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2023年9月

2023年9月30日 (土)

実に11年ぶり(!)のオリジナルアルバム

Title:Infinity
Musician:BONNIE PINK

「Heaven's Kitchen」や「A Perfect Sky」のヒットでおなじみのシンガーソングライターBONNIE PINK。最近、ちょっとその名前を聞かないな、と思っていたら、結婚・出産により活動休止状態となっていたようで、このアルバムはオリジナルアルバムとしては、2012年にリリースされたアルバム「Chasing Hope」以来、実に約11年ぶりとなるニューアルバム。久々となる新作となりました。

そんな、しばらくシーンからも遠ざかっていた彼女の久々となる新作。以前のアルバムにしても決して勢いのある傑作といった感じではありませんでしたし、この最近にしても決して目立ったヒット曲が収録されている訳ではありません。ただ、今回のアルバムは、洋楽テイストの強い爽やかなポップソングをベースとして、様々な音楽性をちりばめられている、BONNIE PINKらしい傑作に仕上がっていました。

冒頭を飾る「Spin Big」はまさに彼女らしい爽やかで明るいポップチューン。化粧品のCMあたりにピッタリと来そうな(?)作風になっていますし、「世界」は曲の中にちょうどよいインパクトとして入っているブルースの要素が、「宝さがし」はフォーキーな作品と、それぞれ洋楽的な要素も強い音楽性を感じさせます。

その後も「Control」ではロック的な要素が、「Irish Coffee」ではメロウなソウルの要素も取り入れ、さらに「Butter」ではファンキーなリズムが心地よい作品に。さらに「エレジー」ではピアノも入った分厚いサウンドでスケール感を持って聴かせるナンバーに。ラストを飾る「infinity」では再びメロウに歌い上げる楽曲と、最後まで様々な音楽性を聴かせつつ、アルバムは幕を下ろします。

前述のように決して派手さはありません。これといってインパクトのある核となるような曲もありません。ただ、全体的に爽やかで垢ぬけた洋楽テイストの強いポップスが流れ、その中でも様々な音楽性を聴かせてくれる構成となっており、最後まで飽きさせません。最近は女性ソロポップシンガーが数多くデビューしていますが、決して派手ではない曲調でここまでしっかりと聴かせてくれるという点で、ベテランらしい圧倒的な実力を感じさせてくれました。

久しぶりにBONNIE PINKのアルバムを聴いて、あらためて彼女が優れたシンガーソングライターであることを実感した1枚。また、彼女の魅力についても再認識することが出来ました。なにげにすでにデビューから27年目という彼女ですが、これからの活躍も楽しみです。

評価:★★★★★

BONNIE PINK 過去の作品
CHAIN
ONE
Dear Diary
Back Home-BONNIE PINK Remakes-
Chasing Hope


ほかに聴いたアルバム

HERE&NOW/ゴスペラーズ

ゴスペラーズの新作は5曲入りのミニアルバムなのですが、今回、5曲共に、他のミュージシャンから楽曲提供を受けた作品。それも若手の、新進気鋭のミュージシャンたちからの提供を受けており、さらに1曲については一般公募という、ある意味挑戦的な試みとなっています。ただ、ちょっと残念なのは、その結果が、全く新しいゴスペラーズというよりは、比較的ゴスペラーズのイメージ通りといった印象を受ける曲となっており、目新しさはあまり感じません。やはり提供するのが、若手ミュージシャンだとどうしてもゴスペラーズのイメージに寄り添ってしまう曲になりがちですよね。もうちょっといつものゴスペラーズと大きく異なる曲を聴きたかった感もあるのですが。

評価:★★★★

ゴスペラーズ 過去の作品
The Gospellers Works
Hurray!
Love Notes II
STEP FOR FIVE
ハモ騒動~The Gospellers Covers~
The Gospellers Now
G20
Soul Renaissance
What The World Needs Now
G25 -Beautiful Harmony-
アカペラ2
The Gospellers Works 2

懐かしい月は新しい月 Vol.2~ Rearrange & Remix works ~/サカナクション

2015年にリリースしたカップリング&リミックスアルバム「懐かしい月は新しい月 〜Coupling & Remix works〜」の第2弾となるアルバム。Disc1は「月の現 ~Rearrange works~」と題され、メンバーのうち、山口一郎を除く4人によるリアレンジアルバム、Disc2は「月の幻 ~Remix works~」と題され、CorneliusやFloasting Pointsなど豪華なミュージシャンによるリミックスアルバムとなっています。全体的にはエレクトロサウンドをベースとした実験的な作風に。正直、原作の新たなイメージを引き出したような驚かされるほどのアレンジはなく、全体的には良くも悪くも「良く出来た」感のある内容に。前作同様、ファンにとっては面白さを感じそうですが、どちらかというとファンズアイテム的な様相の強いアルバムになっていました。

評価:★★★★

サカナクション 過去の作品
シンシロ
kikUUiki
DocumentaLy
sakanaction
懐かしい月は新しい月~Coupling&Remix works~
魚図鑑
834.194
アダプト

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2023年9月29日 (金)

無難にまとまったソロ2作目

Title:Steppin' Out
Musician:KIRINJI

KIRINJIとしては約1年10か月ぶりとなるニューアルバム。デビュー当初から堀込兄弟のデゥオとして活動を進めていたキリンジが、メンバー堀込泰行のまさかの脱退を経て、バンドKIRINJIに。さらに堀込高樹以外のメンバーが脱退したことによりソロプロジェクトとなり・・・とその活動のスタイルを変え、今回のアルバムは堀込高樹のソロプロジェクトとなってから2枚目のアルバム。前作との間には新レーベル「syncokin」を設立し、本作は新レーベル設立後、初となるアルバムとなります。

バンド時代のKIRINJIは、兄弟デゥオ時代とは異なるバンドサウンドを前に出してきた作風が特徴的でした。そして前作「crepuscular」はバンドという枠組みを外れ、ソロミュージシャンとなったことにより、自由度の増した傑作に仕上がっていました。それに対して今回のアルバムは、基本的にはKIRINJI、というか堀込高樹らしいメロウなソウルチューンが並ぶアルバムになっていました。

「Runner's High」は文字通り、マラソンの際に生じる高揚感を曲にしたナンバーで、メロウなエレクトロソウルチューン。歌詞の中に出てくる「新しいスタジアム/切り倒された街路樹」という歌詞は、最近ニュースになっている神宮外苑の再開発を意識したものでしょうか?「nestling」は軽快で疾走感のあるナンバー。テレビ東京系ドラマ「かしましめし」の主題歌にもなった曲ですが、ドラマ主題歌らしいインパクトあるポップチューンとなっています。

中盤の「ほのめかし」は最近話題の韓国のバンド、SE SO NEONとのコラボ。HIP HOP的な要素も加わったメロウでドリーミーな作風が印象的。「I ♡ 歌舞伎町」はこちらも軽快でメロウなナンバーなのですが、歌舞伎町の今を描写した歌詞が意外とヘヴィーな内容なのが印象に残ります。そしてラストを飾る「Rainy Runway」はホーンセッションも入った、こちらも軽快でメロウなソウルチューン。最後までKIRINJIらしいナンバーで幕を締めくくります。

そんな感じで最初から最後までKIRINJI堀込高樹らしい曲が並ぶ今回のアルバム。1曲1曲のクオリティーは文句なしで、この点はさすがといった感じはします。ただ、ここ最近、挑戦的な作品が続き、バラエティー豊富な曲が並んでいたKIRINJIのアルバムの中では、全体的に無難といった印象を受けてしまいました。良くも悪くも昔ながらのKIRINJIといった感じで、目新しさはなく、インパクトという面でもかつての堀込高樹らしい、口語体の強い文体の独特な歌詞は少なく、ちょっと物足りなかったような印象も。様々な挑戦を続けたので、ここに来て少し原点に戻ったアルバムと言えるかもしれません。ただ、アルバムとしてのクオリティーは申し分ないのですが、ここ最近の挑戦的だったKIRINJIの作品の中ではもう一歩といった印象を受けるアルバムでした。

評価:★★★★

キリンジ(KIRINJI) 過去の作品
KIRINJI 19982008 10th Anniversary Celebration
7-seven-
BUOYANCY
SONGBOOK
SUPERVIEW
Ten
フリーソウル・キリンジ
11
EXTRA11
ネオ
愛をあるだけ、すべて
Melancholy Mellow-甘い憂鬱-19982002
Melancholy Mellow II -甘い憂鬱- 20032013
cherish
KIRINJI 20132020
crepuscular


ほかに聴いたアルバム

5am/milet

MAN WITH A MISSIONとのコラボ曲「絆ノ奇跡」がアニメ「鬼滅の刃」オープニングテーマに起用され、ロングヒットを起用したmiletのニューアルバム。同曲は残念ながら未収録なのですが、同じくMWAMとのコラボで「鬼滅の刃」エンディングテーマだった「コイコガレ」が収録。この曲も含めて、前半はかなりロック色の強いアルバムに仕上がっています。一方後半はメランコリックに歌い上げるような作風の曲が多い本作。以前から同様、J-POPらしい無駄に分厚い仰々しさを感じさせるアレンジは同様ながらも、それに負けない力強いボーカルはやはり魅力的。前作同様、サウンドについてはもうちょっと交通整理をした方がよいと思うのですが。

評価:★★★★

milet 過去の作品
eyes
Who I Am
visions

聖飢魔Ⅱ 期間再延長再集結「35++執念の大黒ミサツアー -大阪-」/聖飢魔Ⅱ

1999年の解散後も、たびたび再結成を行っているヘヴィーメタルバンド聖飢魔Ⅱ。2020年に地球デビュー35周年を記念して再集結する予定だったものの、コロナ禍で大黒ミサツアー(ライブツアー)が延期になりました。そしてその後、2022年によりようやく実施できた、タイトル通り「執念の大黒ミサツアー」の中から大阪での大黒ミサ(ライブ)の模様を収録した大教典(アルバム)。もともと、その演奏には定評のあった彼らだけに、演奏自体は文句なしの迫力。途中にはMCも収録されているのですが、こちらもユニークで楽しく聴かせます。細かい点まで悪魔であることに拘った構成も非常に楽しく、熱烈な信者ではなくても黒ミサに足を運びたくなるようなそんな大教典でした。

評価:★★★★★

聖飢魔Ⅱ 過去の作品
XXX-THE ULTIMATE WORST-
BLOODIEST

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2023年9月28日 (木)

ほぼK-POPばかり・・・

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

ここ最近、K-POP勢の目立つアルバムチャートとなっていましたが、今週は10枚中7枚までK-POP系というチャートとなっています。

まず1位はJO1「EQUINOX」。吉本興業と韓国のCJ ENMの合弁会社LAPONEエンタテイメント所属の和製K-POPグループ。CD販売数及びダウンロード数で1位を獲得し、総合順位も1位。オリコン週間アルバムランキングでは初動売上22万5千枚で1位初登場。前作「KIZUNA」の初動26万1千枚(1位)からダウンしています。

2位は韓国の男性アイドルグループRIIZE「Get A Guitar」が7位からランクアップし、3週目にしてベスト3入りを果たしています。CD販売数が7位から2位にアップ。オリコンでも今週2位にランクインしています。

3位はこちらも韓国の男性アイドルグループTREASURE「Reboot」が先週と同順位をキープ。2週連続のベスト3ヒットとなっています。

続いて4位以下ですが、こちらも4位Stray Kids「Social Path(feat.LiSA)」、5位V「Layover」、6位NiziU「COCONUT」、9位NCT「Golden Age」と、和製K-POPグループのNiziUも含めてK-POP系がズラリと並ぶ結果に。ビルボードチャートの普及によって、以前のようにシングルCDを大量に販売してヒットを演出する手法が取れなくなり、アイドルの市場がアルバムに移った結果でしょうか。アルバムというアイテムがアイドルグッズになりつつあるような感もあり、今後の音楽文化がどうなってしまうのか、考えさせられます。もっとも、非アイドルのミュージシャンも普通にアルバムを制作し続けていますので、アルバムという文化は簡単には終わらないのかもしれませんが。

そんな中で初登場は7位に蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ 「夏めきペイン」がランクイン。アニメキャラによるアイドルプロジェクト「ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ」に登場する架空のアイドルグループ。CD販売数6位、ダウンロード数10位。オリコンでは初動売上1万枚で7位初登場。前作「Dream Believers」の初動9千枚(5位)から微増となっています。

8位初登場はDouble Face「あんさんぶるスターズ!!アルバムシリーズ 『TRIP』」。女性向け男性アイドル育成ゲーム「あんさんぶるスターズ!」に登場する架空のアイドルユニットによるアルバム。CD販売数7位、ダウンロード数18位。オリコンでは初動売上7千枚で10位初登場。同シリーズの前作、Ra*bits「あんさんぶるスターズ!!アルバムシリーズ『TRIP』」の初動8千枚(9位)からは若干のダウンとなっています。

最後10位には、こちらは日本のアイドルグループ、フィロソフィーのダンス「One Summer Dream」がランクイン。CD販売数10位。オリコンでは初動売上6千枚で11位初登場。オリコンでは初動売上6千枚で11位初登場。前作「愛の哲学」の初動7千枚(8位)より微減。

今週のHot Albumsは以上!チャート評はまた来週の水曜日に!

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2023年9月27日 (水)

3週目にして1位獲得!

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

チャートインから3週目にして見事1位獲得です。

Ado_show

今週1位にはAdo「唱」が先週の3位から2ランクアップして、ランクイン3週目にして1位獲得となりました。ダウンロード数3位、YouTube再生回数2位は先週から変わらず。ラジオオンエア数は6位から8位と若干のダウン。一方、ストリーミング数は3位から1位にアップし、今回の1位の大きな要因となっています。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのハロウィンイベント「ハロウィーン・ホラー・ナイト」とのコラボ楽曲とタイアップ効果としてはさほど大きいとは思わないのですが、インパクトあるEDMチューンという楽曲自体の影響でしょうか、見事1位獲得となっています。

2位はYOASOBI「アイドル」が先週と同順位をキープ。YouTube再生回数は4位から3位にアップ。カラオケ歌唱回数も18週連続の1位となりましたが、ダウンロード数は6位から8位にダウン。さらに先週1位に返り咲いたストリーミング数は今週、Adoに押し出される形で2位にダウンしています。これで24週連続のベスト10ヒットとなりました。

3位は先週4位だったKing Gnu「SPECIALZ」が2週ぶりにベスト10返り咲き。ダウンロードすは4位から5位、ストリーミング数は2位から3位にダウンと、全体的に下落傾向となっているものの、先週までランク圏外だったYouTube再生回数が今週5位にランクインし、総合順位はワンランクアップとなっています。

続いて4位以下の初登場曲ですが、5位にはジャニーズ系男性アイドルグループSexy Zone「本音と建前」がランクイン。CD販売数1位、ラジオオンエア数21位、YouTube再生回数28位。フジテレビ系ドラマ「ウソ婚」主題歌。椎名林檎作詞作曲の曲で、タイトルは彼女らしい感じはするのですが、ジャニーズ系騒動の渦中でのタイトルとしてはちょっと微妙な印象も。オリコン週間シングルランキングでは初動売上22万6千枚で前作「Cream」の21万5千枚(1位)よりアップ。ジャニーズ系のこの状況の中、ジャニーズ事務所の「利」となるCDを買うという行為を行うファンの倫理観をかなり問いたいところなのですが。

6位にはサザンオールスターズ「Relay~杜の詩」がランクイン。ダウンロード数及びラジオオンエア数で1位を獲得。YouTube再生回数は86位に留まったものの、総合順位では6位にランクインしています。配信限定のシングルですが、現在、賛否の議論を巻き起こしている明治神宮外苑の再開発計画に対しての問題提起となっている曲。社会派的な曲を歌うことも少なくないサザンですが、具体的な事象に対してストレートに歌にするのは珍しい印象を受けます。

そして10位にはシャイトープ「ランデヴー」が先週の11位からランクイン。ベスト10に初登場しています。シャイトープは本作が配信シングルとしては3作目となる大阪のスリーピースバンド。TikTokを中心に話題となり、8月23日及び30日付のビルボードHeatseekers Songsで1位を獲得。その後も人気は伸び続け、ストリーミング数で6位にランクイン。ダウンロード数63位、ラジオオンエア数89位、YouTube再生回数49位、カラオケ歌唱回数64位を記録し、ついに総合順位でのベスト10入りを果たしました。ミディアムソングで切なく聴かせるギターロックで、タイプとしては優里やSaucy Dogの系統といったイメージ。このタイプの曲がTikTokでは受けるのでしょうか。

続いてロングヒット曲ですが、まずキタニタツヤ「青のすみか」は6位から7位とワンランクダウン。ダウンロード数は12位から17位、YouTube再生回数も7位から10位にダウン。ストリーミング数は先週と変わらず4位をキープ。これで12週連続のベスト10ヒットとなっています。

相変わらずしぶとさを見せているVaundy「怪獣の花唄」は先週と変わらず8位をキープ。カラオケ歌唱回数は18週連続の2位をキープ。ダウンロード数は25位から22位、ストリーミング数は9位から8位、YouTube再生回数も15位から14位と、ここに来て若干のアップとなっています。これで39週連続のベスト10入り。

最後、Jung Kook「Seven(feat.Latto)」は7位から9位にダウン。YouTube再生回数はここに来て9位から16位と大幅ダウン。ただストリーミング数は6位から5位と若干のアップに。これで11週連続のベスト10入りとなりました。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums!

