「こぶし」の魅力をこれでもかというほど感じる2枚
Title:中村とうようの「世界こぶし巡り」+「こぶし地帯を行く」
音楽評論家の中村とうようが、生前に企画・編集を行ったオムニバスアルバムについて、彼の13回忌を機に復刻を行う再発企画。第1弾は「ボサ・ノーヴァ物語」、第2弾は「大衆音楽の真実」と、それぞれ当サイトでも紹介してきましたが、本作はその第3弾であり、最終版となります。今回は、ワールドミュージックの中でも一種特徴的とも言える「こぶし」にスポットをあてた2枚の企画盤。「世界こぶし巡り」は1995年、「こぶし地帯を行く」は1996年にリリースされたアルバムとなります。
第2弾「大衆音楽の真実」を聴いた時に、大衆音楽の最終的な魅力はやはり「歌」と「リズム」であると感じました。そう考えた時に、「歌」の魅力である「こぶし」に行きつくというのは、ある意味、自然な流れなのかもしれません。もっとも、中村とうよう自身が、そう考えたからこそ、「大衆音楽の真実」ではその考えに沿った構成となり、それを聴いた私が、中村とうようのある意味術中にはまり、「歌」と「リズム」が重要と考えるに至った、という流れなのかもしれませんが・・・。
今回再発された「世界こぶし巡り」と「こぶし地帯を行く」。「世界こぶし巡り」は「こぶし」にスポットをあてた上で、世界中の様々な音楽を1枚のCDに収録しています。一方、「こぶし地帯を行く」に関しては、中村とうよう自身が「こぶしの本場」と考えている西アジアから東南アジアの地域に絞った選曲となっています。
まず、企画としての面白さを感じるのは断然、「世界こぶし巡り」の方でした。非常にユニークなのが、テレサ・テン、江差追分、アフリカの音楽、アラブの音楽、さらにはライトニン・ホプキンス、サラ・ヴォーン、オーティス・レディングなどが1つのアルバムに並んで収録するという大胆さに感心させられます。一言で「こぶし」といってもテレサ・テンのようなちょっと妖艶さも感じる「こぶし」から、江差追分のような、日本人にとっておなじみの民謡の「こぶし」、ナイジェリアのヨルバ人によるトライバルな「こぶし」を聴かせる「エッベ・オロウォ・フォバジェ」、ビブラートをこれでもかというほど効かせたイランの歌手、ゴルバによる「悲しい歌」、「こぶし」というよりも淡々と語るようなボーカルが印象的なライトニン・ホプキンスなどが並び、おなじみオーティス・レディングの「愛しすぎて」は、この流れで聴くと、非常に洗練されたものを感じさせます。様々なタイプの音楽が並ぶだけに、一言で「こぶし」と言っても、いろいろなバリエーションがある点に気づき、とても興味深さを感じる構成になっています。
一方、やはり純粋にボーカルのすごさ、魅力を感じるのは「こぶし地帯を行く」の方でしょうか。基本的にアラビア風の曲がメインであり、バリエーションという観点からすると乏しいのですが、こぶしに感情を絶妙にのせたボーカルの妙に耳が行く作品が数多く収録されています。人間は声だけで、これだけ表現が出来るのか、ということを感じさせられる内容になっていました。
人間の声が持つ魅力を、これでもかというほど感じさせてくれる2枚。楽曲的には古い曲が多いのですが、あくまでも「声」の魅力は普遍的。そのため、時代を超えた魅力を感じることも出来る作品でした。ワールドミュージックが好きなら、文句なしにお勧めできる企画盤です。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
10 Tracks to Echo in the Dark/THE KOOKS
イギリスのロックバンドによる約4年ぶりとなるニューアルバム。もともと、ブリットポップからの影響を受けたようなシンプルなギターロックが持ち味だったものの、前作「Let's Go Sunshine」では「アイドルポップか?」というほどの爽やかなポップ路線にシフト。本作も、メロディーこそメランコリックなものの、ニューウェーヴの影響を受けたようなアレンジの、ちょっとアイドルっぽいポップソングとなっており、そういう意味では前作からの踏襲となっているようなアルバムになっています。ポップなメロはそれなりに魅力的なので悪いアルバムではないのですが、やはり個人的には昔のようなギターロック路線を聴きたいのですが・・・。
評価:★★★★
THE KOOKS 過去の作品
Konk
Junk of the Heart
The Best of...So Far
Let's Go Sunshine
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