反戦歌から時代を考える
Title:URC銘曲集-1 戦争と平和
今回のコメントは純粋に楽曲のレビューというよりも社会的なコメントが多めです。苦手な方はスルーしていただければと思います。
日本初のインディーレーベルとして知られ、70年代のフォークソングシーンの中心的な存在として知られるURCレコード。「URC名盤復刻シリーズ」として6月より、復刻CDのリリースがスタートしています。URCのアルバムについては、以前からもたびたび復刻していたので、アルバム自体、入手困難という状況ではないのですが、2023年に発売権がソニーミュージックに移ったそうで、それを機に、ソニーミュージックからの復刻盤がリリースとなったそうです。
その復刻シリーズの中で、URCを知らない世代に向けての入門版コンピレーションもリリース。その第1弾となるのが、タイトル通り、戦争と平和をテーマとしたコンピレーションアルバムで、TBS「報道特集」の特任キャスターとしても知られる金平茂紀氏による監修となっています。
選曲については、URCの反戦歌としてよく知られている曲が並ぶ、ある意味、スタンダードなもの。岡林信康の「私たちが望むものは」からスタートし、中川五郎「腰まで泥まみれ」、高田渡「自衛隊に入ろう」、加川良「教訓Ⅰ」など、反戦歌について語られる時、必ず取り上げられそうな曲が並んでいます。ただ後半は、赤い鳥「竹田の子守唄」やザ・ディランⅡ「プカプカ」にように、ストレートな反戦歌からはちょっと外れたような選曲も目立つのですが。ちなみにこの手の反戦歌としてよく取り上げられる、五つの赤い風船の「血まみれの鳩」はなぜか選曲からは外されています。
さて、今回のコンピレーションを聴いてふと感じたのですが、この時代、私たちが思っている以上に「戦争」というものが身近だったのではないか、ということでした。
そもそもURCレコードが設立された1969年は第二次世界大戦が終戦した1945年から、まだ24年しか経っていません。「大人」世代の多くは戦争を経験しています。いまから24年前というと、1999年。音楽で言えば宇多田ヒカルの「First Love」が大ヒットを記録した年。それなりにちょっと前と感じるかもしれませんが、ある世代以上にとっては、「つい最近」と感じる方も少なくないのではないでしょうか。戦後70年以上が経過し、戦争経験者が身の回りからほとんどいなくなってしまった今と比べると、戦争に対する距離感も、かなり異なるのではないでしょうか。
それと同時に、戦争に巻き込まれるのではないか、という危機感も、今以上に強かったように感じます。当時は米ソ冷戦の真っただ中。わずか7年前に核戦争まで一歩手前だったキューバ危機も発生しています。日本もアメリカの同盟国として核戦争に巻き込まれるという危機感は強かったと思いますし、それは日本国だけではどうにもならないという点からもより、恐怖感を強く覚えていたのではないでしょうか。
考えれば今、確かに中国や北朝鮮の脅威を、特に右側陣営から散々に吹聴されていますが、その吹聴する本人たちも含めて、どこか「他人事」のように感じているのではないでしょうか。実際、中国や北朝鮮に対しては、どこか自衛隊が対応してくれるだろう、という他人事的な感覚は否めません。
そう考えると、やはり戦争という存在が身近で、かつ巻き込まれるかもしれないという恐怖感があったからこそ、今となっては少々お花畑的に感じるような反戦歌が歌われたのではないか、という印象も受けます。生意気だった学生の頃には、このころの曲と比較して「最近のヒット曲は社会派な曲が少なく、軟弱だ」なんて思ったこともあったのですが、今となって考えると、戦争という存在が遠くなったからこそ、反戦歌のような曲が少なくなったのでしょうし、それはそれで、実は幸せなことではないか、ということも感じたりします。
実際、日本人の私たちから取ってみれば、身近ではなくなったのかもしれませんが、ウクライナ情勢が典型例として、世界では今でも戦争が絶えません。今回のコンピレーションの大きな特徴として、高田渡の「自衛隊に入ろう」では、収録内容によってはよく「ピー」音で処理されている「悪い中国やソ連をやっつけましょう」という一文が、ソ連がロシアになったとはいえ、今でもそのまま使えてしまう点も、非常に残念に感じます。
お決まりな反戦歌なだけに、今から聴くと、少々お説教的に感じる方も少なくないかもしれません。一方、ストレートに反戦を訴えるよりも、コミカルにまとめている曲も多く、その点は当時からも、お説教的になるのを回避していたのかもしれません。ただ、ライブ音源などで収録されている笑いのポイントが、今となってはかなり謎な部分も多いのですが・・・。メッセージに共感しつつも、今一方、そんな反戦歌が歌われた時代の背景に思いが至った、そんなコンピレーションアルバムでした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
Midnight Chocolate/SHERBETS
SHERBETSとしての結成25周年を記念した、約1年ぶりのオリジナルアルバム。メランコリックな、これぞベンジーといった作風は魅力的。少々大いなるマンネリ気味なのは否定できないのですが、一時期の乱発ぶりから考えると、作風としては落ち着いてきた感じがあります。ただ、そろそろガツンとギターサウンドを聴かせてくれるような作品も聴いてみたいなぁ・・・とは思わなくもないのですが・・・。
評価:★★★★
SHERBETS 過去の作品
MIRACLE
GOD
MAD DISCO
FREE
STRIPE PANTHER
きれいな血
CRASHED SEDAN DRIVE
The Very Best of SHERBETS「8色目の虹」
Same
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