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2023年9月26日 (火)

亡き親に捧げる

Title:everything is alive
Musician:Slowdive

Everything_is_alive

日本はおろか、世界的にもいまだに一部で根強い支持を受けているシューゲイザー系。その四天王とも御三家とも呼ばれるバンドのひとつがSlowdive(まあ、呼び方的にも日本だけでしょうが)。1995年に解散したものの2014年に再結成。2017年に実に22年ぶりとなるアルバムをリリースした後、約6年のスパンを経て、無事、再結成後、2枚目となるニューアルバムを完成させました。

そんな久々となる今回のアルバムは2020年に亡くなったボーカル、Goswellの母親とドラマー、Scottの父親に捧げられているそうです。そのため、アルバム全体として悲しみにつつまれつつも、どこか荘厳な雰囲気を感じさせる楽曲が特徴的。メランコリックな「shanty」からスタートし、「prayer remembered」「andalucia plays」は荘厳な雰囲気のサウンドをゆっくりと聴かせる楽曲になっています。「kisses」「skin in the game」なども悲しみあふれるメロディーラインが印象に残りますし、最後を飾る「the slab」もダイナミックなサウンドにメランコリックと荘厳さを感じさせる楽曲に。亡き親に捧げるというイメージにピッタリ来るようなメランコリックなアルバムに仕上がっていました。

また、もうひとつの大きな特徴としては全体的にシューゲイザーなサウンドを散りばめながら、ポストロックやドリームポップにカテゴライズされそうなサウンドも特徴的。まあ、シューゲイザーもポストロックもドリームポップも、明確に区別されるようなジャンルではないのでしょうが・・・。もともと「ミニマルなエレクトリック・レコード」を構想していたそうですが、その構想は随所に残されており、アルバムの冒頭「shanty」はいきなりエレクトロなイントロからスタート。すぐにギターサウンドが入ってくるのですが、このスタートは明らかに当初の構想の名残りでしょう。その後も「andalucia plays」や「chained to a cloud」にもエレクトロサウンドが残されており、アルバムの中でもちょうどよいインパクトとなっています。

また、荘厳なサウンドが特徴的な「prayer remembered」はMOGWAIを彷彿とさせるようなポストロック的な作風になっていますし、メランコリックに美しく聴かせる「alife」なども、ドリームポップという呼び方をされそうなポップチューンになっています。後半の「skin in the game」はいかにもシューゲイザー的なギターノイズを聴かせてくれるのですが、おそらくエレクトロサウンドに起因するような、ドリーミーなサウンドがアルバムの中に散りばめられている作品に。メランコリックな雰囲気と混ざり合うことにより、聴いていて心地よく、夢見心地になるような作品に仕上がっていました。

エレクトロサウンドを構想し、ポストロック的な要素を入れた・・・と言っても、全体的には決して目新しい訳ではありません。ただ、メランコリックでドリーミーなメロディーやサウンドは、シューゲイザー系の雄として高い支持を得ていたバンドの実力を感じさせるには十分すぎるほど魅力的なものでした。とにかく聴いていて心地よさを感じる傑作アルバム。再結成後も全く衰えていないバンドの魅力を感じられる1枚でした。

評価:★★★★★

Slowdive 過去の作品
Slowdive


ほかに聴いたアルバム

Perfect Saviors/The Armed

Perfect

アメリカはデトロイト出身のハードコアバンドによる3枚目のアルバム。前作「ULTRAPOP」はハードコアなサウンドの中にエレクトロサウンドも加えてカオス感を出しつつ、ポップな要素が加わったメロの対比がユニークで、個人的に2021年の洋楽私的ベストアルバムの1位に選ぶなど、かなりはまったアルバムでした。それに続く待望のアルバム。今回もパンキッシュなロックにエレクトロやらサイケやらの要素を加えたサウンドがユニークなのですが・・・ただ全体的にポップなメロが前面に押し出されて、カオスな要素がかなりクリアになってしまったアルバムに。ポップな要素が増して聴きやすくなった反面、前作にような勢いはちょっと後退してしまった感も。ちょっと期待していた方向性からは外れてしまった感のある作品でした。

評価:★★★★

The Armed 過去の作品
ULTRAPOP

Fly or Die Fly or Die Fly or Die ((world war))/Jaimie Branch

新進気鋭のジャズトランぺッターとして注目されていたものの、昨年、わずか39歳という若さでこの世を去ってしまったジェイミー・ブランチによる遺作。トライバルなリズムやラテンの要素を取り入れつつ、リズミカルでダイナミックに聴かせる演奏が魅力的。ジャズの要素を入れつつも、ロック的なダイナミズムも感じさせるサウンドが独特で、ジャズリスナーに留まらず広い層が楽しめそうな非常に迫力ある作品に仕上がっていました。

評価:★★★★★

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2023年9月25日 (月)

バンドの実力を感じさせる傑作

Title:大人の涙
Musician:マカロニえんぴつ

フルアルバムとしての前々作「hope」、前作「ハッピーエンドへの期待は」で続けざまに傑作をリリースしてきたポップバンド、マカロニえんぴつ。正直、その前にリリースされたアルバム「season」や、その間にリリースされたミニアルバムの出来は決して良くはなかったこともあって、率直な感想としては、前の2作はバンドとしての勢いによってつくられた作品・・・という評価でした。そして、それに続く約1年7ヶ月ぶりの新作となる本作。これが先の2作に勝るとも劣らない傑作アルバムに仕上がっていた日には、もう、これがマカロニえんぴつとしての実力と言わざるを得ないでしょう。マカロニえんぴつとしてのポップミュージシャンとしての実力を感じる作品となっていました。

序盤から、どの曲もシングルカットできそうなポップでインパクトある楽曲が続くのですが、前半で特に核になっていたのが「ペパーミント」でしょうか。サビ先のインパクトあるポップスなのですが、明るさを感じるポップの中に隠し味のように切ないフレーズが混ざっているあたりが印象に残ります。さらにこれに続く「ネクタリン」もポップなメロがインパクトある作品。Eテレ「天才てれびくん」テーマ曲のセルフカバーで、子供が見ている関係で原曲を何度も聴いているのですが、マカロニえんぴつバージョンも思った以上に違和感ないどころか、しっかりと彼らの新たな代表曲になりそうなセルフカバーに仕上がっています。

その後も切ないメロと歌詞が印象に残る「リンジュー・ラヴ」や打ち込みのリズムを入れつつ、メランコリックなメロを聴かせる「だれもわるくない」、歌謡曲的な哀愁メロを聴かせてくれる「TIME」、メロディアスなギターロックチューン「星が泳ぐ」とインパクトあるポップチューンは続いていきます。特に後半に関しては、ポップなメロに主軸を置いたシンプルなナンバーの並んだ前半と比べると、音楽的にもバリエーションある楽曲が並ぶのも特徴的。前述のように打ち込みを入れた「だれもわるくない」、歌謡曲風の「TIME」はもちろん、「Frozen My Love」ではパンクロックにも挑戦しています。ラストを飾る「ありあまる日々」はアコギ1本で聴かせるフォーキーな楽曲に。録音状態もデモ音源的なラフな録音となっており、このいい意味での生々しさもひとつのインパクトとなっています。

ただ、この中盤に配された「嵐の番い鳥」はちょっと違和感。ガールズロックバンド、ヤユヨのボーカリスト、リコをゲストに迎えた男女デゥオのナンバーなのですが、ベタなムード歌謡風のノヴェルティーソング。この手のノベルティーソングをアルバムの中に入れてくるのも彼らの特徴なのですが、ちょっと異質すぎて、アルバムの流れを邪魔しているような・・・。最後にボーナストラックやシークレットトラック的に入れた方がよかったようにも思います。

一方、いい意味で異質なものに感じたのはアルバムの冒頭を飾る「悲しみはバスに乗って」で、メロディーラインこそ彼ららしいポップなものなのですが、「死」を織り込ませつつ、生きることの意味を問うような歌詞が印象的で、ポップバンドとしてはあきらかにヘヴィーな作品。こういった曲をアルバムの最初に配してくるあたり、バンドとしての挑戦心や自信のようなものを感じますし、バンドとしての深みを感じさせる構成にもなっているように感じました。

全体的にはシンプルなポップソングにルーツレスな楽曲、サビ先だったり転調だったりも用いた良くも悪くもJ-POP的な要素も強い作品なのですが、一方でメロディーラインは決して派手はないもののメロディーラインの展開でしっかりと聴かせる良質な歌を聴かせてくれますし、ほどよいバリエーションにもミュージシャンとしての音楽性の幅も感じさせます。なによりも歌を聴かせるポップチューンが並ぶだけに最後までワクワクしながら聴きとおすことの出来たアルバムで、個人的には年間ベストクラスの傑作アルバムに仕上がっていたと思います。

ただ、アルバムの出来と反比例して、売上的には前々作から下落傾向なのは気になるところ。確かに派手なわかりやすさがない分、なかなかシングル単位でのヒットが続かないのかもしれませんが、これだけの傑作をリリースし続ければ、また人気が再燃する日は近いような気がします。彼らの実力を存分に感じた傑作でした。

評価:★★★★★

マカロニえんぴつ 過去の作品
season
hope
愛を知らずに魔法は使えない
ハッピーエンドへの期待は
wheel of life

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2023年9月24日 (日)

どす黒いグルーヴがカッコいい!

Title:ROLL
Musician:EMILAND

2019年、16年に及ぶ活動に幕を下ろしたガールズソウルバンド、ズクナシ。そのメンバーの衣美と茜がその後、すぐに活動を開始したバンドが、その名もEMILAND。2020年にデビューアルバム「OPEN」をリリースしましたが、その後、コロナ禍を経て、約3年8ヶ月ぶりとなるニューアルバムをリリースしました。

そのデビューアルバムとなった「OPEN」は、EMILANDとしての挨拶がわりとなったアルバム。ソウルバンドという様相が強かったズクナシに比べて、明確にファンクの要素が強くなり、ズクナシとは異なる新たな一歩を感じさせたアルバムでしたが、それに続く2枚目のアルバムは、EMILANDとしてのバンドの方向性がより明確となった作品になっていました。

その方向性とは、ズクナシ以上にバンド色が強く、またどす黒いグルーヴを聴かせてくれるファンクバンドとしての方向性。1曲目を飾る「On and On」はまさにそんなバンドの方向性を決定づける、非常にどす黒いバンドサウンドを聴かせてくれる1曲。「Clean Up This World」も比較的シンプルなサウンドながらも軽快でグルーヴ感あるバンドサウンドを前に押し出した疾走感のあるナンバーになっていますし、その後もベースラインのチョッパーがファンキーなインスト「Chicken in the Pocket」、タイトル通り、ファンクを前面に押し出した「JJ FUNK Ⅱ」など、どす黒いファンクサウンドを前面に押し出している点が大きな特徴となっています。

一方で、どこかユーモラスさを感じさせる歌詞も特徴的で、そんな歌詞をソウルやファンクのトラックに上手く載せている点もユニーク。「せねば」はまさにそんな楽曲で、やらなくてはいけないのになかなか出来ない、よくありがちな心境の愚痴を、上手くメロウなサウンドに載せ、実に絶妙なソウルバラードに仕上がていますし、「エスカルゴ」も、有名な童謡の一節を使い、ユーモラスながらもぶっといサウンドのファンクナンバーに仕上げている曲。のろまな自分の性格をかたつむりに合わせた歌詞もユニークで、こちらも新たなライブの定番になるそう?また、単純にユーモラスな曲ばかりではなく「誰のものでも」のように社会派な歌詞を聴かせてくれる曲もあります。

基本的にファンクナンバーがメインなのですが、ラストを締めくくる「FREEWAY」ではフィリーソウルを聴かせてくれたりと、それなりのバリエーションを持たせつつ全11曲入り48分、最初から最後までソウルやファンクからの影響が顕著なグルーヴ感あふれるバンドサウンドが心地よいナンバー。ほどよくユーモラスさもアルバムを楽しむ要素として加えられており、ライブでも文句なしに盛り上がりそうなアルバムになっていました。バンドとしての方向性がより明確になった1枚。今後の活躍も楽しみです。

評価:★★★★★

EMILAND 過去の作品
OPEN


ほかに聴いたアルバム

gravity/androp

Gravity_androp

andropの、ミニアルバム、フルアルバム含めて13枚目となる新作。全7曲入りなので、ミニアルバムとしての様相の強い作品なのですが、たった7曲ながらもギターロックあり、HIP HOP風のナンバーあり、ダンスチューンあり、サイケ風な曲ありとバラエティーのある楽曲は最近のandropらしい感じ。ただ一方で、その結果、バンドとしての主軸がいまひとつはっきりせずインパクトも薄く、印象も薄くなってしまっているのも残念な感じ。ここ数作、人気面でも下落傾向なのはそのようないまひとつバンドとしての軸がはっきりしない点が要因なような・・・。

評価:★★★★

androp 過去の作品
door
relight
one and zero
period
androp
best [and/drop]
blue
cocoon
daily
effector

T-BOLAN COMPLETE SINGLES~SATISFY~/T-BOLAN

1990年代のビーイング系ブームの代表格的なバンド、T-BOLAN。1999年に解散後、現在は2度目の再結成により活動を再開しているようですが、このたびそんな彼らの再結成後の作品を含めたシングル集がリリースされました。懐かしさもあり、今、彼らの曲を聴いたらどう感じるかな、という興味もありアルバムで聴いてみたのですが・・・確かに、懐かしいという印象は受けつつも、悪い意味でいかにもビーイング系だな、ということを再認識させられました。特にDisc1の方は、今でいえばAIが作ったんじゃないの?と思うような、インパクトこそあれど、似たような曲ばかりが並んで、なぜこれが90年代にあれだけ売れたのか、疑問に感じてしまいます。Disc2の方は、もうちょっとバンドテイストも増して、個性を感じさせる曲も少なくなかったのですが。彼らに対して抱いていた印象が何も変わらなかったシングル集でした。

評価:★★★

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2023年9月23日 (土)

戦前戦後のヒット曲

10月から、笠置シヅ子をモデルとしたのNHK朝の連続テレビ小説「ブギウギ」の放送が予定されています。それをきっかけに日本コロムビアで「笠置シヅ子とブギウギの時代」と題された企画CDがリリースされたのですが、そのうち、笠置シヅ子と淡谷のり子のアルバムに関しては以前紹介しました。今回はそれに続く形で8月にリリースされた2枚のアルバム、笠置シヅ子と同様に戦前戦後に一世を風靡した女性歌手、渡辺はま子と、笠置シヅ子の「東京ブギウギ」や淡谷のり子の「別れのブルース」などを作曲し、戦前戦後を代表する作曲家、服部良一の曲を集めたオムニバスアルバムです。

Title:渡辺はま子の世界~蘇州夜曲~
Mucisian:渡辺はま子

今でも多くの歌手がカバーしている「蘇州夜曲」を1940年にヒットさせたほか、戦前戦後に数多くの曲をヒットさせ一世を風靡した女性歌手、渡辺はま子。戦後も活躍し、紅白歌合戦には第1回から第9回まで連続出場。特に第1回の紅白歌合戦の紅組のトリをつとめるなど、その名を歴史に刻んでいます。

