詩羽ボーカルとしてのスタイルを確立
Title:RABBIT STAR★
Musician:水曜日のカンパネラ
ボーカルがコムアイから詩羽に変わって2枚目となるEP盤。言うまでもなくボーカルというのはユニットにとっての「顔」であり、もっと言えば水曜日のカンパネラではコムアイ以外のメンバーはほとんど表に出てきていなかっただけに、ともすればファン以外にとっては水曜日のカンパネラ=コムアイ、的な立ち位置だっただけに、このメンバーチェンジというのはかなり大きな驚きを持って迎えれられました。
ところが!予想外に詩羽のボーカルが楽曲にマッチ。現時点において詩羽のボーカルで発表された楽曲はEP2枚分14曲しかないにも関わらず、既に水曜日のカンパネラのボーカルは詩羽以外に考えられないくらいにすらなっています。特にコムアイ時代の末期においては、少々大いなるマンネリ気味になっており、人気面でもやや停滞していた感がったのですが、ボーカルの入れ替えによって再びユニットとして活性化。「エジソン」のヒットもあって、新たなファン層も流入してきています。
今回のEP盤も全6曲入りながらも、全曲シングルカットできそうなくらいのキラーチューン揃い。EPの前作「ネオン」も傑作アルバムでしたが、今回のEPも、現在の彼女たちの勢いを感じさせる傑作に仕上がっていました。
とはいえ、基本的な楽曲の方向性は、コムアイ時代から大きく変化した訳ではありません。軽快でポップなエレクトロチューンに、少々シニカルな視点を入れつつ、ユニークにまとめた歌詞が大きな魅力。今回のEPでも、例えば「金剛力士像」は運慶・快慶の歴史上の登場人物をネタとした曲ですし、「赤ずきん」「ティンカーベル」は「桃太郎」から続く童話ネタ。「シャドウ」はコムアイ時代の代表曲「シャクシャイン」に並ぶような、自動車道の名前をラップ的に連呼する楽曲になっています。
サウンド的にはエレクトロという共通項がありつつ、ピアノも入って爽快にまとめた「金剛力士像」に力強いビートが特徴的な「シャドウ」に、「鍋奉行」ではアニメのエンディングらしい、ユーモラスな歌詞が特徴的ですが、サウンドは高速ビートで攻撃性のあるサウンドが特徴的。ラストの「ティンカーベル」もディープハウスで陶酔感のあるサウンドになっているなど、6曲ながらもバラエティーある展開が楽しめます。
一方で、やはりコムアイと詩羽は似ている部分もありつつ、ボーカリストとして異なる特徴を持っており、類似点で過去の水曜日のカンパネラとの一貫性を保ちつつ、詩羽ならではの特徴で、新たな方向性を感じさせる曲も聴かせてくれます。その最たるものが「赤ずきん」。この2人のボーカリストは、どちらも比較的必要以上に感情をこめない淡々とした部分がありつつ、コムアイはどこかほんわかした雰囲気を持っていたのに対して、詩羽はちょっとドスの利いたボーカルも聴かせられる点が特徴的。この「赤ずきん」ではそんな詩羽のスタイルを生かしたドスを利かせたボーカルを歌詞にも上手く当てはめており、詩羽ボーカルの水曜日のカンパネラらしい楽曲に仕上がっていました。
あらためて言うけど、本当に水曜日のカンパネラは詩羽ボーカル以外考えられない、というほどにわずか2枚のEPでモードチェンジしてしまった、という事実にはまさに驚かされます。また、大きなるマンネリ気味だったからこそボーカルを変えてスタイルを一新し、あらたに勢いを盛り返したという点も驚くべき事実です。本作も文句なしに本年度のベスト盤候補にあがるほどの大傑作。まだEPしかリリースしていないのですが、来るべくフルアルバムも実に楽しみになってきます。これからも彼女たちの活動から目を離せなさそうです!
評価:★★★★★
水曜日のカンパネラ 過去の作品
私を鬼ヶ島へ連れてって
ジパング
UMA
SUPERMAN
ガラパゴス
猫は抱くもの(オリジナル・サウンドトラック)
YAKUSHIMA TREASURE(水曜日のカンパネラ&オオルタイチ)
ネオン
ほかに聴いたアルバム
BLUE BLUR/SIRUP
SIRUPの6曲入りのEPは「ポジティブな絶望」をテーマとした作品。「ポジティブな絶望」って何??といった感じなのですが、ここ最近の彼の活動の中で浮かび上がってきた感情だそうで、知名度も上がってくる中、彼の周りで様々な出来事が起こったのでしょうか?とはいえ作品全体は軽快なエレクトロビートで非常にポップで聴きやすい作品になっています。一方、メロディーラインは哀愁感漂うものとなっており、ここらへんが「絶望」っていった感じなのでしょうか??いい意味で聴きやすさを感じる作品になっていました。
評価:★★★★
MOONAGE/中田裕二
約1年半ぶりとなる中田裕二のニューアルバム。ベスト盤リリース後、初のオリジナルとなった前作「LITTLE CHANGES」ではタイトルとは裏腹に、さらに彼の世界観を深化させるような作品になっていましたが、今回の作品もその方向性が続きます。これでもかというほど哀愁感たっぷりのメロディーラインで聴かせる彼のスタイルは、ある意味、完全に完成されたスタイル。大いなるマンネリといった感も否めないのですが、ただ日本人の琴線に触れそうなメロディーラインを楽しめるアルバムになっています。
評価:★★★★
中田裕二 過去の作品
ecole de romantisme
SONG COMPOSITE
BACK TO MELLOW
LIBERTY
thickness
NOBODY KNOWS
Sanctuary
DOUBLE STANDARD
PORTAS
TWILIGHT WANDERERS -BEST OF YUJI NAKADA 2011-2020 -
LITTLE CHANGES
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