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2023年4月 7日 (金)

2人くるり、再び

Title:愛の太陽 EP
Musician:くるり

くるりのニューアルバムは6曲入りとなるEP盤。彼らにとってEP盤は2016年にリリースされた「琥珀色の街、上海蟹の朝」となります。ただ今回はEP盤といっても初回盤にはボーナスCDとして、映画「ちひろさん」のサントラ盤がついてくるほか、「くるりライブツアー2022 at Zepp Haneda, 2022.08.04」及び「京都音楽博覧会2022 at 京都梅小路公園, 2022.10.09」の模様をおさめたDVD/Blu-rayもついてくる仕様となっています。

さて、2021年3月にファンファンが脱退し、再び岸田繁と佐藤征史の2人体制となったくるり。今回のアルバムは2人体制のくるりとなって初となる音源となるのですが、その結果、ポップなメロディーに主軸を置いた、非常にシンプルなアルバムに仕上がっていました。

本作に流れてくるのは、決して派手ではないものの暖かみのあるメロディーラインを持った歌。基本的にバンドサウンドをバックに聴かせるものの、こちらもシンプルなギターサウンドであり、決して奇をてらったものではありません。まず表題曲「愛の太陽」はイントロこそギターサウンドが印象的に聴かせるものの、メロディーラインは暖かさとどこか感じるメランコリックさが大きな魅力。「Smile」「ポケットの中」は爽やかさも感じるメロディーラインは「魔法のじゅうたん」あたりの楽曲を彷彿とさせます。

「八月は僕の名前」はピアノをバックにゆっくり歌い上げるスタイルはくるりの中ではちょっと珍しいスタイルかも。ただサビはしっかりと分厚いギターサウンドの中、優しく歌い上げるスタイルはやはりくるりらしさを感じます。同じく「宝探し」もメロディアスなギターロックの暖かみを感じさせるナンバー。最後の「真夏日」はギターとピアノでゆっくりフォーキーに聴かせる作風で、郷愁感もある楽曲は、比較的初期のくるりを彷彿とさせるナンバーとなっていました。

そんな訳で今回のアルバムはメロディー主体のシンプルな作品となっており、くるりとしての目新しさはあまり感じません。ただ、くるりというと、ともすればアルバム毎にスタイルを変えるその幅広い音楽性に注目されがちなのですが、一方で間違いなく大きな魅力なのが岸田繁の書くメロディーライン。決して派手さはないのですが、何気に彼の書くメロディーラインは天性のものであり、個人的にはもっと評価されるべき才能の持ち主だと思っています。今回のアルバムでは、そんな岸田繁の書く「歌」の魅力が、より強調された作品になっているように感じました。

思えば以前、2人組体制だったくるりも、当初は「ワルツを踊れ」のような比較的、実験性の高いアルバムからスタートしたものの、徐々にシンプルなポップ路線にシフトしていった印象があります。その結果たどり着いた傑作が、2人くるりの最後のアルバム「言葉にならない、笑顔を見せてくれよ」でした。そして今回のアルバムは、その傑作を彷彿とさせましたし、また、再び、2人組となった彼らは、「言葉にならない~」の地点からスタートした、そんな印象を受けるアルバムになっていました。

ちなみに同時収録の映画「ちひろさん」のサントラは、こちらも比較的アコースティックでシンプルなサウンドが特徴的。もちろん、映画の世界観にあわせた曲調だとは思うのですが、一方でくるり岸田繁の興味が、変に凝った「挑戦的」な作風ではなく、こういうシンプルな音の世界に移っているのかもしれません。

2人くるりの再スタート地点として今後を占うアルバムとして興味深い今回のEP盤。その結果として非常にシンプルな「歌」を主軸としたアルバムが登場してきた点、今後のくるりはこの路線の延長を進むことが予想されます。それとも逆に、再び新メンバーが加入し、多彩なバンドサウンドを強調するスタイルに再びシフトする可能性も・・・。いろいろと今後については考えてしまいますが、一方でこの新作が傑作なのは間違いありません。個人的には、この路線で1枚、フルアルバムを聴きたい印象も。今年はメジャーデビューから25年(!)目の年になるのですが、ベテランになった彼らの今後に、これからも目が離せなさそうです。

評価:★★★★★

くるり 過去の作品
Philharmonic or die
魂のゆくえ
僕の住んでいた街
言葉にならない、笑顔を見せてくれよ
ベスト オブ くるり TOWER OF MUSIC LOVER 2
奇跡 オリジナルサウンドトラック
坩堝の電圧
くるりの一回転
THE PIER
くるりとチオビタ
琥珀色の街、上海蟹の朝
くるりの20回転
ソングライン
thaw
天才の愛


ほかに聴いたアルバム

カネコアヤノ 単独演奏会 2022 秋 - 9.26 関内ホール/カネコアヤノ

Kanekolive2022

タイトル通り、カネコアヤノがアコースティック形式で行うライブの模様を収録した配信限定のライブアルバム。アコースティックギター1本で力強く歌い上げる作品。非常にシンプルな形態なだけに、カネコアヤノの楽曲自体の良さがストレートに伝わるライブ盤。先日、はじめて見たライブ形式のライブも素晴らしかったのですが、単独演奏会のスタイルのライブも一度見てみたいなぁ。

評価:★★★★★

カネコアヤノ 過去の作品
燦々
燦々 ひとりでに
よすが
タオルケットは穏やかな

恋を知っているすべてのあなたへ/SHISHAMO

CDデビュー10周年を記念してリリースされた「恋」にまつわる歌を集めたコンセプトアルバム。2枚組のアルバムで、1枚目は「恋の喜びを知っているあなたへ」と題して明るいラブソングが、2枚目は「恋の痛みを知っているあなたへ」として切ないラブソングが収録されています。バンドサウンドも歌詞も全体的にシンプルな味付けが特徴的で、そのシンプルさがひとつの魅力だと感じながらも、正直、サウンドにしろ歌詞にしろ、もうひとひねり欲しいのではないか、と思ってしまうところも・・・。

評価:★★★★

SHISHAMO 過去の作品
SHISHAMO 3
SHISHAMO 4
SHISHAMO 5
SHISHAMO BEST
SHISHAMO 6
SHISHAMO 7
ブーツを鳴らして-EP

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