アルバムではその「蘇州夜曲」に続いて「シナの夜」「広東ブルース」と中国をイメージしたような曲が並びます。中国を侵略していた戦前の日本にとって、今以上にエキゾチックさを感じさせる遠くて近い土地だったのでしょうか。特にDisc1に収録されている曲に関しては、そんなエキゾチックなイメージを強く感じさせる曲が並びます。

ただ、ある意味時流に乗っているイメージも強く、「愛国の花」「軍国銀座娘」のような戦前歌謡、あるいはいわば軍国歌謡と言うべき楽曲も多く、また楽曲としてもエキゾチックな楽曲からスタートしつつ、アルバムを聴き進めると急激にムード歌謡曲、演歌的な作品になっていく点も特徴的。洋楽からの影響も強く感じる笠置シヅ子や淡谷のり子の作品とは対照的にも感じられましたし、ある意味、自らのスタイルを時流にのせていくような笠置シヅ子や淡谷のり子のスタイルとは異なり、どちらかというと、時流にそってスタイルも変えていくように感じます。その結果として軍国歌謡も少なからず披露していたのでしょう。

個人的には笠置シヅ子や淡谷のり子と比べると、今となってはより時代を感じさせてしまう部分が大きいのかな、とも思います。ただ、これはこれで戦前戦後の日本歌謡界の歩みを知ることが出来るオムニバスアルバムでした。

評価:★★★★

Title:服部良一の世界~青い山脈~

このオムニバスのサブタイトルも「青い山脈」ですし、笠置シヅ子の「東京ブギウギ」などのヒットもありますし、服部良一と言うと戦後歌謡界を代表する作曲家というイメージがありますが、戦前から数多くのヒットを飛ばしていた人気作曲家でした。このオムニバスがユニークなのは、1枚目の冒頭に「青い山脈」を持っていきつつも、その後のDisc1は基本的に戦前の彼の代表曲が、Disc2には戦後の代表曲が収録されている構成となっています。

ただ、服部良一について戦後の活躍が目立つのは、やはり楽曲が全体的に洋楽の影響が強く、洒脱な雰囲気の曲が多いのが、「アメリカの文化が入ってきて、一気にあか抜けた」という戦後の勝手なイメージとマッチする部分が大きいのでしょう。実際、以前、当サイトでも紹介した「昭和ブギウギ 笠置シヅ子と服部良一のリズム音曲」でもサウンドやリズムは洋風、メロディーは和風という点が服部良一の特徴として描かれていました。

実際、服部良一の楽曲にはベタな演歌もある一方、ジャズやスウィングを取り入れた曲が目立ちますし、「バラのルムバ」「香港チャチャチャ」ではラテンのリズムを取り入れているほか、「東京べべ」という曲に至っては、サウンドは和製ブルースではなく、本場アメリカのブルースの要素すら感じさせる曲になっています。

ところが興味深いことに今回、Disc1に戦前の曲、Disc2に戦後の曲が並んでいるのですが、同じ作曲家の作品なのである意味当たり前と言えるのかもしれませんが、そこに作風の断絶はありません。戦前の曲にも淡谷のり子の「おしゃれ娘」や笠置シヅ子の「ラッパと娘」のような、ジャズやスウィングの要素の強い曲が並んでおり、決して洋風の作品が戦後に突然現れたわけではないことを物語っています。前述の「昭和ブギウギ 笠置シヅ子と服部良一のリズム音曲」の著者、輪島裕介は、同書での目的として「一九四五年の敗戦を決定的な文化的断絶とする歴史観への挑戦」をあげていましたが、奇しくもこのオムニバスアルバムは、戦前戦後に文化的にも連続性があったことを如実に物語る内容になっていました。

そういう意味でも戦前戦後の服部良一の代表曲が並んだ本作は、その戦前戦後の文化的連続性を感じされる非常に興味深い内容になっていたと思います。戦前戦後のヒット曲を知るには最適なオムニバスアルバム。これを機に、服部良一の世界に触れるにはピッタリの作品でした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

RESPECT ALL/AI

ちょうど1年半ぶりとなるAIのニューアルバム。全体的に彼女らしい力強いソウルチューンが特徴的。子供との関係を歌った「指を握る小さな手」など印象的だが、全体的に歌詞は前向きな応援歌的なものが多い印象を受けます。その点については好きな人は好きかもしれないのですが、若干、鼻白む印象も受けてしまう点も・・・。まあ、もともとこのタイプの曲は多かったので、その点も含めてAIらしいアルバムと言えるのかもしれないのですが。

評価:★★★★

AI 過去の作品
DON'T STOP A.I.
VIVA A.I.
BEST A.I.
The Last A.I.
INDEPENDENT
MORIAGARO
THE BEST
THE FEAT.BEST
和と洋
感謝!!!!! Thank you for 20 years NEW&BEST
IT'S ALL ME - Vol.1
IT'S ALL ME - Vol.2
DREAM

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2023年9月22日 (金)

デビュー50周年のオールタイムベスト

Title:Greatest Hits
Musician:Aerosmith

日本でも高い人気を誇るロックバンド、エアロスミス。1973年にデビューした彼らは、今年デビュー50周年の年を迎えたそうです。そのデビュー50周年を記念して、彼らの全キャリアを網羅したオールタイムベストがリリースされました。通常盤はCD1枚。ただ、Deluxe EditionとしてCD3枚に収録したバージョンがリリースされたほか、日本独自企画として、それにライブアルバムをつけ、最大、CD6枚組となるバージョンもリリースされたそうです。今回は、私はCD3枚組のDeluxe Editionをチェックしました。

エアロスミスというと、典型的なハードロックバンドというイメージが強くあります。特に最近では本作にも収録されている映画「アルマゲドン」のテーマ曲「I Don’t Want To Miss A Thing」のイメージも強く、スケール感のあるバラードであるこの曲の印象から、スタジアムロックバンド的なイメージも強くついている感じもします。ただ、「I Don't Want To Miss A Thing」は、もう25年も前の曲になるのですね・・・。

今回のベスト盤、3枚組のDeluxe Editionでは全44曲が発表順に並べられています。そのため、バンドとしての歩みがよくわかるような構成になっているのですが、確かに、典型的なハードロックといった印象の曲も少なくありません。例えば「Let The Music Do The Talking」などは、まさに典型的なハードロックといったナンバー。比較的最近の曲だと「We All Fall Down」もスケール感もって聴かせるハードロック的なバラードナンバーとなっています。

ただ一方ではこのベストアルバムを聴いて、エアロスミスを典型的なハードロックバンドと単純視できたい音楽性も感じました。そもそも80年代前半に人気が落ち込んでいた彼らを復活させた「Walk This Way」はHIP HOPユニット、Run D.M.C.とのコラボでしたし(正確にはRun-D.M.C.が「Walk This Way」をサンプリングした形ですが)、最初期のナンバー「Dream On」などはむしろフォークロック的な雰囲気すらあります。

もっとも顕著なのはルーツロック、ロックンロールからの影響で、「Adam's Apple」「Bright Light Fright」のようなロックンロール亭なナンバーは少なくありません。「Dude(Looks Like Lady)」なんかはローリングストーンズ的な雰囲気も感じさせます。最近の曲になればなるほど、比較的、いかにもなハードロックナンバーは多く、良くも悪くもベテランらしいベタなスケール感を覚えるのですが、最後に収録された「Just Push Play」など、軽快なギターリフが躍動感のあるロックナンバーに仕上がっており、いまだに若々しさを感じられる曲になっていました。

もちろん、力強いギターリフ主導のハードロックナンバーも文句なしにカッコいいのも事実。音楽的な幅広さを含めて、あらためてやはりロックバンドとしてのエアロスミスのカッコよさを感じられたオールタイムベストだったと思います。50年間の活動は伊達じゃない、と思い知らされたアルバムでした。

評価:★★★★★

AEROSMITH 過去の作品
Devil's Got A New Disguise(エアロスミス濃縮極極ベスト)
Music From Another Dimension!


ほかに聴いたアルバム

Live in Brooklyn 2011/Sonic Youth

2011年8月12日にニューヨークのブルックリンで行われたライブの模様を収録されたライブアルバム。バンドはその後、南米をツアーした後に解散を発表していますので、まさにバンドとして最終期のパフォーマンス。ある意味、非常に貴重な音源となっています。ただ、パフォーマンスとしては、決してこれが最後といった雰囲気はなく、30年以上、活動を続けたバンドなだけにいい意味で安定感のあるパフォーマンス。激しいノイズは圧巻で、ライブを一度見たかったな、と感じてしまいました。

評価:★★★★★

Sonic Youth 過去の作品
The Eternal
In/Out/In

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2023年9月21日 (木)

今週も韓国系が目立つ

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週もK-POP勢が目立つチャートとなりました。

まずは韓国の男性アイドルグループStray Kids「Social Path(feat.LiSA)」が先週から引き続き、2週連続の1位を獲得。ダウンロード数は4位から84位に大幅にダウンしたものの、CD販売数は先週から変わらず1位をキープ。オリコン週間アルバムランキングでも2週連続の1位を獲得しています。

2位初登場はさとみ「Never End」。YouTuberのアイドルグループ、すとぷりのメンバーによるソロデビューアルバム。CD販売数2位、ダウンロード数16位。オリコンでは初動売上7万1千枚で2位初登場。

3位には、こちらも韓国の男性アイドルグループTREASURE「Reboot」が先週の4位からランクアップ。5週ぶりのベスト3返り咲きとなっています。

続いて4位以下の初登場盤ですが、7位にRIIZE「Get A Guitar」が先週の13位からランクアップし、2週目にしてベスト10初登場。CD販売数が先週の11位から7位にアップしています。本作がデビューミニアルバムとなる韓国の男性アイドルグループ。オリコンでも先週、初登場12位(初動売上1万1千枚)から、今週も1万枚を売り上げて6位にランクアップしています。

今週はほかに5位にNCT「Golden Age」、6位にSEVENTEEN「SEVENTEEN JAPAN BEST ALBUM『ALWAYS YOURS』」がランクインし、今週もベスト10のうち5枚が韓国の男性アイドルグループとなっています。

一方、日本勢はまず4位に布袋寅泰「GUITARHYTHM VII」がランクイン。CD販売数5位、ダウンロード数3位。布袋が続けているアルバムプロジェクトシリーズ「GUITARHYHM」シリーズの第7弾。オリコンでは初動売上1万3千枚で3位初登場。前作「Still Dreamin'」の初動1万2千枚(8位)から若干のアップとなっています。

8位初登場は吉井和哉「20th Anniversary BEST ALBUM『20』」。THE YELLOW MONKEYのボーカリストによるソロ活動20周年を記念してリリースされた2作目のベストアルバム。CD販売数8位、ダウンロード数46位。オリコンでは初動売上8千枚で8位初登場。直近作はライブアルバム「SOUNDTRACK ~Beginning & The End~」で、同作の初動売上7千枚(7位)から微増。10年前にリリースされた、ベストアルバム「18」の初動3万枚(4位)からはダウンしています。ちなみに10年前のリリースされているのに「18」と数字が2つしか小さくないのは、前作の「18」は吉井和哉の「十八番」という意味でつけられたから、らしいです。

初登場最後は9位に龍宮城「2 MUCH」がランクイン。CD販売数9位。スターダストプロモーション所属の男性アイドルグループで、本作がデビュー作となる5曲入りのEP盤となります。オリコンでは初動売上8千枚で9位初登場。

また、ベスト10返り咲き組も。女性アイドルグループNiziU「COCONUT」が26位からランクアップし、3週ぶりのベスト10返り咲きを果たしています。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2023年9月20日 (水)

ジャニーズ系を下して

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週は、ジャニーズ系を下して、あの男性アイドルグループが1位獲得です。

今週1位は男性アイドルグループBE:FIRST「Mainstream」が獲得。CD販売数は2位ながらもダウンロード数、ラジオオンエア数、YouTube再生回数で1位、ストリーミング数で5位を獲得しています。オリコン週間シングルランキングでは初動売上14万6千枚で1位初登場。前作「Smile Again」の13万4千枚(2位)よりアップしています。

一方、オリコンで1位を獲得したのはジャニーズ系男性アイドルグループなにわ男子「Make Up Day」で、オリコンでは初動売上39万4千枚を売り上げて1位初登場。ただし、ビルボードではCD販売数は1位でしたが、ラジオオンエア数90位、YouTube再生回数94位に留まり、総合順位は4位と、BE:FIRSTを大きく下回る結果となりました。

ご存じの通り、ジャニー喜多川の性的虐待問題で逆境の中にあるジャニーズ事務所。一方、いままでジャニーズ事務所の影響で、なかなか表に出てこれなかった男性アイドルグループの躍進が期待されますが、その最右翼はおそらくBE:FIRSTでしょう。偶然かもしれませんが、そんなシーンの中心を行くように宣言するかのようなタイトルの曲がジャニーズ系を大きく下して1位獲得というのは、今の状況を象徴するような結果にも思えます。なお、なにわ男子の初動売上も前作「Special Kiss」の51万6千枚(1位)を大きく下回っており、影響の大きさをうかがわせます。

そして続く2位は21週連続1位という驚異的な記録が先週途絶えて、一気に4位までダウンしたYOASOBI「アイドル」が2位にランクアップ。1位奪還はなりませんでしたが、2週ぶりのベスト3返り咲きとなりました。ただし、ダウンロード数こそ4位から6位にダウンしましたが、ストリーミング数は先週の2位から1位に返り咲き。YouTube再生回数も60位から4位に再度ランクアップ。カラオケ歌唱回数も17週連続の1位を記録しており、まだまだロングヒットは続きそう。これで23週連続のベスト10ヒットとなっています。

さらに3位にはAdo「唱」が先週の8位からランクアップ。ベスト10入り2週目にしてベスト3入りを果たしています。ダウンロード数は2位から3位にダウンしましたが、ストリーミング数は15位から3位に、ラジオオンエア数も37位から6位に大きくアップ。YouTube再生回数も4位から2位にアップしており、一気に順位を上げてきました。今後のロングヒットも期待できそうです。

続いて4位以下ですが、今週の初登場は前述のBE:FIRSTとなにわ男子の2組のみ。他はロングヒット曲が並んでいます。まずキタニタツヤ「青のすみか」は6位と先週から同順位をキープ。これで11週連続のベスト10ヒットに。ただし、ダウンロード数は7位から12位、ストリーミング数は3位から4位、YouTube再生回数も6位から7位と全体的に下落傾向となっています。

Jung Kook「Seven(feat.Latto)」も先週から同順位の7位をキープ。今週で10週連続のベスト10入り。ただし、こちらもダウンロード数は19位から42位、ストリーミング数は4位から6位、YouTube再生回数も8位から9位にダウンと、全体的に下落傾向となっています。

Vaundy「怪獣の花唄」も今週は先週と変わらず8位にランクイン。これで38週連続のベスト10ヒットに。ただし、こちらもダウンロード数は18位から25位、ストリーミング数は7位から9位、YouTube再生回数も11位から15位とそれぞれダウンしています。カラオケ歌唱回数のも17週連続の2位をキープしています。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums!

