« もっと売れてもいいバンドだと思うのですが。 | トップページ | ベタがゆえに魅力的 »

2023年6月24日 (土)

偉大なる音楽家の遺作

Title:サウンドトラック「怪物」
Musician:坂本龍一

今年3月、長らくの闘病生活の末、71歳でこの世を去った音楽家、坂本龍一。以前から癌での闘病中というニュースは伝えられていただけに、覚悟は出来ていたとはいうものの、大きな衝撃を受けた方も多いのではないでしょうか。特に今年はじめに、同じYMOのメンバーであった高橋幸宏もこの世を去っており、YMOメンバーの相次ぐ逝去は非常に残念に感じるとともに、2人とも、70歳を超えており、平均寿命よりは短いとはいえ、「早世」と言える年齢ではないことから、日本のポピュラーミュージックシーンを築き上げてきた多くのミュージシャンたちが、そのような年齢を迎えているという事実を、あらためて思い知らされました。

そんな坂本龍一は最後の最後まで音楽家としての活動を続けており、闘病生活の中でもピアノやシンセサイザーで日々のメモのように曲を作り上げてきており、今年1月には生前最後のアルバムとなってしまった「12」をリリース。ヒットを記録しています。さらに是枝裕和監督と脚本家・坂元裕二により制作されて、6月に公開予定の映画「怪物」では音楽を担当。そのサントラ盤も映画公開に先立ち、このたびリリースされました。

ただ、さすがに映画の音楽全体を、1から作り上げる体力は残されていなかったようで、基本的には過去の作品を使用したようですが、このうち2曲については新曲を書きおろし、提供したそうで、音楽を担当する以上はしっかりと新曲も作り上げるという、音楽家としての矜持を感じることが出来ます。

その2曲が「Monster 1」「Monster 2」。ピアノにシンセを重ねたシンプルな曲調ながらも美しい作品になっています。このうち「Monster 1」の方はピアノの音も少なめでシンプル。幻想的な雰囲気を醸し出しつつ、清涼感がありながらどこか幻想的な雰囲気が魅力的な作品。「Monster 2」の方はしっかりとピアノでメロディーが奏でられている作品で、(おそらく)教授本人の息遣いもそのまま収録されており、ある意味、生命感を覚える作品になっています。ある意味、その時に思いついたアイディアをそのまま音にしたような「12」の作品よりも、しっかりと音楽として完成された作品になっており、ここに至って、これほどの作品を作り上げてくるという事実に驚かされます。

その他の曲は既発表曲が並びますが、うち2曲は最新アルバム「12」からのナンバーで、そういう意味では全7曲中4曲までも、最晩年の坂本龍一の楽曲で占めることになります。また、残りの曲については「hwit」「hibari」は2009年にリリースされたアルバム「アウト・オブ・ノイズ」に収録された作品。最後の「Aqua」は1998年の「BTTB」収録の作品となるのですが、基本的には「12」の楽曲や今回の新曲2曲にマッチした、音数を絞ってメロディー以上にシンプルな「音」と「空間」を聴かせようとするピアノ曲が並びます。最後に坂本龍一がたどり着いた音楽の世界をあらわした曲が並ぶアルバムとなっていました。

そういう意味では、本作は坂本龍一の最晩年期のベストアルバムという見方も出来るかもしれません。特に、いままで坂本龍一というとYMOだったり、戦メリの主題歌だったり、そういう印象しかない人が、じゃあ坂本龍一が最後にどのような音を奏でていたのか、ということを知りたい場合には、全7曲36分強という短さもあって、もっともお勧めしやすい作品になっていたと思います。映画のサントラ盤ですが、ワンアイディアで数秒で終わるような劇判曲もありませんし、列記とした坂本龍一のアルバムとして聴ける作品になっていました。

また、特に「Moster 1」「Monster 2」は彼の遺作ともなってしまった作品になりますし、方向性的にはアルバム「12」の延長線上にあるような作品でもありますので、「12」を聴いたファンにとっても、まずは聴くべき作品なのは間違いありません。最後にあらためて、この偉大なる音楽家に対して、ご冥福をお祈り申し上げます。たくさんの素晴らしい音楽をありがとうございました!

評価:★★★★★

坂本龍一 過去の作品
out of noise
UTAU(大貫妙子&坂本龍一)
flumina(fennesz+sakamoto)
playing the piano usa 2010/korea 2011-ustream viewers selection-
THREE
Playing The Orchestra 2013
Year Book 2005-2014
The Best of 'Playing the Orchestra 2014'
Year Book 1971-1979
async
Year Book 1980-1984

ASYNC-REMODELS
Year Book 1985-1989
「天命の城」オリジナル・サウンドトラック
BTTB-20th Anniversary Edition-
BLACK MIRROR : SMITHEREENS ORIGINAL SOUND TRACK
Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 12122020
12

|

« もっと売れてもいいバンドだと思うのですが。 | トップページ | ベタがゆえに魅力的 »

アルバムレビュー(邦楽)2023年」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« もっと売れてもいいバンドだと思うのですが。 | トップページ | ベタがゆえに魅力的 »