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2023年9月 9日 (土)

著者による果敢な挑戦も行われた1冊だが

今回は、最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

近代音楽史研究家、輪島裕介による笠置シヅ子の評伝「昭和ブギウギ 笠置シヅ子と服部良一のリズム音曲」。今年10月からスタートするNHK朝の連続テレビ小説「ブギウギ」は、主に戦後すぐに活躍し、「ブギの女王」と言われた笠置シヅ子をモデルとした話。その影響もあり、笠置シヅ子がらみのCDや書籍が多く販売されていますが、本書もそんな時流に乗って販売された1冊です。

著者の輪島裕介は、以前も当サイトで紹介した「創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史」「踊る昭和歌謡」の著者であり、いずれの書籍も話題となり注目を集めた研究家。ともすれば「年寄りの思い込み」と「イメージ論」で支配されがちな戦前戦後の昭和歌謡を、具体的なデータに基づいた客観的な分析が高い評価を得ていますし、私もいずれの書籍も非常に読んでいて勉強となったため、今回の書籍についても手を伸ばしてみました。

本書は、基本的に笠置シヅ子の歌手としての半生を描いているのですが、同時に、彼女の音楽を多く手がけた作曲家の服部良一についても、笠置シヅ子との関係について、より多くの書面を割いて紹介、分析を行っています。特に第7章の「服部は『ブギウギ』をどう捉えていたか」については非常に力作とも言える分析になっており、ここで輪島は、服部について必ずしも一方的に絶賛しておらず、当時の流行歌を否定的にとらえていた傾向や、リズムに関しての単純な服部の見方に対して批判も加えています。ここらへんの冷静な分析は非常に興味深く読むことが出来ました。

ただ、本書は、輪島が書いたいままでの2冊に比べると、大胆な分析はちょっと控えめだったように感じます。特に彼は序章において、「挑戦したい暗黙の前提」として

「一、一九四五年の敗戦を決定的な文化的断絶とする歴史観への挑戦
二、東京中心の文化史観に対する挑戦
三、『洋楽』(≒西洋芸術音楽)受容史として近代日本音楽史を捉えることへの挑戦
四、大衆音楽をレコード(とりわけ『流行歌』)中心に捉えることへの挑戦」

を上げていますが、本書に関して言えば、いずれも中途半端に終わってしまったかな、とも感じます。それはいずれも、本書で取り上げているのが笠置シヅ子(そして、彼女が歌った曲をつくった作曲家としての服部良一)の1つの例のみにスポットをあてているため、その一例だけで、彼が挑戦したい前提を完全に崩すまでには至っていないように感じました。

もともと、このいずれの挑戦も、1つのテーマだけで余裕で本が1冊かけるだけの内容。その挑戦を行いつつ、かつ笠置シヅ子の半生を描き、さらには服部良一にまで手を伸ばした本書は、結果として正直なところ、ちょっといずれも中途半端になってしまったかな、とも感じてしまいました。

そう考えると、目からうろこが落ちたいままでの彼の2冊と比べると、ちょっと物足りなさも感じてしまったのは事実です。ただ一方、笠置シヅ子の半生という観点からすれば、それなりにまとめられており、非常に楽しく読むことが出来ました。そういう意味では、連続テレビ小説の副読本的にはピッタリとも言えるかもしれません。

そんな訳で、これから10月以降、連続テレビ小説スタートに合わせてさらに話題となりそうな笠置シヅ子。本書もそうですが、それに合わせてCDもリリースされており・・・次回は、そのCDについての紹介及び感想を予定しています!

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