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2023年5月 2日 (火)

スーパーグループとして理想的な傑作

Title:the record
Musician:boygenius

それぞれが個々にシンガーソングライターとして活躍しているPhoebe Bridgers, Julien Baker, Lucy Dacusの3人が集まって結成されたboygenius。EP盤だったセルフタイトルの前作「boygenius」がリリースされた頃は、まだまだ日本では無名のグループだったのですが、その後、徐々に知名度を集め、今回のアルバムでは、なんとイギリスのナショナルチャートで1位を獲得。アメリカのビルボードチャートでも4位を記録するなど、一気に人気を集め、日本でも国内盤のリリースもあり、その名前を聞く機会もグッと増えました。

楽曲は、正統派のオルタナ系ギターロック路線の曲と、アコースティックでフォーキーな作品が同居する独特の構成。例えば中盤の「Satanist」はかなりヘヴィーでノイジーなギターサウンドを聴かせるギターロックの作品で、the pillowsあたりが好きなギターロックリスナーには壺をつきそう。「Not Strong Enough」もギターサウンドをバックとしたメロディアスなガールズポップに仕上がっており、ここらへんはYUIとかmiwaあたりが好きな人ははまりそう。かと思えば「Cool About It」ではアコギのアルペジオでしんみり聴かせるフォーキーな作風になっており、ギターロック路線とは全く異なる方向性ながらも、メランコリックなメロディーラインは聴き入る人も多いかも。いずれのタイプの曲もメロディーラインにインパクトもあり、いい意味で広い層に支持されそうなポピュラリティーを持っています。

前回のアルバムでは、3人の個性の違いを生かしつつ、一方では共通項も生かした作風が特徴的と記載しました。今回のアルバムもそれぞれの個性が生きた作風を感じます。作詞作曲のクレジットはいずれもboygenius名義なのですが、おそらく個々がリードボーカルを取った作品では、メインとなって曲作りを手掛けたのではないでしょうか。実際、Julien Bakerがメインボーカルを取る「$20」「Anti-Curse」ではヘヴィーでダウナーなギターサウンドが特徴的。Lucy Dacusがメインボーカルを取る「True Blue」「Leonard Cohen」ではどこか渋さを感じる大人な雰囲気の作風が魅力的ですし、Phoebe Bridgersがメインボーカルの「Emily I'm Sorry」「Letter To An Old Poet」ではフォーキーで、かつどこか幻想的な作風が魅力的となっています。

3人の個性がアルバムの音楽の幅となり、リスナーに対してはバリエーションを楽しませつつ、一方、3人の共通項としてのポップなメロディーラインや、3人のSSWの音楽性からいずれも感じるフォークやギターロックからの影響がアルバムに統一感をもたらしています。3人のうち1人が目立つわけではなく、3人ともそれぞれアルバムの重要要素を提供しているという意味で、それぞれが個々に活躍しているSSWによるスーパーグループ的なユニットとしては理想的なアルバムと言えるかもしれません。

前作に続き本作も個人的にはかなり壺にはまったアルバムで、個人的には年間ベストクラスの傑作アルバムになっていたと思います。この手のスーパーグループは、個性のぶつかり合いが起きがちで、なかなか長続きはしないだけに、このバンドもどこまで続くのかは不明なのですが、でもアルバムを聴く限り、3人の相性もいいみたいですし、今後も長く活動を続けてほしいなぁ。ギターロックのアルバムとして理想的な傑作でした。

評価:★★★★★

boygenius 過去の作品
boygenius


ほかに聴いたアルバム

So Much (For) Stardust/FALL OUT BOY

実に約5年2ヶ月ぶりとなるFALL OUT BOYSの新作。基本的にはいままでのFOBと同様に、分厚いギターロックにメロディアスなメロを聴かせてくれるポップパンクチューンの連続。メランコリックさを感じるメロディーラインも印象的。「The Pink Seashell」のようなオーケストラアレンジの曲でバラエティー感を持たせつつ、ただ全体的にはいつものFOBと安心して聴ける作品になっていました。

評価:★★★★

Fall Out Boy 過去の作品
infinity on high
American Beauty/American Psycho
MANIA

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アルバムレビュー(洋楽)2023年」カテゴリの記事

コメント

boygeniusはJulien Bakerが楽屋でヘンリー・ジェームズの『ある婦人の肖像』を読んでいるLucy Dacusを見つけたことから生まれたスーパー・グループ。
「天才少年」 という逆説的なバンド名には幼い頃から褒め称されて育つ少年に対する少女からの冷ややかな視線が感じられます。

Phoebe Bridgersの〈Not Strong Enough〉はSheryl Crowの〈Strong Enough〉(1994)にインスパイアされた曲。

MVは南カリフォルニア・サンタモニカの遊園地や美術館、ミニ・ゴルフやバッティング・センタ ーで遊んだ1日をPhoebe Bridgersの弟Jacksonが撮っています。

Bridgersが 「台所にブラックホールが出現した」(彼女もDacusの愛読書、マーク・ダニエレブスキーの『紙葉の家』を読んだのかしら?)、BakerがThe Cureの 「〈Boys Don't Cry〉を口ずさむ」、Dacusが「いつだ って天使や神には成れない」と歌う歌詞は20代後半女子の愉しげな映像とは裏腹に内省的ですね。

投稿: sknys | 2023年5月 5日 (金) 21時21分

>sknysさん
情報ありがとうございます。ちょっと皮肉めいた感じもまた魅力的ですね。

投稿: ゆういち | 2023年6月 8日 (木) 23時53分

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