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2023年4月28日 (金)

ボブ・ディラン入門

先日、ボブ・ディランのライブレポートを載せました。その中で、ライブに先立っての予習はしてきませんでした、と書いたのですが、厳密に言うと、事前にちょっとだけボブ・ディランの予習はしてきました。それが今回紹介する音楽関連の書籍。2月に発売された、音楽評論家、北中正和によるボブ・ディランの評伝、タイトルそのまま「ボブ・ディラン」です。

北中氏は、以前、同じく新潮新書で「ビートルズ」というタイトルそのままの評伝本を執筆していますので、基本的にはそれに続く形での新刊。ボブ・ディランの来日公演が発表された直後、今年の2月に発売されています。おそらく、来日公演を前提に、事前に準備してあり、来日公演の発表に合わせて発売されたのでしょう。

音楽系の出版社ではなく、新潮社の、それも手軽に手に取れる新書本での販売ということもあって、ターゲットは基本的に熱心な音楽ファンではなく、もうちょっとライトなリスナー層でしょうか。トータル3万円近い金額を払って、来日公演に足を運ぶような熱心なファンをターゲットにしているのかは微妙なのですが・・・もうちょっとライトなリスナー層にボブ・ディランのことを知ってもらい、あわよくば来日公演にも足を運んでもらおう、という魂胆でしょうか。

そういうこともあって、内容自体は非常にシンプルで、ボブ・ディランの入門書的な内容になっていました。最初は彼の簡単な活動歴の紹介からスタート。フォークシンガーからスタートし、ロックへの転身。さらにバイク事故からの隠遁生活、そしてその後の活動からノーベル賞へという流れが簡単に紹介されています。

その後はディランの曲と政治との関わりや、ブルースやフォークソングからの影響、さらにフランク・シナトラとの接点から彼の音楽が様々なジャンルからの影響を受けている点を映し出しています。特にこのボブ・ディランの曲が様々な音楽、文化から影響を受けて成立しているという点は本書の中でもかなりの分量を裂いており、最後の第8章では「ボブ・ディランは剽窃者なのか?」と題して、彼の書く歌詞は、様々な文学作品などを踏まえた作品であること紹介しています。

本書はあくまでも初心者向けの入門書的な役割を果たしているため、特に著者による斬新な解釈はありませんし、目新しいことはほとんどありません。むしろボブ・ディランを聴くには最低限、知らなくてはいけないことをあらためて1冊にまとめた、という印象の強く作品になっています。

全体的なテーマはボブ・ディランがいかに様々な文化の影響を受けたか、ということに焦点を当てているため、一方ではボブ・ディランの生い立ちなどについてはほとんど記載はありません。また、彼のディスコグラフィーなどもなく、その点は初心者向けとしては不親切だったかもしれません。実際、この本を読んだ後、最初の1枚として何を聴けばよいのか、迷う人も出てくるかもしれません。その点は、ディスコグラフィーや彼の活動をまとめた年表的なものがあれば、より初心者にもわかりやすくなったのではないでしょうか。

そういう気になった点はありつつも、概ね、ボブ・ディランについて非常によく集約されている1冊となっており、内容の読みやすさもあり、入門書としては最適な1冊だったのではないでしょうか。ボブ・ディランはどんなミュージシャンなのか知りたいような方には、まず手に取って損のない評伝でした。

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