かつて社会現象になったバンドの自叙伝
今回は最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。
1990年に当時大流行していたテレビ番組「いかすバンド天国」への出演を機に話題となり、一時期は「たま現象」とも呼ばれる社会現象的な人気を博したバンド、たま。そのメンバーである石川浩司がたまでの活動を綴った自叙伝「『たま』という船に乗っていた」です。この本を元とした漫画がWeb上で連載され、発売されたものを以前紹介しました。もともと、元となる本書は書籍の形でリリースされていたものが一度は絶版。その後、石川浩司のWebサイト上にアップされていたのですが、漫画連載に合わせて掲載を取りやめていたものを、今後は逆に漫画化につられる形で書籍にて再販されたのが同書となります。
その漫画版の方がおもしろかったので、原作の方も今回購入。もちろん、内容の方は漫画版とほぼ一緒です。ただ、石川浩司の書く文章は非常に軽快な文章。口語中心の文章なのですが、ともすればこの手の軽薄体はむしろ読みにくいケースも多いのですが、彼の文書はスラスラと読むことが出来ます。なにげに文書を書く才能も感じてしまいます。
一方で、漫画版と比べてみると、漫画版の方は非常によく出来た内容ということを感じます。特に原作の方は軽快な文体なだけに、様々な出来事が、思ったよりもサラッと書いてしまっていて、場面によっては「え、このくらいで終わり?」と思ってしまい部分は少なくありません。個人的に同書に興味を持ったのは、たまが経験してきた、80年代あたりのアンダーグラウンドシーンや、ブレイク後のバンドブーム最中の音楽シーンなどについて、裏事情も含めて、当事者としての視点を知ることが出来るかな、という興味がありました。
実際、そういう当事者ならではの記述も少なくはなかったのですが、全体的には比較的あっさりとした内容。その点はちょっと残念に感じました。ただ、その原作と比べると漫画版の方は、そこに「絵」が加わることによって、当時の雰囲気がより伝わってくる内容に。ここらへん、漫画化にあたって当時の状況などを取材したのでしょうね。何気に漫画版の方が、原作にしっかり肉付けをされており、この凝った仕事ぶりをあらためて実感できました。
ただとはいえ、石川浩司本人の書く軽快な作風の本作も魅力的。メンバーとしてバンドを楽しく演っていたんだな、ということが伝わってきます。特にたまというと、世間一般では「一発屋」というイメージが強く、特に売れなくなってからは、苦労した・・・とみられがちなのですが、この本を読むと、そんな悲壮感は全く無し。ここらへんはバンドとしてあくまでもマイペースに活動を続けてきたからでしょうし、また、本書でも書いているのですが、最後まで音楽一本でごはんが食える程度には稼いでいたみたいで、そういう意味では、本書でも書いてありますが、売れなくなってからも活動としては全く変わらなかったということを、本書の軽快な文体からも感じ取れます。
そんな訳で、このたまの歩みについて、非常におもしろく読むことができる1冊。たまというバンドを、名前程度、あるいはヒットした「さよなら人類」程度しか知らない人でも、これはこれで楽しめる1冊だったと思います。とても楽しい1冊でしたし、あらためてたまの曲についても聴いてみたくなった1冊でした。
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