ロックスターの本性が知れる1冊
本日は、最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。
なかなか刺激的なタイトルの新書版。「不道徳ロック講座」。音楽ライターの神舘和典による書籍。ロックミュージシャンは昔からスキャンダルとは切っても切り離せない存在です。さすがに今となってはあまり容認されなくなりつつありますが、昔はロック=不良といったイメージもあり、ロックミュージシャンはスキャンダルがあってこそ一流、くらいの見方もありました。この本は、そんなロックミュージシャンたちの過去の不道徳なエピソードをまとめたもの。「性」「薬」「酒」「貧乏」の4項目にわけて、それぞれ過去のロックスターたちの不道徳なエピソードを次々と紹介しています。
私は過去のロックの名盤をいろいろと聴いて、いわばロックやポピュラーミュージックの「お勉強」をしていますが、そのような時に読んでみる「名盤集」や「ロックの歴史」的な本には、そのようなスキャンダラスなエピソードは、軽くさわり程度は触れてきますが、基本的にはあまり記載されていません。ただ一方で、ミック・ジャガーの「性」にまつわるエピソードや、キース・リチャーズの「薬」に関するエピソードなど、「話題のネタ」になるような場合も少なくありません。そんなエピソードもやはり知ってみたいな、と思ったのが、今回、この本を手に取った理由です。
そんなこともあって、基本的には軽い気持ちで不道徳なエピソードに触れられればいいかな、と思ったのですが、これが思った以上に興味深いエピソードが並ぶ1冊となっていました。不道徳なエピソードと書いていますが、ここで取り上げられているエピソードはいずれもミュージシャンたちのプライベイトにまつわるエピソード。彼らの最も「素」の部分とも言える訳で、そんな「素」の部分のエピソードなだけに、ミュージシャンの本来の人となりに触れることが出来るような出来事が並んでいます。
例えばキース・リチャーズは薬に関するエピソードなどもあり、破天荒なイメージがあったりするのですが、恋愛に関しては意外と一途な側面があり、意外なピュアさを感じたり、また、薬物乱用がひどくなった理由として、わずか2ヶ月の息子を亡くしてしまったことがきっかけだった話では、胸がつまるような気持ちになりました。
また、エリック・クラプトンに関して、詐欺師まがいの女性の怪しげな呪術にだまされているエピソードも印象的。「現代日本ならオレオレ詐欺にだまされるケース」と書いていますが、クラプトンといえば、かつては黒人差別な発言をして問題になったり、最近では反コロナワクチンに傾倒したり(最初に射ったワクチンの副反応がかなり酷かったのがきっかけという同情すべき事情はあるのですが・・・)とどうも、あまり深く物事を考えないような、軽はずみな言動も目立ちます。一方、ピンチになった時には、たびたび、救いの手が差し伸べられるらしく、そこらへんは人柄なんだろう、と本書でも書かれています。ロック界の大レジェンドにこういう表現をするのは申し訳ないのですが、「愛すべきお馬鹿さん」といった感じなんでしょうね。
他にもユニークなエピソードがたくさんつまった本書は、まさにロックミュージシャンたちの本質的な人柄を感じさせる1冊。タイトルと言い内容と言い、ともすれば「とんでも」になりそうな内容なのですが、実際はミュージシャンたちの人となりを率直に感じられる1冊となっており、むしろロックファンならば読んでおきたい1冊とも言えるくらいの内容になっていました。
ただ、ちょっと残念だったのは、基本的にこれらのエピソードはミュージシャン個々人の自伝(もしくはそれに類するもの)からの抜粋だったということ。もちろん、それぞれ分厚い様々なミュージシャンの自伝から、不道徳なエピソードを抜粋するだけでもそれなりの作業だとは思うのですが、ただ、当時のインタビュー記事とか、もうちょっと突っ込んだリサーチもプロのライターならば、実施してほしかったかな、とは思いました。
また、基本的に取り上げられるのは60年代から、せいぜい80年代までのロックスターだったという点もちょっと残念。90年代以降も、それこそピート・ドハーティやエイミー・ワインハウスなどスキャンダルなエピソードを持ったミュージシャンたちも少なくないため、もうちょっと最近の出来事まで取り上げてほしかったな、とは思いました。
その点を差し引いても、ロックスターの本性が知れる興味深い作品。どぎついエピソードも多いので、その点は若干、読む人を選ぶ部分もあるのですが、「性」や「薬」の話が苦手・・・という方でなければ、読んでみてほしい1冊でした。
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