« ボブ・ディラン入門 | トップページ | デビュー25周年目の新作 »

2023年4月29日 (土)

シンプルで美しい歌を聴かせる傑作

Title:Did you know that there's a tunnel under Ocean Blvd
Musician:Lana Del Rey

2010年のデビュー以来、比較的積極的なアルバムリリースの続くLana Del Rey。特に前作「Blue Banisters」は前々作「Chemtrails over the Country Club」からわずか7か月というスパンでリリースし、ファンを驚かせました。今回のアルバムも、そんな前作から約1年半という間隔でリリースされた、彼女9枚目のアルバム。前々作と前作の間ほどの短さではないものの、比較的早いペースでのリリースとなっています。

そんな彼女のニューアルバムは、全体的にアコースティックサウンドをベースとしたシンプルな歌をしっかりと聴かせるアルバムになっています。いままでの彼女のアルバムといえば、古き良き時代のアメリカの音楽を取り入れた、レトロ感あふれるポップソング、というイメージがありました。今回のアルバムに関しても、確かにそういう部分はあります。タイトル曲の「Did you know that there's a tunnel under Ocean Blvd」は、まさにそんな古き良きアメリカを彷彿させるような楽曲ですし、また後半の「Margaret」なども、そんなノスタルジックな雰囲気あふれる哀愁感たっぷりの楽曲になっています。

ただ今回のアルバムに関しては、そんなレトロというイメージ以上に純粋に「歌」で勝負する、そんなアルバムになっていたようにも思います。今回のアルバム、「The Grants」は最初、アカペラからのスタートとなるのですが、まさにこのオープニングこそ、「歌」で勝負しようとする彼女の決意のあらわれのようにも感じました。

そんな今回のアルバムのひとつのハイライトは、2曲のインターリュードに囲まれた「Candy Necklace」で、Jon Batisteをフューチャーしたこの曲は、ピアノと静かなストリングスのみで構成されたシンプルなアレンジの曲なのですが、感情たっぷりに歌いあげる彼女のボーカルとそしてメロディーラインが非常に美しい作品になっています。

この曲をスタートとして、シンプルなピアノアレンジの曲が並びます。インターリュードを挟んで次に聴かせる「Kintsugi」は(これ、日本語の金継ぎからきているんでしょうか?)こちらもピアノとアコギのみで聴かせるバラードナンバーなのですが、息継ぎまで聴こえるような彼女のボーカルが実に美しいポップアルバムに仕上がっています。またクラシカルなピアノをバックに伸びやかなボーカルを聴かせる「Paris,Texas」も狂おしいほど美しいポップチューン。続く「Grandfather please stand on the shoulders of my father while he's deep-sea fishing」も、こちらはストリングスとピアノに加えてノイジーなギターサウンドで味付けされているのですが、ファルセット気味の彼女の歌声の美しさに酔いしれるのは間違いなしの作品となっています。

さらにFather John Mistyをフューチャーした「Let The Light In」もアコギとピアノのシンプルなサウンドをバックに、優しく歌い上げる彼女と、Father John Mistyのボーカルが印象的なメロディアスでポップなナンバー。こちらは特に温かみのあるメロディーラインの良さが光る楽曲になっています。

このように、全体的にはシンプルなサウンドで歌を聴かせる曲が多く、楽曲のバリエーションも前作と比べると少なめ。そういう意味では統一感もある作品に仕上がっていました。もちろん、サウンドの面でもバリエーションを利かせた曲もあり、代表的なのは、序盤のハイライトのひとつ「A&W」。最初はピアノとアコギでシンプルに聴かせるナンバーですが、後半はトラップ的なエレクトロサウンドにラップも加わり、ダークに展開。最後はヘヴィーなノイズも登場するという、全体的に静かなアルバムの中では異色のナンバーになっており、なおかつ大きなインパクトにもなっています。

またラスト前の「Peppers」はラッパーのTommy Genesisを迎え、こちらもHIP HOPの要素を取り入れた作品に。ラストを締めくくる「Taco Truck x VB」もヘヴィーなエレクトロサウンドが登場するなど、締めくくりはどこかダウナーで不気味な雰囲気を残しつつ締めくくります。ある意味、この締めくくりもなかなか耳に残る展開になっており、ユニークさを感じました。

そんなユニークな展開を入れつつも、全体的には彼女の曲やボーカルの美しさ、優しさを強く感じるアルバムに仕上がっていました。ある意味、これだけシンプルな曲でここまで聴かせることが出来る点、彼女の実力のすごさを感じます。今年を代表する傑作に仕上がっている点は間違いないでしょう。その歌声に魅了されたアルバムでした。

評価:★★★★★

Lana Del Rey 過去の作品
Born To Die
Ultraviolence
Norman Fucking Rockwell!
Chemtrails Over The Country Club
Blue Banisters

|

« ボブ・ディラン入門 | トップページ | デビュー25周年目の新作 »

アルバムレビュー(洋楽)2023年」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ボブ・ディラン入門 | トップページ | デビュー25周年目の新作 »