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2023年9月25日 (月)

バンドの実力を感じさせる傑作

Title:大人の涙
Musician:マカロニえんぴつ

フルアルバムとしての前々作「hope」、前作「ハッピーエンドへの期待は」で続けざまに傑作をリリースしてきたポップバンド、マカロニえんぴつ。正直、その前にリリースされたアルバム「season」や、その間にリリースされたミニアルバムの出来は決して良くはなかったこともあって、率直な感想としては、前の2作はバンドとしての勢いによってつくられた作品・・・という評価でした。そして、それに続く約1年7ヶ月ぶりの新作となる本作。これが先の2作に勝るとも劣らない傑作アルバムに仕上がっていた日には、もう、これがマカロニえんぴつとしての実力と言わざるを得ないでしょう。マカロニえんぴつとしてのポップミュージシャンとしての実力を感じる作品となっていました。

序盤から、どの曲もシングルカットできそうなポップでインパクトある楽曲が続くのですが、前半で特に核になっていたのが「ペパーミント」でしょうか。サビ先のインパクトあるポップスなのですが、明るさを感じるポップの中に隠し味のように切ないフレーズが混ざっているあたりが印象に残ります。さらにこれに続く「ネクタリン」もポップなメロがインパクトある作品。Eテレ「天才てれびくん」テーマ曲のセルフカバーで、子供が見ている関係で原曲を何度も聴いているのですが、マカロニえんぴつバージョンも思った以上に違和感ないどころか、しっかりと彼らの新たな代表曲になりそうなセルフカバーに仕上がっています。

その後も切ないメロと歌詞が印象に残る「リンジュー・ラヴ」や打ち込みのリズムを入れつつ、メランコリックなメロを聴かせる「だれもわるくない」、歌謡曲的な哀愁メロを聴かせてくれる「TIME」、メロディアスなギターロックチューン「星が泳ぐ」とインパクトあるポップチューンは続いていきます。特に後半に関しては、ポップなメロに主軸を置いたシンプルなナンバーの並んだ前半と比べると、音楽的にもバリエーションある楽曲が並ぶのも特徴的。前述のように打ち込みを入れた「だれもわるくない」、歌謡曲風の「TIME」はもちろん、「Frozen My Love」ではパンクロックにも挑戦しています。ラストを飾る「ありあまる日々」はアコギ1本で聴かせるフォーキーな楽曲に。録音状態もデモ音源的なラフな録音となっており、このいい意味での生々しさもひとつのインパクトとなっています。

ただ、この中盤に配された「嵐の番い鳥」はちょっと違和感。ガールズロックバンド、ヤユヨのボーカリスト、リコをゲストに迎えた男女デゥオのナンバーなのですが、ベタなムード歌謡風のノヴェルティーソング。この手のノベルティーソングをアルバムの中に入れてくるのも彼らの特徴なのですが、ちょっと異質すぎて、アルバムの流れを邪魔しているような・・・。最後にボーナストラックやシークレットトラック的に入れた方がよかったようにも思います。

一方、いい意味で異質なものに感じたのはアルバムの冒頭を飾る「悲しみはバスに乗って」で、メロディーラインこそ彼ららしいポップなものなのですが、「死」を織り込ませつつ、生きることの意味を問うような歌詞が印象的で、ポップバンドとしてはあきらかにヘヴィーな作品。こういった曲をアルバムの最初に配してくるあたり、バンドとしての挑戦心や自信のようなものを感じますし、バンドとしての深みを感じさせる構成にもなっているように感じました。

全体的にはシンプルなポップソングにルーツレスな楽曲、サビ先だったり転調だったりも用いた良くも悪くもJ-POP的な要素も強い作品なのですが、一方でメロディーラインは決して派手はないもののメロディーラインの展開でしっかりと聴かせる良質な歌を聴かせてくれますし、ほどよいバリエーションにもミュージシャンとしての音楽性の幅も感じさせます。なによりも歌を聴かせるポップチューンが並ぶだけに最後までワクワクしながら聴きとおすことの出来たアルバムで、個人的には年間ベストクラスの傑作アルバムに仕上がっていたと思います。

ただ、アルバムの出来と反比例して、売上的には前々作から下落傾向なのは気になるところ。確かに派手なわかりやすさがない分、なかなかシングル単位でのヒットが続かないのかもしれませんが、これだけの傑作をリリースし続ければ、また人気が再燃する日は近いような気がします。彼らの実力を存分に感じた傑作でした。

評価:★★★★★

マカロニえんぴつ 過去の作品
season
hope
愛を知らずに魔法は使えない
ハッピーエンドへの期待は
wheel of life

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