クエストラブが描くアメリカ音楽史
今日は最近読んだ、音楽関連の書籍の紹介です。
アメリカのHIP HOPグループ、THE ROOTSのクエストラブが書いた、アメリカの音楽と歴史を俯瞰した1冊、「ミュージック・イズ・ヒストリー」。クエストラブといえば、このサイトでも紹介した映画「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」の監督をつとめ、アカデミー賞とグラミー賞をダブル受賞したことでも話題となりました。この「サマー・オブ・ソウル」は1969年にニューヨークのハーレムで行われた音楽フェスティバル「ハーレム・カルチュラル・フェスティヴァル」をおさめたもの。アメリカのブラック・コミュニティの中で行われていたイベントなだけに、今では半ば「忘れられたフェスティバル」となっていたものを映像と共に発掘し、アメリカのポピュラーミュージック史の中で忘れられていた部分にスポットをあてた映画としても大きな話題となりました。
そもそもTHE ROOTSというバンド名からして、黒人奴隷の問題を真正面から描いて社会的にセンセーションを巻き起こした、社会派ドラマのタイトルから取られているなど、ブラックコミュニティに対する歴史に造詣の深いクエストラブ。それだけに、アメリカの音楽史をまとめた1冊ということからも注目度がわかります。実際、全504ページにもわたる書籍となっておりう、ズッシリと重い1冊となっていました。
ちなみにうたい文句は「自分史とアメリカ現代史とを重ねながら音楽を語った画期的な一冊が登場。音楽が様々な社会事象と結びつき、どのように変化し広まったかを独自の文体で徹底解説!!」とかなり大々的な文句となっています。それだけに、かなり重厚なアメリカ音楽史が語られるのか・・・と思いながら読み始めると、率直な話、期待外れの感はありました。
正直なところ、ここで書かれているような重厚な歴史を語る書籍というよりも、むしろ自分の経験や音楽的趣向にアメリカ音楽史を重ね合わせて描いたエッセイ集といった印象が強い作品。1971年から現在に至るまで、その年の出来事と自分の経験を重ね合わせた結果としての音楽的な出来事を紹介し、それにまつわるエピソードや彼の考えを描いています。
全体的には比較的平易な表現を使っているため非常に読みやすく、504ページというボリュームの割にはスイスイと読み進められる内容。特にアメリカのミュージックシーンにおいて、ブラックコミュニティにいた人物からの視点により描かれている点は日本人にとっても新鮮ですし、興味深く読むことが出来ます。ただ一方、それだけに日本人にとっては少々なじみのないような出来事やあるいはミュージシャン、音楽作品も登場してくるため、その点、読みにくい部分も。また、全体的には彼の興味の赴くままに綴っているだけに、記述は体系化されておらず、率直な感想として、読みやすいけどわかりにくい、という印象を受けてしまいました。
そういう意味では、音楽史を学ぶ・・・という意気込みで読むと、かなり肩透かしをくらってしまう感のある1冊ですし、最低限のアメリカ音楽史についての知識がないとかなり読みにくい本のようにも感じます。3,000円超と値段的にもそれなりですし、そういう意味では万人にお勧めできる・・・といった感じではないかも。クエストラブのファンやアメリカ音楽史にある程度詳しい人向けかもしれません。文章的には非常に読みやすい内容なのですが。
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