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2023年6月19日 (月)

大ヒット中「美しい鰭」も収録の新作

Title:ひみつスタジオ
Musician:スピッツ

最新シングル「美しい鰭」がヒット中のスピッツによる、純粋なオリジナルアルバムとしては「見っけ」以来3年7ヶ月ぶりとなるニューアルバム。ただ「美しい鰭」は映画「名探偵コナン 黒鉄の魚影」主題歌に起用されたことによるヒットのようで、残念ながら最新アルバムのセールスはそこまでは伸びていないようです。正直、「美しい鰭」もスピッツの作品の中でずば抜けた感もないのですが・・・。

そんなスピッツの最新作は、ちょっとユーモラスなタイトルがまずはスピッツっぽい感じ。このタイトル、「ひみつスタジオ」が登場するのはアルバムの最終曲「めぐりめぐって」の中。

「秘密のスタジオで じっくり作ったお楽しみ
予想通りにいかないけど それでもっとワクワク」
(「めぐりめぐって」より 作詞 草野正宗)

セルフプロデュースでは本作はメンバーやファンのことを歌った曲だそうで、その中で登場する「秘密のスタジオ」とは、彼らのレコーディングスタジオのことでしょう。スピッツらしい暖かく楽しい歌詞が魅力的な曲。ただ、そう考えると、アルバムの冒頭「i-O(修理のうた)」もまさに「愛をくれた君と 同じ荒野を歩いていくよ」という歌詞が、ファンと彼らのことを歌った歌詞とも解釈でき、アルバムを通じてのバンドとファンの絆を感じさせる内容になっているように感じました。

アルバム全体としては、彼ららしいシンプルながらも温かみのあるギターロックがメインとなっている作品。正直言って、目新しさはありませんが、一方ではそんな中でユーモラスな試みも見受けられます。まずは「オバメのロックバンド」。タイトルからしてユニークなのですが、彼らの曲としてははじめて、メンバー全員が代わる代わるにボーカルを取っているという作品。ちなみに歌詞は、歌っているメンバーそれぞれの特徴を描写したそうで、まさに自分たちのことを歌った楽曲になっており、「めぐりめぐって」や「i-O(修理のうた)」にもつながるような楽曲となっています。

さらに「未来未来」では、ポップスに民謡風の歌いまわしを融合させて話題となっているシンガーソングライターの朝倉さやが参加。民謡由来のこぶしの効いた歌いまわしを聴かせる楽曲となっており、基本的にはシンプルがギターロックなのですが、ちょっとエキゾチックな感じがユニークな作品となっています。

そんなユニークな試みを行いつつも、「跳べ」「紫の夜を越えて」など、ギターロックで聴かせつつも、ちょっと切なさも感じらせるメロディーラインが胸に響く、スピッツらしい作品も魅力的。前にも書いた通り、目新しさはない、といえばないのですが、一方ではファンがスピッツに求める壺もしっかりと抑えた作品にもなっています。それもエバーグリーン的な魅力はいまだに健在。彼らほどのベテランが、いまだにこの水準のポップスソングをコンスタントにリリースしてくるという点では驚きすら感じられます。

「美しい鰭」のヒットは、映画自体がコナン映画の中でもヒットしているという要因もあるのでしょうが、このエバーグリーン的な楽曲の魅力が、昔からのファンのみならず、若年層のファンにもヒットした、ということなのでしょう。そんな、いい意味で変わらないスピッツの魅力を感じたアルバムでした。

評価:★★★★★

スピッツ 過去の作品
さざなみCD
とげまる
おるたな
小さな生き物
醒めない
CYCLE HIT 2006-2017 Spitz Complete Single Collection
見っけ
花鳥風月+


ほかに聴いたアルバム

Ghost Pop/須田景凪

ボカロP出身のシンガーソングライターによる最新作。以前から良くも悪くも「ボカロP出身」らしいメランコリックなメロディーライン一本やりな部分が気になっていました。今回のアルバムに関しても、全体的にメランコリックなメロを前に出した作品が多いものの、打ち込みやピアノ、ギターロックなどの要素を上手く取り込みつつ、メロディーラインの強度は以前よりも増した印象が。前作では光る要素もあるので大化けしてほしい、という期待をしていたのですが、今回のアルバムではその片鱗が見えたかも??

評価:★★★★

須田景凪 過去の作品
porte
Billow
ANSWER(フレデリック×須田景凪)

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