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2023年9月19日 (火)

「謎」のシンガーの人柄も垣間見れる貴重なライブ音源

Title:FM東京パイオニア・サウンドアプローチ実況録音盤
Musician:森田童子

1970年代後半から80年代前半にかけて活動したシンガーソングライター、森田童子。ただ、彼女の奏でるフォークソングは、彼女がデビューした段階では既に下火になっており、彼女自身、メディアにもほとんど登場しないばかりか、本名非公開で、実生活も謎につつまれており、一部でカルト的な人気を獲得するにとどまりました。一方で彼女の楽曲「ぼくたちの失敗」がテレビドラマ「高校教師」の主題歌に起用され、大ヒットを記録。それまで知る人ぞ知る的存在だった森田童子の名前を、一躍有名にしました。おそらくアラフォー世代以上にとっては、そのヒットによって彼女の名前は強く印象に残っていることでしょう。

その「ぼくたちの失敗」の大ヒットから早くも30年という月日が経過しました(!)。その間も森田童子自体は表に出てくることは全くなく、ただ一度、2003年にリリースされたベストアルバムに過去作のリメイクが新規録音として収録されたことがあったそうです。その後2018年に、66歳という、まだ早い年齢での逝去というニュースが飛び込み、音楽ファンにショックが走りました。

本作は、1978年に、FM東京、現在のTOKYO FMの人気番組「パイオニア・サウンドアプローチ」にゲストで登場し、ライブを披露した時の貴重なライブ音源。このたび、初のCD化となっています。冒頭の番組司会者のMCも収録されているほか、なにより貴重なのは、森田童子本人のMCもそのまま収録されている点でしょう。ほとんどメディアに登場することもなく、公表されている写真も、カーリーヘアにサングラスという、素顔がほとんど不明な彼女なだけに、「素」の部分を垣間見ることが出来るMCを、まずは興味深く聴くことが出来ました。

そんなMCは、声こそ歌声と同様のハイトーンでか細い声なのですが、思ったよりもしっかりとトークしていて、「明るい」とまでは感じなかったのですが、思ったよりは「社交的」な部分も感じました。森田童子の一人の人間的な部分も感じられる貴重な音源だったように思います。

一方、肝心の曲の方ですが、まず録音状況は決して悪くはないものの、FMでの録音ということを考えると、決して良くはない、といった音源となっています。ライブを楽しむには許容範囲内だとは思うのですが。そして楽曲の方は、デビュー作である「さよならぼくのともだち」を含む全7曲。「ぼくたちの失敗」は残念ながら収録されていません。基本的にアコースティックギターで切なく聴かせるフォーキーな作風は7曲とも共通。派手さはないのですが、メロディーラインはしっかりとフックもあって、「ぼくたちの失敗」のヒットにつながるようなポピュラリティーも感じられます。そして何よりも歌詞のインパクトが大きく、どこか郷愁感を覚えさせつつ、喪失感を覚えるような歌詞が特徴的。率直に言うと、かなり暗い歌詞なのですが、そういう歌詞が彼女がリアルタイムで活動していた70年代後半から80年代には受け入れられなかった一方、バブル経済がはじけて不景気となり、社会全体がなんとなく喪失感を覚えていたような(とはいえ今と違ってまだまだ社会全体に「余裕」があった)1996年という時代には受け入れられたのでしょうか。

そんな訳で、非常に貴重な音源でもありますし、またいろいろな意味で森田童子というミュージシャンについて知ることの出来るアルバムだったと思います。リアルタイムで森田童子を知っていた人、1996年の「ぼくたちの失敗」で彼女を知った人、いずれもチェックして損のないアルバムだと思います。

なお、森田童子に関しては昨年、彼女の評伝本がリリースされる予定となっていました。しかし「遺族の許諾を得た」と謳っていた同書が、実は遺族の許諾を得ていなかったことで問題となり、発売が事実上中止となってしまいました。同書の付録CDとして「FM東京『サウンドアプローチ』より7曲収録」という紹介をされていましたので、発売元も一緒ですし、おそらく、日の目を見ることのなくなった評伝本の付録CDが、別途、独立したアルバムとしてリリースされたものでしょう。ただ、その騒動の時に、女性セブンの取材に対して、TOKYO FM広報部が「番組使用申請があったと把握していない」と回答しています。こうやってCDリリースされたということは、無事、使用申請があって許諾された、ということなのでしょうか。前歴があるだけに、かなり気になります。宣伝も積極的に行われていないようですし、ひょっとして使用許諾が正式に取られていない見切り発車でのリリースじゃないでしょうね・・・。

そんなこともあって、ひょっとしたら「気になるのならお早めに!」になるのかもしれません。貴重な音源なだけに、ちゃんと各所に許諾を得たライブアルバムであることを願いたいのですが。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

マ人間/新しい学校のリーダーズ

最近、急激に注目を集めている女性4人組パフォーマンスグループ、新しい学校のリーダーズ。4月にEP盤「一時帰国」をリリースしたばかりですが、それから4カ月、早くもリリースされた新作が本作です。基本的に昭和歌謡曲を彷彿とさせるメランコリックなメロディーラインが特徴的・・・なのですが、正直言って、全体的にワンパターン。それなりにしっかりと聴かせるメロディーではありますし、彼女たちの場合、パフォーマンス含めての評価なので、音源だけだと不十分なのかもしれませんが・・・。ただ、それでも前作「一時帰国」は、マイナス点を上回るだけの勢いを感じただけにちょっと残念。急激にブレイクしたので、今のうちに売っておきたい、という気持ちが裏目に出てしまったような。

評価:★★★★

新しい学校のリーダーズ 過去の作品
一時帰国

星屑たち/堀込泰行

Hoshikuzutati

新曲「涙は星屑のように」と、セルフカバー4曲で構成された全5曲入りのEP盤。プラネタリウムライブツアー「LIVE in the DARK tour」のために集まった編成でレコーディングされた作品だそうで、アコースティック主体の作品に、まさに星空の下で聴くにはピッタリのメランコリックながらも優しく、暖かい楽曲が印象的。唯一の新曲「涙は星屑のように」も聴いていて暖かい気持ちになってくる楽曲になっており、メロディーメイカーとしての才能を感じさせる作品となっています。プラネタリウムライブ、ノーチェックだったのですが、気持ちよかっただろうなぁ。機会があれば行きたかったな。

評価:★★★★★

堀込泰行 過去の作品
River(馬の骨)
"CHOICE" BY 堀込泰行
One
GOOD VIBRATIONS
What A Wonderful World
GOOD VIBRATIONS 2
FRUITFUL

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2023年9月18日 (月)

ネブワースの地に、再び

Title:Knebworth 22
Musician:Liam Gallagher

ご存じ90年代に一世を風靡したロックバンド、oasisのフロントマンであり、ソロとなった現在でも絶大な人気を誇るボーカリスト、リアム・ギャラガー。その彼が2022年6月3日、4日に行った、イギリスはネブワース・ワークで行ったライブの模様を収録したライブアルバムが本作。計17万枚にもおよぶチケットが即日ソールドアウトとなり、その人気のほどを強く印象付けたライブとなりました。

ネブラースという場所は、oasisにとっては非常に意味のある場所となります。1996年にoasisは、ネブワースで25万人という驚異的な人数を動員してライブを実施。oasisの最も売れたアルバム「モーニング・グローリー」と、その次のアルバム「Be Here Now」の間の行われた、まさにoasis全盛期に行われたライブイベントは、今でも「伝説」として語り継がれています。その場所で、リアム・ギャラガーがソロとしてライブを行うということは、非常に意味のあることだったのでしょう。特にoasis解散後、決してリアムの活動も決して順調ではなく、その後に結成されたバンド、Beady Eyeは成功したとはいえず、ソロでの成功に至るまでは決して平坦な道のりではありませんでした。

そんな今回のネブワースでのライブでひとつ特徴的だったのは、このライブにも収録されている通り、「Rock'n'Roll Star」が歌われたことでしょう。oasisの代表的なナンバーである本作なのですが、1996年のoasisでのネブワースライブでは歌われませんでした。1996年のネブワースで、なぜあえてoasisがこの曲をセットリストに加えなかったのか、その理由はわかりません。ただ、この曲はoasisの1stアルバムの1曲目に収録されている曲。ある意味、まだデビュー間もないバンドが、「自分はロックンロールスターだ」と高らかに宣言した曲であり、人気絶頂の中で、あえて歌わないことでバンドとしての「余裕」をあらわしていたのかもしれません。

一方で、今回のネブワースライブでリアムが「Rock'n'Roll Star」を歌うということは、oasis解散後、紆余曲折を経ながらも、ソロとして再びネブワースの地に立てたことによる強い自信を反映させた選曲のようにも感じました。なによりも、やはり彼の、ふてぶてしさを感じつつも力強い歌声は魅力的。リアム・ギャラガーのボーカリストとしての魅力を、このライブアルバムでは存分に味わうことが出来ました。

ただ、リアム・ギャラガーがボーカリストとして文句なしのロックンロールスターだということを実感しつつも、やはりどうしてもライブの中で一番盛り上がっているのはoasis時代の曲という事実も気になってしまいました。実際、リアムのソロ曲も多く歌われていますし、それらの曲も魅力的なのは間違いないでしょう。しかしライブアルバムでも最後は「Cigarettes&Alcohol」以降、ラストの「Champagne Supernova」までoasisの曲が並んでおり、会場もかなりの盛り上がりを見せています。ソロライブでありながらも、oasisの曲を占める割合が多いのは、リアム自身、「元oasisのボーカリスト」であることを求められているのを自覚しているのでしょうし、また、そんな世間の期待を受け入れたからこそ、ソロでの成功があったようにも思います。

しかし、そうすると、やはりoasisのファンとしてはoasisの再結成、ということを期待してしまうのですが・・・。実際、リアムの言動を見ると、かなりお兄ちゃんを気にしている発言が多く、表面的な言葉とは裏腹に、本当はお兄ちゃんのことが大好きで仕方がないんだろうなぁ、とは思ってしまうのですが(笑)。

そんなことを考えつつも、もっとも純粋にリアムのライブアルバムということを考えると、oasisの曲もふんだんに披露されていますし、素直に楽しめるライブアルバムだったと思います。まあ、確かに、これだけ魅力的な曲が並べば、盛り上がるだろうなぁ、ということを強く感じます。お兄ちゃんのソロライブは一度見ているのですが、次はリアムのソロライブも見てみたいな、そう強く感じたライブアルバムでした。

評価:★★★★★

Liam Gallagher 過去の作品
AS YOU WERE
Why Me?Why not.
Acoustic Sessions
MTV Unplugged(Live At Hull City Hall)
Down by the River Thames
C'MON YOU KNOW

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2023年9月17日 (日)

バンドとしての「初期衝動」が復活した傑作

Title:The Death Of Randy Fitzsimmons
Musician:The Hives

スウェーデンのガレージロックバンド、The Hivesのニューアルバム。2001年にコンピレーションアルバム「Your New Favorite Band」が、クリエーションレコーズの創始者、アラン・マッギーが、クリエーションレコーズ閉鎖後に開始したインディーレーベル、ポップトーンズからリリースされ大きな注目を集め、大ヒットを記録。一躍、人気バンドに躍り出ましたが、2012年にリリースされた「Lex Hives」を最後を休止してしまいました。しかし、このたび、久々に活動を再開。約11年ぶりとなるニューアルバムリリースとなりました。

「The Death Of Randy Fitzsimmons」と名付けられた今回のアルバム。タイトルであるランディー・フィッツシモンズとは、30年前にバンドを立ち上げた創始者であり指導者でありソングライターであったものの、2012年の「Lex Hives」リリース以降、連絡を取っていなかったとか。しかし最近、メンバーはフィッツシモンズの死亡記事を発見。彼の墓をメンバーが探したところ、墓の中には彼の死体ではなく、デモテープと「Randy Fitzsimmonsの死」と書かれた紙が見つかった・・・という設定の下で作られたアルバムだそうです。

そんな設立経緯はともかくとして、The Hivesというバンド、ギターリフを主導としたシンプルなロックンロールのサウンドと、インパクトがありキュートな印象すら受けるポップなメロディーラインが特徴的なガレージロックバンドで、いわば「ロックンロールの初期衝動」をそのまま体現化したような楽曲が魅力的なバンドだったりします。大ヒットしたコンピレーションアルバム「Your New Favorite Band」はそんな彼らの魅力がそのまま詰まったアルバムでしたし、その後のアルバムも非常に魅力的な傑作が続いていました。ただ「初期衝動」という点においてはやはり、「Your New Favorite Band」以降、徐々に落ち着いていってしまったのも事実でした。

しかし、そういう観点から言えば、この約11年ぶりのアルバム、「Your New Favorite Band」で感じたバンドの「初期衝動」が完全に復活したような傑作アルバムに仕上がっていました。アルバムの冒頭を飾る「Bogus Operandi」からして、まさにこれぞThe Hives!というような力強いギターリフのロックンロールナンバーに。「Countdown To Shutdown」も同じく力強いギターリフと疾走感あるメロが心地よい、The Hivesらしいガレージロックナンバーに仕上がっています。

中盤で耳を惹いたのはパンキッシュなサウンドと疾走感あるメロディアスなメロが心地よい「Smoke&Mirrors」。分厚いサウンドもインパクトある曲なのですが、それに続く「Crash Into The Weekend」は逆に、スカスカのサウンドのシンプルなロックンロールナンバーとなっており、この2曲の対比も非常にユニークかつインパクトを覚える構成となっています。

後半でインパクトがあったのがハイテンポで疾走感たっぷりに聴かせるシンプルなガレージロックナンバー「The Bomb」でしょう。こちらもシンプルなサウンドのThe Hivesらしい曲。さらにその後に続く「What Did I Ever Do To You?」は最初、エレクトロサウンドからスタート。後半はホーンセッションも入って分厚いサウンドで構成されるミディアムチューンという、逆にThe Hivesのイメージからはずれる曲となっており、意外性のある彼らの一面を感じさせる曲になっています。しかしラストチューンとなる「Step Out Of The Way」はやはり彼ららしいアップテンポなガレージロックチューンに。最後の最後はThe Hivesらしい曲で締めくくられていました。

The Hivesとしての意外と幅広い音楽性を垣間見せつつも、基本的には彼ららしいガレージロックのナンバーで構成された本作。「Your New Favirote Band」に匹敵するような、バンドとしての「初期衝動」を感じさせる勢いのある傑作アルバムに仕上がっていました。活動休止期間を経たからこそ、バンドとしての新鮮味を再び得ることが出来たとも言えるのかもしれません。The Hivesの魅力をこれでもかというほど感じることが出来た傑作ですし、個人的にも今年のベスト盤候補の1枚とも言えるほどの作品だったと思います。ロックが好きなら必聴ともいうべき傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

THE HIVES 過去の作品
The Black and White Album
LEX HIVES
Live At Third Man Records

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2023年9月16日 (土)

メロウなトラックが心地よい

Title:Sundial
Musician:Noname

Noname_sundial

シカゴを拠点として活動している女性ラッパー、Noname。Chance The Rapperのアルバムに参加して話題となったほか、デビュー作である前作「Room25」は各種メディアで絶賛を受け、一躍、注目のラッパーとなりました。本作は、そのデビューアルバムから約5年ぶりとなる2作目。その前作「Room25」は私も聴いて、年間ベストアルバムの7位に選んだほどはまった1枚となっただけに、今回のアルバムもかなり期待を持って聴いてみました。

今回のこのジャケット写真については、ご覧の通り、かなり強烈なアートワークを起用しており、賛否呼びそうな印象を受けますが・・・ただ、肝心のアルバムの内容については、このジャケット写真と全く異なるような作風。前作はジャズやネオソウルの影響の強いトラックを取り入れた、メロウで歌心の強い楽曲が並んでいましたが、本作も基本的な方向性は前作と同様。そのため、おそらくHIP HOPをあまり聴かないようなリスナー層にも楽しめるアルバムになっているのではないでしょうか。

アルバムの1曲目を飾る「black mirror」はフィリーソウルテキストのメロウなトラックにポエトリーリーディング的なラップが特徴的で、トラックを飾る美しいコーラスラインには耳を惹かれます。続く「hold me down」ではメロウなトラックにゴスペルの要素も取り入れたサウンドが耳を惹く内容となっています。

その後もAyoniによるソウルフルなボーカルも目立つ「boomboom」や、リズミカルでジャジーなトラックが印象的な「namesake」、メロウなトラックにトライバルなリズムが印象に残る「toxic」など、ジャジーやソウルの要素を取り入れた、歌心あるトラックが印象的なアルバムに。彼女のラップも、マッチョ的な力強さを押し出したようなものではなく、比較的淡々と綴るような、ポエトリーリーディングのようなラップスタイルであり、このトラックとも上手くマッチしており、全体的にメロディアスな作風に作り上げられています。

若干今回のアルバムで引っかかるのは、アルバムリリース前の先行シングルでありながら物議を呼んだ「ballons」。この楽曲に参加しているラッパーのJay Electronicaが反ユダヤ主義的な陰謀論にはまっており、この楽曲にも"It's all a hoax,quite simple,a joke like Zelenskyy"(それはすべてデマで、非常に単純で、ゼレンスキーのような冗談です)と、ウクライナを揶揄するようにとらえかねられないリリックが入っている点もちょっと気にかかるところです・・・。

そんな若干気になる部分はありつつも、アルバム全体としてはよく出来た内容だったのは間違いなく、ソウルやジャズの要素をふんだんに取り入れたメロウなトラックと、彼女のラップに終始心地良さを感じる傑作に仕上がっていました。HIP HOPをあまり聴かないようなリスナー層でも楽しめそうなアルバム。売上的にはまだまだ芳しくないようですが、今後、さらに注目を集めていきそうな、そんな予感もする1枚でした。

