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2023年7月10日 (月)

ジャケットが文字通り「炎上」

Title:Átta
Musician:Sigur Rós

今回、事前のアナウンスなしで突然リリースされたということでも話題となった、純粋なオリジナルアルバムとしては実に約10年ぶりとなるSigur Rosの新作。ただ、今回のアルバムはその内容以上に、そのジャケット写真が大きな話題となっています。上の写真でもわかるとおり、ジャケットに使われているのは虹をかたどった旗が燃えている写真。レインボーフラッグというのは、LGBTの象徴として用いられているもので、さらに6月はプライド月間といってLGBTの啓蒙的な活動が重点的に行われている月間だそうです。この写真は、アイスランドのRURUというアーティストによる作品が使われているそうですが、レインボーフラッグを燃やすという意味から、ともすればアンチLGBTとも捉えられかねないジャケットとなっており大きな物議を醸し出しています。

一方でSigur Rosのボーカルのヨンシーは自らがゲイであることをカミングアウトしており、ガーディアン誌のインタビュー記事によると、むしろ現状のLGBTに対する差別的な現状に危機感を抱いていることすら述べているようです。そう考えると、むしろこのジャケット写真は、LGBTをめぐる現状に対する危機感とも捉えることが出来そうですが・・・ただともすれば誤解を招きかねないジャケット写真である以上は、どういう形でも、この写真に対する意味を説明する必要性はあるのではないでしょうか。

さて、ジャケット写真に対する話はここまでとして、肝心なアルバムの内容ということになるのですが、シガーロスらしいサウンドをしっかりと聴かせてくれるアルバムという印象をまずは受ける作品となっていました。ゆっくりと聴かせるドリーミーなサウンドは、どこか厳かな雰囲気もあり、ヨンシーのハイトーンボーカルも、そんなドリーミーなサウンドの中に溶け込んで、まさにシガーロスらしいサウンドを聴かせてくれています。

基本的には、アルバムは終始、そんな分厚いサウンドで美しくも幻想的に聴かせる作品が並んでいます。ただ一方でそんな中、今回のアルバムらしさと言えるのは、ストリングスを入れてオーケストラアレンジ風に醸し出し、スケール感を出しているという点でしょう。特に今回のアルバムでは1曲目「Glóð」で分厚いサウンドを作り出していますが、印象的だったのは中盤から。「Mór」はまさにそんなストリングスによりスケール感を作り出す楽曲になっていますし、続く「Andrá」も最初は静かに楽曲がスタートしつつ、後半からは分厚いストリングスのサウンドでスケール感たっぷりの作品に仕上げられています。

ただ、そういう特徴はありつつも、基本的には最初から最後までシガーロスらしさが貫かれた作品で、良くも悪くも目新しいという印象は受けません。もっとも一方では内容的には申し分ないクオリティーは保たれており、しっかりと聴かせるアルバムだったのは間違いないでしょう。そういう意味では十分すぎるほど傑作に価する作品だったと思います。ジャケット写真の意味は気になってしまうのですが・・・それを差し引いても、シガーロス好きなら聴いて損のないアルバムでした。

評価:★★★★★

Sigur Ros 過去の作品
Með Suð Í Eyrum Við Spilum Endalaust(残響)
valtari(ヴァルタリ~遠い鼓動)
KVEIKUR


ほかに聴いたアルバム

Heaven Is A Junkyard/Youth Lagoon

アメリカのシンガーソングライターによる約8年ぶりとなるニューアルバム。全体としてピアノを中心とした作品に、前半はオーガニックでフォーキーな作品、後半はシンセも入ってドリーミーにまとまった作風になっています。ただアルバムを通じてメロディアスで暖かみを感じる作風で、良い意味で難しいこと抜きに楽しめる作風になっていました。

評価:★★★★★

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