自分自身や周りとの関係を見つめなおして
Title:Multitudes
Musician:Feist
カナダの女性シンガーソングライター、ファイストの実に約6年ぶりとなるニューアルバム。2019年に娘が誕生し、そして父親を亡くした彼女(ただ、Wikipediaでは"the birth of Feist's adopted daughter"(adopted daughter=養女)と書かれています。養女をもらい受けたという意味でしょうか?)。そんな人生における大きなイベントを経験した彼女が、自分自身や周りの人たちとの関係性に向かい合った中で誕生したアルバムが本作だそうです。
・・・となると、基本的には原点に返るような作品、というのが王道の方向性になるのでしょうか。もっとも、彼女のアルバムを聴くのがこれで3作目。デビュー当初から追いかけていた訳ではないので、彼女の「原点」がどこにあるのか、率直に言えば詳しくは存じ上げない訳ですが、ただ、いままでの作品に比べて、よりシンプルでアコースティックなアレンジの作品が目立ったアルバムになっていたように感じます。
1曲目の「In Lightning」こそ、力強くトライバルなビートとコーラスラインを多様した作品で、ちょっとビョークを彷彿とさせるものなのですが、続く「Forever Before」は静かなアコースティックギターをバックにフォーキーでメランコリックに歌い上げるナンバー。「Love Who We Are Meant To」はアコギのアルペジオで美しく聴かせる楽曲となっていますし、その後もアコースティックなサウンドでフォーキーな作品が並びます。
この方向性は最後まで続き、終盤も「Martyr Moves」「Calling All the Gods」「Song for Sad Friends」とアコースティックなサウンドでしんみり聴かせるフォーキーなナンバーで締めくくられます。こう書くと、終始一貫してフォーキーな作品を聴かせる静かなアルバムという印象を受けるでしょうし、それも本作のひとつの見方でしょう。ただ、ユニークなのは、1曲目もそうなのですが、ここに幻想的なサウンドが加わるところが実にユニークさを感じます。
典型的なのがアコースティックな作品が並ぶ前半から、アルバムのちょうど中盤に並んでいる「I Took All of My Rings Off」。序盤こそアコースティックなサウンドでスタートするのですが、中盤以降、分厚いシンセやエレクトロのサウンドなどが加わり、サイケな様相が加わるドリームポップに仕上げられています。
後半の「Borrow Trouble」も分厚いオーケストラアレンジを加えてスケール感のある楽曲に仕上げた作品。こちらもドラムのリズムも加わり非常に力強いダイナミックな作品に仕上げられており、全体的にフォーキーな作風の中で大きなインパクトとなっています。
そんな作品が並びつつも、全体としてはアコースティックで暖かいサウンドをバックにメロディアスに聴かせる歌モノがメイン。前作も素晴らしい作品でしたが、今回も間違いなく傑作と言える作品に仕上げてきています。フォーキーで暖かいポップソングが好みなら、間違いなく楽しめる作品です。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
i've seen a way/Mandy,Indiana
イギリスはマンチェスターを拠点に活動する4人組エクスペリメンタルバンドによるデビューアルバム。メタリックなサウンドで、こもったような女性ボーカルを聴かせつつ、終始、不穏な雰囲気でアルバムは続きます。ただ、メランコリックなメロディーラインに、リズミカルでテンポ良いリズム感もあり、実験的な作風とは裏腹に、比較的、ポップで聴きやすいという印象も受ける1枚。ちょっとリスナーを選ぶかもしれませんが、今後は日本でも聴く機会が増えてきそうです。
評価:★★★★★
Amatssou/Tinariwen
サハラ砂漠西部を拠点とするベルベル人系遊牧民、トゥアレグ族のメンバーにより結成され、現地マリの音楽性を取り入れつつも、ブルースに通じるスタイルの音楽を聴かせることから「砂漠のブルース」と呼ばれる彼ら。過去にはグラミー賞も受賞するなど、欧米を含む世界中で高い評価を受けています。そんな彼らの約4年ぶりとなるニューアルバム。アフリカらしいコールアンドレスポンスの要素を前面に入れつつ、「砂漠のブルース」らしいメランコリックなサウンドをゆっくりと聴かせてくれます。全体的に静かでゆっくりと曲を聴かせてくれるような印象も。今回も非常に魅力的な作品ではあるのですが、一方で、良くも悪くもいつも通りといった印象も。
評価:★★★★
TINARIWEN 過去の作品
IMIDIWAN:COMPANIONS
TASSILI
EMMAAR
Live in Paris(不屈の魂~ライヴ・イン・パリ)
ELWAN
Amadjar
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