評価:★★★★★

Noname 過去の作品
Room25

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2023年9月15日 (金)

blurらしさを感じる久々の新譜

Title:THE BALLADS OF DARREN
Musician:blur

oasisと並んで90年代のブリットポップブームを代表するロックバンド、blur。2000年中盤以降、事実上の解散状況になったものの、その後はたまに思いついたようにライブを実施したりする散発的な活動が続いていました。ただ、そんな中、2015年には実に12年ぶりとなるアルバム「The Magic Whip」がリリース。この時も「これが最後」みたいな話も流れたりもしたのですが、前作から8年、待望のニューアルバムがリリースされました。

前作「The Magic Whip」については、ライブイベントの中止によって予定外に時間があいたことにより、急遽レコーディングされた1枚でした。そのこともあってか、久々の新作であったものの期待していたほどの出来栄えではなく、傑作とは言い難い出来になっていました。一方、そういう観点で言えば今回のアルバムは十分な準備の元に作成された作品。そして、結果としては、いい意味でblurらしい作品が並んだ、快心の傑作に仕上がっていました。

まずアルバムはある意味、まんまなタイトルの「The Ballad」からスタートします。こちらはメランコリックなメロディーラインが心地よい、タイトル通りのミディアムバラード。そして、なんといっても魅力的なのは続く「St.Charles Square」でしょう。ひねくれたセンスの独特でユーモラスを感じさせるギターサウンドが展開されるポップチューンは、これぞblur!といった感じの作品。昔からのファンにとっては、おもわずニヤリとさせられる作品ではないでしょうか。

続く「Barbic」も爽やかで軽快なポップナンバー。シンプルながらも彼らのメロディーセンスも光るギターポップになっています。そして中盤の軸と言うべきなのが先行シングルともなっている「The Narcissist」で、こちらも決して派手ではないのですが、爽やかでメロディアスな歌が強く印象に残るギターポップのナンバーに仕上がっています。

後半も「Goodbye Albert」はメランコリックに聴かせるメロながらも微妙にひねくれた感じに仕上がっているのが彼ららしいし、「Avalon」も同様に、どこか癖のあるサウンドに心地よさを感じます。楽曲は全体的にメランコリックに仕上がっており、前述の曲も含めて、ある種の派手さはないのですが、聴き終わったあとしっかりと印象に残るメロディーとなっており、そういう意味でもblurの実力を感じさせるアルバムになっていたと思います。

変なギミック的なものもなく、下手な気負いみたいなものもなく、blurらしい作品を素直に作ってきたアルバムになってきたように思います。若い頃に、メンバー同士のぶつかり合いから解散に追い込まれたグループが、メンバー全員年を取ってから再結成したら、全員が大人になっていて、結果として変なこだわりのない素直なアルバムをリリースするケースがあります。今回のblurのアルバムは、そんな大人になった今だからこそリリースできるような、いい意味での素直なアルバムだったように感じます。えてしてそのようなタイプのバンドは、その後も継続的に活動を続けるのですが、blurもまた、そんな感じで継続的に活動を続けてほしいなぁ。そう強く感じる傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

blur 過去の作品
MIDLIFE:A Beginner's Guide to Blur
All the People... Live in Hyde Park: 2nd July 2009
PARKLIVE
The Magic Whip

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2023年9月14日 (木)

ベスト3は韓国の男性アイドルが並ぶ

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週のベスト3はすべて韓国の男性アイドルという結果になりました。

まず1位は韓国の男性アイドルグループStray Kids「Social Path(feat.LiSA)」がランクイン。5曲入りのEPなのですが、3曲+そのインスト版2曲という実質的なシングル。タイトルにもなっている曲は、タイトル通り、あの女性シンガーLiSAとのコラボ曲。ただ、微妙にLiSAのファン層とK-POPの男性アイドルグループのファン層は重ならないようにも思うのですが。CD販売数1位、ダウンロード数4位。オリコンでは初動売上50万6千枚で1位初登場。直近作はアルバム「★★★★★(5-STAR)」で同作の初動売上7万7千枚(2位)から大幅にアップしています。

2位には同じく韓国の男性アイドルグループBTSのメンバーVによるソロアルバム「Layover」がランクイン。CD販売数2位、ダウンロード数1位。Hot100でもJung Kookがヒットを記録していますが、メンバーの何人かが兵役中で活動休止状況の彼ら。しばらくはソロ作が続きそうです。オリコンでは初動売上22万1千枚で2位初登場。

3位にも韓国の男性アイドルグループBOYNEXTDOOR「WHY...」が初登場。CD販売数3位、ダウンロード数30位。オリコンでは初動売上4万枚で3位初登場。本作がデビュー作となります。そういえば昔、avexにgirl next doorというユニットがあったな…何も関係ないと思うけど…。

以下、4位TREASURE「Reboot」、5位SEVENTEEN「SEVENTEEN JAPAN BEST ALBUM『ALWAYS YOURS』」と、今週は実にベスト5を韓国の男性アイドル勢が占める結果となりました。そしてようやく日本勢かつ非アイドル勢としては6位に星野源「LIGHTHOUSE」がランクインしています。Netflixの彼とオードリー若林正恭による同名のトーク番組のために書き下ろした6曲を収録した配信限定のEP盤。ダウンロード数で2位にランクインし、総合チャートでもベスト10入りを果たしました。

そして7位には Shogo Hamada & The J.S.Inspirations「The Moonlight Cats Radio Show Vol.3」が初登場でランクイン。2017年に同タイトルのVol.1,2がリリースされて好評を博した、浜田省吾とそのツアーバンドメンバーによる洋楽カバーミニアルバムの第3弾。CD販売数6位、ダウンロード数38位。オリコンでは初動売上1万8千枚で5位初登場。直近作はミニアルバム「In the Fairlife」で同作の初動2万枚(5位)からはダウン。同シリーズの前作「Vol.1」「Vol.2」のそれぞれ初動2万2千枚(1位、2位)からもダウンしていますが、売上が大幅にダウンしそうな第3弾としては、そこそこ好調な結果と言えるかもしれません。

8位はBlue Journey「夜明けのうた」が初登場。CD販売数12位、ダウンロード数3位。女性VTuberグループ「ホロライブ」による新しい音楽プロジェクトのデビュー作。オリコンでは初動売上1万3千枚で11位初登場。

9位初登場はサカナクション「懐かしい月は新しい月 Vol.2 ~Rearrange & Remix works~」。2015年にリリースされたサカナクションのカップリング&リミックス集「懐かしい月は新しい月~Coupling&Remix works~」の第2弾。メンバー自身によるリアレンジ集「月の現~Rearange worls~」と、Corneliusや藤原ヒロシといった豪華メンバーがサカナクションの曲をリミックスした「月の幻~Remix works~」の2枚組からなるアルバム。CD販売数7位、ダウンロード数5位。オリコンでは初動売上1万4千枚で8位初登場。直近作「アダプト」の初動3万枚(4位)からダウン。同シリーズの前作「懐かしい月は新しい月~Coupling&Remix works~」の初動2万枚(5位)からもダウンしていますが、こちらは既に8年も前のアルバムということを考えると、本作の初動売上は十分健闘といった結果かもしれません。。

そして最後も韓国の男性アイドルグループNCT「Golden Age」がCDリリースに伴い、先週の13位から10位にランクアップし、ベスト10初登場。CD販売数10位、ダウンロード数22位。オリコンでは初動売上1万4千枚で7位初登場。前作「Universe:NCT Vol.3」は、発売日の関係でオリコンではランクイン2週目にして5万7千枚を売り上げて1位初登場となっていますので、そちらよりは大幅にダウンとなっています。

今週のHot Albumsは以上。ちなみに先週までロングヒットを続けていたMrs.GREEN APPLE「ANTENNA」は今週17位にダウン。ベスト10ヒットは9週連続でストップとなりました。次回のチャート評はまた来週の水曜日に!

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2023年9月13日 (水)

ついに、ついに陥落!

今週のHot100

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先週まで21週連続で1位をキープしてきたYOASOBI「アイドル」。今週、ついに1位から陥落しました。なんと、それも一気に4位にダウイン。21週連続1位をキープしてきたストリーミング数は2位にダウン。ダウンロード数も2位から4位にダウン。YouTube再生回数に至っては1位から60位に一気にダウン。カラオケ歌唱回数のみ16週連続の1位をキープしています。ベスト10ヒットこそ22週連続となりましたが、連続1位記録のみならず、ベスト3記録も途切れてしまいました。

ただ、それに代わって1位にランクインしたのが、今、渦中のジャニーズ系Snow Man「Dangerholic」という点が複雑なところ。CD販売数及びラジオオンエア数1位、YouTube再生回数2位。TBS系ドラマ「トリリオンゲーム」主題歌。オリコン週間シングルランキングでは初動売上86万9千枚で前作「タペストリー」の初動90万3千枚(1位)よりダウン。ダウンはしているものの、激減といった感じではなく、あれだけジャニーズ問題が取りざたされている中、結局、これだけCDが売れるのならば、事務所的には痛手は薄いんだろうなぁ、と感じてしまいます。そういう意味で、このCDを買った人は、間接的にあの児童虐待の加害者であるという点は、認識すべき事実でしょう。

2位にはKing Gnu「SPECIALZ」が先週の4位からランクインし、2週目にしてベスト3入り。CDがリリースされ、CD販売数が5位にランクインしたほか、ストリーミング数が6位から1位、ダウンロード数も先週から引き続き1位を獲得。オリコンでは初動売上3万2千枚で前作「Stardom」の初動2万7千枚(5位)からアップ。アニメ「呪術廻戦」のテーマ曲という点が大きなプラスとなっており、来週以降の1位獲得及びロングヒットもうかがわせそうです。

3位初登場は韓国の男性アイドルグループENHYPEN「Bite Me」。CD販売数2位、ダウンロード数28位、ストリーミング数34位、YouTube再生回数37位。オリコンでは同曲が収録されているシングル「結-YOU-」が初動売上37万枚で2位初登場。前作「DIMENSION:閃光」の初動30万5千枚(1位)からアップしています。

続いて4位以下の初登場盤ですが、指原莉乃プロデュースの声優アイドルグループ、≠ME「想わせぶりっこ」が5位初登場。CD販売数3位、ラジオオンエア数68位。オリコンでは初動売上18万4千枚で3位初登場。前作「天使は何処へ」の初動13万枚(2位)よりアップしています。

8位にはAdoの配信限定シングル「唱」が初登場。ダウンロード数2位、YouTube再生回数4位。一方、ストリーミング数は15位、ラジオオンエア数は37位に留まり、総合順位はこの位置に。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのハロウィンイベント「ハロウィーン・ホラー・ナイト」とのコラボ楽曲。作詞はFAKE TYPE.のTOPHAMHAT-KYO、作曲はGigaとTeddyLoidが担当、ボカロP寄りのミュージシャンが参加した内容になっています。

一方、ロングヒット系では、キタニタツヤ「青のすみか」は5位から6位に再びダウン。ダウンロード数7位、YouTube再生回数6位は先週から変わりませんでしたが、ストリーミング数は2位から3位に若干のダウン。これで10週連続のベスト10ヒットとなっています。

Jung Kook「Seven(feat.Latto)」も6位から7位に若干のダウン。こちらもYouTube再生回数は8位をキープしていますが、ストリーミング数が3位から4位にダウン。今週で9週連続のベスト10ヒットとなっています。

Vaundy「怪獣の花唄」も7位から9位に再びダウン。カラオケ歌唱回数は変わらず2位ですが、ストリーミング数は4位から7位にダウン。ただYouTube再生回数は14位から11位にアップしています。こちらは37週連続のベスト10ヒット。

ちなみに先週ベスト10に返り咲いたMrs.GREEN APPLE「青と夏」「ケセラセラ」は再びベスト10圏外に。「ケセラセラ」は通算13週のベスト10ヒットで再びストップとなりました。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums!

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2023年9月12日 (火)

懐かしいバンドがいつの間にか復活!

Title:what a wonderful world
Musician:wilberry

このバンドの名前を聴いてかなり懐かしく感じました。1999年にミニアルバム「in my soul of souls」でデビューしたギターロックバンド、wilberry。時はoasisの全盛期。この時代のブリット・ポップや、あるいはその前のマッドチェスターの影響を受けたバンドが多くデビューしていました。まんまoasisと言われて賛否両論だったWINOというバンドもあったなぁ、と思い出しつつ、wilberryもその流れで出てきたバンド。非常に洋楽テイストも強いバンドだっただけに注目を集めた一方、特に1999年代近辺というと、くるり、スーパーカー、NUMBER GIRL、pre-school、Dragon Ash、TRICERATOPS、GRAPEVINE…などといったギターロックバンドの多くが全盛期を迎えていた頃。正直なところ、wilberryはそんなバンドブームとも言える時代の中に埋もれてしまい、結局、ミニアルバム4枚、フルアルバムを1枚リリースし、解散してしまいました。

そんなwilberryがなんとニューアルバムをリリースしていることに気が付いて驚いてしまいました。調べてみると、2017年に再結成。アルバム1枚をリリースし、その後はライブ会場のみでのリリースで数枚アルバムをリリースした後、このニューアルバムのリリースに至ったようです。メンバーはボーカルのジョウミチヲのみオリジナルメンバーで、ギターは元椿屋四重奏の安高拓郎、ベースには元THE NEATBEATSの"ROYAL"SEIZAN MIURA、ドラムスにはCURIOのBRITAINというメンバーになっているようです。

1曲目「shake my head」は、シタールを取り入れたエキゾチックなサウンドで、まさにマッドチェスターの影響をストレートに受けたような曲。「lockdown blues」は軽快なピアノの音色も入った、ストーンズを彷彿させるようなロックチューン。前半は、そんなwilberryらしい、グルーヴィーなギターロックチューンが並びます。

ただユニークなのは後半で、「havana」ではラテン風のリズムが入ってきますし、さらに「coppelia」ではボッサ風と、南米やラテンの要素が加わります。さらにラスト「dancer in the dark」では打ち込みの入ったダンスチューンになっているなど、全体的にバリエーションの富んだ作品になっています。

基本的にイギリスの、それも90年代あたりのギターロックからの影響は健在で、個人的にも素直に楽しめる部分はあるアルバムになっていました。それだけに、最初はワクワクしながら聴いていたのですが・・・ただ、正直なところ途中から、ちょっとそのワクワクは醒めてしまいました。

というのも大きな理由は2つあって、まず1つ目が、確かにイギリスギターロックの影響をストレートに受けつつ、ラテンやダンスチューンなどバラエティー富んだ要素を入れているものの、wilberryとしての個性が薄いという点。もう1点が、メロディーラインにいまひとつインパクトが薄いという点。かといって、圧倒的なバンドのグルーヴ感を聴かせる感じでもありません。もちろん、サウンドもメロもそれなりに魅力的にではあるものの、それだけを売りにするにはちょっと物足りなさが残ってしまい、全体的に中途半端という印象は否めませんでした。

そもそも1999年のデビュー時も、大絶賛というよりもそれなりに評価されつつも、大絶賛とまではいかない…という印象だったのですが、確かにくるりやスパカなど、数多くの実力派バンドの中に埋もれてしまったのは、さもありなん、と今回のアルバムを聴いても感じてしまいました。

とはいえ、ブリッドポップやマッドチェスターが好きならば、かなり壺にはまりサウンドなのは間違いないかと思います。そういう意味では、この手のサウンドが好きならチェックしてみても損はないアルバムだと思います。今後はコンスタントに活動を続けるのでしょうか。もう一皮むければ、かなりおもしろくなるとは思うのですが。

評価:★★★★


ほかに聴いたアルバム

冨田ラボ/冨田恵一 WORKS BEST 2 ~beautiful songs to remember~/冨田ラボ

プロデューサーとして数多くのミュージシャンの楽曲を手掛ける冨田ラボこと冨田恵一。本作は、そんな彼が、冨田ラボ、もしくは本名の冨田恵一名義で手掛けたプロデュースワークを収録したベストアルバムです。ちょっとジャズのテイストを加えたエレクトロサウンドが特徴的なのですが、楽曲によっては生楽器メインのアレンジもあったりして、裏方に徹しつつも、どこか冨田ラボの色を残した仕事ぶりがユニーク。本作に収録されているミュージシャンも椎名林檎、スガシカオ、矢野顕子から、薬師丸ひろ子や森口博子といったメンバーまでバラエティーがあり、なにげに幅広い彼の仕事ぶりがわかる作品となっていました。

