コロナ禍後、初のオリジナルアルバム
Title:MOROHA Ⅴ
Musician:MOROHA
メッセージ性が強い独特のリリックで大きな評判を呼んでいるHIP HOPユニットMOROHA。コロナ禍を経て、約4年ぶりとなるニューアルバムのリリースとなりました。特にこのコロナ禍の中で彼らが話題となったのは、コロナ直後の2020年4月。コロナによるライブ開催停止により苦境に陥ったライブハウスを救うべく、会場に費用を先払いする「日程未定、開催確定TOUR」を企画し、話題を呼びました。さらに昨年2月には初の日本武道館単独開催を実施。さらには今年に入り、その会場費を先払いしたライブツアーも実現させるなど、積極的な活動を続けています。
さて、MOROHAについては以前、何枚かアルバムを紹介しているのですがあらためて。基本的に楽曲のスタイルはどの曲も大きくは変りません。トラックはギタリストのUKの奏でるアコギ1本のみ。時にはアグレッシブに、さらに時にはメランコリックに奏でられるシンプルなアコギをバックに、MCのアフロがリアリティーのありメッセージ性の強いラップ・・・というよりはポエトリーリーディングに近いスタイルのリリックを読み上げます。ジャンル的にはHIP HOPにカテゴライズされる彼らですが、HIP HOP的な要素はあまり強くなく、スタイルとしてはポエトリーリーディングと言っていいかもしれません。
そんな彼らのリリックは非常に熱量が強く、聴いていてそのメッセージ性から耳が離せなくなります。ただ、時としてこの手のメッセージ性の強い歌詞は説教臭くなりがちであり、酷い時は自己啓発セミナー的な宗教じみた部分を感じてしまうのですが、アフロの書くリリックに、そのようなうさん臭さをあまり感じさせないのは一貫してリアリティーがあるからではないでしょうか。特に今回のアルバムでその点を強く感じたのは、おそらく家族の実体験を歌った「ネクター」。酒を飲むと暴力を奮う祖父や、ギャンブルや女遊びを続けた父親が登場し、家族に対する愛憎入り混じる感情をストレートに綴っています。ともすれば「家族や仲間に感謝」になりがちな最近の曲の中であきらかに異質で、でも非常にリアリティーを感じる内容が胸をうちます。
コロナ禍の中での状況をストレートに綴った「主題歌」も印象的。コロナが五類感染症になって、徐々にコロナ前の状況を取り戻しつつある今から振り替えると、少々変な懐かしさも感じてしまうような内容になってしまいますが、いろいろと苦しかったあの頃を思い出すような、これも非常にリアリティーあふれる歌詞が印象に残ります。
ほかにも力強く音楽に対する決意を綴った「チャンプロード」や、同じく力強いリリックで自らを奮い立たせる「俺が俺で俺だ」のような、メッセージ性の強い曲があるかと思えば、カメラを通じた人間模様を描いた「エリザベス」や愛してはいけない人に対する切ないラブソングを歌った「花向」など、パーソナルな感情を綴った曲もあり、そのリリックからは最後まで耳を離せません。
また間違いなく忘れてはいけないのがUKの鳴らすアコギの音色で、内省的なリリックが印象的な「命の不始末」では、切ないアコギのアルペジオが非常に印象に残りますし、「花向」でも、切ないアコギの音色がリリックの描く切ない感情を増幅させています。時には力強いパーカッシブに、時には切ないアルペジオで奏でられる、UKのサウンドもとても魅力的でした。
BGM感覚で聞き流すことを許されない、力強い情熱あふれるリリックとトラックが大きな魅力的な作品。基本的にそのスタイルはいままでのアルバムから大きく変化はありませんが、ただ、毎回、圧倒される内容になっている点は間違いないでしょう。日本武道館ライブを成功させるなど、注目度もあがっている彼らですが、その勢いはまだまだ続きそうです。
評価:★★★★★
MOROHA 過去の作品
MOROHA BEST~十年再録~
MOROHA IV
ほかに聴いたアルバム
恋愛至上主義/KANA-BOON
KANA-BOONのニューアルバムはラブソングを収録したコンセプトアルバム。とはいえ、直近の配信シングルも収録されており、実質的に8曲入りのニューアルバムといった様相の作品になっています。楽曲はいずれもシンプルでポップなギターロックといった感じ。目新しさはないのですが、良い意味で癖のない幅広い層にアピールできそうなポピュラリティーがKANA-BOONらしさを感じます。メンバーの失踪騒動やボーカルの体調不良からの活動休止などバンドとしての苦難が続いていた彼らですが、前作もそうだったのですが、それを乗り越えた今、バンドとしての状況は悪くなさそうです。
評価:★★★★
KANA-BOON 過去の作品
DOPPEL
TIME
Origin
NAMiDA
KBB vol.1
アスター
KBB vol.2
ネリネ
KANA-BOON THE BEST
REARRANGE THE BACK HORN/THE BACK HORN
THE BACK HORNの新作は、結成25周年を記念してリリースされた、過去の作品をリアレンジした作品。THE BACK HORNというと、とにかくヘヴィーでゴリゴリなサウンドというイメージがあるのですが、今回のリアレンジに関しては、原曲に比べると全体的にゴリゴリ感は弱まり、もうちょっとシンプルなサウンドにシフトした印象。もちろん、バンドサウンドのダイナミズムさは感じられ、決してガラッと変化した訳ではないのですが。とはいえ、全体的には大人になったTHE BACK HORNという印象も感じ、このアレンジをどう解釈するか、ファンの間でも評価は分かれそう。個人的にはこれはこれでありかな、と思いつつ、やはりこれでもかというほどのコッテリ感のある原曲の方がTHE BACK HORNらしいかも、とは感じました。
評価:★★★★
THE BACK HORN 過去の作品
BEST
パルス
アサイラム
リヴスコール
暁のファンファーレ
運命開花
BEST OF BACK HORN II
情景泥棒
ALL INDIES THE BACK HORN
カルペ・ディエム
この気持ちもいつか忘れる
アンドロギア
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