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2023年8月15日 (火)

詩集にインスパイアされた新作

Title:I Inside the Old Year Dying
Musician:PJ Harvey

実に約7年ぶりとなるPJ Harveyのニューアルバム。昨年、彼女は詩集「Orlam」を出版。本作はその詩にインスパイアされた形で作成されたアルバムだそうです。前作「THE HOPE SIX DEMOLITION PROJECT」は社会派的な要素の強いアルバムになっていましたが、今回のアルバムは一転。本人が「安らぎの空間、慰め、癒し、今の時代にタイムリーだと感じる癒し」と語っているようで、どちらかというと素朴な内容を歌詞にした内容に。もともとの詩集でも使用されえいた、彼女が生まれ育った地方の方言が楽曲の中でも使用されているそうです。

そんな制作背景もある影響か、メロディーラインについては全体的にフォーキーな雰囲気を感じさせます。ファルセット気味の彼女のボーカルでゆっくり歌い上げるような作品がメインで、「Autumn Term」もファルセットボイスで美しいハーモニーを聴かせてくれますし、「Lwonesome Tonight」もアコギとドラムのシンプルなサウンドで、メランコリックに歌い上げるハイトーンボイスを聴かせる作品に。「Seem an I」のようなアカペラからスタートする楽曲もありますし、タイトルチューンである「I Inside the Old I Dying」もアコギをバックに哀愁たっぷりのメロディーで歌い上げる楽曲と、全体的に決して派手さはありませんが、ファルセットボイスを多様しながらも、暖かみを感じられるメロディーラインが大きな魅力となっています。

ただ、そんなメロディーと対比的にユニークなのが、アルバム全体としてサイケな味付けがされたサウンドでした。冒頭を飾る「Prayer at the Gate」からして、ファルセットボイスで美しく聴かせるボーカルのバックには、不気味でノイジーなサウンドが流れていますし、「A Child's Question,August」もフォーキーなメロディーラインと対比的なダークなサウンドが特徴的。「August」のような、不気味なサイケサウンドが全編に覆われたような作品もありました。

全体的に地味めな雰囲気のアルバムではあるのですが、このフォーキーなメロを歌うファルセットボイスの幻想的な雰囲気がサイケなサウンドと絶妙にマッチしており、独特なサウンドを作り上げています。また、最後を締めくくる「A Noiseless Noise」はパンキッシュな作品となっており、最後の最後にインパクトある楽曲で締めくくり。最後の締めにはピッタリの作品となっていました。

本作もイギリスのチャートでは5位を記録するなど、本国では高い人気を誇る彼女。ただ一方で、前作では社会派な歌詞、本作では、詩集にインスパイアされた作品と、正直、若干日本ではその魅力が伝わりにくい部分のあるミュージシャンですし、私自身も詩集を読んだ訳ではないため、その魅力を存分に味わった、とは言い難い状況です。ただ、それを差し引いても、メロディーやサウンドだけでも十分すぎるほど本作の魅力は味わえる作品かと思います。前作に続いて文句なしの傑作となった本作。独特のサウンドが実に魅力的な作品でした。

評価:★★★★★

PJ Harvey 過去の作品
Let England Shake
THE HOPE SIX DEMOLITION PROJECT


ほかに聴いたアルバム

流行歌集/Bob Dylan

今年実施されて、私も足を運んだボブ・ディランの来日公演を記念してリリースされた、来日記念のオールタイムベスト盤。内容的には日本独自規格ではなく、海外でもリリースされたボブ・ディランのオールタイムベスト「The Essential Bob Dylan」の2010年度版に、そのままパッケージを日本仕様に変更したもの。ここらへんは、「The Essential Bob Dylan」を既に持っている方には要注意なのですが、ただ、ボブ・ディランの代表曲を2枚組でほぼ網羅した本作は、まさにボブ・ディランの入門版としても最適な作品になっていました。

評価:★★★★★

BOB DYLAN 過去の作品
Together Through Life
Tempest
Triplicate
Rough And Rowdy Ways
日本のシングル集
Shadow Kingdom

Sun Arcs/Blue Lake

デンマークのマルチ・インストゥルメンタリスト、ジェイソン・ダンカンによるソロ・プロジェクト。アコースティックなサウンドをベースとしたインストサウンドを奏でています。爽やかでメロディアスな曲調の作品が多いのですが、ジャズのアプローチを取り入れつつも、全体的にエキゾチックな雰囲気を醸し出す、独特のサウンドが特徴的。清涼感あふれつつも、ちょっと癖のあるサウンドが印象的な作品でした。

評価:★★★★

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