評価:★★★★★

冨田ラボ 過去の作品
Shipahead
Joyus
SUPERFINE
M-P-C “Mentality, Physicality, Computer"
7+

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2023年9月11日 (月)

「こぶし」の魅力をこれでもかというほど感じる2枚

Title:中村とうようの「世界こぶし巡り」+「こぶし地帯を行く」

音楽評論家の中村とうようが、生前に企画・編集を行ったオムニバスアルバムについて、彼の13回忌を機に復刻を行う再発企画。第1弾は「ボサ・ノーヴァ物語」、第2弾は「大衆音楽の真実」と、それぞれ当サイトでも紹介してきましたが、本作はその第3弾であり、最終版となります。今回は、ワールドミュージックの中でも一種特徴的とも言える「こぶし」にスポットをあてた2枚の企画盤。「世界こぶし巡り」は1995年、「こぶし地帯を行く」は1996年にリリースされたアルバムとなります。

第2弾「大衆音楽の真実」を聴いた時に、大衆音楽の最終的な魅力はやはり「歌」と「リズム」であると感じました。そう考えた時に、「歌」の魅力である「こぶし」に行きつくというのは、ある意味、自然な流れなのかもしれません。もっとも、中村とうよう自身が、そう考えたからこそ、「大衆音楽の真実」ではその考えに沿った構成となり、それを聴いた私が、中村とうようのある意味術中にはまり、「歌」と「リズム」が重要と考えるに至った、という流れなのかもしれませんが・・・。

今回再発された「世界こぶし巡り」と「こぶし地帯を行く」。「世界こぶし巡り」は「こぶし」にスポットをあてた上で、世界中の様々な音楽を1枚のCDに収録しています。一方、「こぶし地帯を行く」に関しては、中村とうよう自身が「こぶしの本場」と考えている西アジアから東南アジアの地域に絞った選曲となっています。

まず、企画としての面白さを感じるのは断然、「世界こぶし巡り」の方でした。非常にユニークなのが、テレサ・テン、江差追分、アフリカの音楽、アラブの音楽、さらにはライトニン・ホプキンス、サラ・ヴォーン、オーティス・レディングなどが1つのアルバムに並んで収録するという大胆さに感心させられます。一言で「こぶし」といってもテレサ・テンのようなちょっと妖艶さも感じる「こぶし」から、江差追分のような、日本人にとっておなじみの民謡の「こぶし」、ナイジェリアのヨルバ人によるトライバルな「こぶし」を聴かせる「エッベ・オロウォ・フォバジェ」、ビブラートをこれでもかというほど効かせたイランの歌手、ゴルバによる「悲しい歌」、「こぶし」というよりも淡々と語るようなボーカルが印象的なライトニン・ホプキンスなどが並び、おなじみオーティス・レディングの「愛しすぎて」は、この流れで聴くと、非常に洗練されたものを感じさせます。様々なタイプの音楽が並ぶだけに、一言で「こぶし」と言っても、いろいろなバリエーションがある点に気づき、とても興味深さを感じる構成になっています。

一方、やはり純粋にボーカルのすごさ、魅力を感じるのは「こぶし地帯を行く」の方でしょうか。基本的にアラビア風の曲がメインであり、バリエーションという観点からすると乏しいのですが、こぶしに感情を絶妙にのせたボーカルの妙に耳が行く作品が数多く収録されています。人間は声だけで、これだけ表現が出来るのか、ということを感じさせられる内容になっていました。

人間の声が持つ魅力を、これでもかというほど感じさせてくれる2枚。楽曲的には古い曲が多いのですが、あくまでも「声」の魅力は普遍的。そのため、時代を超えた魅力を感じることも出来る作品でした。ワールドミュージックが好きなら、文句なしにお勧めできる企画盤です。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

10 Tracks to Echo in the Dark/THE KOOKS

イギリスのロックバンドによる約4年ぶりとなるニューアルバム。もともと、ブリットポップからの影響を受けたようなシンプルなギターロックが持ち味だったものの、前作「Let's Go Sunshine」では「アイドルポップか?」というほどの爽やかなポップ路線にシフト。本作も、メロディーこそメランコリックなものの、ニューウェーヴの影響を受けたようなアレンジの、ちょっとアイドルっぽいポップソングとなっており、そういう意味では前作からの踏襲となっているようなアルバムになっています。ポップなメロはそれなりに魅力的なので悪いアルバムではないのですが、やはり個人的には昔のようなギターロック路線を聴きたいのですが・・・。

評価:★★★★

THE KOOKS 過去の作品
Konk
Junk of the Heart
The Best of...So Far
Let's Go Sunshine

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2023年9月10日 (日)

「戦後」を代表する2人の歌手

さて、先日の書籍の紹介で、NHK朝の連続テレビ小説「ブギウギ」の放送に合わせてリリースされた、笠置シヅ子と服部良一の評伝を紹介しましたが、日本コロムビアより、「笠置シヅ子とブギウギの時代」と題された企画CDがリリースされました。今回はそのうち、7月にリリースされた2作についての紹介です。

Title:笠置シヅ子の世界~東京ブギウギ~
Musician:笠置シヅ子

まずは大本命。笠置シヅ子の代表曲を収録した「笠置シズ子の世界」。このタイトルの付け方も、いかにも「昭和」っぽくていい感じですが、おなじみの代表曲「東京ブギウギ」からスタートし、先日紹介した評伝本で大絶賛されていた「買い物ブギー」をはじめ、彼女の代表曲が網羅されたアルバムとなっています。

Disc1は、その「東京ブギウギ」「買い物ブギー」をはじめ、このブギウギのイメージにのっかかった「〇〇ブギウギ」なる曲が並んでいます。「大阪ブギウギ」「博多ブギウギ」にさらには「名古屋ブギウギ」も。このうち「北海ブギウギ」はいままでSP盤が見つからなかったものがこのたび発見され、初のCD化となったそうです。一方、Disc2は「ボン・ボレロ」「タンゴ物語」「コンガラガッタ・コンガ」「ジャンケン・マンボ」など、やはり海外のリズムを取り入れた楽曲が並んでいます。

昨日紹介した「昭和ブギウギ 笠置シヅ子と服部良一のリズム音曲」では、服部良一の音楽に対する考え方として、メロディーは「民族」に固有のものと考え、外来のリズムに日本固有の旋律を融合させたような曲を多く作ってきたそうです。確かに、笠置シヅ子の曲を聴く限りだと、そんな服部良一の音楽的な方向性がもっともよく表れているのではないでしょうか。リズムは洋風なのに、メロディーは良くも悪くも歌謡曲というのが笠置シヅ子の曲の大きな特徴に感じましたし、また、この流れは、ともすればその後の日本のヒット曲に引き継がれ、J-POPと言われる曲も、このようなリズムとメロディーのチグハグさが大きな特徴になっているように感じます。

正直、「東京ブギウギ」のヒットを受けて出てきたご当地ブギは、歌詞に出てくる名所を入れ替えれば、すぐに違う街の歌になりそうな、粗製乱造的なつくりなのは否めません。ただ、その点を差し引いても、陽気なリズムは、どこか戦後すぐ、暗い戦時中から一転し、世間が明るさに包まれたような時代の空気も感じられました。ある意味、「戦後」を強く感じさせてくれるオムニバス盤でした。

評価:★★★★

そして、もう1作が、笠置シヅ子のライバルとも言われた淡谷のり子のコンピレーションアルバムとなります。

Title:淡谷のり子の世界~別れのブルース~
Musician:淡谷のり子

私くらいの世代だと、淡谷のり子といえば、フジテレビ系のものまね番組や、バラエティー番組などに出ていた「おばあちゃん」というイメージ。ただ、戦前から戦後にかけて活躍し、「ブルースの女王」と呼ばれており、「ブギの女王」と呼ばれた笠置シヅ子のライバル的存在だったそうです。

ライバルという意味では、確かに淡谷のり子と笠置シヅ子は実に対照的なように感じます。笠置シヅ子がブギウギのリズムで明るい雰囲気を醸し出している一方、淡谷のり子は哀愁たっぷりの曲を聴かせる楽曲が並びます。リズムを前に出している笠置シヅ子に対して、淡谷のり子は歌を前に出しているという点でも対照的。ちょっと極端な言い方かもしれませんが「陽」の笠置シヅ子に対して「陰」の淡谷のり子という言い方も出来そうです。

ただもうひとつ対照的に感じたのは、笠置シヅ子がブギウギのリズムで洋風的な装いをみせつつも、メロディーラインは日本土着のものというスタイルだったのに対して、淡谷のり子は哀愁たっぷりのムード歌謡曲の装いをみせつつも、メロディーラインからはどこか都会的、洋風な洒落たものを感じました。特にDisc2では海外の曲のカバーを披露しているのですが、全体的にブルースというよりはシャンソンの影響を感じる、都会的なあか抜けた楽曲が魅力的。淡谷のり子は生前、演歌などを嫌っていたそうですが、確かに彼女の歌う曲は、ムーディーでありつつも演歌とは明らかに一線を画しているように感じます。

そして今聴いても抜群に歌が上手いのが大きな魅力。特にビブラートを利かせつつ、感情を込めたボーカルは、今聴いても時代を超えて胸をうつものがあります。彼女の曲からももちろん「昭和」や「戦前」の空気を感じるのですが、ただその歌声は、間違いなく時代を超えた魅力を感じさせてくれました。

もちろん、いままでも戦前戦後のヒット曲の復刻版を多く聴いてきていましたので、淡谷のり子の魅力は知っていましたが、このオムニバスではあらためて彼女の実力を強く感じることが出来ました。時代を超えてお勧めできるアルバムです。

評価:★★★★★

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2023年9月 9日 (土)

著者による果敢な挑戦も行われた1冊だが

今回は、最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

近代音楽史研究家、輪島裕介による笠置シヅ子の評伝「昭和ブギウギ 笠置シヅ子と服部良一のリズム音曲」。今年10月からスタートするNHK朝の連続テレビ小説「ブギウギ」は、主に戦後すぐに活躍し、「ブギの女王」と言われた笠置シヅ子をモデルとした話。その影響もあり、笠置シヅ子がらみのCDや書籍が多く販売されていますが、本書もそんな時流に乗って販売された1冊です。

著者の輪島裕介は、以前も当サイトで紹介した「創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史」「踊る昭和歌謡」の著者であり、いずれの書籍も話題となり注目を集めた研究家。ともすれば「年寄りの思い込み」と「イメージ論」で支配されがちな戦前戦後の昭和歌謡を、具体的なデータに基づいた客観的な分析が高い評価を得ていますし、私もいずれの書籍も非常に読んでいて勉強となったため、今回の書籍についても手を伸ばしてみました。

本書は、基本的に笠置シヅ子の歌手としての半生を描いているのですが、同時に、彼女の音楽を多く手がけた作曲家の服部良一についても、笠置シヅ子との関係について、より多くの書面を割いて紹介、分析を行っています。特に第7章の「服部は『ブギウギ』をどう捉えていたか」については非常に力作とも言える分析になっており、ここで輪島は、服部について必ずしも一方的に絶賛しておらず、当時の流行歌を否定的にとらえていた傾向や、リズムに関しての単純な服部の見方に対して批判も加えています。ここらへんの冷静な分析は非常に興味深く読むことが出来ました。

ただ、本書は、輪島が書いたいままでの2冊に比べると、大胆な分析はちょっと控えめだったように感じます。特に彼は序章において、「挑戦したい暗黙の前提」として

「一、一九四五年の敗戦を決定的な文化的断絶とする歴史観への挑戦
二、東京中心の文化史観に対する挑戦
三、『洋楽』(≒西洋芸術音楽)受容史として近代日本音楽史を捉えることへの挑戦
四、大衆音楽をレコード(とりわけ『流行歌』)中心に捉えることへの挑戦」

を上げていますが、本書に関して言えば、いずれも中途半端に終わってしまったかな、とも感じます。それはいずれも、本書で取り上げているのが笠置シヅ子(そして、彼女が歌った曲をつくった作曲家としての服部良一)の1つの例のみにスポットをあてているため、その一例だけで、彼が挑戦したい前提を完全に崩すまでには至っていないように感じました。

もともと、このいずれの挑戦も、1つのテーマだけで余裕で本が1冊かけるだけの内容。その挑戦を行いつつ、かつ笠置シヅ子の半生を描き、さらには服部良一にまで手を伸ばした本書は、結果として正直なところ、ちょっといずれも中途半端になってしまったかな、とも感じてしまいました。

そう考えると、目からうろこが落ちたいままでの彼の2冊と比べると、ちょっと物足りなさも感じてしまったのは事実です。ただ一方、笠置シヅ子の半生という観点からすれば、それなりにまとめられており、非常に楽しく読むことが出来ました。そういう意味では、連続テレビ小説の副読本的にはピッタリとも言えるかもしれません。

そんな訳で、これから10月以降、連続テレビ小説スタートに合わせてさらに話題となりそうな笠置シヅ子。本書もそうですが、それに合わせてCDもリリースされており・・・次回は、そのCDについての紹介及び感想を予定しています!

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2023年9月 8日 (金)

ホワイトノイズとキュートなメロがたまらないライブ盤

Title:Sunset 666 (live At Hollywood Palladium)
Musician:The Jesus and Mary Chain

80年代から90年代にかけて活躍し、90年代以降の多くのオルタナティブバンドに影響を与えたロックバンド、The Jesus and Mary Chain。1999年に解散したのですが、2007年に再結成。その後、アルバムを1枚リリースしています。その後の活動は、この手の再結成組にありがちな、気が付いた時に活動する、程度の散発的なものに留まっているようですが、そんな中、新たなライブアルバムがリリースされました。本作は2018年に行った全米ツアーのうち、ロサンゼルスのハリウッド・パラディアムで行ったもの。Nine Inch Nailsのライブのスペシャルゲストという扱いだったようですが、全6公演のうち12月11日と15日の公演から収録された公演から、全17曲が収録されています。

選曲についてはほぼベスト盤のようなセレクトになっており、衝撃なデビュー作として話題となった「Psychocandy」から、再結成後唯一のアルバム「Damage and Joy」からの曲まで収録されており、ジザメリの活動を網羅的に楽しめるアルバムともなっています。個人的にジザメリは大好きなバンドの一つなので、代表曲が多く収録されている今回のアルバムは、まさに個人的にも壺にはまった選曲になっていました。

ライブ盤は彼らの代表曲とも言える「Just Like Honey」からスタートするのですが、最初のいかにもジザメリらしい(そして80年代っぽい)ドラムのリズムが鳴り始め、そしてノイジーなしかし甘いギターの音色が流れだした時からワクワクするしかありません。まさに1曲目から彼らの楽曲の魅力にグッと引き寄せられます。

3曲目に収録されている「Black and Blues」ではベル・アンド・セバスチャンの元メンバー、イザベル・キャンベルがゲストボーカルとして参加。ギターノイズの中に清涼感を与えるような彼女のボーカルも魅力的。分厚いギターノイズの中に甘く流れるメロディーラインも魅力的な作品となっています。

その後も分厚いギターサウンドにメランコリックなメロディーラインが楽曲タイトル通り甘く響く「Some Candy Talking」に、Pixesのカバーでもおなじみの、軽快でメロディアスなギターポップ「Head On」、ヘヴィーなギターノイズをダイナミックに聴かせる「Cracking Up」に、ノイジーなギターサウンドをパンキッシュに聴かせる「I Hate Rock'N'Roll」と続いていきます。

さらに9分にも及ぶ「Reverence」ではグルーヴィーなサウンドをこれでもかというほど聴かせてきますし、終盤も「Half Way To Crazy」など、ジザメリらしいキュートなメロディーラインとノイジーなギターサウンドを組み合わせた曲が次々と繰り広げられていきます。全17曲1時間強。最後までキュートなメロディーラインと、そのメロをコーティングするようなギターのホワイトノイズが続く、ドリーミーなライブアルバムでした。

