貴重な音源がついにオフィシャル・リリース
Title:The Legendary Typewriter Tape:6/25/64 Jorma's House
Musician:Janis Joplin & Jorma Kaukonen
1960年代後半に活躍し、1970年に、わずか27歳という若さでこの世を去ったミュージシャン、ジャニス・ジョプリン。本作は、そんな彼女が若き日に録音した伝説の宅録音源がオフィシャル・リリース、ということで大きな話題となっています。この作品は、のちにジェファーソン・エアプレインに加入することになるギタリスト、ヨーマ・コーコネンとの共作となる作品。この時期、よくヨーマと共演していたジャニス。1964年にサンフランシスコのノース・ビーチで行われるショーでも共演することになり、その前にヨーマの自宅でリハーサルを行ったそうで、その時に、リハーサルの模様をなんとなくオープン・リールに録音したのがこの音源だそうです。
内容的には完全なデモ音源で、ヨーマの妻がタイプライターを叩く音もそのまま収録されている本作。その後、この音源が流出した時には、このタイプライターの音から「ザ・タイプライター・テープ」と名付けられたそうです。ただ、ファンの間で出回ったブートレグ音源は非常に音質が悪かったそうですが、このたび、この音源がオフィシャル音源として正式にリリース。リマスタリングもされて、非常にクリアな音質の作品に生まれ変わっています。
トラックは全8トラックなのですが、うち2トラックはこの日の会話を収録したもの。全6曲が収録されており、そのうち1曲を除いて、ブルースのスタンダードナンバーをカバーした作品となっています。バックにヨーマの妻が、演奏も気にせずタイプライターを叩いていることからもわかるように、全体的に非常にリラックスした雰囲気での演奏となっています。会話のトラックがそのまま残されているあたりも、そのリラックスした当日の空気がそのまま伝わってくるから、ということなのでしょうか。
そしてこのアルバム、なによりも耳を奪われるのが、言うまでもなくジャニスの歌声でしょう。まだビック・ブラザーとしてデビューする前であり、後の彼女のボーカルと比べると、やはりどこか若々しく、粗削りな部分も感じられるものの、この時点でそのボーカルには一種のすごみすら感じさせます。
序盤「Trouble in Mind」「Long Black Train」としゃがれ声を含ませつつ、非常に力強いボーカルがまずは魅力的。かと思えば、「Kansas City Blues」では一転、軽やかに歌い上げます。日本で「歌がうまい」というと、ともすればパワフルでこれでもかというほど声量を利かせたボーカルで歌い上げただけ、というパターンがよくありがちなのですが、彼女のボーカルは決して声量のみに頼るのではなく、緩急つけるボーカルを聴かせてくれます。そしてそのボーカルスタイルがこの時期に既に出来上がっていることを感じさせます。
その後も「Hesitation Blues」ではどこか気だるげな感じに切なさを感じられ、胸をグッとつかまされますし、続く「Nobody Knows You When You're Down and Out」も同様。歌声の向こうに感じられる哀愁感に胸をうつこと間違いありません。ラストの「Daddy,Daddy,Daddy」も、ヨーマとの掛け合いがありつつ、リラックスした雰囲気で軽やかに、しかし力強さも併せ持ちながら歌い上げています。
彼女のボーカルはもちろん、バックで奏でるヨーマのブルースフィーリングあふれたギターも非常に魅力的。ただ、ジャニスのボーカルにより、ブルースのスタンダードナンバーながらも、しっかりとジャニスの曲に染め上げられている点も印象的で、後の彼女の作品と比べると、まだまだ彼女のボーカルスタイルは定まっていない部分はあるものの、この時点で彼女のボーカリストとしての力量に圧倒される内容になっています。
事実上、わずか6曲とはいえ、非常に貴重な音源と言える本作。間違いなくジャニスの魅力を感じられる1枚だと思います。あらためてジャニス・ジョプリンの実力に圧倒された作品でした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
Red Moon In Venus/Kali Uchis
2018年にリリースしたデビュー作「Isolation」も大きな話題となったコロンビア出身アメリカ・ヴァージニア州育ちの女性ソウルシンガーによる3枚目のアルバム。ハイトーンボイスでメロウに聴かせる音楽性が大きな魅力となっており、なによりも感情たっぷりに聴かせるそのボーカルに聴き惚れる作品に仕上がっています。本作では初となるビルボードチャートのベスト10ヒットを記録。これからさらに注目を集める予感のある作品です。
評価:★★★★★
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