「ベタ」なカッコよさ
Title:1STST
Musician:TESTSET
METAFIVEから派生した誕生したバンド、TESTSETの1stアルバムがついにリリースされました。TESTSETはもともとのきっかけは2021年のフジロック。この年、METAFIVEとしてフジロックの参加を予定していたものの、例の小山田圭吾騒動のため小山田圭吾がステージに出られなくなり、急遽、特別編成として砂原良徳とLEO今井のMETAFIVEのメンバー2人にGreat3の白根賢一、相対性理論の永井聖一が参加する形でのステージとなりました。この時の4人組の相性がよっぽどよかったのか、METAFIVE終了後もそのままバンドとして継続。あらたにTESTSETとして活動をスタートし、EP盤1枚のリリースを経て、このたび、フルアルバムのリリースに至りました。
そういう経緯により誕生したバンドなのですが、そのためサウンド的にはMETAFIVEを引き継いだ部分はあります。エレクトロサウンドのポップがベースになりつつもバンドサウンド色も強いという点はMETAFIVEと同様。ただ、METAFIVEに比べると、よりバンド色、ロック色が強くなったように感じます。また、全編にわたってファンクのリズムが強い作品となっている点がリズムの特徴なのですが、METAFIVEでもファンキーな曲があり、基本的にその要素を引き継いだバンドということなのでしょう。そういう意味でMETAFIVEの後継者バンドでありつつも、TESTSETとしての独自色もしっかりと出しているバンドとなっていました。
その上でTESTSETとしての大きな特徴としてあげられるのは、非常にベタさを感じるというという点でした。もともとLEO今井のボーカル自体、とても端正で、ベタなカッコよさのあるボーカルなのですが、TESTSETの楽曲自体もよく聴いたことのあるようなサウンドが展開されたり、ここに入れば気持ちいいだろうな、と感じるようなタイミングで期待したようなサウンドが流れてきたりと、ある種のベタさを強く感じる構成になっています。
例えば「Moneyman」でもドラムのリズムからして、80年代のポップソングの典型的な音だったりしますし、シンセのサウンドの入り方もある意味、非常にベタ。「Japanalog」も典型的な80年代エレクトロポップといった印象なのですが、途中に入る手拍子の音も非常にベタさを感じますし、「Over Yourself」もファンキーなロックチューンで、ロックバンドとしてTESTSETの側面がよく出ている曲なのですが、こちらもわかりやすさを感じさせるロックチューンとなっています。
ただし、このベタさなのですが、決してTESTSETにとってマイナスになっている訳ではありません。むしろ、ベタな楽曲を一流のミュージシャンたちが演奏することによって、とんでもなくカッコいい楽曲に昇華している点がTESTSETの最大の魅力となっています。ベタでありながらも非常に研ぎ澄まされ、必要な音が必要なだけ配されたサウンド構成はやはり砂原良徳の実力でしょうし、LEO今井のボーカルもリズム感があるゆえにJ-POPによくありがちなのっぺり感が全くありません。さらに白根賢一、永井聖一のギター、ドラムについてもファンキーなサウンドを奏でており、ロックバンドとしてのダイナミズムをしっかりと醸し出しています。
ベタさゆえに聴いていても全く違和感なく楽曲を楽しむことが出来ますし、一流のミュージシャンたちによって下支えされているため、ベタなJ-POPにありがちなのっぺりさもなく、エッジの効いたファンキーなリズムを奏でる最高にカッコいいロックバンドの音に仕上がっています。決して奇をてらったような曲を演らなくても、一流のプレイヤーの手にかかればこれだけカッコいい音に仕上がるんだ、ということを主張されているような、そんなカッコよさも感じました。
EP盤の「EP1」も傑作で、このまま行けば、オリジナルフルアルバムは年間ベストクラスの傑作に仕上がるだろうな、という予感はあったのですが、その予感がピッタリとマッチした、とんでもない傑作アルバムに仕上がっていました。METAFIVEは残念な形で終わってしまいましたが、このバンドは今後も続きそう。個人的には小山田圭吾が再度参加してくれればうれしいかも・・・とは思ったりもするのですが、このバンドのこれからに期待です。
評価:★★★★★
TESTSET 過去の作品
EP1 TSTST
ほかに聴いたアルバム
いま/原田郁子
クラムボンのボーカリスト、原田郁子による、実に15年ぶりとなるソロアルバム。基本的にはピアノを軸としたアルバムになっているのですが、フリーキーな雰囲気もある「up-light piano」やタイトル通り、オノマトペを並べて歌う「オ・ノ・マ・ト・ペ」など、比較的実験的な作品が目立つ内容に。おそらく子ども時代の家庭での録音をそのままつかったであろう「ミニミニコンサート」のような微笑ましい作品も。ポップで人なつっこいメロディーラインを聴かせてくれる曲もあるのですが、全体的にはちょっと聴く人を選ぶようなタイプのアルバムかもしれません。ある意味、ソロらしい作品と言えるのかもしれませんが。
評価:★★★★
原田郁子 過去の作品
ケモノと魔法
銀河
TO NA RI(原田郁子+高木正勝)
BAAN(原田郁子&ウィスット・ポンニミット)
Class of '88/大江千里
最近はニューヨークに在住し、ジャズピアニストとして活動を続ける大江千里のデビュー40周年記念アルバム。ポップ時代の曲のジャズリメイクと新曲から構成されています。彼のジャズピアニストとしての思いの深さはわかりますし、また、ポップミュージシャンとしてのキャリアを捨ててまでジャズピアニストとして活動する挑戦心は素晴らしいとは思いますが、ただ正直、彼のジャズ曲を聴くと、どんどん新しいスタイルが更新されていく最近のジャズシーンの中で、旧態依然的な彼のスタイルはジャズピアニストとしては平凡の一言に尽きてしまいます。中途半端に以前のヒット曲に頼るのならば、ジャズピアニストとの活動とは別に、たまにはポップミュージシャンとしての活動も行ってもいいのに、とは思ってしまいます。ジャズピアニストとしての彼に比べて、SSW大江千里は、少なくとも「平凡」の一言で終わってしまうような程度の実力ではないのですから。
評価:★★★
大江千里 過去の作品
GOLDEN☆BEST
Boys&Girls
Letter to N.Y.
Senri Oe Singles~First Decade~
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