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2023年7月25日 (火)

坂本龍一の多様な才能を感じるコンピ盤

Title:TRAVESIA RYUICHI SAKAMOTO CURATED BY INARRITU
Musician:坂本龍一

今年3月にこの世を去った作曲家、坂本龍一。その彼の「ベスト盤的」なアルバムがリリースされました。「ベスト盤的」という書き方をするのは、純粋なベスト盤ではないため。本作は、「バベル」や「バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」などの作品で知られる映画監督のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥが選曲を行ったコンピレーションアルバム。もともと坂本龍一の大ファンを公言していたそうで、彼の全作品からピックアップした、イニャリトゥの視点から切り取った坂本龍一像の浮かび上がるコンピレーションアルバムとなっています。

今回の坂本龍一の逝去にあたっては、テレビの報道などで彼の曲が流されました。ただ、そのほとんどが「戦場のメリークリスマス」や「energy flow」などといった、ちょっと悪い言い方をしてしまうと耳障りのよいピアノ曲ばかり。酷いところだと高橋幸宏作曲の「ライディーン」が用いられていたりして、ネット上でちょっとしたバッシングの対象にもなりました。とはいえ、坂本龍一という名前はよく知っていても、おそらくお茶の間レベルで思い浮かぶ曲といえば、前述のピアノ曲のような曲か、あるいはYMO時代の曲ということになってしまうのかもしれません。

今回のコンピレーションアルバムでは、そのような一般的に「お茶の間レベル」で代表曲と言えるような曲は収録されていません。よく知られている曲といえば、おそらくアルバム冒頭の「Thousand Knives」くらいではないでしょうか。そういう意味では「戦メリ」「energy flow」といったよく知られている曲も収録されている「耳障りのよい」ベスト盤を求めるような方にとっては、ちょっと期待外れになってしまうかもしれません。

ただ、そこはさすが大ファンを公言するイニャリトゥが選曲したコンピレーションアルバムだけあります。このアルバムを聴けば彼のその音楽的才能を実感することが出来る、幅広いタイプの曲が収録された選曲となっていました。「Thousand Knives」に続いてはイニャリトゥ監督の作品「レヴェナント: 蘇えりし者」のテーマ曲がちゃっかり収録されている点のですが、この「The Revenant Main Theme (Alva Noto Remodel)」は、いかにも映画音楽といった感じのスケール感のある作品。続く「Before Long」は、こちらはおそらく日本におけるお茶の間のイメージに近い、美しいピアノ曲となっています。

その後もアラブ民謡曲である「Nuages」はこぶしの効いた女性ボーカルが迫力あるトライバルな作品ですし、子供のコーラスも美しい「Ma Mere I'Oye」はシンプルなサウンドの現代音楽的な作品。ボレロを彷彿とさせるクラシック風のナンバー「Blu」に、こちらも沖縄民謡をアレンジした「Asadoya Yunta」、ミニマルなサウンドにグルーヴ感あるリズムが印象的な「+Pantonal」や同じくファンキーなベースラインの「+Pantonal」などといったバラエティー豊かな曲調が並びます。

坂本龍一のもつ多様な音楽的才能を取り込んだ選曲となっており、ここらへんの選曲は変に売れることを意識した訳ではない、ファンならではの選曲といった感じもします。おそらく坂本龍一のイメージとして「戦メリ」や「energy flow」などの曲しか知らない人にとっては、この多彩な音楽性には驚かされるかもしれませんし、そうでない方にとっても、あらためて彼の才能を実感できる選曲になっているように感じました。

リリースは5月でしたので、企画や選曲の期間を考えると、おそらく追悼に乗じた企画ではなく、その前から話が進んでいた作品だったのでしょう。結果として、追悼の形になってしまったのはある意味、残念にも感じるのですが、ただタイミング的には坂本龍一の功績を振り返るのに最適なアルバムになったと思います。あらためて彼の早い逝去を残念に感じる一方、坂本龍一の偉大さを再認識したコンピレーションアルバムでした。

評価:★★★★★

坂本龍一 過去の作品
out of noise
UTAU(大貫妙子&坂本龍一)
flumina(fennesz+sakamoto)
playing the piano usa 2010/korea 2011-ustream viewers selection-
THREE
Playing The Orchestra 2013
Year Book 2005-2014
The Best of 'Playing the Orchestra 2014'
Year Book 1971-1979
async
Year Book 1980-1984

ASYNC-REMODELS
Year Book 1985-1989
「天命の城」オリジナル・サウンドトラック
BTTB-20th Anniversary Edition-
BLACK MIRROR : SMITHEREENS ORIGINAL SOUND TRACK
Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 12122020
12
サウンドトラック「怪物」


ほかに聴いたアルバム

Insomnia/清水翔太

アルバム中盤に、いきなりいかにもKANっぽいピアノが聴こえてきて、最初は「パクリか??」とすら思ったのですが、そこで流れてきたのはまさかのKANちゃんの名曲「東京ライフ」のカバー!なんでも、もともとこの曲は清水翔太が好きな曲ということで熱心なファンの間では有名だったとか。KANの大ファンの身としては、このカバーはかなりうれしい!基本的にはアレンジは原曲通り。彼の声もピッタリとあっていて、楽曲に対する愛情を感じさせるカバーになっていました。

現在、がん治療中のKANに対するエールとも感じられるカバーも収録された清水翔太のニューアルバム。前作「HOPE」は幅広い音楽性を感じさせる歌モノのアルバムになっていましたが、今回のアルバムはそのKANのカバーは収録されていましたが、全体的にメロウな作品のR&BやHIP HOP寄りの作風に戻った形の作品になっていました。これはこれで清水翔太らしい魅力は出ているのですが、前作のような、もっと幅広い作風で聴きたかったような。いいアルバムではあるのですが、ちょっと惜しさも感じた1枚でした。

評価:★★★★

清水翔太 過去の作品
Umbrella
Journey
COLORS
NATURALLY
MELODY
ENCORE
ALL SINGLES BEST
PROUD
FLY
WHITE
period
HOPE

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