基本的には往年のジザメリのイメージそのままのライブアルバムなので、ファンにとってはたまらない内容になっているでしょう。ただ、今回のライブアルバムを聴いて感じたのは、ジザメリの大きな魅力というのは、やはりキュートなメロディーラインなんだな、ということでした。ホワイトノイズで埋め尽くされたギターサウンドは今でも大きな魅力なのは間違いありません。ただ、このホワイトノイズは、90年代以降、多くのフォロワーがあらわれて、今となっては決して珍しいものではありません。ただ一方、メロディーラインの魅力については40年近くを経過した今でも健在。今回のライブアルバムで、そのことをあらためて強く感じました。

しかし、このホワイトノイズとキュートなメロの嵐、ライブ会場で体感したら気持ちよかっただろうなぁ、と感じます。ライブ活動は断続的とはいえ続けているみたいなので、一度ライブも見てみたいなぁ。ジザメリファンにはたまらないライブアルバムでした。

評価:★★★★★

The Jesus and Mary Chain 過去の作品
Damage&Joy

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2023年9月 7日 (木)

男性アイドルグループのデビューアルバムが1位獲得

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週1位を獲得したのは男性アイドルグループのデビューアルバムでした。

今週1位を獲得したのは、ホリプロ初の男性アイドルグループとなるWATWINGのデビューアルバム「Where」でした。CD販売数1位、ダウンロード数58位。オリコン週間アルバムランキングでも初動売上3万8千枚で1位初登場。前作はEP盤の「Take off,」で同作の初動5千枚(12位)より大きくアップ。いままで、男性アイドルグループを寡占していたジャニーズ事務所が、ジャニー喜多川の性加害問題に揺れる中、新しい男性アイドルグループはさらに増える予感がします。

2位初登場は女性アイドルグループモーニング娘。'23「モーニング娘。ベストセレクション ~The 25周年~」。CD販売数3位、ダウンロード数1位。タイトル通り、デビュー25周年を迎えたモーニング娘。のベストアルバム。「LOVEマシーン」や「恋愛レボリューション21」のような往年のヒット曲も収録しているのですが、現メンバーによる新録になっているようなので、結局、現在のメンバーのファン以外にとっては興味を持てなさそう。オリコンでは初動売上2万6千枚で3位初登場。前作はモーニング娘。'21名義でリリースされたオリジナルアルバム「16th~That's J-POP~」で、同作の初動3万7千枚(2位)よりダウンしています。

3位は先週1位にランクインしたSEVENTEEN「SEVENTEEN JAPAN BEST ALBUM『ALWAYS YOURS』」が2ランクダウンながらもベスト3をキープしています。

続いて4位以下の初登場盤ですが、まず4位に女性シンガーソングライターmilet「5am」が初登場。CD販売数4位、ダウンロード数2位。これが3枚目のオリジナルアルバムとなります。オリコンでは初動売上1万7千枚で4位初登場。直近作はEP盤の「Flare」で同作の初動5千枚(6位)からはアップ。オリジナルアルバムとしての前作「visions」の初動2万6千枚(5位)からはダウンしています。

5位初登場は韓国の男性アイドルグループPENTAGON「PADO」。5曲入りの日本盤のミニアルバム。CD販売数5位、ダウンロード数15位。オリコンでは初動売上5千枚で13位初登場。前作「Feelin' Like」の初動6千枚(6位)からダウン。

7位にはWANDS「Version 5.0」がランクイン。90年代に一世を風靡したビーイング系のバンドが、新メンバーにより再結成。本作は、再結成後2枚目のアルバムとなります。CD販売数9位、ダウンロード数5位。オリコンでは初動売上1万枚で6位初登場。前作「BURN THE SECRET」の初動1万5千枚(4位)よりダウン。

初登場最後は9位にランクインした「うたの☆プリンスさまっ♪ Shining Live オムニバスドラマCD」。スマートフォンゲーム「うたの☆プリンスさまっ♪ Shining Live」から派生したドラマCD。CD販売数8位。オリコンでは初動売上9千枚で7位初登場。

また今週はベスト10返り咲き組が2枚。まず韓国のアイドルグループTREASURE「Reboot」が先週の13位から6位にランクアップし、2週ぶりのベスト10返り咲きとなりました。

さらに東方神起のメンバーU-KNOWのミニアルバム「Reality Show」がCDリリースが売上に加わった影響で、先週のランク圏外から8位に一気にランクアップ。こちらは3週ぶりのベスト10返り咲きしています。

そしてロングヒット盤は今週、Hot100で2曲がベスト10に返り咲きたMrs.GREEN APPLE「ANTENNA」が先週から変わらず10位をキープ。これで9週連続のベスト10ヒットとなりました。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2023年9月 6日 (水)

ジャニーズ系を下して21週連続1位!

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週も不動の1位となりました。

Yoasobiidle

今週も1位はYOASOBI「アイドル」。これで21週連続の1位獲得となりました。ストリーミング数、YouTube再生回数及びカラオケ歌唱回数は今週も1位獲得。ダウンロード数も3位から2位に再度アップしています。

2位はジャニーズ系。SixTONES「CREAK」が初登場。CD販売数1位、ラジオオンエア数2位、YouTube再生回数5位。テレビ朝日系ドラマ「のっきんオン・ロックドドア」主題歌。オリコン週間シングルランキングでは初動売上47万5千枚で1位初登場。前作「こっから」の初動49万5千枚(1位)からダウンしています。

3位は先週2位の乃木坂46「おひとりさま天国」がワンランクダウンながらベスト3をキープしています。

続いて4位以下の初登場曲ですが、まずは4位にKing Gnu「SPECIALZ」が初登場。ダウンロード数1位、ストリーミング数6位、ラジオオンエア数75位。TBS系テレビアニメ「『呪術廻戦』渋谷事変」オープニングテーマ。9月6日にリリースしたCDからの先行配信なので、来週はさらなるランクアップが見込まれます。いままで多くのロングヒット曲を生み出したアニメのため、今後のロングヒットが期待できそうです。

さらに今週はベスト10圏外からの返り咲きも数曲。まずMY FIRST STORY「I'm a mess」が先週の11位からランクアップで2週ぶりのベスト10返り咲き。TikTokで話題となったこの曲、ストリーミング数で5位までランクアップ。今後のさらなるヒットも見込まれます。

さらに今週、Mrs.GREEN APPLE「青と夏」が12位から9位、「ケセラセラ」が15位から10位にアップ。2曲同時ランクインとなりました。「青と夏」は2週ぶり、「ケセラセラ」は実に6週ぶりのベスト10返り咲き。さらに「ケセラセラ」は通算13週目のベスト10ヒットとなっています。Mrs.GREEN APPLEはさらに「Magic」が11位にランクインしており、9位から11位に並ぶ結果となっています。ただし、ストリーミング数は「青と夏」が7位から9位、「ケセラセラ」が8位から10位にそれぞれダウンしており、ゆるやかな下落傾向。これ以上のランクアップは厳しいかもしれません。

続いてロングヒット曲ですが、キタニタツヤ「青のすみか」が7位から5位にアップ。これで9週目のベスト10ヒットとなりました。ちなみにこちらもアニメ「呪術廻戦」のオープニングテーマで、これで「呪術廻戦」のテーマ曲が4位5位と並ぶ形となりました。ストリーミング数は4週連続の2位、YouTube再生回数も4週連続の6位。ただダウンロード数は5位から7位に若干のダウンとなっています。

Vaundy「怪獣の花唄」は先週10位までダウンしましたが、今週は7位に再度アップ。カラオケ歌唱回数は今週も2位をキープし、ストリーミング数も先週から変わらず4位。YouTube再生回数も16位から14位と若干のアップとなっています。これで36週連続のベスト10ヒットとなりました。

そして今週、韓国の男性アイドルグループBTSのメンバーJung Kookのソロシングル「Seven(feat.Latto)」が6位にランクイン。これで8週目のベスト10ヒットを記録しています。特にストリーミング数が4週連続で3位をキープ。YouTube再生回数も8位を記録しています。

今週のHot100は以上!明日はHot Albums。

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2023年9月 5日 (火)

ロックなせっちゃん

Title:ROCK’N ROLL Recording Session at Victor Studio 301
Musician:斉藤和義

今年、デビュー30周年を迎えた斉藤和義がリリースされた30周年記念アルバム。今回のアルバムは、彼がツアーメンバーと共に、ビクターの301スタジオにて一発録りによって収録したアルバム。いつもツアーの毎にライブアルバムをリリースする彼ですが、ライブアルバムとはまた異なった緊張感の中でのレコーディングとなっています。また、選曲については、斉藤和義自らのセレクトとなっているそうで、ベスト盤的な意味合いも強いアルバムとなっています。

今回のアルバムで特徴的なのは、ツアーバンドを率いての一発録りのセッションということもあって、タイトル通り、ロックバンドということを強く意識した録音になっているという点でしょう。全体的にロックバンドということを意識した、非常にダイナミックな演奏を聴かせてくれるアレンジに仕上がっています。

本作には彼の代表曲である「やさしくなりたい」「歩いて帰ろう」も収録されていますが、いずれもバンド色がより強くなったアレンジとなっています。どちらもアレンジを大きく変えた訳ではないのでイメージが大きく変わるものではありませんが、「やさしくなりたい」は、よりギターサウンドがヘヴィーとなり、「歩いて帰ろう」もノイジーなギターのカッティングがより前に押し出されたアレンジとなっています。

アレンジ的に最もロック寄りにシフトしていたのが「ジレンマ」で、1997年にリリースされたアルバムのタイトルチューンなのですが、比較的シンプルなアレンジの原曲とは異なり、疾走感あるギターロックチューンに仕上がっており、グッとロック寄りのイメージにシフトしています。逆に「わすれもの」は、音数を多く入れて、サイケな様相もあった原曲と比べると、シンプルでタイトなサウンドにまとめています。ある意味、バンドだけで演奏できるシンプルなアレンジにシフトしたといったイメージですが、音を絞ったことによって、より大人な雰囲気になったような印象も受けました。

ただ、「ジレンマ」や「わすれもの」などアレンジを大きく変えた作品は少数で、全体的にバンド色は強くなったものの、原曲から大きく変化した作品はありません。というよりも、彼の作品の中から、もともとバンド色が強い作品を選曲しているといった印象を受けました。実際、以前、彼がリリースした「ロック」な曲を集めたセレクションアルバム「黒盤」と重なっている曲が多いもの、そのためでしょう。その結果、「知る人ぞ知る」的な選曲ほどではないものの、どちらかというとベスト盤の次にリリースされそうなアナザーベストに収録されそうな曲が多かったように思います。

ロックなせっちゃんを知れるという意味では最適なアルバムでしたし、何よりも一発録りらしいタイトな演奏が魅力に感じるアルバムになっていました。全体的にはライブ盤というよりもリアレンジという様相も強く、かつ原曲のイメージも大きく異ならないため、ベスト盤的な楽しみも出来るアルバムだったと思います。

そんな訳で、アルバム自体は文句なしの傑作だとは思うのですが、ただ、その点を差し引いても率直な感想としては「思ったほどではなかったかな・・・」とも思ってしまいました。おそらく大きな点は、やはりロックな斉藤和義のみにスポットが当たっていた点。彼のもうひとつの魅力とも言える歌詞をしっかり聴かせるフォーキーな要素の強い作品は本作にはあまりおさめられていません。本作を聴いて感じたのは、私個人としてはやはり斉藤和義のそういった「歌詞」にも大きな魅力を感じていたんだな、ということを再認識しました。

そういった、ある意味、あらためて斉藤和義の魅力を逆説的に感じた部分はありつつ、本作自体は彼の魅力の一側面であるロックなせっちゃんの魅力を存分に感じられるアルバムであり、文句なしの傑作といっていい1枚だったと思います。あくまでも「ロックな側面」ということをエキスキューズしつつも、存分の楽しめるベストアルバム的な作品でした。

評価:★★★★★

斉藤和義 過去の作品
I (LOVE) ME
歌うたい15 SINGLES BEST 1993~2007
Collection "B" 1993~2007
月が昇れば
斉藤“弾き語り”和義 ライブツアー2009≫2010 十二月 in 大阪城ホール ~月が昇れば 弾き語る~
ARE YOU READY?
45 STONES
ONE NIGHT ACOUSTIC RECORDING SESSION at NHK CR-509 Studio
斉藤
和義

Kazuyoshi Saito 20th Anniversary Live 1993-2013 “20<21" ~これからもヨロチクビ~ at 神戸ワールド記念ホール2013.8.25
KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2014"RUMBLE HORSES"Live at ZEPP TOKYO 2014.12.12
風の果てまで
KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016“風の果てまで” Live at 日本武道館 2016.5.22
斉藤和義 弾き語りツアー2017 雨に歌えば Live at 中野サンプラザ 2017.06.21
Toys Blood Music
歌うたい25 SINGLES BEST 2008~2017
Kazuyoshi Saito LIVE TOUR 2018 Toys Blood Music Live at 山梨コラニー文化ホール2018.06.02
KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26 〜これからもヨロチクビーチク〜 Live at 日本武道館 2018.09.07
小さな夜~映画「アイネクライネナハトムジーク」オリジナルサウンドトラック~
弾き語りツアー2019 "Time in the Garage" Live at 中野サンプラザ 2019.06.13
202020
55 STONES
KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2020 "202020" 幻のセットリストで2日間開催!~万事休すも起死回生~ Live at 中野サンプラザホール 2021.4.28
KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2021 “202020 & 55 STONES” Live at 東京国際フォーラム 2021.10.31
PINEAPPLE

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2023年9月 4日 (月)

豪華ゲストも参加したレジェンドの新作

Title:Make Me Say It Again, Girl
Musician:The Isley Brothers

1950年代後半に結成。ヴォーカルグループとして数多くのヒットを世に放ち、まさにソウル界のレジェンドであるThe Isley Brothers。2000年代になった今でもコンスタントに活動を続け、特に1950年代から2000年代まで6つの10年代のビルボードシングルチャートにランクインを果たした、史上初のミュージシャンだそうです。残念ながら2010年代以降はシングルヒットは出していないものの、アルバムはコンスタントにリリースを続けています。今回のアルバムは、オリジナルアルバムとして実に16年ぶりとなるものの、ただ2017年にはサンタナとの共演アルバムをリリース、2007年にもクリスマスアルバムをリリースしており、リリーススパンとしてはそこそこ久々ではあるものの、しっかり現役ミュージシャンとしての存在感を覚えるアルバムとなっています。

もともとボーカルグループとしてデビューし、その後は6人組のファンクバンドにシフトするなど、その長い歴史ゆえの様々な音楽遍歴を誇る彼ら。個人的にはファンクグループとしての彼らに魅力を感じ、5年前のサンタナとの共演アルバムでも、そんなファンクの要素を強く出したアルバムになっていましたが、今回のアルバムは、全体的にミディアムテンポのナンバーが並ぶ、メロウな歌を聴かせてくれるアルバムとなっています。哀愁感たっぷりで切なく歌い上げる「The Plug」やファルセット気味の歌声で美しいメロを聴かせてくれる「Great Escape」など、メロウな歌モノの魅力的なナンバーが並びます。

さらに魅力的なのが豪華なゲスト陣で、アルバム冒頭を飾るタイトルチューン「Make Me Say It Again,Girl」ではなんとBeyonceが参加。その力強い歌声が耳を惹きますし、「There'll Never Be」ではEarth,Wind&Fireが参加。レジェンド同士の共演となっているのですが、Earth,Wind&Fireらしい、ミディアムテンポのナンバーにThe Isley Brothersのファルセットボーカルで聴かせるメロウな歌が実に心地の良いナンバーに仕上がっています。

全体的には率直なところ、メロウなソウルチューンは魅力的ではあるものの、目新しさはあまりなく、インパクトとしての弱さも感じてしまいました。ただ一方で、「Keys to My Mind」ではMigosのQuavoとTakeoffが、「Biggest Bosses」ではRick Rossが参加し、HIP HOPの要素を楽曲に取り入れており、今のシーンにもピッタリとリンクしていることを感じさせます。メンバーのロナルド・アイズレーは御年81歳。それにも関わらず、現在のシーンをしっかり取り込んでいるあたりにミュージシャンとしての現役感と矜持を感じさせ、感心してしまいます。また、若手を含めて豪華ゲストが数多く参加しているのも、レジェンドとしての彼らの実績があってこそ、といった感じでしょう。

ただ、ちょっと気にかかるのが、Snoop Doggをゲストに迎えた「Friends And Family」で、「BLUES&SOUL RECORDS」誌のCD評では「R.Kellyへの深い情を感じさせる」として、彼に捧げる曲であるように記載されています。R.Kellyといえば、性的虐待により実刑判決を受けており、音楽業界では「名前を呼んではいけないあの人」扱いになっているのですが、R.Kellyに捧げる曲をリリースするというのは、日本で言えばジャニーズにおける山下達郎案件であって、あまりよろしくないことのような・・・。前述の雑誌のCD評以外で、この曲に対して、R.Kellyと結びつけた記載は見当たらなかったのですが、かなり気になる記載でした。というか、そうであれば、批判もしないで、むしろ肯定的に記載してしまっている「BLUES&SOUL RECORDS」のCD評は問題では?

