った人、いずれもチェックして損のないアルバムだと思います。

なお、森田童子に関しては昨年、彼女の評伝本がリリースされる予定となっていました。しかし「遺族の許諾を得た」と謳っていた同書が、実は遺族の許諾を得ていなかったことで問題となり、発売が事実上中止となってしまいました。同書の付録CDとして「FM東京『サウンドアプローチ』より7曲収録」という紹介をされていましたので、発売元も一緒ですし、おそらく、日の目を見ることのなくなった評伝本の付録CDが、別途、独立したアルバムとしてリリースされたものでしょう。ただ、その騒動の時に、女性セブンの取材に対して、TOKYO FM広報部が「番組使用申請があったと把握していない」と回答しています。こうやってCDリリースされたということは、無事、使用申請があって許諾された、ということなのでしょうか。前歴があるだけに、かなり気になります。宣伝も積極的に行われていないようですし、ひょっとして使用許諾が正式に取られていない見切り発車でのリリースじゃないでしょうね・・・。

そんなこともあって、ひょっとしたら「気になるのならお早めに!」になるのかもしれません。貴重な音源なだけに、ちゃんと各所に許諾を得たライブアルバムであることを願いたいのですが。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

マ人間/新しい学校のリーダーズ

最近、急激に注目を集めている女性4人組パフォーマンスグループ、新しい学校のリーダーズ。4月にEP盤「一時帰国」をリリースしたばかりですが、それから4カ月、早くもリリースされた新作が本作です。基本的に昭和歌謡曲を彷彿とさせるメランコリックなメロディーラインが特徴的・・・なのですが、正直言って、全体的にワンパターン。それなりにしっかりと聴かせるメロディーではありますし、彼女たちの場合、パフォーマンス含めての評価なので、音源だけだと不十分なのかもしれませんが・・・。ただ、それでも前作「一時帰国」は、マイナス点を上回るだけの勢いを感じただけにちょっと残念。急激にブレイクしたので、今のうちに売っておきたい、という気持ちが裏目に出てしまったような。

評価:★★★★

新しい学校のリーダーズ 過去の作品
一時帰国

星屑たち/堀込泰行

Hoshikuzutati

新曲「涙は星屑のように」と、セルフカバー4曲で構成された全5曲入りのEP盤。プラネタリウムライブツアー「LIVE in the DARK tour」のために集まった編成でレコーディングされた作品だそうで、アコースティック主体の作品に、まさに星空の下で聴くにはピッタリのメランコリックながらも優しく、暖かい楽曲が印象的。唯一の新曲「涙は星屑のように」も聴いていて暖かい気持ちになってくる楽曲になっており、メロディーメイカーとしての才能を感じさせる作品となっています。プラネタリウムライブ、ノーチェックだったのですが、気持ちよかっただろうなぁ。機会があれば行きたかったな。

評価:★★★★★

堀込泰行 過去の作品
River(馬の骨)
"CHOICE" BY 堀込泰行
One
GOOD VIBRATIONS
What A Wonderful World
GOOD VIBRATIONS 2
FRUITFUL

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