アジカンの進化も感じるリメイク版
Title:サーフ ブンガク カマクラ(完全版)
Musician:ASIAN KUNG-FU GENERATION
アジカンのニューアルバムは、2008年にリリースしたアルバム「サーフ ブンガク カマクラ」のリメイク版。もともと、各曲が江ノ島電鉄の駅名を冠したタイトルとなっているコンセプチャルな作品だったのですが、その時に用いられなかった駅を冠した曲も追加。江ノ電の全15駅が、駅順に並んだアルバムとなっています。今回の新曲5曲については、先日も紹介した「半カートン」版として配信限定でリリースされていたのですが、それらの曲も駅順に織り込まれています。
「半カートン」版は以前に聴いていますし、オリジナルの方も2008年に聴いて、ここでも紹介済。今から聴くと、分厚いバンドサウンドが文句なしにカッコいい、いかにもアジカンっぽい作品なのですが、当時はポップ寄りと評されており、ファンの間でも賛否両論だったようです。ただ、同時の感想を読むと、初期のアジカンについてはナンバガからの影響も顕著にあらわれるなど、どこか未熟な部分を感じた一方、このアルバムあたりでアジカンとしての個性をしっかり確立した、という印象を受けていたようです。
ちなみに今回のリメイク版リリースにあたり、既存の10曲についても再録して収録しています。久々に聴いても最初、さほど印象が変わらなかったのですが、ただ、オリジナル音源と聴き比べると、結構印象としては異なります。まずゴッチの歌い方が明らかに異なります。オリジナル音源だと、かなり軽い歌い方になっているのですが、完全版の方では落ち着いた歌い方になり、声ももっと低音に。これは単純に「年を取った」ということなのかもしれませんが、大人の歌い方といった印象も受けます。また、バンドサウンドについても、より重低音を聴かせるスタイルに進化。最初、テンポもちょっとゆっくりになったように感じたのですが、曲の長さはオリジナルとほとんど変わらないので、おそらくそれは気のせいでしょう・・・。
また、もともとの10曲と新曲5曲を比べても、微妙にアジカンの進化がわかる点も興味深いところ。オリジナル10曲については、ギターの音などにどこか90年代オルタナ系ギターロックバンドの色合いが濃く感じられ、ちょっと時代も感じる部分があるのですが、新曲に関しては、そういった印象はなく、完全に「アジカンの音」となっています。ただ、オリジナル10曲を含めて、分厚いバンドサウンドとメランコリックさを加味したポップなメロというスタイルは変わらず、再録していた影響もあり、アルバム全体としての統一感はしっかりと保たれていました。
また今回このアルバムを聴いて感じたのは、アルバムタイトルの意味。Wikipediaによると、WEEZERの「サーフ・ワックス・アメリカ」のもじりだそうですが、ある意味、体育会系的な「サーフ」と、文化系的な「ブンガク」を同列に並べている点がユニーク。湘南といえばサーフィンのメッカで、鎌倉といえば文学の印象も強い土地柄。その地域的な幅広さをあらわしているとも言えるのでしょうが、一方で、アジカンの楽曲の中に、体育会系的な分厚い力強いダイナミックなロックのサウンドと、文化系的な繊細なメロディーラインと歌詞の世界観が内包されています。元ネタのWEEZERも、同じようなタイプのバンドなのですが、この逆の方向性の単語を並べたアルバムタイトルには、鎌倉・湘南地域の特質をあらわしているのと同時に、ひょっとしたらアジカンの音楽性もあらわしているのかもしれません。
オリジナルから15年。その間のアジカンの進化も感じることが出来るリメイク版。またアジカンは一時期に比べると、人気面では若干落ち着いてきているのですが、15年前の曲と今の曲を並べたこのアルバムを聴いても、その実力・魅力は全く衰えていないことも感じさせます。オリジナルの収録曲も変化しているので、「オリジナル+半カートン版」で満足するのではなく(「半カートン」版の感想で、このようなことを書いてしまいましたが・・・)、こちらのアルバムも是非ともチェックしてほしいところ。あらためてアジカンの実力を感じさせる傑作でした。
評価:★★★★★
ASIAN KUNG-FU GENERATION 過去の作品
ワールドワールドワールド
未だ見ぬ明日に
サーフ ブンガク カマクラ
マジックディスク
BEST HIT AKG
ランドマーク
THE RECORDING at NHK CR-509 STUDIO
フィードバックファイル2
Wonder Future
ソルファ(2016)
BEST HIT AKG 2(2012~2018)
BEST HIT AKG Official Bootleg "HONE"
BEST HIT AKG Official Bootleg "IMO"
ホームタウン
プラネットフォークス
サーフ ブンガク カマクラ(半カートン)
ほかに聴いたアルバム
マリアンヌの教典/キノコホテル
2022年6月にボーカルのマリアンヌ東雲以外のメンバーが全員脱退。ソロユニットになってしまったキノコホテルのニューアルバム。マリアンヌ東雲、天才肌の職人気質で、やはり他のメンバーはやりにくかったということなのでしょうか。まあ、なんとなくわかるのですが・・・。ソロユニットになっても、基本的にはバンドサウンドを押し出した作品で、いままでのキノコホテルの楽曲と大きな違いはありません。哀愁感たっぷりのムーディーなメロも相変わらず。事実上のソロなので、もうちょっと挑戦してもよいような感じもするのですが、あくまでも今回はいままでのキノコホテルの延長といった感じなのでしょうか。
評価:★★★★
キノコホテル 過去の作品
マリアンヌの憂鬱
マリアンヌの休日
クラダ・シ・キノコ
マリアンヌの恍惚
マリアンヌの誘惑
キノコホテルの逆襲
マリアンヌの呪縛
マリアンヌの革命
プレイガール大魔境
マリアンヌの奥義
マリアンヌの密会
ANTENNA/Mrs.GREEN APPLE
本作にも収録されている「Magic」「ケセラセラ」が大ヒット中のMrs.GREEN APPLEのニューアルバム。ここに来て、バンドとしての人気が上昇してきている彼ら。Adoに提供した「私は最強」のセルフカバーも収録されています。全体的に祝祭色の強い明るいポップソングがメイン。基本的にはいつものMrs.GREEN APPLEなのですが、この誰でも楽しめるような明るいポップチューンが広く受け入れられはじめているということでしょうか。ヒゲダンのような人気バンドに成長していくのでしょうか。
評価:★★★★
Mrs.GREEN APPLE 過去の作品
TWELVE
Mrs.GREEN APPLE
はじめてのMrs.GREEN APPLE
ENSEMBLE
Attitude
5
Unity
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