まあ、若干、その点が引っかかるのですが、それを差し引いても、現役感あふれるアルバムで、The Isley Brothersの実力を再認識できたアルバムだったと思います。往年のファンならチェックしても損のない作品でしょう。多くのゲストを引き連れた作品は、レジェンドとしての実績を存分に感じさせる、そんなアルバムでした。

評価:★★★★

The Isley Brothers 過去の作品
POWER OF PEACE(THE ISLEY BROTHERS & SANTANA)

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2023年9月 3日 (日)

フォーキーな歌モノだが、ユニークなサウンドプロダクションが魅力的

Title:Jelly Road
Musician:Blake Mills

Alabama ShakesやJohn Legendなどの作品のプロデュースを手掛けたことでも名高いBlake Mills。自らもシンガーソングライターとしても活躍しており、本作がBlake Millsソロ名義では5枚目となるアルバムとなります。

個人的にBlake Mills単独名義のアルバムを聴くのは前作「Muntable Set」に続いて2作目。前々作「Look」はアンビエント寄りの作品だったそうですが、前作「Muntable Set」は静かでアコースティックなサウンドがメインとなる歌モノのアルバム。ただ、その要所要所に彼らしいユニークなサウンドプロダクションが見られた作品となっていました。そして今回のアルバムに関しても、基本的にはその前作「Muntable Set」の方向性を引き継いだような作風に仕上がっています。

アルバム1曲目の「Suchlike Horses」はアコギアルペジオで静かに聴かせるフォーキーな作品なのですが、続く「Highway Bright」はまさに静かに聴かせる楽曲ながらも、シンセやピアノの音色で分厚いサウンドプロダクションを聴かせる作品に。そして、前半の真骨頂とも言えるのがアルバムタイトルチューンの「Jelly Road」でしょう。シンプルながらも、コーラスラインを加味しながらも美しいサウンドとメロディーを聴かせてくれる楽曲に仕上がっており、メロディアスな歌もさることながらも、そのサウンドにも耳を惹かれる作品となっています。また、それに続く「Skeleton Is Walking」も、基本的にアコースティックなサウンドをベースにしつつも、ノイジーなギターサウンドが入り、ダイナミズムさを感じる作品に。美しいメロディーラインを聴かせるフォーキーな作風ながらも、微妙にサイケな要素が加わってくるのもユニークな作品になっています。

その後も基本的にシンプルでフォーキーな歌モノの作品が並ぶのですが、「The Light Is Long」では郷愁感を覚えつつもエキゾチックな笛の音色が入ってきたり、「Breakthrough Moon」でも同じくエキゾチックなパーカッションにブルージーなギターの音色が入り、郷愁感たっぷりの作品に仕上げてきたりと、特に後半はエキゾチックな要素を感じる曲が並びます。また、「Press My Luck」もしんみり聴かせるフォーキーなメロディーラインが大きな魅力に。ただ、単純にフォーキーでアコースティックな作品となっておらず、途中に加わるサイケデリックでノイジーなギターが独特な味わいを楽曲に加えています。

フォーキーでメロディアスな歌をしっかりと聴かせつつ、サウンドプロダクションが非常にユニークな作品が並ぶ作品。単純にフォーキーな歌モノのアルバムとは一風異なる、Blake Millsらしい独自性のある作品に仕上がっていました。決して派手さはありませんが、その仕事ぶりが光る作品に。ソングライターとしての実力をしっかりと感じさせる傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

Blake Mills 過去の作品
Muntable Set
Notes With Attachments(Pino Palladino&Blake Mill)


ほかに聴いたアルバム

Fat Of The Land 25th Anniversary -Remixes/The Prodigy

イギリスのエレクトロロックバンドとして一世を風靡したThe Prodigy。特に1997年にリリースした「The Fat of Land」はエレクトロロックの金字塔として名盤の誉れ高い1枚ですが、そのアルバムから25年を経てリリースされたのが、同作のリミックスアルバム。参加しているミュージシャンは日本での知名度はまだの新進気鋭のミュージシャンのようですが、基本的に原曲の持つダイナミズムがそのまま。単純に「今風にアップデート」といった感じのリミックスでもないので、リアルタイムで楽しんだファンも楽しめそうなアルバムになっていました。ただ、これを聴き終わった後、あらためてオリジナルを聴きたくなったのは、良い点なのかどうなのか・・・。

評価:★★★★

THE PRODIGY 過去の作品
INVADERS MUST DIE
THE DAY IS MY ENEMY
NO TOURISTS

AUSTIN/Post Malone

Billboard Hot 100のベスト20に、9曲同時ランクインというとんでもない記録を作ったころに比べると、さすがに落ち着いた感はあるものの、まだまだ高い人気を誇るPost Maloneのニューアルバム。一応、ラッパーという建付けながらも、HIP HOP的な要素は薄く、むしろアコースティックベースのサウンドにメランコリックに聴かせる歌が大きな魅力に。ある意味、保守的な感は否めないものの、ただ純粋に耳に残るメロディーラインはやはり大きな魅力で、素直に楽しめるポップソングに人気の高さも納得といった感じです。

評価:★★★★

Post Malone 過去の作品
Beerbongs & Bentleys
Hollywood's Bleeding
Twelve Carat Toothache

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2023年9月 2日 (土)

久々のスキヤキナゴヤ!

スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド 名古屋2023

JUPITER&OKWESS/Sabalikan

会場 TOKUZO 日時 2023年8月28日(月)19:00~

毎年、富山県南砺市で行われているワールドミュージックのフェスティバル、スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド。その派生イベント、スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド 名古屋に出かけてきました。以前は毎年実施されていたのですが、2017年を最後に(コロナ禍とは関係なく)しばらく実施されていなかったイベント。ただ、コロナ禍が無事明けたこともあって、久しぶりにスキヤキ名古屋も復活。個人的には2017年には足を運ばなかったので、2016年以来、7年ぶりに足を運んできました。

まず最初に登場したのは、Sabalikanというグループ。愛知・岐阜を中心に活躍する西アフリカのジャンベという楽器の奏者、野口UFO義徳が、西アフリカで、いわば吟遊詩人のような役割を果たすグリオの後継者であり、元マリの国立舞踏団のパーカッショングループのりだーだったDramane Diabateと組んだユニット。そこに同じくパーカッショニストのMAYUとギタリストの武藤裕志を加えた4人組のユニットでした。

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3人のパーカッショニストによるトライバルで力強いリズムが印象的。ポリリズムなパーカッションにギターの音色が重なるという、独特のサウンドが特徴的でした。この日披露した音楽は主にマリの民謡だそうで、いずれもパワフルなリズムが気持ちよい楽曲でした。Dramane Diabateは、最初、西アフリカの太鼓、ジャンベを叩いていたのですが、後半は同じく西アフリカの楽器、ドゥンドゥンに持ち替えてのプレイに。彼はもともとこちらのドゥンドゥンの方が本職らしく、むしろドゥンドゥンに持ち替えてからの方が本番(?)のように、これでもかというようにドゥンドゥンを叩きまくっていました。まさに、水を得た魚のよう!Dramane Diabateのドゥンドゥンをベースとしたパワフルなパフォーマンスを見せ、約1時間のステージの幕が下りました。

そして続いて登場したのはJUPITER&OKWESS。ボーカルのジュピター(ジュピテール)ことジャン=ピエール・ボコンジはコンゴの首都キンシャサで20年以上活動を続けているミュージシャン。blurのデーモン・アルバーンによるプロジェクト「キンシャサ・ワン・ツー」にも参加していたほか、2013年にリリースしたアルバム「HOTEL UNIVERS」も大きな評判となりました。彼らは前日までスキヤキ・ミーツ・ザ・ワールドに参加。その後、名古屋に移動して、この日のステージとなりました。

実は彼らのステージを見るのは今回がはじめてではなく、これが2回目。2014年にもスキヤキ・ミーツ・ザ・ワールドのために来日しており、その時のステージを目撃しました。非常に素晴らしいステージで、個人的に2014年のベストライブの2位にあげたほど。それだけにこの日のステージもとても楽しみにしていました。

メンバーが登場して演奏をスタートすると、会場の空気がグッと変わりました。前に出ていたSabalikanのステージも良かったのですが、それを明らかに上回るテンションの高いリズミカルな演奏。それまで椅子席に座っていた客がほぼ全員立ち上がり、メンバーと共に踊り始めました。私も同じだったのですが。

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メンバーはジュピターを含めて5人組。ジュピター自身は非常にやせ型の長身で、その柔軟な体を生かしてステージ上で踊りまくっています。ちなみになぜかドラムスがプロレスマスクをかぶり、やけに目立っていたのも印象的でした(笑)。

楽曲はアフリカ的なトライバルなリズムにのるものの、バンド編成を見ればわかるように、基本的にはギター&ベース&ドラムスというロックをベースとしたスタイルのため、同時にロックの要素も強いステージ。コンゴの音楽の強烈なリズムとグルーヴ感に、ロック的なダイナミズムが加わった感じで、最初から最後までクライマックスが続くような、テンションあがりまくりのステージになっていました。

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ボーカルはジュピターのみならず、他のメンバーも交互にボーカルを取っていた感じ。むしろジュピター本人は、曲に合わせて踊りまくっていた姿の方が印象的。電気の瀧みたいな感じ??

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途中から日本人のプレイヤーも演奏に参加。彼女に感じては特にアナウンスがなかったのですが、以前もライブでお見掛けしたような気が・・・。ちなみに途中のMC、ジュピターの英語はおそらくフランス語か現地語まじりなのかでちょっとわかりにくかったのですが、(現地の)「リンガラ語は日本語と似ているため覚えやすい」と話していたそうで、彼女が通訳してくれていました。

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後半にはさらに観客をステージ上にあげて盛り上げます。SabalikanのMAYUもステージ上に登場!

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子供たちもステージ上に参加。メンバー誰かのご子息でしょうか?

そんな大盛り上がりのステージが、最後までテンション途切れることなく、一気に繰り広げられました。本編は約1時間強。もちろんアンコールが起きます。ただ、比較的時間も押していたようで、早めにメンバーが再度登場してきました。もちろんアンコールも大盛り上がり。途中、ジュピターが客席に下りてきます。

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最後は、会場全体が最高潮に盛り上がりつつライブは終了。アンコール含めて1時間半弱のステージ。最後の最後まで大盛り上がりの文句なしの素晴らしいパフォーマンスでした。

最初にも書いた通り、コンゴ音楽のトライバルでグルーヴィーなリズムに、ロック的なダイナミズムが加わった、まさに身体が知らず知らずに動き出すようなそんなステージ。本当にあっという間の1時間半でした。まだ、この後も行く予定のライブはあるのですが、現時点で暫定今年のベストアクト!大満足のパフォーマンスでした。

2組のステージで終わったのは10時ちょっと前。合わせて3時間弱のライブだったのですが、あっという間に過ぎ去った素晴らしいステージ。心の底から楽しめたパフォーマンスで、派生イベントとはいえ、やはりスキヤキ・ミーツ・ザ・ワールドは素晴らしいなぁ、と感じました。来年もまた名古屋でもイベントをやってほしいし、また砺波にも行きたい!そう強く感じた夜でした。

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2023年9月 1日 (金)

ロックスターの本性が知れる1冊

本日は、最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

なかなか刺激的なタイトルの新書版。「不道徳ロック講座」。音楽ライターの神舘和典による書籍。ロックミュージシャンは昔からスキャンダルとは切っても切り離せない存在です。さすがに今となってはあまり容認されなくなりつつありますが、昔はロック=不良といったイメージもあり、ロックミュージシャンはスキャンダルがあってこそ一流、くらいの見方もありました。この本は、そんなロックミュージシャンたちの過去の不道徳なエピソードをまとめたもの。「性」「薬」「酒」「貧乏」の4項目にわけて、それぞれ過去のロックスターたちの不道徳なエピソードを次々と紹介しています。

私は過去のロックの名盤をいろいろと聴いて、いわばロックやポピュラーミュージックの「お勉強」をしていますが、そのような時に読んでみる「名盤集」や「ロックの歴史」的な本には、そのようなスキャンダラスなエピソードは、軽くさわり程度は触れてきますが、基本的にはあまり記載されていません。ただ一方で、ミック・ジャガーの「性」にまつわるエピソードや、キース・リチャーズの「薬」に関するエピソードなど、「話題のネタ」になるような場合も少なくありません。そんなエピソードもやはり知ってみたいな、と思ったのが、今回、この本を手に取った理由です。

そんなこともあって、基本的には軽い気持ちで不道徳なエピソードに触れられればいいかな、と思ったのですが、これが思った以上に興味深いエピソードが並ぶ1冊となっていました。不道徳なエピソードと書いていますが、ここで取り上げられているエピソードはいずれもミュージシャンたちのプライベイトにまつわるエピソード。彼らの最も「素」の部分とも言える訳で、そんな「素」の部分のエピソードなだけに、ミュージシャンの本来の人となりに触れることが出来るような出来事が並んでいます。

例えばキース・リチャーズは薬に関するエピソードなどもあり、破天荒なイメージがあったりするのですが、恋愛に関しては意外と一途な側面があり、意外なピュアさを感じたり、また、薬物乱用がひどくなった理由として、わずか2ヶ月の息子を亡くしてしまったことがきっかけだった話では、胸がつまるような気持ちになりました。

また、エリック・クラプトンに関して、詐欺師まがいの女性の怪しげな呪術にだまされているエピソードも印象的。「現代日本ならオレオレ詐欺にだまされるケース」と書いていますが、クラプトンといえば、かつては黒人差別な発言をして問題になったり、最近では反コロナワクチンに傾倒したり(最初に射ったワクチンの副反応がかなり酷かったのがきっかけという同情すべき事情はあるのですが・・・)とどうも、あまり深く物事を考えないような、軽はずみな言動も目立ちます。一方、ピンチになった時には、たびたび、救いの手が差し伸べられるらしく、そこらへんは人柄なんだろう、と本書でも書かれています。ロック界の大レジェンドにこういう表現をするのは申し訳ないのですが、「愛すべきお馬鹿さん」といった感じなんでしょうね。

他にもユニークなエピソードがたくさんつまった本書は、まさにロックミュージシャンたちの本質的な人柄を感じさせる1冊。タイトルと言い内容と言い、ともすれば「とんでも」になりそうな内容なのですが、実際はミュージシャンたちの人となりを率直に感じられる1冊となっており、むしろロックファンならば読んでおきたい1冊とも言えるくらいの内容になっていました。

ただ、ちょっと残念だったのは、基本的にこれらのエピソードはミュージシャン個々人の自伝(もしくはそれに類するもの)からの抜粋だったということ。もちろん、それぞれ分厚い様々なミュージシャンの自伝から、不道徳なエピソードを抜粋するだけでもそれなりの作業だとは思うのですが、ただ、当時のインタビュー記事とか、もうちょっと突っ込んだリサーチもプロのライターならば、実施してほしかったかな、とは思いました。

また、基本的に取り上げられるのは60年代から、せいぜい80年代までのロックスターだったという点もちょっと残念。90年代以降も、それこそピート・ドハーティやエイミー・ワインハウスなどスキャンダルなエピソードを持ったミュージシャンたちも少なくないため、もうちょっと最近の出来事まで取り上げてほしかったな、とは思いました。

その点を差し引いても、ロックスターの本性が知れる興味深い作品。どぎついエピソードも多いので、その点は若干、読む人を選ぶ部分もあるのですが、「性」や「薬」の話が苦手・・・という方でなければ、読んでみてほしい1冊でした。

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