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2023年4月 9日 (日)

二律背反的な立場もユニーク

今日は最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

ミュージシャンであり、最近では週間文春の「考えるヒット」の連載などで音楽評論家としても活躍している近田春夫の新刊。60年代後半に日本のヒットシーンで一世を風靡した音楽のムーブメント、グループサウンズについて取り上げた、著書名もそのまま「グループサウンズ」。もともと、近田春夫はグループサウンズに造詣が深いのですが、ある意味、そんなシーンを総括するような1冊となっています。

グループサウンズとジャンルは、もともとベンチャーズやビートルズ、ローリング・ストーンズといった欧米のギターロックに強い影響を受け、数多くのバンドが誕生したことがそのきっかけになっています。そのようにして登場した多くのバンドは、いずれも欧米の音楽シーンの強い影響を受け、洋楽テイストの強いロックを演奏して人気を博していました。そんなシーンに目をつけて、当時のレコード会社はそんなバンドをデビューさせたのですが、ところが、そうやってデビューさせた曲は、当時の歌謡界の大物作家に作詞作曲をさせたような歌謡曲そのものの楽曲。本来は、洋楽志向の強いバンドだったにも関わらず、グループサウンズのブームの中で、楽曲は歌謡曲に無理やりよせられて、「つまらない歌謡曲」を歌わざるを得なかった・・・これがグループサウンズに対する評論家的な見方となっています。

一方で、一般的に「懐かしのグループサウンズ」という扱いをされる時は、そのような見方は全く加味されません。むしろ歌謡曲に無理やりよせられて歌わされた「ヒット曲」をノルタルジックな感情たっぷりに取り扱われるのがもうひとつのグループサウンズの見方・・・こちらの見方の方が一般的ですし、なおかつ多数派の見方であることは間違いないでしょう。

本書が非常にユニークだったのは文春新書という媒体で、前者のような見方を求める音楽ファン層ではなく、後者のような見方をもとめる一般層を対象としつつ、しかし近田春夫の論調としては、むしろ前者のような見方が色濃く記載されている内容となっている点でしょう。前者のような「音楽ファン向け」では、通常、むしろB級とされるようなバンドがよく取り上げられるのに対して、本書で取り上げられているのはスパイダーズ、ブルーコメッツ、ザ・タイガース・・・といったいわばグループサウンズブースの中心にいた売れ線バンドばかり。それにも関わらず、近田春夫はそんなバンドの「売れ線」のヒット曲をつまらないと切って捨てて、そんなバンドが背後に抱えていた洋楽からの影響について積極的に分析しています。

さらに近田春夫自身、音楽的な観点からは決してグループサウンズを評価していない部分も見受けられます。本書でもGSが短命だった理由として「音楽そのものに対する研究の度合いが浅かった」と切って捨てています。ただ一方で、同じ文脈で、GSについて「軽佻浮薄なところこそ、俺なんかはどうしようもなく惹かれているんだけどさ(笑)」と語っています。ここらへん、本書の中でバンドの音楽性について分析しつつ、一方ではそんな部分から切り離された軽佻浮薄な点に惹かれるという、ある種の二律背反性が非常にユニークに感じました。これだけ売れ線バンドを取り上げつつ、「近田春夫の選ぶGS10曲」の冒頭が、あの山口富士夫が参加していたことでカルト的な人気を博しているB級GSバンド、ザ・ダイナマイツの曲ですしね・・・。

ただもちろん、バンド評については、近田春夫らしいユニークな切り口で分析しつつ、かつ「歌謡曲」という文脈で語られる場合には無視される洋楽からの影響についても分析されているため、非常に立体的なバンド像が浮かび上がってきます。単なる売れ線バンド、歌謡曲バンドではなく、「ロックバンド」としてのグループサウンズの側面は、非常に興味深く、あらためて彼らの曲を聴いてみたくもなりました。

一方でちょっと残念だったのは、本書の作りとして、バンド毎での分析に力を入れられていたため、グループサウンズブーム全体の流れについては、少々つかみにくい内容になっていた点でした。それこそグループサウンズブームをリアルタイムで体験していたような層を対象にしたからこそ、全体的な流れについては、いまさらあえて触れなかったという可能性もあるのですが、私のようにグループサウンズブームを「知識」としてしか知らない層には、もうちょっと全体の流れについて説明が欲しかったかな、という印象も受けました。

そんなマイナス要素もありつつも、ただ全体としては、グループサウンズについて「ヒット曲」しか知らないような層をターゲットに加えつつも、音楽ファンにとっても読みごたえのある内容になっていたと思います。読んでいて、あらためてここで紹介されているような曲についてチェックしたくなった1冊。グループサウンズ、引いては60年代後半の日本のミュージックシーンについて知りたい方には最適な新書本でした。

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